第29話 ソルドVSガイザス、そして伏兵 ~最終決戦1~

 ガイザスが大きく剣を構える。攻めでは無く、受けを重視した構え。ソルドは一瞬腰を低く落とすと全身のバネを使ってガイザスに飛びかかった。剣を振り下ろされた剣を下から剣で弾き返すガイザス。ソルドは弾かれた反動を利用して腕を回し、横に薙ぐ。ガイザスはそれを斜め上から弾き落とす。二人の剣が地面に突き刺さる。

「私の勝ちだな」

 ソルドの剣はガイザスの剣に押さえられる形で地面に突き刺さっている。という事はガイザスが剣を押さえている限りソルドの剣は抜く事が出来ない。ガイザスは剣を押さえる力を強めるとソルドの剣はより一層深く地面にめり込んだ。と、同時にガイザスは剣を振り上げ、上段から斬りつける。ソルドは剣を抜く事もままならない。


「終わった……」


 ソルドの頭に軽い痛みが走る。ガイザスがソルドの頭を剣で軽く小突いたのだった。

「まだまだだな。次は私から攻撃させてもらうよ」

「???」

 事態を理解出来ないソルドは動くに動けない。するとガイザスは急かす様に言った。

「早く剣を抜いて構えんか」

 ガイザスの声に反応し、ソルドが剣を地面から引き抜いて構えたのを確認するとガイザスの剣が恐ろしい疾さで一閃する。ギリギリのところで防ぐソルド。それは彼が今まで受けてきたどんな攻撃より疾く重いものだった。

「ほう、この一撃を躱すとはなかなか。では、これはどうだ?」

 ガイザスは拮抗していた剣に力を込め、ソルドを突き飛ばすと凄まじい連撃を浴びせた。上から横から下から、まさにあらゆる方向からの攻撃に防戦一方のソルド。遂には剣を弾き飛ばされてしまう。

「どうやらここまでの様だな」

 丸腰になってしまったソルドの喉元に剣を突きつけるガイザス。

「まあ、よくやった方か。では、授業料の請求をさせてもらおうか」

 『授業料』。ソルドはその生命を以て支払うつもりだった。

「そうだな、完敗だ。ルーク様、申し訳ありません。私がお供出来るのはこれまでです。ステラ様とお幸せに」

 すっきりした顔で言うと、ガイザスから思いもよらない言葉がかかる。

「授業料は高くつくと言った筈だぞ。貴様の生命ではちと足らんなぁ」

 驚愕の表情を浮かべるソルド。

「俺一人の生命じゃ足らん……まさか貴様、ルーク様を!?」

 焦ったソルドの喉に剣が食い込み、血が一筋流れる。

「ソルド!」

 剣を握り締めるルーク。

「ルーク様、無理です。お逃げください」

「でも……」

 ソルドを助けようとするルーク、ルークを逃がそうとするソルド。二人にガイザスは声をかける。

「ソルド、君には私の下に付いて、私の力になって欲しい」

「どういう事だ?」

「私が望むものは民の平穏だ。その為には強い力を持っておかないとならないのだよ。忠を重んじる騎士のソルドには他君、それも自分の国を滅ぼした国に仕えるのは辛いだろうが……」


 ひゅん


 矢が空気を裂く音がした。ガイザスの背中に矢が深々と刺さっている。

「へへっ、やったぞ! ガイザスは俺が討ち取った!」

 いつの間に現れたのか、ガイザス兵の一団が弓に矢を番えながら狂喜している。

「おっと、お前等も動くんじゃないぜ。ヒルロンも俺がブチ殺してやった。この国は俺のモンだ!」

「ザガロ……貴様……だが、矢の一本や二本でこの私が倒せるとでも?」

 どこの世界にも裏切り者は居る様で、このザガロと呼ばれた男はルーク達が攻め込んだどさくさに紛れてヒルロンを亡き者とし、王であるガイザスにまで文字通り弓を引いたのだった。

ガイザスは気丈にも立ち上がろうとするが、がくっと膝を付いてしまい、立ち上がれない。

「強がるんじゃねぇよ。この矢には毒が塗ってある。即効性のヤツがたっぷりとよ。苦しいだろ? 今楽にしてやるよ」

 あざ笑う様に言うザガロ。

「獅子身中の虫めが。貴様などにこのガイザスが殺れると思うか!?」

 ガイザスは苦しそうに膝を付きながらもザガロを睨みつけている。

「そんな身体で何が出来るってんだ。あの世でバカ息子と仲良くやってな」

 ザガロが手下に矢を放つ様命令しようとした時、灼熱の炎がザガロ達を襲った。ガルフの呼びかけに応じ、サラマンダーの炎は容赦無くザガロ達を消し炭にした。


「ルーク殿!」

 炎がルークが放った炎の攻撃魔法だと理解したガイザスはルークに呼びかけた。

「私はザガロに討たれ、貴公はザガロを討った。ガイザスの新しい王は貴公だ。この剣を受け取れ、王の証だ」

 ガイザスは持っていた剣をルークに渡して苦しそうに言葉を続ける。

「ルフトの王子がアルテナの魔法を使うとはな。皮肉なものだ。ルフトとアルテナが手を組んでガイザスに攻め込むと言う、ヒルロンが懸念した事がヒルロンの行動の為に実現した訳だ」

 ガイザスは多量の血を吐き、崩れ落ちた。ルークに願いの言葉を残して。


――この国の名をルフトにするのも貴殿の自由。ただ、民が安心して暮らせる強大で平和な国を作って欲しい――


「ガイザス王……ただの武闘派の王じゃ無かったんだね」

「ええ。立派な王でしたね」

「もう少しでそんな立派な王様に仕えられるところだったのに残念だったね」

 ルークはソルドがザイガスを立派な王だと讃えたことに拗ねた様に言った。するとソルドは涼しい顔で言い返した。

「ルーク様はガイザス王より偉大な王になると信じてますから」

「え~~~っ プレッシャーかけないでよ」

「いえいえ本心ですよ。より良い国づくりをお願いしますね」

「うん。忙しくなるね」

「ええ。まずはガイザス全土に新しい王の存在を知らしめないと」

「みんな受け入れてくれるのだろうか?」

「最悪の場合、ガイザス王がした様に武力による平定のやり直しですね」

「そうならない様にガイザス王はこの剣をボクに授けたんだよね」

「一度はガイザス王の理想の下、まとまった国ですからね。そう願いたいものです」

「でも、不穏分子の存在は否定出来ない」

「その為に私が居ます。ルーク王の盾となり剣となりましょう」

「ボクももっと剣技を磨かないと」

「魔法の方も期待してますよ」

「では、まず最初の仕事にかかりますか」

 ルークはガイザス王の剣を手に城の庭を見渡せるバルコニーに出た。眼下の庭ではガイザス軍とソルドの仲間がまだ戦っている。

「みんな、聞け!」

 ルークの声が響き渡ると戦いは止まり、視線は声のしたバルコニーに注がれた。ルークはガイザス王の剣をかざして叫んだ。

「ガイザス王は倒れ、私が王の剣を引き継いだ。私がガイザスの新しい王となる。これはガイザス王の遺志である。異存のある者はおらんな?」

 湧き上がる歓声と『ガイザス様が亡くなられた?』というざわめき。

「私はガイザス王の高い志を継いで強くそして争いの無い国を作る事をここに誓う」

 ざわめきの中、ルークは言葉を続ける。

「今や目の前にいるのは敵では無い。同胞の友だ! 私の為では無く偉大なるガイザス王の理想を現実とする為に皆の力を貸してくれ!」

「ルーク様、ご立派です」

 ソルドの口から零れおちた言葉。しかし、ガイザス兵から怒号が飛んだ。

「ルフトの残党が何を言うか!」

「我らが王を殺しておいていけしゃあしゃあと」

 ガイザスの兵にルークの言葉は通じないのか?

「やはり一筋縄にはいきませんな」

 ソルドが困った顔で言う。

「私を信じてはもらえないだろうか!」

 ルークの悲痛な叫びが響く。

「私は長きに渡ってガイザス様に仕えてきたフェゼットと言う者だ。ひとつ問いたい!」

 ガイザス兵の一人が前に出た。

「貴様がガイザス様を倒したというのか?」

 ルークは事実を話した。ガイザスに手も足も出なかった事・殺されずに見逃され、ガイザスの真意を伝えられた事、そして反逆者によってガイザス王が討たれ、その反逆者を倒した為剣を受け継ぎ、平和な国を作って欲しいと言われた事を。

「貴様を殺す事はしなかったか……ガイザス様らしい。それにしても反逆者……ザガロのヤツか。やはり私が粛清しておくべきだった」

 フェゼットは空を仰ぎ、拳を握り締めた後ルークに向き直った。

「貴公の覚悟を見せていただきたい」

 ルークの呼び方が『貴様』から『貴公』に変わった。

「貴公に付き従うソルドという男。其奴は私の友を幾人も葬った。私の目の前でそやつの首をはねて、覚悟の証としていただきたい」



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