第27話 突入、そしてガイザスとの対峙 ~決行1~

 まもなく午前二時になろうとしている。月明かりに照らされたガイザス城は独特の凄みを感じさせる。

「この城に突っ込むんだよな、俺達」

「ビビってんなら帰った方が良いぞ。今ならまだ間に合う」

「嫌だなぁソルドさん。友達捨てて帰れる訳無いでしょ」

 気圧されるデイブにソルドが注進するが、デイブはそれを一蹴した。


 固く閉ざされた城門。外からコレを破るのは並大抵の事では無い。

「さて、なんとかするとは言ったものの、どうすっかな……」

「ええっ。ソルドさん、ソレ、今考える事なんですか?」

 驚いた顔のデイブ。まさかソルドがこんな行き当たりばったりな事を言う人だなんて思っていなかったのだ。

「しょうがないわね。私に任せてください」

 呆れ顔のミレアが前に出る。

「おいおい、女の子がどうしようってんだ?」

 ソルドが言うが早いかミレアの呪文詠唱が始まった。

「ちょっと派手に行くわよ。ノーム、お願い!」

 ミレアの声と共にノームの力による局地的な大地震が発生した。

「うわっ地震だ!」

「でかいぞ!」

 突然の地震に慌てふためく門番達。地震が収まった時には城壁は崩壊、堀は瓦礫で埋まっていた。あまりの凄まじさに言葉を失うソルド。だが、すぐに気を取り直して叫んだ。

「よぉっし、行くぞおぉぉぉぉ!」

 混乱に乗じて城郭に突貫するソルド達。分散して待機していたいたワイン達も姿を現し、続いて突入する。

 

 乱戦が始まった。

「ここは俺達に任せて君達は城内へ! ソルド、ルーク様を頼むぞ!」

 ワインが剣を振りながら叫ぶ。

「おう、頼むぜ! 行きますよ、ルーク様」

 ソルドがガイザス王の居る宮殿への血路を開くべく鬼神のごとく突き進み、ルーク達が後に続く。宮殿にたどり着くと、入口の扉は先刻の地震で外れてしまっていた。

「絶対待ち伏せしてやがるよな……だが、行くしか無ぇよな。ルーク様、暫しお待ちを」

 ソルドが飛び込むと、一斉に矢が降り注ぐ。

「やっぱりな」

 ソルドは致命傷を避ける為、腕で頭をカバーする。矢がソルドを針ネズミにするかと思われた。だが、一迅の風が矢を全て押し戻した。

「ボクも役に立てたかな?」

 エディがにっこり笑って言った。

「俺だって」

 デイブの魔法で突然大量の水が湧き出し、豪流となって待ち伏せていたガイザスの兵を洗い流す。呆気に取られて思わず口にしてしまうソルド。

「……魔法って、マジで凄ぇな」

 クリアになったエントランスを突っ切り、王の間を目指して廊下を走り抜け、階段を駆け上がる。

「ソルドさん、王の間ってドコにあるか知ってるんですか?」

 走りながら質問するデイブに走りながら答えるソルド。

「知らん。だが、王の間なんてモンは宮殿の上の階の奥の方って相場は決まってんだよ」

 目指す王の間の場所はわからない!ただ闇雲に走って宮殿の奥を目指すのみ。なんという杜撰な作戦。いや、こんなのは作戦とは言えない。単なる出たとこ勝負である。

 何人のガイザス兵を蹴散らし、どれぐらい走っただろう?ひときわ立派な作りの扉が目を引いた。

「ココじゃねぇか?」

 扉を蹴破り室内に押し入ると、男が一人。その男は大きな剣を手にすると威嚇するかの様に切っ先をソルドに向けた。


「てめぇ、ガイザスだな」

「そうだ。貴様等、ドコの国の者だ? まだ無意味な戦いを続けようというのか?」

 ガラの悪い喋り方のソルドに対して堂々たる王の姿勢を取るガイザス。これではどちらが悪者かわからないではないか。

「先に手ぇ出してきたのはてめぇらの方だろうが。ロレンツ様の仇、討たせてもらうぜ」

「貴様等、ルフトの者か?」

「ルフトのルーク王子とお供のソルドって者だ」

「貴様がルフトのソルドか。名前は知っているぞ」

 ソルドの名はガイザスにも届いていたらしい。剣を構え直すガイザスにソルドは挑発するかの様に剣を大きく振ってから構えた。

「そいつは光栄だ。武闘派ガイザスに名前を知ってもらってるとはな」

 武闘派として恐れられているガイザスの圧倒的な迫力。ソルドの心に危険信号が灯る。だが引く事は出来ない。また、ソルドはガイザスにどうしても確かめたい事があった。気圧されそうな心を奮い立たせ、ガイザスの剣に自分の剣を突き合わせるとガイザスに問うた。

「ところでガイザス、ひとつ聞きたい。何故ルフトの民は以前と同じ生活をしている?」

「それがどうした? おかしな事を聞くヤツだな」

 ソルドの問いに対し、ガイザスは「何を当たり前の事を聞いているのだ?」という顔で答えた。その答えにソルドはガイザスの意図がより一層読めなくなり、質問を続けた。

「ガイザスは幾つかの国を武力で統一した国なんだろ?」

「いかにも」

「なら、何故ルフトをガイザスに取り込まない?」

「いや、別にルフトだけ特別という訳では無いが」

 ガイザスの意外な答え。

「私が幾つかの国を攻め、統一したのは確かだ。だが、それは私利私欲の為の統一では無いつもりだ」

「どういう事だ?」

「戦乱を終わらせる為には武力による統一を行うしかなかったのだ。私が武闘派だと言われ、近隣諸国に敬遠されているのもわかっている。だが、それはガイザスには他国は干渉して来ないという事でもあるのだ」

 ガイザスが武闘派と呼ばれる道を選んだ理由。それはソルドが思っていたのとは真逆のものだった。

「他国が干渉してこないという事は、戦争の心配も無いという事だからな。私は敢えて武闘派と呼ばれる事にした」

「ヒルロンがステラ様に振られた意趣返しにルフトを攻めたヤツが言う言葉かよ」

 ソルドはまだ納得出来ない。ガイザスがルフトを攻めた根本的な理由がそこにあると考えているのだから。しかし、ガイザスはそれを一言の下に否定した。

「そんなつまらん事の為に戦争など仕掛ける訳がなかろう」

 だが、俄かに信じられる訳も無い。ソルドはガイザスの言葉に噛み付こうとするが、ガイザスは話を続けた。

「君の言う通り、ガイザスは小競り合いを続けるいくつかの国を私が統一してできた国だ。それゆえに領土もかなり広い。ルフトの領土とアルテナの領土を合わせたよりは少し狭いといったところだろう」

「けっ、お国の自慢話かよ」

 ソルドが茶々を入れる様な事を言うが、ガイザスはそれを黙殺して話を続ける。

「ルフトとアルテナ。二つの国であるうちは良いのだ。だが、ルーク王子とステラ王女が結婚するとなると実質一つの国になると考えてもよかろう。すると、領土や勢力といった観点からするとガイザスにとって脅威となる。というのが我が息子ヒルロンの見解だ」

「だから、やられる前にやったのか?」

 ソルドの目が変わった。

「そうだ。これでも犠牲者が最小限になる様にはしているのだぞ。実際、戦いは王城付近だけでだっただろう。ロレンツが素直に降伏してくれてさえいたら……」

 ガイザスは無駄な戦闘はしたくないのだと言わんばかりに残念そうな顔になった。だがそれはソルドには逆効果だった。目に憎しみの色を纏い、怒りを押さえながらソルドは反論する。

「誇りあるロレンツ様が降伏などなさる訳が無いだろう」

 しかし、ガイザスの口から出た言葉にソルドの目に冷静さが戻った。

「誇りと国民の安全、さてどちらが大切かな?」

 国民の安全を第一に考えなければならない。ルークと同じ様な事を言うガイザス。しかし今はその言葉にあえて抗わなければならない。

「いきなり攻めて来られたんだ。戦うしか無いだろうが」

「その点ではヒルロンに任せた私に非があるとしか言えない。アイツはまだ王の器では無いという事だな」

 ガイザスはルフト侵攻については全てを息子のヒルロンに任せていたという。そして、それが間違いだった、自分が出るべきだったと後悔しているとも。

「ルフトとアルテナと三国で不可侵条約でも結んどきゃ良かったんじゃないのか?」

「いくら条約を結んでも反故にされるのが戦争というものだ。ルフトを抑えておけばアルテナは脅威でなくなる」

「自国への脅威を無くす為に他国を潰す……それがお前の正義か?」

「正義などと言うのはあやふやなモノだ。立場が変われば正義も変わる。今話したのは私の正義でしか無い。君には君の正義があるのだろう。だから……私たちは戦うしか無いな」

 ソルドはガイザスの話を聞き、彼の事を理解出来た気がした。少し微笑んだ後、寂しそうな顔になり、ガイザスに告げた。

「街の人に聞いた通り、アンタは単なる武闘派の独裁者ってワケじゃないみたいだな。だが、こっちとしては、ルーク王子からすればアンタは親の仇なんだよな」

「仇討ちに来られる覚悟ぐらいはできているさ。もっともそんな者は現れなかったがな。話はここまでだ。来なさい!」


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