第六章 灰狼達の諍
1 狼の覚醒
「今日から二泊三日の合宿だ。誠心誠意鍛錬に励むように」
無線機に向かって零がけだるそうに伝える。スケジュールは意外にもハードで、午前中は軍別訓練。午後は一軍中心の合同訓練。相変わらずの山奥である。何台もの車が一斉にブレーキを踏む。異様な光景に誰もが視線を車にやっていた。もう慣れたが。
「今日のご飯はトンカツかな…」
祐希がポツリと呟く。
「よそ見してんじゃねぇ!」
「あいた」
祐希は面食らった。同じ二軍の蓮が怒鳴りつける。それもそう、祐希はさっきから欠伸と伸びを繰り返し、心ここにあらず。辺りを見渡してはまた欠伸。祐希は蓮の朝ご飯を当てた後、また面食らった。少しおでこの部分が赤みを増してきたところで、床に大の字になって寝転がった。そろそろ本気出せよと蓮が溜息をつく。祐希は木刀を持って立ち上がり、構えるかと思いきや、またしても虚ろな目で落ちてゆく葉を眺めていた。いい加減頭にきた蓮は怒鳴りながら木刀を力いっぱいに振りかざした。しかし、祐希はそれを頭上で受け止める。驚いた蓮は一歩下がり、様子を伺う。だが、やはりまた欠伸を繰り返した。
「お前みたいなやつに負けてたまるかぁ!」
またしても、蓮の木刀を頭上で受け、流し、身軽にかわすと、首元にかすらせた。
「あっつ!!」
思わず首を押さえて倒れこむ。二軍は驚きの波に飲まれた。祐希は不貞腐れたように頬を膨らまして、蓮を見ている。蓮は悔しそうに下から見上げた。予想外の出来事に顔をしかめる。騒ぎを聞きつけ、零が駆け寄ってきた。そして、倒れている蓮をニヤニヤと見つめる。
「零さん。なんすかあれ」
「私も驚き」
二人で祐希を見る。祐希は苦笑いを浮かべた。それは、しまったという顔にも見えなくもない。少しの間、不自然な沈黙が流れる。何故か突然空気が張り詰めた。祐希の出来事のせいではない。目の先には…
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