第18話 初めての経験……(3)

 でも、健太の絶叫。断末魔を掻き消すように。


「ア、アイカさんお願いします。お願いします。家のひとを許してください。助けてください。お願いします。このままだと家のひとは本当に死んでしまう。だからお願い許してぇえええっ! 女王アイカぁあああっ! 何でも貴女の言うこと。下知を聞く。聞き入れますから。お願いします。女王アイカぁあああっ!」と。


 此の国の丞相、ナンバー2の立場であるシルフィーが狂乱。錯乱したように泣き叫びながら女王アイカへと嘆願。自身の夫でもある健太の命乞いも始めるのだが。


 女王アイカは無視。素知らぬ振りをする。決め込むのだ、ではなく。


 彼女、女王アイカ自身も、自身が嫉妬心を募らせ、不満に思うからと、八つ当たり程度で始めさせた。お遊びの筈の格闘相撲大会が。こんな悲惨なことになるとは思ってもいない。思いもしなかったのだ。


 だから女王アイカも、自身の瞼。紅色の瞳が入った両目を大きく開け。うるうると濡らさせながら。滴をたらし。両手で自身の口を覆い隠し。驚愕──。


 夫健太の余りにも悲惨な様子で声も出ない放心状態だから。この悲惨な、一方的な暴力。殺戮だけの練習試合を止めることができないでいるのだ。女王アイカ自身も、いくら義理の母であるシルフィーに、健太のことで泣きつかれ嘆願。命乞いをされても、只悲惨な様子……。


 オークの漢戦士シンに、一方的な鉄拳を顔面、腹部に食らい。そのまま、ボロ雑木のように地面に投げつけられて蹴り回される行為の繰り返しを淡々受け。


「うぎゃ、あああっ! 痛い! 痛いよぉおおおっ!」、


「助けてぇえええっ! 助けてぇえええっ!」、


「母さんー! 父さんー! 助けてよ。お願い。お願いだからぁあああっ!」と。


 最後は。


「僕の女神さまぁあああっ! 助けてぇえええっ! 助けてぇえええっ! お願いー! お願いだからぁあああっ!」と。


 此の国の男王健太は、この断末魔を吐いた後に沈黙をし。ピクリと、動かなくなったのだ。


 その様子を、此の国の女王アイカと丞相のシルフィー は自身の瞼を、これ以上開かないのではないか? と、思われるぐらい大きく開けて、泣くのも、絶叫を吐く。放つ。主の嘆願。命乞いをするのも忘れる程沈黙……って。余りの突然の為に沈黙をしたのは、二人だけでない。先程から自身の弟が夫へとしている行為を審判らしく見ていた。でも嗚咽を漏らしていたエリエや、『アイカ! 今直ぐ辞めさせろ! このままだと家のひとが死んでしまうからやめさせろ! 今直ぐにだ!』と、荒々しく諫めていたウルハも両目を大きく開けて無言。沈黙状態だから。


 この場にいる観衆達も皆沈黙。呆然としながら。男王健太の様子を窺い始める。


 そんな沈黙の最中に、いきなり声が。


 そう、健太と争っていたシンから。


「お、王が。王が死んでいる。死んでいます」と。


 気落ち。悲しそうな声音で呟き。告げ。健太の只今の様子を女王アイカへと説明をするのだ。


 と、同時に。




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