第26話 それぞれの夜 ~決戦前夜3~

 宿に戻ったルーク達は、それぞれの部屋に入った。ルークはステラと、デイブはミレアと、そしてエディはシーナと、それぞれ二人だけで過ごす初めての夜。


「デイブ、先にお風呂入って良いわよ」

「そ、そうか。じゃあお先に」

 ミレアに言われて風呂場に消えるデイブ。だが、ゆっくり風呂で寛げる状況では無い。そそくさと身体を洗い、すぐに風呂から上がる。

「ミレア、サンキュ。いい湯だったぜ」

 デイブと入れ替わりにミレアが風呂に入る。衣摺れの音がやがて水音に変わる。デイブはベッドに入り、その音が聞こえない様に頭から布団を被る。だが、薄い布団一枚で水音を遮る事などできるわけも無く、水音がデイブを悩ませる。しばらくして音が止むとタオルを巻いただけのミレアがベッドに入ってきた。

「ミレア……」

 潤んだ瞳にまだ少し濡れた髪。ほんのり香る石鹸の匂い。

「デイブ……私……」

 か細い声のミレアをデイブは抱き締める。

「ミレア、知ってるか?ニッポンとかいう国の伝説では男は三十歳まで貞操を保つと魔法使いになれるんだってよ」

「ならデイブは貞操を保つ必要は無いわね。だって、もう魔法使いだもの」

「そうだな。でもな、明日、死ぬかもしれねぇんだよな」

「だから今夜……」

 ミレアの肩が緊張で震えている。デイブは軽く彼女にキスすると自分の決断を伝えた。

「バカ。だからこそ今夜はお預けだ。抱いちまうと、俺が死んだらお前、嫁に行けないぜ」

「そんな事言わないで。デイブが死んだら私も……」

「お前を抱けずに死ねるかってんだ。続きはアルテナに帰ってからのお楽しみってコトだ」

「……バカ」


 同刻、エディがすぐ傍のベッドで寝ているシーナに声をかける。

「シーナ、あのね……」

「どうしたの、エディ」

「色々あったよね」

「そうね。私の変な思い込みで……ごめんね」

「ううん、そういうところも含めてシーナなんだから」

「ありがとう。エディ、こっちに来ない?」

「ええっ!?」

「私達、恋人なんだよね」

「いや、その……」

「私なら大丈夫。エディにあげるって決めたから」

「ありがとう……なんて言ったらおかしいよね。ははっ」

 予想外の展開に戸惑いながらもエディはシーナのベッドに潜り込んだ。そしてシーナを抱き締めると耳元で囁いた。

「卒業する前に恋人になってくれただけで十分だよ。その先は……最初の約束通り卒業してからで良いんだ」


 また、時を同じくしてルークとステラも一つのベッドで抱き合っていた。

「ステラ……ごめんね」

「ううん、ルークが私の事を思い出してくれて嬉しい」

「でも、こんな事になっちゃって」

「バチが当たっちゃったのかも」

「バチ?」

「うん。アルテナ祭で祝詞を上げる時、無心で上げなきゃいけないのに……」

「何か考えちゃった?」

「ううん、祝詞を上げ終わるまでは無心だったの。いえ、無心と言うより祝詞を読むだけで精一杯だったの。でもね……」

 ステラは辛そうに話し続ける。

「祝詞を上げ終わった時、思っちゃったの。神様がこんなに近くにいるのに私の願いは叶えられないの? ルークに私の事を思い出してもらえないの? って。それが神様に伝わっちゃったのね。それで……」

「あの時、頭の中を何かが通り過ぎた感じがしたんだけど、あれは神様だったのかな」

 ルークはステラに優しく言った。

「バチなんかじゃ無いよ」


――神様がボク達に与えた試練なんだよ。大丈夫、僕はステラと一緒なら乗り越えられる――


 夜が明けた。

「よく眠れたか? んな訳無いよなぁ」

 ソルドがニヤニヤしながらルーク達に声をかける。

「最初は緊張しましたけど、すぐに落ち着きましたよ」

 大人びた顔でデイブが答えた。

「おっ、言うねぇ。少年が大人になったって訳だ」

 下品な事を言うソルド。だが、デイブから返ってきた言葉はソルドの予想とは違っていた。

「いえ、それはありませんでした」

「ありませんでした……って、好きな女と一晩一緒に居てか?」

「はい。それはアルテナに帰ってからにしようって」

「マジかよ……おっエディ。お前はどうだった?」

「ボク達もです。最初の約束通り、卒業してからにしようって」

 唖然とするソルド。せっかく気を利かせてやったのに……実は結構無理して二人ずつ部屋を取ってやったのに……しかし、すぐに気を取り直すと、意味ありげにニヤリと笑って言った。

「そうか。ならお前等、絶対死ねないな」

「もちろんっすよ!」

「必ず生きて帰ります。みんなで!」

 吹っ切れた顔のデイブとエディ。いよいよあと数時間で戦いが始まるのだ。



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