5 狼の誘惑
「なあ、空。一昨日言ってた人。喫煙室にいる」
空にヒソヒソと、伝える。それを聞いた空は不信さを残しながらも零に煙草を吸ってくると言って向かった。零は一本だけだよと頬を膨らませた。喫煙室に入ると吸い慣れた煙が鼻をくすぐる。確かに男性がいた。重い空気がのしかかる。すると、その男性が口を開いた。
「あの…如月空さんですよね」
「あなたは…」
脳内にある微かな記憶を辿る。空は目を見開くと
「あの、岡村の後ろにいた護衛の一人!なんでここに…」
と叫んだ。男性は待ってましたと言わんばかりに立ち上がった。
「空さん。死体蘇生に興味はありませんか?」
「え…?」
「あなたのお兄さんが生き返ると思ったらどうですか?」
空は顔を歪める。
「我々の計画に協力していただければ…」
「お断りします」
男性の言葉を遮るように大声を荒げた。男性は目を丸くする。
「空さんにとって悪い話ではないはずです」
「それは岡村の命令ですか?」
「ええ」
「兄を殺した人物がそのようなことをするなど、許されません」
空の体は震えていた。男性は帽子を深く被り直すと、またいずれ機会がありましょうと言って喫煙室を去った。空は珍しく笑顔を崩し、耳を塞いだ。涙が零れないように固く唇を結んで。息苦しくなった空は皆の元にまたいつもの笑顔で戻った。遅いと零に怒られ、申し訳なさそうに後頭部をかいた。その姿を見て、笑いに包まれる。そして透はそっと耳を塞いだ。
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