第47話 アイカの落胆(その二)(1)

「……婿殿~。ついたわよ~」


 う~ん、『ザクザク』と、爽快に足音を立てながら歩く二人……。相変わらず、この国の丞相であるシルフィーは、他人の目など気にしない様子で、次期王になる予定の健太の二の腕に、自身の腕を絡ませながら、しな垂れ甘え歩いているのだよ。


 健太少年は、自分の物とでも言いたい素振りでね。彼はこの国の女王であるアイカの物の筈なのに。健太はこの国の王になるのだから。国を安定させる為にも一族の結束は必須なことになる。


 だから自分達、アイカ一族の未婚の女性は、女王アイカと同じ待遇で接して貰わなければ困るし。そうしないといけないのだと、先穂健太に問いたシルフィー……。


 と、いうことだから。健太が、自身が産まれ育った日本からこの世界に、シルフィーによって召喚されてから数日経つが。女王アイカの要求ばかり叶えて。自分達同じ屋根の下で暮らす、女性達のことは無視……。他人行儀にして、蔑ろにしてきた行為は、国が乱れるから改めるようにと。シルフィーは先程健太を諫め──。待遇改善をするようにと警告をしたのだよ。


 まあ、その甲斐があり。賢い健太は、この国の情勢が。自分が以前いた世界の中世の頃の時代なのだと理解ができたのだ。


 だから一族同士の結婚は当たり前……。


 となれば? アイカの一族の血は絶えかけているのが理解できる。


 まあ、そんな理由もあるから、オーク種族ではないエルフ種族のシルフィーやオークとエルフのハーフであるプラウム……。


 そしてこの度、異世界から、この国の丞相であるシルフィーに誘われ、召喚をされた人種の自分がいるのだと理解ができた健太なのだが……。


 う~ん、何故、シルフィーは? 自分のような貧相な容姿の男を召喚したのだろうか? と、次期王になる健太は困惑……。思案を続けるのだよ。


 自身に彼女? 妻の如く振る舞いで甘えてくるシルフィーのことなど気にもしない様子でね。


 だって~? 傍から我らが健太の容姿と、基礎能力を思案してみても。彼は人種としても貧相な体型……。背丈も小さく、少女のように細くて華奢な肢体を持ち。武力の方はどうみても一桁単位しかないように見えるから。この殺伐とした中世……。ジャングル世界には向かない男だと思われるのだよ。


 だから何故、シルフィーは? 健太のような武力を持たない者よりも。同じ人種でも、戦士のような筋肉質──武力に優れた格闘タイプの男を召喚しなかったのだろうと? 我らは不思議に思うのだよ。



 それに同じ華奢な容姿ならば、人種の女性でも良かった気もする?


 一族の男と結ばせて子をはらみ産ませば、一族の濃いい血は、少しでも緩和できるから。その方が、我らは良い気もするのだが?


 シルフィー……。この国最高の祭司はそうはせずに、人種最低武力ランクに入りそうな健太を王として召喚したから、我らは困惑……。彼女のことが不思議で仕方がないのだ。


 ……と、言いたいところだが?


 この国の丞相さまの只今の様子……。次期王の健太に甘える仕草を見れば、自分の好みの少年を召喚したのだな? と、思われる。


 そして未だ幼い彼を自分好みの王……。


 それこそ~? 他人が羨むような彼女の美貌と優艶さで、健太を傀儡するつもりなのかも知れない? と、我らは悟ったから。


 今後のシルフィーの行動……と、いうよりも?


 二人の行動を注意深く見ることにする。


 まあ、こんなことを我らが脳裏で思い続けていたら。


 自分のような、ジャングル生活には適性の無い者が何故? この世界に召喚をされたのか? と、思案……。


 こんな殺伐とした世界ならば、もっと体力、武力に自身のある者を召喚した方が、シルフィーもアイカも都合が良いのではと? 思いながら歩く健太の目に、オークの人々が目に映ったのだ。


 だから彼の口からは、自然とこんな台詞が漏れる。


「……ん? シルフィーさん、ここはどなたの町なのですか~?」とね。


 でッ、それを聞き、健太へとしな垂れ甘え歩いていたシルフィーはと言うと?


「えっ? 町~?」


 と、声を漏らすのだよ。


 だって健太が今口に出した『町』と、呼べるレベルの建物や人の数など住んで居ない。村よりも人口の劣る、只の集落に対して健太が、『町』と呼んだので。シルフィーは少々困惑をしたのだが。


 彼が、この国と呼べるレベルにも達していない国の丞相であるシルフィーに対して気を遣ってくれたのだと。賢い彼女は、直ぐに悟るから。



 自分が召喚した優しい男(健太)に、笑みを浮かべながら。


「あああ~。この町はね~。アイカさんの妹の一人、エリエさんが治める領地なのよ~」


 と、説明をするのだ。


 それも? 先程彼女が自身の脳裏で思った通り。町……。いや~、村と呼べるレベルに達していない集落のことを、次期王になる健太に合わせて、『町』と呼んだ。色々な悪しき噂が国中に流れるシルフィーが健太に合わせ、エリエの集落を『町』と呼んだのだよ。


 だから我らは、正直驚愕をしたのだ。


 ……と、言いたい所なのだが?


 う~ん、実は、色々な悪しき噂の流れるシルフィーではあるのだが。彼女自身もこの国をしっかりとした基礎のある国へと進展させたい想いはある。


 それこそ? この辺りに沢山ある強国に引けをとらない国へと発展させたい想い。


 だから、自身が今居て暮らす世界と比べれば、超がつくほど発展した。未来人だと言っても過言ではない健太を、異世界日本か誘った訳だから。


 シルフィー自身の想いを叶える為に……。


 と、我らが申しても、傍から見ている者達は、理解ができないと思う?



 う~ん、実はね~? シルフィー自身は、戦争孤児……。


 そして彼女の優艶な美貌を見ればわかる通りで。幼い頃より美しい彼女は、人買いに売られ、性玩具として他の国の領主の側に使えていたのだよ。


 それも~? 一人と言う訳ではなく。自身が使えていた国が滅びる度に戦利品として、その国の王や領主の側に使え、尽くしていたのだよ。


 でッ、彼女は、そんな女性を武器にした生活を繰り返しながら生きながらえていたのだよ。


 まあ、そんな生活を繰り返し続けている最中に。この国の前王であるアイカの父が手に入れ──。色々な魔法の使用と、妖艶な美貌の上に、色々な国を渡り歩いてきた彼女の知識と賢さが気に入り。前王が、この国最高の祭司……。


 その上、丞相という位を付けたのだ。


 だから未だに彼女のことを妬む女性(おんな)達が、この国には多々いるから、悪しき噂話し……。


 この国をエルフ女が乗っ取ろうとしているとね~。



 まあ、こんな黒い噂話が多々流れる。

 う~ん、でも~?


 今の彼女の様子を見る限りでは、黒い噂のことなど、気にした素振りもなく、乙女のような振る舞いで。


 この世の春を満喫──。


 自分自身の好みの異性である健太と、彼女は腕を組みながら楽しそうに、エリエの集落内の中心──。


 広場へと向かって歩いているのだよ。


「あっ! アイカさんとエリエさん~!」


 まあ、そんな最中二人……。いきなり健太の口から、こんな声を大に下言葉が漏れる。


 と、同時に?


 女王アイカとエリエ……。二人を取り巻くオークの男女……。中には? 女王アイカの従兄妹であるウルハの姿も見え、確認ができるのだよ。


 と、我らが思うと同時に?


 女王アイカの目の色が変わる──。


 特に彼女の紅の瞳が鋭い物へと変化──。憎悪と嫉妬心を募らせたような気がするのだが?


 我らの気のせいだろうか?



 だって~? 次期王になる健太とシルフィーの関係は、女王アイカも公認のはずだから。二人は同じ屋根の下で暮らしている訳だから。今更女王アイカが、二人の仲の良い姿を見て嫉妬──。不快感を募らせる訳は無いと、我らは思うから。


 多分? 我らの見間違えと勘違いだと思うから。この件は無かったことにするからね~。


「……ん? どうしたのだ~? 二人共~? 私の領地に~? 何かようか~?」


 我らが女王アイカの様子の変化……。


 多分、我らの気のせい……?


 まあ、色々と思案をしていたら。女王アイカの妹君であらせられるエリエ嬢……。


 と、いうよりも?


 彼女の場合は、この国を他国から武を持って守護する女王アイカの右腕とも言える女性なので。エリエ将軍さまとお呼びした方が良いのかも知れないね~?


 まあ、こんなことを我らが思っていると。


「エリエさん~。別にこれと言って~。重要な用がある訳ではないの~。只婿殿に~。貴方の所有する町と~。近々おこなわれる祭典の練習の様子を見せたくて連れてきただけなのぉ~」と。


 エリエ将軍の問いかけに対して、シルフィーはこんな感じで言葉を返すのだよ。


 でッ、そんな二人の女性の会話……。


 自身の側にいるシルフィーと、離れた場所──。何かを取り囲む輪の中にいるエリエの会話を聞き健太は、「えっ? 祭典?」と、声を漏らす。


 すると彼の側で、この集落の者達に自分達二人の仲……。隠すどころか? こんなにも仲が好いのだよ~。


 と、見せつけるように、彼女らしく振る舞って見せるシルフィーの艶やかな唇が健太へと開き──。


「もう少ししたら~。この国の友好国達との対抗試合である。最強の漢を決める相撲の祭典があるの~。だからエリエさんの集落で、参加する者達の訓練……というか? みんなが練習をしているの~。それで~、今みんながその最中なのよ~」と。


 彼女はまた健太へと優しく微笑みながら説明をするのだ。


 そうまるで? 健太の彼女らしい振る舞い……。


 というよりも?


 この国ナンバー二のシルフィー自身は、もう既に健太の所有物であり。シルフィー自身は次期王になる健太を後押ししている。


 だから今女王アイカが健太へと余り興味を示さなくなったとしても。次期この国の王は、自分が異世界日本から召喚した健太がなるのだと言わんばかりの姿勢で。シルフィー自身の持つ、美しい碧眼の瞳に映る者達……。


 そう、彼女の美しい碧眼の瞳に映る二人に対しての無言の意思表示──!


 一人は、自身の夫になる筈の健太に対して、段々と興味が薄れてきている。


 この国の女王であるアイカ……。


 それと彼女の横に並ぶ大男……。


 特にオークの男性は、他の種族の男性よりも基本身長が高く。大変に筋肉質な容姿をしているので。まさに戦闘に長けた種族だと言っても過言ではないのだ。


 でッ、その中でも、アイカの横に居並ぶ男性は。普通のオークの男性達よりも頭一つ以上は背丈も高い。


 まあ、背丈が高いと言うことは? 横幅も大きく。普通のオークの男性よりも筋肉質……。


 と、いうことは? 普通のオークの男性よりも力も武力も高いということになるのだよ。


 だから彼は、オークの漢の中では、最強の武士であるウォンと言う名の漢なのだ。


 でッ、その二人のことをシルフィーは、碧眼の瞳で見つめる。


 と、いうよりも? 睨みつけているといっても過言ではない様子で見ているのだ。


 それも? 特にオークの漢最強と呼ばれているウォンのことを睨みつけているように見えるのだよ?


 ……ッて。まあ、当たり前のことかも知れない?



 だって~、ウォンは、女王アイカの一族……。従兄になるのだよ。


 その上、健太には教えていないのだが? 彼はアイカの元婚約者で、この国の王になる予定だった男性なのだよ。


 だから次の王には健太をと、女王アイカに勧めているシルフィーにしては邪魔な存在……。


 というよりも?


 今は女王アイカやアイカ姉妹の庇護の許で暮らしているシルフィーなのだが。前王の死後直ぐに、ウォンの所有物にされた時期があるのだよ。


 それも? 彼女の意思を無視して強引にね~。


 特にオークの男性は、皆も知っての通りで、戦闘種族のために、気が荒々しい無法者たちが覆いいのだよ。


 特にその中でもウォンは、自らの力に対して、大変に自身を持つ人物なのだから。いくら相手が、この国のナンバー二と呼ばれている丞相のシルフィーであろうが、容赦はしない。


 彼女が自身の館で寝ているところに、強引に夜這いをかけて、自分の所有物にしてしまう荒業にでたのだよ。



 う~ん、でもね~? 流石にこの荒々しい事件は女王アイカも無視する訳にもいかない。


 と、いうか?


 ウォンとシルフィーの二人に対して、嫉妬に狂った女王アイカが婚約を破棄──。


 それで代わりに健太が、異世界日本から召喚されたのだ。


 この国の丞相であるシルフィーの目に留まり。召喚……。


 ということだから?


 実は女王あいかと義理に母であるシルフィーは余り仲が良くはないのだ。


 だから尚更この国に二人……。女王アイカと、丞相であるシルフィー二人の闇の噂が後を絶たないのだよ。


 今迄に色々な事件が起きているからね~。


 それに今も二人の様子を見るがいい~?


 今シルフィー自身は、アイカではなく。ウォンのことを睨みつけているようだが。


 健太の妻になる予定である女王アイカは健太と。彼の彼女? 妻? らしく振る舞うシルフィーのことを、炎が燃え盛るような勢いある紅の瞳で睨みつけているのが確認できる。



 と、いうことは?


 以前我らが説明をした通りで、自分の夫になる予定の男性を二度もシルフィーに盗られた思い。


 女王アイカは嫉妬心を募らせているようだ。


 また、そんな彼女の様子は、元彼氏で婚約者でもあったウォンには、直ぐにわかるし。次期王になる予定の健太とアイカは不仲だと悟らせる。


 となると? ウォンは、悪しき策を練るのが容易……。


 元自分の彼女、婚約者の心の隙を狙えばいいだけ。


 となれば? ウォンがまたこの国の王候補……。


 というよりも? 次の国王になるのは安易なことになる。


 だから彼は、シルフィーに睨まれていようが気にもしないでクスッと、邪悪な笑み──。苦笑と言う奴を浮かべるのだよ。


 またそんな悪しき様子と思いを浮かべる三人のことを遠目から、我らも凝視すれば。この国……。いや健太のこの先、身の上が不安で心配になる衝動に駆られるのだよ。


 まあ、我らが三人……。いや~、四人と言った方がいいのかな~?


 四人の様子を見ていると?


「シルフィーさん~? アイカさんの横にいる大きな男性は誰なのですか~?」


 う~ん、健太は、ウォンのことが気になるのか?


 自身の横で並ぶシルフィーへとこんな感じで訊ねる。


 するとシルフィーは、碧眼の瞳で、ウォンを睨みつける行為をやめて。自身に声をかけてきた優しい少年へと、同じように優しく緩やかな笑みを浮かべながら。


「あの男性はね~。女王アイカの従兄である。ウォンと言う名の男性なのよ~。あなた~」と。


 シルフィーは、健太の脳が蕩けそうな甘え声色を駆使しながら、ウォンのことを説明したのだ。


 それも? 元自身と暮らしていたこともある男のことを『男性』だと告げる。


 でッ、逆に、自身の横に入る健太のことを『婿度』と、今迄のように呼ばずに、自分自身の『あなた~』と、夫的な呼び方で呼ぶのだよ。


 まあ、未だ幼い健太には、シルフィーの自身を呼ぶ『あなた~』の甘え声色の意味がわからないだろうが?


 大きな笹耳を持つ種族の一つであるオークの者達も、エルフ同様に耳が大変に良いから。


 今丞相であるシルフィーが健太へと使った口調と台詞の意味がわかるから。女王アイカは、自身の奥歯を強く噛みしめながら、真っ赤な顔で歯ぎしり……。シルフィーに対して歯がゆい思い。



 そう彼女はまたシルフィーに対して憎悪──!


 不快感を募らせ始めている。


 でッ、夫になる予定の健太には嫉妬──。


 もう二度と自身には、触れさせたくと思う程の嫌悪感を湧かし、募らせている。


 またその様子を、女王アイカの横に並び立つウォンは『クスッ』と、苦笑をするのだよ。今後何だか? 自分の邪な策が安易に成功をしそうだからね~。機嫌がいいのだよ~。


 だから彼の心の中は、笑いがとまらない。


 今後、女王アイカと丞相であるシルフィー健太の為に争いをおこしそうな雰囲気を漂わせているから。


 でッ、そんな四人の様子を「ハァ~」と嘆息を漏らしながら見詰めるエリエと、興味津々、ワクワクしながら見詰める。不謹慎なウルハがいるのだが。


 後者の二人は、四人の様子を安易にとらえ見ているようだが。


 今後この四人が大変なことを起こすなど、今の段階では誰も想像がついてはいない。


 と、いうか?


 この後直ぐに起こる事件を見れば──。


 今後この国に暗雲が立ち込める前兆だと思うのだが?


 まあ、今は話しの手前なのでここまでにしておく。



 と、いうことで、少々物語から話しが逸れたので、修正をすることにする。


 シルフィーにまた自身の男を盗られたと思っている女王アイカは、相変わらず嫉妬に狂う女性のような振る舞い──。


 そして表情で、健太とシルフィーのことを紅の瞳で睨みつけているのだが。


 当の本人である健太は、今迄に男女の恋愛の経験などないから。女王アイカが自分に対して嫉妬心をあらわにしていることなど気がついていない。


 だからシルフィーの説明を聞くと、自身の手を大きく振りながら。


「アイカさん~」


 と、声を大にして叫び呼ぶ──。


 すると女王アイカは何故か、自身の顔色を変える。


 そして穏やかな表情へと移り変わり。


「ゴホン~!」と、空咳をおこない。


 その後は、「本当に健太の奴は、仕方のない奴だな~」と、不満を漏らすのだが。

 う~ん、やはり~? 女王アイカは、先程とは明らかに様子が違う?


 つい先ほどまでは、けんたとシルフィーの仲の良い夫婦のような様子を見て、嫉に狂っていたのだが。


 今は明らかに違って、健太が自分の名を呼び──。手を振りながら駆け寄ってくる様子を見て、機嫌が直ったみたいだね~?


 と、みると?


 女王アイカは、自分がいる場所に健太がきたのに。自分のことを無視──。蔑ろにした行為を見せつけるために、健太とシルフィーがきたものだと勘違いをしていたのかも知れない?



 だって自分に詰め寄ってくる婚約者……。健太を見て大変に嬉しそうだから?


 と、なれば?


 アイカがシルフィーに対して、嫉妬をあらわにしているのは、日常茶飯事の出来事であり。ウォンが思う邪な想いは、アイカには無いのかも知れない?


 それこそ~? 安易な溜息を漏らしたエリエと興味本意に三人の様子を見詰めていたウルハの行動の方が正しいのかも知れない?


 だって我らが危惧するほど、アイカは健太のことを嫌い。遠ざけようとしている様子は感じられない。


 だって~。健太がアイカの許に辿り着くと。彼女は、元彼氏で婚約者でもあるウォンが真横にいようがお構いなしに。慌てふためきながら健太を抱き締めハグ~。


 そのまま建太の柔らかい唇へと自身の唇をを重ね。この場にいる者達に健太は、自分の物だと主張をするのだよ。


 特に健太の象牙色の肌は、この辺りでは大変に珍しく貴重な色なのだよ。


 だからアイカは、こんな珍しい財宝を手に入れたことに対しては、大変に満足しているから。易々と健太を自分の手許から手放す気はないのだ。


 だからこんな感じで、周りにいる者達に、健太は自身の所有物だと主張をしてみせる。


 まあ、こんな可愛い様子のアイカだが。健太とのキスを終えると。


「健太~。何故~。母上とこの集落にきたのだ?」


 と、訊ねる。



 それも? 勝者の象徴であるシルフィーのことをあくまでも。


 次期王である健太の彼女若しくは? 妃のような扱いではなく。義理であろうとも、自身の母親扱いをする辺りの様子を見れば。


 やはり我らの危惧している通りなのかも知れない?


 またこのさり気ない女性二人の争いをウォンは見て確認をすると。


 また彼は、自身の鼻で『フッ』と笑みを浮かべ苦笑を始めるのだよ。


 まあ、そんなウォンのことなど気にもしていない健太は、女王アイカの問いかけに対して。


「シルフィーさんが近々、祭典があると教えてくれたのだよ~」


 と、言葉を返す。


 でッ、返し終えれば健太は、また嬉しそうに自身の口を開いて。


「祭典のメインである、他国の戦士達との相撲大会の練習を今おこなっているから見学をしてみると言いと勧められたのだよ」


 と、告げる。


「へぇ~。そうなのか~? 健太~?」


 まあ、女王アイカも健太の、自身へと甘える様な口調は嫌いではない。


 どちらかと言えば好印象で、好きだと言っても過言ではない。


 特にオークと呼ばれる種族は男女問わず、闘争心が強く、気が荒々しいのだよ。



 だからオークの女性に対して、オークの男は絶対に甘えることはない。


 ましてや? エリエを見ればわかる通りで、女性も武が立つので、男に媚びを売らない。しな垂れかかることもない。


 だからオークの社会は、女性が気に入らないと先ず男は結婚などできない。


 だってオークの若い男性が、若い女性の部屋に忍び込み──。夜這いかけ。拒否されてしまうと、命すら危うくなることも度々あるので。基本オークの男性は、女性の寝所には近づかない。


 只ウォンが以前シルフィーの寝所に忍び込み──。強引に自分の物にできたのは、彼女がオークの女性ではなく。エルフの女性だから可能だった訳でね~。


 今のシルフィーは、アイカ姉妹の庇護下の許にいるから。


 この優艶なエルフの女性をオーク男達は、誰一人として手出しができないと言う訳なのだ。


 だから基本オークの社会は、異性に甘えるようなことはほとんどしない。


 他種族であるシルフィーと健太が可能なだけで。


 只女王アイカとその姉妹と従妹は、やはり義理、実母……。身近にいるシルフィーの影響が強く。異性である健太へと甘えるだけなのだ。


 だから女王アイカも、自身に、女性のように甘え声色で話しかけてくる。未だ幼い象牙色の肌と線の細い肢体を持つ、美少年の健太が可愛くて仕方がないのだ。


 今の時点ではね~。少女みたいな、珍しいアクセサリーが可愛くて仕方がないのだよ。物珍しいからね~。


 う~ん、でもさぁ~。そんなアイカが落胆するような事件が、また起こるのだよ。この先に……。


 まあ、そう言う訳で、話しが飛んだようだから、冒頭に話しを戻すようにする。




 健太自身が始めてきた町──。


 その中心部の人だかりがある広場で、女王アイカに優しく接してもらい。彼女の大事な男性(ひと)……。次期王だと、誰が見てもわかるぐらいの好待遇を受けて、上機嫌な健太は、女王アイカの言葉に「うん」と、頷きながら言葉を返すのだよ。


 でッ、返し終えれば健太は、女王アイカに笑みを浮かべながら。


「アイカさん実は~。僕の生まれ育った国でも、相撲があるのだよ。それもね~? 僕が産まれ育った日本と呼ばれる国は、相撲が国技なのだよ~」


 と、得意げに告げる。


「あああ~。だから~。相撲を見ると~。日本にいるみたいで~。本当に懐かしいなぁ~」


 と、今度は二度と帰れない遠い母国のことを健太は、想いにふけながら懐かしむのだよ。


 そんな健太をアイカは凝視しながら。


「へぇ~。そうなんだ~? 健太が産まれ育った国でも相撲はあるだなぁ~?」

 と、感心しながら言葉を返すのだよ。


 と、同時に。


「へぇ~。アイカのところのおチビさんの故郷でも『相撲』があるのか~? それは凄いな~」


 女王アイカと健太の会話に割って入るように男性の声──。



 そう~? 先程から女王アイカの真横で、王の如く立ち並ぶ、オーク最強の漢が口を開き言葉を放つ。


 またその話を聞き、彼の横で並ぶ女王アイカが健太からウォンへと視線を変えて。


「うん、そうみたい。ウォン~。私も今初めて聞いたのだけれど。健太の故郷もこの国と一緒で相撲が特技みたい~。ねえ~? そうなんでしょう~? 健太~?」


 女王アイカは、最初はウォンと会話──説明をする。


 その後は健太へと訊ねるのだよ。相撲が日本の国技かと?


「うん、そうだよ~。アイカさん~。だから日本は太古の時代から相撲を盛んにおこなっていたみたいだよ~」


 と、また健太は得意げに日本の相撲文化を簡易的ではあるのだが、得意げに説明をするのだよ。


 ウォンの邪な策……。離反の計に、彼も彼女も陥っているとも知らずに。健太は女王アイカへと嬉しそうに笑みを浮かべながら、如何にも、日本の相撲文化に、自分自身も触れているが如く説明をしてしまったのだ。


 だから女王アイカの横で立ち並ぶ男……。ウォンの口の端が、『ニヤリ』と吊り上がるのだよ。


「そんなに時期王の母国で、相撲が盛んならば、俺と手合わせをしてもらいたいものだよ~」と。


 健太に告げる。



 と、いうよりも? 自身の横に並ぶ、女王アイカへと、多分告げたのだと思われる?


 だって~。ウォンの言葉を聞き、健太は「えっ?」驚嘆──!


 それに続くように女王アイカの口から。


「それはいい~」と、彼女は、ウォンの妙案を聞いたような様子で納得した台詞を漏らす。


 それも? 自身の両手を『ポン!』と、叩きながらだよ。


 だから今度は、健太の顔色が変わる。


 ……だけではない?


 健太の後ろで控えるシルフィーや、この町の領主……。長であるエリエや。今迄興味本意に四人の会話を聞いていたウルハもこれには流石に顔色を変えて。


「長~!」と、彼女は慌てふためきながら声をかけたのだ。


 だって~? 誰が見ても~。ひ弱で軟弱──! 


 少女みたいな細い肢体をしている健太では、オークの男達と、武を比べても、明らかに劣る事明白……。


 ましてや? 健太に相手になって欲しいと嘆願をしてきたのは、オーク最強の漢だと自負……だけではなく。


 他国からも絶賛されている武士のウォンなのだよ。


 だから両者が相撲をとれば、大人と子供……。


 いや~、それ以下かも知れない~?


 大人と赤子ぐらい力の差は歴然だから、四人だけではなく。


 この場に集まり、次の祭典の為の、相撲の練習を観戦していた者達皆が顔色を変え始めたのだよ。



 だって~。自分達が敵わない男に、いくら次の王だとしても人種の健太だと闘うだけ無駄だと思うからね~。


 まあ、周りがそう思うぐらいだから、当事者の健太の象牙色の肌を持つ顔が、みるみる青ざめていくのだよ。


 だからウォンはそんな様子の健太を横目で見ては、苦笑──。歓喜をあげたいくらい嬉しくて仕方がないのだよ。


 でっ、従兄のウォンに遠回しに健太と相撲とりたいと嘆願された女王アイカなのだが?


 ウルハの叫びに反応──。


 オーク最強の漢……。自身の従兄妹であるウォン相手に健太では無理だと悟るから。


「う~ん、流石にウォン相手に、健太では厳しいと思う? だからまた次の機会でいいでしょう~? ウォン~?」


 と、告げる。


 また女王アイカの言葉を聞き──。健太やその他の者達……。


 シルフィーにエリエ、ウルハ等は『ホッ』として。自身の胸を撫で下ろすのだよ。


 逆に、自身の邪な策が失敗したと悟ったウォンは、怪訝しい顔……。表情をするのだよ。


 自分自身が妙案した離反の策が功を奏しなかったので。


 う~ん、でも? 取り敢えずは、今迄の重々しい空気から一変──。穏やかな空気へと変わり。落ち着いた雰囲気へと以降し始めたこの場……。


 それをまた重々しい物へと一変する台詞を女王アイカは口にするのだよ。

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