第19話 初めての経験……(4)

この場の沈黙、鎮静している雰囲気が見てわからない。読み取ることができないのか、と言うことはないよね?


今の今迄、此の国の男王健太を見世物にした殺戮ショーがおこなわれていた殺伐とした場所。仮の競技場なのだから。そんな場所で、『ニヤリ』と、笑みを浮かべる人の姿……。


そう。先程から、この沈黙、鎮静化した。声援、歓喜すら発せられない。只聞こえるのは、葬儀場のように女性(ひと)の啜り泣き声しか聞こえない仮設闘技場で只一人ニヤニヤと苦笑を浮かべながら見ていた。観戦していた。声に出さない歓喜をあげていたウォンが、大変に満足そうにニヤリと極上の笑みを浮かべる。男王健太が死んだ。屍、骸になったから。彼は嬉しくて仕方がない。


自分自身が咄嗟に思案をした策が、いとも簡単に成功したのだから。ウォンの心の中はバラ色。声を大にして何度も、『よっしゃぁっ!』、『やりぃっ!』と、歓喜の声を上げ吠え。咆哮。叫びたい衝動に駆られているのだが。


彼はグッと我慢。耐え忍んでいるのだよ。


まあ、そんな最中に。


「いやぁ、あああっ! あなたぁあああっ! 死なないでぇえええっ!」と。


女性の絶叫が放たれ。ウォンの大きな耳へと聞こえてきたから。


(シルフィーか? あいつ、未だ泣きたりないのか。本当にしょうがない奴だな)と。


ウォンは苦笑を浮かべ漏らしながら。泣き叫ぶ者へと視線を変え見詰めると。


そこには此の国の丞相であるシルフィーの姿はなく。此の国の女王アイカの泣き叫ぶ声が。


「あなたぁっ。あなたぁっ。御免なさい。本当に御免なさい。許して、お願いよ。あなた……。だから早く。目を開けてあなた」、(うぇん、うぇん……)と。


横たわる健太。自身の主の屍の真横で、泣き崩れながら謝罪をおこなう女王アイカの姿がウォンの瞳に映るから。彼は自身の予想に反した行動を女王アイカがおこなったから驚愕、沈黙をしてしまう。






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