3 狼の嘘
「今日は天気がいいな」
風を受け、呟いた。一人屋上で煙草をふかしている。空は上から街を見下ろし、眺めていた。
「そーらー」
後ろから、突如呼ばれる。
「どうしたの?」
煙草をくわえながら話す。零は同じように柵に寄りかかり、街を見下ろした。
「岡村と何話してたの?」
空は目を見開いた。
「何で?」
「目を見たら分かる」
空の目を指差した。空は今日の出来事を話した。ただ、兄のことは話さなかった。ただ疑われているということだけ、ただそれだけ。
「ふーん。空は何でここに入ったの?」
「零も同じ質問をするんだね」
「気になる」
零は子供のように目を輝かせていた。目が合うと、不意に逸らしたくなるような。
「僕はさ、もう八年前のような事件は起きてほしくない。それに、この腐りきった組織を立て直したいんだよ」
零は再度、街を見下ろすと
「ふーん。何で空がそこまで言うか分からないけど、ついて行きますよボス」
と言って女の子らしい笑顔を見せたかと思えば、駆け足で去っていった。その背中を見送ると、煙草の煙を虚ろな目で見つめていた。
「ごめんね、零。今はまだ…」
重い鉄の戸を閉めると、零は壁を強く拳で殴った。
「この嘘つき」
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