4 狼の気付き

「透ー。またここにいたの?」

「ああ。煙草か?零に怒られんぞ」

空は苦笑する。だが、火をつけた。父の件が一段落して、透は物思いにふけっていた。

「無期懲役だってね」

「ああ」

透はどこか遠い目で曖昧な返事をした。

「寂しくないの?」

「別に。今に始まったことじゃねーじゃん」

まだこちらを向かない。透は父に何を言われたかを一通り話した。空の顔がみるみる緩んでいく。

「まったく勝手だぜ」

終いにはこの言葉を発した。空は頬を膨らませると

「本当は嬉しかったんじゃないの?」

と問うた。透は別にと言って、腕の中に顔を埋めた。その姿を見てニヤリと笑う。

「あっれー?透君泣いてるー?」

顔を覗き込んでからかう。思わず上げたその顔の目にはいっぱいの涙が。情けなさと覚悟の強さを象徴するかのようなその涙は透には似ても似つかないものだった。が、今の二人には心底どうでもいいことだ。空は大丈夫とだけ口にし、後で零に怒られることを思い、もう一本煙草を口にした。その隣で目を擦り

「こういう時だけ本気になるなよ」

と呟いた。

 「あっ空こっち!」

屋上から下りてきた空を零が呼び止める。一瞬顔を硬直させ、部屋に足を踏み入れる。

「もう、別に何も隠してないよ」

「誰もそんなこと言ってないでしょ」

言葉のムチを打たれ、思わず苦笑する。

「今回殺人に使われた刃物はフォース独特のものだ。でもあいつは元フォースのリストにはない。ってことは?」

空を指差す。

「フォース、または元フォース内に実行犯がいる」

零は正解と声を上げた。時計の音が沈黙の間に響く。部屋の中に少しの恐怖と大きな違和感だけが不自然に浮遊していた。

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