第5話 家族構成

 みんなと出会ってから十日ほどかかって、なんか村に着いた。さすがに三年はつき合えないので、ここで巡礼のみんなとはお別れした。

「バイバ~イ、がんばってねぇ~」

 私が大声で大きく両手を振ると、もうだいぶ遠くへ進んでいたみんなが、それでも、全員振り返り笑顔で手を振り返してくれた。

 底抜けにいい人たちだった。あんな人たちも世の中にいるんだなと、私の世界観がまた一つ変わった。私は、彼らが見えなくなるまで、その姿を見送った。

みんなを見送った後、私は、一人村に入って行った。

「・・・」

 広大な大自然の中にポツンとある村だった。いったい、なぜこんなところに村があるのか、どんな人たちが住んでいるのか、どんな生活をしているのだろうか。私は少し不安にかられながら恐る恐る中へと入って行く。

 すると、すぐにちっちゃい子どもたちがわらわらと私の下に集まって来た。なんか変な外人が来たのが珍しいのだろう。だが、集まったはいいが、恥ずかしいのか私の前でニコニコとはにかんでいる。

「こんにちは」

 私がそう言っても、やはり子どもたちはその特徴的な赤い頬をさらに赤めるようにはにかんだ。その姿が何ともかわいい。日本の子どもにはない素朴だった。

「どこか泊めてくれるところはある?」

 私は少しかがんでそんな子どもたちにやさしく話しかけた。すると、子どもたちは一斉にダッシュで逃げるようにどこかへ行ってしまった。

「困ったなぁ」

 絶対ホテルなどありそうもない。

 私は村の中を歩き始めた。

「すごい、立派な家だなぁ」

 石でできた白い大きな家が並んでいる。

「へぇ~」

 白い、多分この土地特有のものなのだろう独特の石を巧みに積み上げ本当によくできた立派な家だった。

「でっかいなぁ~」

 私は家々を見上げ感嘆した。私はいろんな角度から家を見ようと思って家々の脇に回った。

「ん?うぉっ」

 その時、私は自分がすごいところに立っていることに気づいた。家はすべて切り立った崖の上に建っていた。

「・・・」

 崖の下を覗くと、足もすくむどころではなく途方もない断崖絶壁だった。

「なぜ、こんな危険なところに・・、しかもすべての家が・・」

 私が唖然としていると、また、にこにことさっきの子どもたちが戻ってきた。

「村長さんが泊めてくれるって」

 子どもたちの中で一番年長っぽい女の子が、はにかみながら言った。

「ほんと」

 私が喜んで笑うと、子どもたちも笑った。

「村長さんのうちはどこ?」

「あっちだよ」

 子どもたちは一斉に私から見て右の方を指さし叫ぶと、さらに一斉に勢いよく走り出した。私もその後に続いた。

 子どもたちは大きな石造りの家の並ぶ、さらにその奥の他の家よりもひと際大きな家の前でとまった。

「村長さん」

 子どもたちが指差し叫ぶ。

「ん?」

 しかし、どこをどう見ても村長さんはいない。おばあさんが一人立っているだけだ。

「あ、あの、村長さんは?・・、あの・・」

 おばあさんはニコニコと立ち続けている。私はさらに辺りを見回した。

「あの・・」

 やはり、誰もいない。

「私が村長よ」

 おばあさんがニコニコと言った。

「えっ」

「おばあさんが村長なの?」

「この村は女の方が偉いのよ」

「そうだったんですか」

 なんかびっくりした。この村は女系社会だった。

「固定観念に騙されちゃだめだな」

 私は思った。

 村長さんは、私をあの立派な石で出来た自分の家に招いてくれた。

「わあ」

 私は中に入り感嘆の声を漏らす。家の中は日本の家など比ぶべくもなく広く、天井も思いっきり高かった。内装もシンプルだがやはり、白いきれいな石によって巧みに形作られ、伝統的な家具や織物などによって小気味よく装飾されていた。よく掃除もされていて、そこは不思議と心地よい空間だった。

 私が家の中に見とれていると、いつの間にか、これまた人のよさそうな女性が、村長さんの隣りにニコニコと立っていた。

「娘よ」

 村長さんが紹介してくれた。

「あ、こんにちは」

 私があいさつすると、娘さんはそのまん丸い顔をニコニコと頭を下げた。

「子どもたち」

 今度は娘さんが、その脇に立っている子どたちを見下ろして紹介した。

「こんにちは」

 私があいさつすると、四人の小さな子どもたちはやはり、さっきの子たちのようにはにかんで恥ずかしそうにしている。そこに、誰か家の人が帰って来た。男の人二人だった。

「旦那よ」

 娘さんがその男性を紹介した。しかし、男の人は二人いた。

「?・・、あの・・、どちらが・・?」

 私は訊ねた。

「二人共よ」

 娘さんが言った。

「二人共?えっ?」

 意味が分からなかった。

「二人共私の夫なの」

「えっ!二人?えっ?」

 訳が分からなかった。

「もう一人いるけどね」

「もう一人!って三人?」

「この村は一妻多夫なの」

 村長さんが横から説明した。

「一妻多夫?一妻が一人の妻って事で・・、多夫って旦那がたくさんで・・、一夫多妻の反対で・・、そうだったんですか!」

 やっと分かって私は滅茶苦茶驚く。私にはカルチャーショック過ぎた。

「でも・・、なんか・・」

 私はこれまたニコニコと立っている旦那さん二人を見る。なんか旦那さん二人は妙に顔が似ている。他人の空似だろうか。それにしては似過ぎている。

「旦那はみんな兄弟なのよ」

 それを察したのか娘さんが私に言った。

「えっ、兄弟!」

 さらに驚いた。なんだかもう、これ以上驚くことはないってくらい驚いた。

「旦那が全員兄弟・・、ということは・・、で、旦那が三人・・、ということは、お父さんが三人で・・、でも、お父さんは同時におじさんでもあって・・、」

「う~ん」

 なんだか訳が分からなかった。

 そこにおじいさんが三人仲よく農作業から帰って来た。

「と、いうことは・・」

「旦那よ」

 村長さんが言った。

「ですよね・・」

 なんかもう頭がくらくらしてきた。

 家の奥に行くと、さらに年を取ったおじいさんがさらに三人いた。

「私の父」

 そう村長さんは言った。顔がそっくりだった。

「やっぱりその・・」

「みんな兄弟よ」

「ということは・・、四世代同居・・」

 そこに赤ちゃんを抱いた若い娘さんが入って来た。

「孫の子ども」

「えっ、ということは五、五世代・・・」

 怒涛の家族構成になんかもうほんとに訳が分からなかった。

「大家族なんですね」

「そうかしら、うちはまだ少ない方だけど」

 村長さんは首を傾げていた。日本で培われた固定観念はここでは完全に捨てなければいけないらしい。

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