5 狼の背中
「うわぁぁぁぁ」
零は空のベッドの上で悶えた。後から込み上げてくる恥ずかしさに耐えられない。空はそれを微笑ましそうに目を細めて見ていた。
「で、零。あの子の所へ行かないの?」
零の動きが止まる。頬を叩いて顔を整えると、じゃあと言って部屋を出た。空は何も言わなかったが、なぜか背中を押された。零が部屋を出た後、空は先ほど見ていた資料を見て
「危なかった…」
一息ついて呟いた。零は部屋の戸をノックした。中から返事が聞こえる。大きな深呼吸をすると、開けた。小百合は少し身構える。
「さっきの話なんだけど」
「はい」
小百合は下を向く。空気が重い。
「正直私には分からない。家族がいないというのは。でも、私は小百合のことをもっと知りたいし、先輩としてサポートもしたい。それも一軍の仕事だ。だからさ、小百合も」
「何で…」
零は目を丸くする。小百合の手の甲に涙が滴り落ちた。
「小百合…?」
「何で優しくするんですか?!」
小百合はバッと顔を上げる。目には涙、歯を食いしばり、零を睨みつける。
「どうせ、私のことなんてウザいって思ってるんでしょ?殴ればいいじゃないですか!零先輩なら一人や二人黙らせられるでしょ?」
零は少し考えると一息ついた。
「じゃあ、殴るぞ」
拳を高々と振り上げる。それと同時に小百合は肩をすくめる、目を固く閉じた。自分で殴れって言ったくせに、と思いながらも、その拳を自分の頬に思いっきりぶつけた。
…痛。当たり前、手加減しなかったのだから。小百合は驚いた様子で零を見た。零は背筋をピンと伸ばすと、少し大きな声で言った。
「今回は監督不行き届きで私の責任だ。殴られるべきは私の方だ」
ふと小百合を見ると、睨んでいた目はいつの間にか情けなく潤んでいて、突然立ち上がると零の胸元で泣いた。零は空のように頭をさすった。何だか嬉しくて、思わず笑みが零れた。
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