第30話 ソルドの首で全ては収まる? ~最終決戦2~
「ソルドの首を!?」
ルークの顔が青ざめた。騎士として、兄として他の誰にも代わる事の出来ない大きな存在のソルド。その首をはねるなど出来る訳が無い。動けないルークの前にソルドが立った。
「ルーク様、私の首ひとつで全てが収まるのなら安いモノですよ」
ソルドが首を突き出す。
「あ、一気にスパッていっちゃって下さいね。痛いのはイヤですんで」
笑顔で言うソルド。
「……そんな事……出来ないよ……」
ルークは剣を振り上げ、ひと呼吸置いて振り下ろした。ソルドの首にでは無くフェゼットに向かって。
「ソルドは私にとって血は繋がらなくとも兄であり、大切な仲間である。どうあってもこの者を殺さねば納得出来ないと言うのであれば力を持ってして納得させる!」
ルークはきっぱりと宣言した。これは宣戦布告と捉えても良いだろう。しかし、フェゼットには、そのルークの姿にガイザスの姿がダブって見えた気がした。その時ルークの後ろから声がした。
「フェゼット、もう良い」
「ガイザス様!」
毒で倒れた筈のガイザスがバルコニーに姿を現したのだった。
「ルーク王子の言う通りだ。私は一度ザガロの手によって倒れた。しかし、アルテナの者達のおかげでこうしてまた立つ事が出来た」
「ガイザス王にまだ息があったので、私の判断で毒消しと回復の魔法をかけさせていただきました。ミレアにも手伝ってもらってね。ルーク、あなたのお父様は助ける事が出来なかったけど……」
ステラが申し訳無さそうに言う。
「まさかガイザスの王を助ける事になるとはね」
複雑な表情のミレア。
「ルーク殿の仇である儂がルーク殿の仲間に生命を救われる。人生とはわからないモノだな」
しみじみと言うガイザスにルークは晴れ晴れと答えた。
「いえ、私は貴公に挑み、敗れ、その上で生命を救われています。もはや貴公は私の仇ではありません」
「そう言ってもらえると少しは気が楽になるよ」
ルークとガイザスの和睦が成された瞬間だった。ガイザスはフェゼットを見据えて話しを続けた。
「儂を倒したザガロを倒したのは確かにルーク王子だ。だから儂は剣を彼に託したのだ」
ガイザスはフェゼットに向かって更に言った。
「お前もわかっておろう、ヒルロンがルフトに無茶な事をしたのが全ての始まりだ。息子の罪は親の罪。もっともヒルロンはもう居ないがな」
「ならば私もヒルロン様のご乱心を止められなかった咎を受けなければなりません」
「フェゼット殿、貴公はヒルロンをルフトから撤退させ、市民に平穏を取り戻してくれたと聞いております」
庇う様にソルドが言ったが、フェゼットはそれを受け入れず、自分を責め続けた。
「それは単なる事後処理でしかありません。私がヒルロン様をお止めしていれば、ザガロなどをヒルロン様から引き離していればこの様な事には……」
「ならば私からフェゼット殿に頼み事をしても良いだろうか?」
ルークが意を決して口を開いた。
「ガイザス領を治めていただきたい」
「ガイザス王がご存命とあれば国をひとつに纏める必要はありません。領土が広がれば広がる程目が届きにくくなってしまいますから。フェゼット殿には新しいガイザスの王となり、国民が安心して暮らせる国を作っていただきたい。私はルフトの王となり、お互い友好な国となろうではありませんか」
「アルテナは、コルトが成人するまで父に頑張ってもらわないといけませんね。でも、あの子に王が務まるのかしら?」
ステラが心配そうに言うと、ソルドがルークとフェゼットに目をやって言う。
「ステラ様、心配は要りませんよ。この二人が良い先輩の王として見本を見せてくれますからね」
「私たち、怖い大人も付いてますから」
ガイザスはそう言ってソルドの肩に手を回して笑った。それは武闘派の王という仮面を脱ぎ捨てた一人の男の晴れ晴れした笑顔だった。
「ルーク様、貴公がソルドの首を落としていたら、私は貴公を斬るつもりでした。しかし、貴公はそれをしなかった。場を収める為に仲間を斬る事を善しとしなかった。ソルド殿の自らを犠牲する事を厭わない行動もお見事でした。こんな部下をお持ちのルーク様が悪い王になる訳がありません。私もお手伝いさせていただきたく存じます。良き国作りを致しましょう」
うやうやしく片膝を着いて頭を下げるフェゼット。フェゼットに併せ、周囲のガイザス兵も一斉に膝まづいた。
「ありがとうフェゼット。ただ、ひとつ良いかな?」
「何でしょう?」
「言ったでしょう? ソルドは部下じゃなく、仲間なんです。そして、あなたたちもね」
ルークはひと際大きな声を張り上げた。
「私は王となると言ったが、独裁者になるつもりは無い。皆により良い国作りに協力していただきたい」
「ロレンツ様……見ておられますか?ルーク様があんなに立派に……」
空を仰ぐソルドの頬に一筋の涙が流れた。
「もし私が道を間違えそうになったら、それを正して下さいね」
ルークの言葉にガイザスは応えた。
「もちろんだ。もし貴公が私利私欲に走り、国を混乱に陥れようものなら私は武闘派に戻り、君に剣を向ける事になるだろう。まあ、貴公ならそんな心配は無いと信じているがね」
かくしてルークはルフトの、フェゼットはガイザスの新しい王となる方向に話は進んでいたのだが、光で描かれた紋章が突然宙に浮かび上がった。
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