11 狼の覚悟

「シャンとせい!!!!」

祐希の背中に痛みが走る。聞き覚えのある声に電光石火のごとく首を回した。そこには手を腰にやり、ふんぞり返っている蓮がいた。

「俺が来た!俺達が来た!お前は大将をぶっ飛ばしてこい!もう、我慢しなくていい」

蓮は大げさに笑って見せた。祐希は溜息交じりに笑うと、拳を交わした。なんて頼りがいのある仲間だろう。蓮らしい励まし方に、思わず涙が出そうになって、それを笑顔で覆い隠した。陸がいた時代も、こういう風だったら死なずに済んだのか、とか思っている自分がいる。色々なことを隠し続けてきた。師匠は怒るだろうな。

「まさか君が来るなんて」

岡村は驚きながらも目の奥では笑っていた。

「悪いですか?」

「いいや」

岡村は視線を逸らし、少し考えた後、不気味な薄ら笑いを浮かべた。

「ここに来たご褒美に一ついいことを教えてやろう」

何故か空気が張り詰める。良いことなんて、端から期待などしていない。草木が音を立てて、血の鉄の匂いが鼻をくすぐる。

「八年前、君の師匠が死んだね。空の兄。如月陸」

「ええ、ニュースを見て驚きました」

「そういえば、君と西川が戦った時、透と空が微妙な顔をしていたよ。君の戦い方と陸が重なったのかもしれないね」

何でも見通している物言いに思わず顔をしかめる。

「ははは、まあそれは余談だ。本題に入ろう。八年前、陸を殺したのはこの私だ。空に伝えた時、彼は黙って私を睨んでいたよ。あー怖い怖い」

本当だ。嘘の匂いが全くしない。恐ろしいほどの真実。ああ、これが結末か。涙すら出てこない。眼前には笑顔の張り付いた悪党の姿。

「まあ、いいや。殺せば全て終わるんだ」

祐希は笑った。少し空に似せたのかもしれない。反射的にこういう思考回路になってしまうのはすでに病気なのだろうか。ゆらりと体を揺らし、近付いていく。全てを成して、終わらせるんだ。ドライバーを放り投げる。岡村はそちらに目をやった。その瞬間懐に飛び込む。内ポケットの拳銃を抜いた。そのまま、ゼロ距離で岡村の心臓を打ち抜く。銃声はあまり聞こえなかった。倒れる直前、岡村は何かを発した。それは、誰にも聞かれることなく…

「痛っっっ!!」

足を一歩踏み出した時、右足に激痛が走った。

「そういえば、折れていたんだ」

思い返したようにそう呟いた。倒れこむ祐希に蓮が駆け寄る。蓮ははにかみの笑みを見せた。祐希も笑顔で答える。

「皆まとめて病院送りだね」

おられた柱と大黒柱。同等じゃないようで同等な二つ。終わりを告げた風の音が狼の如く通り過ぎていった。


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