3 狼の裏

「違和感。うーん違和感」

零はパソコンの端を掴んだ。そして画面をじっと見つめる。事件の写真に違和感を持ったらしく、ずっと横に揺れていた。しばらくすると動きを止め、立ち上がった。

「行ってみるか」

そして再び死体放置所へ。デジャヴのループへとはまっていく。死体の金属片から持ち主を特定。二人にさっと報告を済ませ、その人物の元へ。

 家の戸をノックすると、中から男性が出てきた。

「親父…」

後ろで透が声を漏らす。零は男性と透を交互に何度も何度も見ると、え…と口をあんぐりと開けた。

「はいはい零、ここからは二人の時間」

空が零の背中を押した。零は戸惑いながら敷地を出た。透が睨んでいるのを横目に見ながら…

 「どうゆうつもり?」

草むらの影で声を抑えて、空を睨みつける。まあまあと微笑しながら手を前に出した。

「最後なんだから。二人で話させてあげようよ」

零は少し黙ると、あーと声を漏らし、あっと声を発した。空は頭上にクエスチョンマークを浮かべる。

「空…。この事件は前のと繋がっている」

「説明よろしく」

「あの人。つまり透のお父さんのベルトに阿部が持ってたストラップがついてた。殺人現場は似ているも何も全く同じ。ってことは、裏に誰かいて、殺人をさせる人にストラップを配っている…。てことは考えられない?」

空は、ほーっと声を漏らし、顎に手を当て、うーんっと唸った。

「考えられないことはないね。裏の人を捕まえないとこの事件は終わらない」

二人はお互い顔を見合わせると,唇が震えているのが目に入った。

 「…」

お互い向かい合わせに座ったまま、時計の音だけが張り詰めた空気の中に響く。先に破ったのは父の方だった。

「すまんな」

久々に聞く無機質な声が、透の腹の底にずっしりと圧し掛かった。だがしかし、聞くべきことは聞く。仕事はこなす。

「何故、お袋を殺した?」

父はゆっくりと話し出す。

「母さんはお前を連れ戻そうとしたんだ。お前が空君の所へ行って、フォースに入ったって聞いて。危険なことはさせられない、傷つけたくないって言って止めに行ったんだ。それで、それを止めようと手が出て。怖くなって死体を遺棄した」

父は始終視線を逸らしていた。透の中で昔のことがフラッシュバックする。頭を抱えたくなるほどの過去。いくら自分の中でシナプスを繋いでも、理解しがたいことの数々。親とはこういうものなのかと自分で思わなきゃ壊れてしまう。そんな思いをさせておいて、このざまだ。全ての感覚が麻痺していく。

「傷つけたくないって?そう言って俺のこと傷つけたのはどこのどいつだ!」

ジャージを勢いよく脱ぎ捨てる。

「この痕消えねぇんだよ!空に気使わせて、おまけに殺人までして。どこまでいったら気が済むんだよ!!」

気が付けば立ち上がって、父の胸倉を掴んでいた。初めて息子に怒られて、反撃されて、半分の喜びと半分の恐怖。半分ずつの感情が渦巻いては混じりあい、新しい音を奏でている。それは雑音か?純音か?

「とお…る?」

「その口で俺の名前を呼ぶな!」

力任せに勢いよくなぎ倒す。スローモーションのように父は床に向かって真っすぐ。その騒ぎを聞きつけ、二人が駆けつけた。父を起こそうとする空の横を押しのけて外へ飛び出した。

「透…?」

笑っていた。

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