第19話 達人同士の打ち合いは見てて結構怖い ~デイブの訓練デビュー2~

 優雅にお茶を楽しむステラとミレアに対し、ルークとデイブは訓練の真っ只中。もう何度踏み込み、何度剣を振っただろう?ルークもデイブも全身から汗を吹き出している。

「どーした、もうへばったか?」

 ふらつくデイブをソルドが焚きつける。

「いや、まだまだっす!」

 体力の限界近く。気力と根性そして意地で剣を振り続けるデイブ。その姿を見てルークにも気合が入る。

「コイツは良い拾い物をしたかもな」

 ドルフがソルドに話しかける。

「そうだな。剣の一本や二本安いモノじゃねぇか?」

 ソルドがドルフに笑い返す。

「だな。じゃあ、次いくか」

 『次』素振りで無く、対人訓練である。


「はぁ~っ 腕、ぱんっぱんだわ」

「無理も無いよ。鉄の剣振ったの初めてなんでしょ。背中は大丈夫?」

「ああ、背中も痛ぇ」

「だろうな」

 休憩中のデイブとルークの会話にドルフが入ってきた。思わず姿勢を正すデイブ。

「デイブ君、まあそう固くならないで。初めて鉄の剣を持って、訓練に着いて来れたんだ。たいしたモンだよ」

「まったくだ。ルークが初めて鉄の剣振った時なんざ……」

 ソルドが言いかけて言葉を止めた。下手な事を言ってルークの記憶が戻ってしまわないかと心配したのだが、遅かった。

「僕が初めて剣を手にした時……」

 ルークが遠い目をして何かを思い出そうとしていた。

「ルーク、どうだ?何か思い出しそうか?」

 事情を知らないデイブは色めき立ってルークに迫る。だが、ドルフが抑える様に穏やかにルークを諭す。

「ルーク君、焦る事ぁ無い。失くした記憶はゆっくり戻せば良いさ」

「ドルフの言う通りだ。こーゆーのは時間が必要なんだ。焦る事は無い。さ、訓練を再開するぞ!」

 なんとか訓練に意識を持っていくソルド。

「そうだな。いよいよ対人訓練だ。デイブ君はそういうの、やった事あるかい?」

 ドルフがデイブに声をかける。

「いえ、ありません」

「そうか。じゃあデイブ君の相手は私がしようか」

「ドルフさんが!?」

 突然の展開に驚くデイブ。まさか自分がドルフに相手をしてもらえるなどとは全く思っていなかったのだから。

「じゃあルークの相手は俺がすっか」

 剣を方手に弄びながらソルドが言う。

 

 剣と剣がぶつかる音が城の中庭に響く。

「あっ対人訓練が始まったみたいですよ。応援にいきましょうか」

「対人訓練?」

「ええ。人間を相手にしての剣技の稽古です」

「面白そうですね。行きましょう!」

 お気楽に見物するつもりのミレア。だが中庭に降り、訓練の風景を見ると身体が硬直する。なにしろ素人目には剣で斬り合っている様にしか見えないのだ。

「デイブ……大丈夫なの?」

「心配いりませんよ。相手をしているのはドルフですからね。多少の打撲や擦り傷は負っても大怪我する事はありえませんから」

 心配そうなミレアに対し、にこやかなステラ。

 訓練はどんどん進む。袈裟掛けの打ち合いから横に薙いだ剣を防ぐ練習、そして突きを防ぐ練習を終えたところでまた休憩に入る。

「あ~手ぇ痺れた」

「素手で剣握ってるからね。防具付けると少しは違うんだけど……」

「でも、打ち合うと実際に練習してる気になるよな」

 心地良い疲労感を感じながら話すデイブにドルフが声をかけてくる。

「デイブ君、我流ってことは、いつも一人で練習してるのかな?」

「はい」

「人間相手にするのは今日が初めてか。相手がいるってのは良いもんだろ?」

「はい。凄く楽しいです」

「楽しい……か」

「はい。しんどいっすけど」

「そうか」

 デイブの言葉に意味深な笑みを浮かべるドルフ。ソルドが集合をかけるの声が響いた。

「廻り稽古して終わりにすっか」

 廻り稽古。一対一で自由に技を出し合い、時間がきたら相手を替え、また一対一で技を出し合う。その繰り返しである。但し、鉄の剣で本気で打ち合うと危険な為、廻り稽古の軽い木の剣に持ち替える。

「あ、悪いけど、ドルフはずっとデイブの相手をしててくれるか?」

「おう、わかった。そのかわり後で一本付き合えよ」

「りょーかい」


 ドルフはデイブの前で剣を構えると優しい声で言った。

「じゃあ、私に向かって思いっきり斬りかかってごらん」

「えっ?」

「遠慮無く殺すつもりで来なさい」

 ドルフの目が怪しく光る。

「いや……でも……」

 デイブは躊躇した。ドルフは木の剣、つまり木刀で殺す気でかかって来いと言うのだから。

「だ~いじょうぶ。相手は親衛隊隊長のドルフさんだぞ。思いっきりいっちまえ! お前の攻撃なんか当たりゃしねぇから」

 ニヤニヤしながらソルドが煽る。

「わかりました。じゃ、いきます!」

 デイブは構えると、一歩踏み込んで剣を振り上げ、ドルフの頭めがけて思いっきり振り下ろした。カツンっといった木と木がぶつかる音。デイブの手に走る衝撃。一瞬の出来事だった。

 デイブの剣は地面を叩き、ドルフの剣はデイブの首筋にピタリと止められていた。

「お見事! ってゆー程でも無いか」

「こんな技も有る。デイブ君、私の動きをよく見ておくんだよ。まず、相手の剣を受ける。それを流したらこう踏み込んで……」

 説明しながら一連の動作を淀み無く続けるドルフ。ちなみにデイブは防具など装着していないのだが、さすがはドルフ、ピタリとデイブの身体ギリギリで剣を止める。

「じゃ、みんなも始めるぞ~。俺に一発でも当てたヤツは今夜一杯奢るからよ。始め!」

 あちこちで木と木がぶつかる音が鳴り出す。

「どうしたルーク、打ってこいよ」

 ソルドがルークを誘う。

「いや、無理に打っても躱されるだけだし……」

 誘いには乗らず、ソルドの隙をうかがうルーク。

「構えてんだから隙なんぞ見せねぇよ。じゃあこっちから行っちゃうぞ」

 ソルドは素早く踏み込み、ルークの胸元めがけて突きを出す。ルークはかろうじて身を躱すと横薙ぎにソルドの腹を狙う。

「甘いわ」

 ソルドは突いた剣を返して防ぐと、がら空きの足に一撃を喰らわせる。

「痛っ」

 ルークの動きが止まる。その途端、ソルドの連撃がルークを襲う。最初の数発は受けれたのだが、すぐに防ぎきれなくなりボコボコにされてしまうルーク。

「わわっ 兄さん、痛い痛い……」

 一方、デイブはデイブでドルフに完全に弄ばれている。

「くっそ、当たらねぇ!」

 デイブの健闘も虚しく、全ての攻撃は受けられ、次の瞬間には反撃を喰らってしまう。

「ドルフに怪我させても私が治してあげますから思いっきりやっちゃっても大丈夫ですよー」

 手を振りながら結構とんでもない事を言い出すステラ。

「思いっきりやっちゃってって……とっくにやってるっつーの!」

 必死にドルフに向かっていくデイブ。だが、ドルフは涼しい顔で攻撃を受けては流し、反撃の一発をデイブに与える。そんな事が何度続いただろう、ソルドの声が響いた。

「止め!」

 木と木がぶつかる音、そして気合を入れる声が止み、相手を変える為に移動する間、一瞬の静寂が訪れる。だがすぐにソルドの「始め!」の声がかかるとまた城内は騒がしくなった。

「ステラ様って、僧侶なんですか?」

 初めて見る訓練風景に少し怯えながらミレアが聞いた。

「いえ、魔法使いですよ」

「でも、さっき治すって……」

「私は色々な神々と契約してますから。それに地の精霊ノームの力を借りれば治癒も出来る様になりますよ」

「ノームが治癒の力を?」

「治癒の力……と言うより大地の力を借りてその者の治癒力を高める事が出来るんですよ。授業で習いませんでしたか?」

 デイブとは違い真面目に授業を受けているミレアだが、そんな事は記憶に無かった。

「はい。知りませんでした」

 素直に答えるミレア。そして恐る恐る聞く。

「あ、あの……ドルフさんじゃなく、デイブが怪我しても治してくださいますか?」

「ふふっ 彼の事が心配なんですね。大丈夫ですよ、任せて下さい。もっともドルフが初心者相手に怪我させる筈ありませんから安心してくださいね」

「ドルフさんを信用してるんですね」

「もちろんですよ。あなたも彼のことを信用してるでしょ?」

「ええ、まあ……」

「なら、女の子は黙って見守りましょ。みんな訓練が終わったら、全身軽い打撲と擦り傷だらけで笑ってる筈ですから」


 何度も相手を変えて打ち合いを繰り返したが、ソルドは一度たりとも剣を身体に受ける事は無かった。しかも衛兵達が息を切らしているにもかかわらずソルドの呼吸は乱れていない。

「今日はこれぐらいにしとくか。はい、終了。お疲れさん!」

 一同が「やっと終わった」という安堵の表情を浮かべる。

「デイブ君、お疲れさん」

ドルフの声にデイブはその場でへたりこむ。

「ドルフさん、今日はずっと相手をしてくれてありがとうございました」

 息も絶え絶えに礼を述べるデイブにドルフは応える。

「最後までよく頑張ったね。疲れたろう、少し休むと良い」

「デイブ、大丈夫?」

 ミレアがデイブに駆け寄る。全身の痣と擦り傷が痛々しい姿にミレアが息を飲む。

「へへっ、そんな顔すんなよ。ドルフさん、手加減してくれたから見た目程は痛く無いから」

 デイブが笑う。

「だから言ったでしょ。終わったら笑ってるって」

 ステラが冷たい飲み物をデイブに差し出す。

「おうサンキュー。メイティ、来てたのか」

 片手でそれを受け取ったデイブはミレアに恐ろしい言葉を聞かされる。

「デイブ、その方はステラ様よ」

「ええ~~~っ こ、これはありがたき幸せ……」

 デイブは恐れ入って、受け取った飲み物を頭上に掲げて平伏する。

「あらあらそんな事しないでくださいな」

 困った顔のステラにデイブが宣言する。

「自分が親衛隊に入った暁には生命をかけてステラ様をお守りします!」

「それは頼もしいですね。その時はよろしくお願いしますね」

「ははっ……ミレア、聞いたかよ!これって内定もらったも同然なんじゃねぇか?」

 喜ぶデイブを冷めた目で見ながらミレアが言う。

「そんな訳無いでしょ。ねえ、ステラ様」

「私には人事権はありませんからね。でも、ソルドさんとドルフの推薦があれば大丈夫かと」

「そんな甘い事言わないで下さいよ」

 ミレアが厳しい事を言うと、ステラは笑顔で返した。

「いえいえ、ソルドさんとドルフは私なんかよりずっと厳しいですから」

 それはそうだろう。いくら知り合いだからと言ってもそれなりの剣の腕を持っていなければ親衛隊に入れるわけにはいかない。ミレアの声がデイブに飛んだ。

「ですって。頑張んなさいよ、デイブ」

「おう!って、ミレア。いつの間にステラ様と?」

 声を上げるデイブ。さっきからミレアとステラは一緒にデイブと話をしていたのだが、あまりの自然さに今まで何の違和感も感じていなかった様だ。なにしろ普段メイティと話ているのと絵面は同じなのだから。

「訓練中にステラ様にお茶に誘われてね。幸せだったわ~」

 嬉しそうに言うミレアと、決定的な一言を言い放つステラ。

「私たち、もうお友達ですから」

「友達!?ステラ様とミレアが?」

 信じられないという顔のデイブはドルフがその場から離れたのに気付かなかった。


 ドルフがソルドの前に立つ。両手には鉄の剣が握られている。

「ソルド、約束だぞ。一本付き合ってもらうぜ」

「おう、一本と言わず、気の済むまで付き合ってやんぜ」

 ソルドは一本を受け取ると、一歩下がって構えた。

「そいつはありがてぇ。だが、一本で十分だ」

 ドルフも剣を構え、緊迫した空気が二人の間に流れる。

「あら、面白い事が始まりましたよ」

 緊張感が全く感じられない笑顔でステラがミレアの肩を突っつく。

 気合と共にドルフが踏み込んで斬りかかると、ソルドは僅かに身を躱し、剣で防御する。ドルフは受けられた剣を押し込まずにすぐさま引き、次の攻撃に繋げるが、またも受けられる。

 一歩飛び下がるドルフにソルドは併せて踏み込み、攻撃を仕掛ける。ドルフも危なげなく防御し、すぐに返し技を繰り出す。それを受けては返すソルド。鉄と鉄が激しくぶつかり合う音が途切れること無く響く。

「あれ、鉄の剣でやってますよね」

「ええ、いつもの事ですわ」

 あまりの迫力に、デイブが声を漏らすとステラは平然と答える。

「怪我したりしないんですか?」

「大丈夫ですよ。いつもの事ですから」

 心配そうなミレアの声にもステラは笑顔で答えた。

 さっきの訓練の時とは桁違いのスピードで打ち合う二人に圧倒されるデイブに対し、涼しい顔で見ているステラ。


 激しく打ち合った二人は一旦距離を取った。

「そろそろ終わりですね」

 ステラが口にすると同時に二人が距離を詰め、剣を振り上げる。ほんの僅かだけ間合いの長いドルフが一瞬早く剣を振り下ろすと、それに反応したソルドは剣で受け、ドルフの太刀筋を変えると反撃の一閃。飛び退いてかろうじて避けるドルフに飛び込み追撃を加えるが、剣で防御され、二人の剣はクロスし、拮抗して動かない。

「はいはい、そこまでにしましょうか」

 ステラがポンポンと手を叩きながら割って入る。

「また引き分けか」

「ステラ様に止められたらしょうがねぇよな」

 二人が剣を収め、張り詰めていた空気が一気に緩んだ。

「デイブ君」

 ドルフがデイブを呼び、握っていた剣を渡した。

「今日のお土産だ」

 デイブは受け取った剣をじっと見つめた。ソルドとの打ち合いで刀身は傷だらけで所々欠けている部分もある。

「中古品かよ。ドルフもセコイなぁ。どうせなら新品よこせってんだよなぁ、デイブ」

 ソルドが笑いながら茶々を入れる。

「いえ、コレが良いです。ドルフさんがソルドさんと実際に打ち合ったこの剣が」

 ニコリと微笑むデイブ。

「おいおい、俺達が打ち合った剣なんていくらでも転がってるぞ」

 呆れるソルドにステラが説明を入れる。

「ソルドさんはわかってませんね。デイブさんにとってあなた方は憧れの存在なんですよ。その二人が実際に打ち合ったという点で、その剣はデイブさんにとって価値があるのですよ」

「そうか。ま、思い出の品としては良いかもしれんな。だがデイブ、その剣を宝物になんかするんじゃ無いぞ」

「そうだな。その剣は練習に使い倒してボロボロにしてくれよ」

「はいっ」

 ソルドとドルフの言葉にデイブが嬉しそうに答えると、背後から声が聞こえた。

「うむ、良い返事だ。頑張ってドルフを追い越してくれたまえ」

「はいっ頑張ります!……って、ゼクス様!?」

 王の登場に、元気良く返事をしたデイブの背筋がピンと伸びた。

「おいおいデイブ君、そう固くならないで」

 ゼクスは笑いながら言うが、王を前にして固くなるなと言うのは無理な注文である。

「お父様、私達があまり長居していれば皆が緊張します」

 デイブを始め、訓練で疲れきった衛兵達も直立不動でゼクスの一挙一動を注視している。

「そうか。なら仕方がない。私達は席を外すとするか。皆、ご苦労だった。アルテナの平和は君達にかかっている。これからもよろしく頼むぞ」

 ステラの言葉に名残惜しそうにその場を離れるゼクス。

「では皆さんお疲れ様でした。これで私も失礼しますね」

 一礼するとステラもゼクスの後を追う様に宮殿へと消えて行った。


「んじゃ、後片付けして帰っか」

 ソルドの言葉に衛兵達は訓練で踏み荒らされた中庭の土を綺麗に馴らし、草木が被った土埃を払う。

「メシ食って帰ろうぜ」

 朝から昼過ぎまでぶっ続けのハードな訓練。ルークもデイブもくたくただった。

「ボク、食欲無いよぉ……」

「俺も……」

「こんぐらいの訓練で何言ってんだ。メシ食わないと強くなれねぇぞ。奢ってやっからとっとと来い。もちろんミレアもな」

 景気の良いことを言うソルドにドルフも乗ってきた。

「俺は?」

「お前、俺に一本も入れて無ぇじゃねぇか。大体お前、俺の上司だろうが」

 上司を『お前』呼ばわりするのもどうかと思うが、ドルフも大人気無い事を言い出す。

「カタい事言ってんじゃねぇよ。こないだ一杯奢ったろうが」

「わかったわかった。コイツ等の前でそんな話すんじゃねぇよ」

「よっしゃ、行こうぜ。良い店知ってんだ」

 ドルフを先頭に城を出るソルド達。ふと、ミレアが人影に気付いた。

「あれっ、メイティじゃない?」

 宮殿へと消えたステラが着替えて城門に立っていたのだ。

「訓練終わったんですね。お疲れ様」

「おやメイティ。今からソルド殿の奢りでご飯食べに行くんだけど、一緒に来るかい?」

 ドルフがステラにウィンクしながら声をかける。

「えっ、良いんですか? ぜひお供させて下さい」

 ステラは満面の笑みを浮かべると、ルークと並んで歩き出した。


 ドルフの言う『良い店』は小洒落た料理屋だった。

「おいドルフ、高そうな店じゃないか。二人で飲む時は安い酒場なのによ」

「そりゃお前、お前と二人で飲むのに気取った店行ってもしょうがないだろうが」

「そりゃそうだな……ところで隊長殿、給料の前借りはさせていただけますでしょうか?」

「なんだよ、こんな時に隊長呼ばわりしやがって。大丈夫、俺の顔でツケにしてもらえるから

よ。みんな、好きなモノ注文しろよ。なんたって今日はソルドの奢りだからな」

 ご機嫌のドルフにメニューを見ていたデイブが言いにくそうに口を開く。

「何注文したら良いかわからないです」

「私も……」

 ミレアも恥ずかしそうに続いて言った。

「そうか。学生さんはこういう店は初めてか」

 ドルフは店員を呼ぶと適当に料理と飲み物を注文した。


「とりあえず乾杯といくか」

 料理に先立って運ばれた飲み物を掲げるソルド。

「乾杯? 何に?」

 ルークの素朴な質問にソルドはため息を吐く。

「野暮な事言うんじゃ無ぇよ。そうだな、デイブ君の訓練デビューに乾杯だ」

「本日のスポンサー、ソルド殿にもな」

 グラスを持ちながらドルフが笑う。

「嫌なコト、思い出させんじゃねぇよ。ともかく乾杯だ」

 グラスの酒を一息に喉に流し込むソルドとドルフ。

「昼間っから飲む酒は美味いよな」

「まったくだ。今日、休み取っといてよかったぜ」

 楽しそうに酒をおかわりする二人。

「ルーク、ソルドさんっていつもこんな感じなのか?」

「うん。ちょっと恥ずかしいけど」

「ソルドさんって、ルフトの騎士だったのよね。騎士って言えば常に凛としたイメージがあるんだけど……」

 ひそひそ話すルーク達。だが、ミレアの声がの耳に入ったのだろう、ソルドは重い声で呟いた。

「ミレア、俺はもう騎士じゃ無いんだよ」

「あ……ごめんなさい」

 ソルドの重い一言。そう、ルフトはガイザスに滅ぼされてしまったのだった。しゅんとしてしまったミレア。だが、ドルフの言葉で事態は一転する。

「何言ってんだよソルド。お前、昔っからこんなだったじゃねぇか」

「ああ、そうだったよな。お前だって人のコト言えねぇけどな」

 ドルフを指差してケタケタ笑うソルド。

「人を指差すんじゃねぇよ。ま、その通りだけどな」

 ドルフも豪快に笑う。呆気にとられるルーク達。特にステラのショックは大きかった。騎士としての凛々しいソルドや親衛隊としての精悍なドルフしか見ていなかったのが、その本性を目の当たりにしてしまったのだから無理も無い。

「あのな、騎士だの親衛隊だの言う前に俺達は人間なんだよ。オンとオフの切り替えをきっちりする。それが大人ってモンだ」

 完全に出来上がって大人のあり方について持論を力説するソルド。だからと言って弟や弟の友達(しかもその中の一人は王女様)の前でこの態度は大人としてどうなんだろう? と思うルークだった。同時にミレアはメイティを見て思っていた。


『それにしてもやっぱりメイティってステラ様にそっくりだわ。もしかしたらメイティって実はステラ様で、お忍びで魔法学園に来てたりして……まさかね』


 ステラもまた、ミレアに心の中で語りかけていた。


『ミレア、ごめんなさい。今は私がメイティだって事は言えないの。いつかちゃんと全て話して謝るから……ごめんね』



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