4 狼の信頼
「しまったぁー」
祐希を置いてきたことに今更気付く零であった。透に迎えを頼むと零は小百合を部屋に招いた。ベッドに座るように指示し、零は椅子に腰掛ける。
「言いたいことは色々あるが、何であんなことをした?」
「先輩、分かってるでしょ?私の資料を見たはずです」
零は机にある資料に少し手を触れる。
「あのことが禁句なのは分かってる。だが、あの程度で取り乱して発砲するようじゃダメだ」
「…ですよ」
小百合の顔が一気に曇る。歯を食いしばり、すごい形相で睨んだ。
「えっ」
「分かんないですよ!先輩には。私にとって孤児院がどれ程の意味を持っているか」
小百合はベッドから飛び上がり、戸を乱暴に開けると、飛び出していった。一瞬の出来事で零は目をパチクリさせる。すると、思い付いたように手を叩き、隣の部屋の戸を開けた。
「空ー」
零の突然の侵入に驚いた様子を見せ、手に持っていたファイルが音を立てて閉じた。
「えっ…何?」
空の顔を覗き込む。が、空は何?と笑って見せた。零は一息つくと話し始める。
「家族がいる幸せってどんなのだろうね」
唐突の疑問に、空は眉をひそめた。
「…。家族ねぇ」
「私は家族がいるのが当たり前だった。だから、失った人の気持ちが分からないんだ」
零は下を向いた。感覚が無くなった足を見つめ、視界がぼやける。すると、空が零の頭に手を置いた。すぐさま顔を上げる。空はいつもの笑顔で笑っていた。
「大丈夫。分からなくなっていい」
「え"?」
「徐々に分かっていけばいいよ。正直僕も分からないんだ」
輪郭の境目がだんだんと無くなって、終いには世界が一体化していく。気が付けば泣いていた。空は頭を抱え、引き寄せた。子供みたいに胸元で大声を上げて泣く。服を掴むと、空は少しバランスを崩した。けれども、いつもと同じ笑顔でいるだろう。
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