10 狼の皮肉

「ははは。さすがだね。私が見込んだことだけはある」

不快な笑い声が這うように伝わってきた。相変わらず、落ち着いて低い声。無意識に睨みつける。岡村の背後には大量の人間。いや、これは死人の匂い。しかし、顔が…恐怖が背中を這い上がっていく。

「小百合…そして」

八軍の子達。

「はははは。殺した人間の脳を、その人間そっくりの人形に移植することで、人体蘇生は完了する。面白いだろ?」

空は返事をしない。

「それに思わないかい?」

首を傾げる。

「君達は人を殺すことしか脳がない獣だ。その君達が殺す、つまり死人を生き返らせて何が悪い」

空は一瞬納得した。納得してしまった自分に腹が立った。腹を立てたことに後悔した。

「残念ですね。僕達はヒトですよ」

岡村は驚きの意を見せた。空はニヤリと笑うと、大きく息を吸い込んだ。

「透!祐希!」

岡村は小さく舌打ちをした。廃病院から、透は真顔で、祐希は欠伸交じりみ出てきた。空の掛け声と共に走り出す。

「やっぱきついか」

透が汗を拭う。

「一応聞くけど、君達武器持ってるの?」

空が銃剣を振り回し、問う。

「俺はドライバー」

「俺もっす」

と普通のプラスドライバーを見せた。空は呆れた表情を見せる。

「いやぁ戦いにくいっす」

と言いつつも祐希はドライバーで目や鼻、喉を確実に潰していった。だが、人数の多さに流石に無傷とはいかない。空は顔から血がしたたり落ち、透は腹を切られ、祐希は右足を折られていた。三人が中央に集まる。息苦しいほど埋もれていく。

「あれ?俺達もしかしてピンチ?」

透が声をかける。

「もしかしなくてもピンチだよ」

空が溜息をつく。

「どうします?これ結構まずいっすよ」

祐希は右足の痛みに少し顔を歪めた。そして、三人とも悟った。今まで感じることの無かった「死」というものを。

「空先輩!」

祐希の視界の端で空が倒れていく。心配よりも先に驚きが体中を駆け巡った。あの空が倒れたのだ。自分が勝てるわけない。空の周りにゾンビ達が集まっていく。地に血だまりが溜まっている。左目からと頭から。このままじゃ…二重の意味でマズイ。

「透先…」

助けを求めようと透の方を向いた時

「げほっ…げほっ…………」

砂埃に再び喘息を発症してしまった。

「はぁぁぁぁぁ?!」

あまりの唐突な危機に思わず口と声を大にして嗄れた叫びを上げた。大黒柱は折れ、自分は手負い。

「もう…」

無理か。月を見上げ、微笑んだ。白い息をなびかせて。


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