背中 さんじゅうはち

 さゆみは邸の裏側、より小暗いあたりをうろついていた。

 地面ばかりを見つめて中腰で歩き回り、腰や背中が悲鳴を上げていた。痛むことを忘れようと、大基のことを考えた。


 何度片付けてやっても翌日には散らかす、だらしなさ。好き嫌いが多くて子供が好むような料理ばかり食べる事。消極的で自信を持てない性格。身長ばかりひょろ長くて筋肉のない体。


 そんなことは思い出せるのに、顔を思い出そうとしても、ぼんやりとしたイメージしか湧かない。はっきりと思い出せるのは、背中だけ。百合子が描いた背中だけしか思い出せない。まるで、最初から大基には背中しかなかったかのように。


 ふと、一か所、目につく場所があった。イチョウの木の根方だ。ぽこりと土が盛り上がっている。根が張っているようにも見えるが、近づいてよく見てみると、他の場所より、土が黒っぽい。


 ここだ。


 さゆみはシャベルを地面に突き立てた。土はゆるくて、ざくざくと掘れた。

 すぐに、カツンと硬いものに当たった。シャベルを放り出して手で土を避ける。土にまみれた白いものが見えた。触ってみる。硬いのに、柔らかさも感じる。石ではない。

 丸い形で、ヒビが入っているのが見える。必死に手で土を掻く。出てきたものは、人間の頭蓋骨だった。


 両手で捧げ持ってしみじみと見つめる。見覚えがあった。少し歪んだ歯並び、八重歯が右だけするどい。


 そうだ、こんな顔だった。思い出した。

 大基だ。

 この骨は大基だ。

 さゆみは大基の頭を優しく胸に抱いた。

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