第22話 アルテナ祭
アルテナに冷たい風が吹く頃になると、町はアルテナ祭の準備で慌ただしくなる。夏の精霊祭とは違い厳粛な祭事である為、魔法学園の生徒達にとっては精霊祭ほどは楽しみではないのだが。
「シーナ、もうすぐアルテナ祭だね」
嬉しそうに話すエディ。もちろんアルテナ祭が楽しみなのでは無い。単にシーナと一緒に出かけるのが楽しみなだけである。
「うん。今年はみんなで行くの?」
本当は二人で行きたかったのだが出鼻をくじかれてしまった。するとステラがすまなさそうに言った。
「ごめんなさい。アルテナ祭の日は家の手伝いをしなくちゃいけないの」
ステラの言う『家の手伝い』とは、もちろん祭事そのものである。というよりステラは祭りの主要人物の一人である。
「そっかー、残念だね」
「メイティ……精霊祭も行けなかったのに、かわいそうね」
「ううん、毎年の事だから」
「じゃあ、五人で行くか」
「ルーク、メイティがいなくって寂しいでしょうけど、我慢してね」
やはりステラ抜きの五人で行くしか無いらしい。ミレアはルークを気付かって言うが、逆にルークも二組のカップルを気付かう様に言う。
「うん、大丈夫だよ。それより邪魔になっちゃわないかな?」
「何言ってんだよ。お前一人置いて俺達だけで行ける訳無いだろうが」
デイブがルークの肩に手を回しながら言うとルークは嬉しそうな顔で笑った。しかし、デイブは妙な本音も口に出した。
「まあ精霊祭と違ってあんまり面白くないけどな」
「不謹慎な事言わないの! アルテナで一番大事なお祭りなのよ」
「そーゆーのは大人に任せときゃ良いんだよ。俺達学生にとって祭りってのは楽しむもんなんだからな」
前述の通り精霊祭は精霊の為の派手で楽しいお祭りで、アルテナ祭は神に感謝を捧げる厳粛な祭。デイブの言う様に若者には正直面白いお祭りとは言えない。とは言え魔法王国アルテナ最大の神事である以上は人が集まり、出店も多く出る。デイブの目的はもちろん出店の方である。しかし、ミレアはそうでも無い様だ。
「まあ、それはそうなんだけどね。でも、またステラ様が素敵なんだろうな」
神事に携わる王女ステラの姿思い浮かべてうっとりしながら言う。
「私もステラ様みたいになりたいな~」
ミレアにとってステラ王女は憧れの存在らしい。夏休みにステラ王女と友達になったと言われたのは最高の思い出だっただろう。いや、デイブとキスした思い出の方が上だろうか?
ステラ王女の魅力を力説するミレアだが、それを聞いているメイティはステラ本人。背中がむず痒くなってくる。
「ミレアだって素敵じゃない。ステラ様にだって負けてないわよ」
もちろん単なるお世辞や社交辞令では無い。まっすぐで明るいミレアはステラにとって眩しい存在だったのだ。
「メイティ、やだぁ。そんな事言っても何も出ないわよ」
照れながらミレアが言うと、デイブはあざ笑うかの様に口走った。
「そうだな。ミレアから出るのは焦げた玉子焼くらいなもんだ」
「何よ!」
言うと同時にミレアが鋭い蹴りを出した。それは綺麗にデイブの脇腹に入り、彼は一撃で倒れた。
「……そうだな……こんな見事な蹴りも出る……な」
そして、アルテナ祭当日。神々を祀る大きな祭壇の前でステラ王女による祝詞奏上を息を飲んでルークは見つめる。
――凄い……神々の気がステラに集まってくるのがボクにもわかる様だ……――
祝詞奏上が終りステラが下がる。その瞬間、ルークは、頭の中を何者かが通り抜けた様な感覚を感じた。
――何だ、今の感じは……?――
神がステラの心の奥底に封じ込めていた『ルークに自分の事を思い出して欲しい』という気持ちを汲み取ったのだろうか?それとも『機は熟した』と判断したのだろうか? どちらにしてもその日の夜、ルークの記憶に異変が起こる事になるのだった。
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