第13話 祭りを楽しめるのはリア充の証 ~精霊祭2~
翌日、精霊祭の初日。精霊祭は三日間に渡って行われる。初日は日の出と共に町の中心に建てられた四つの祠に精霊を迎え入れる神事が執り行われる。夜明け前に集まったルーク達。だが、そこにステラの姿は無かった。ミレアがルークに質問する。
「おはよう。あれっ、メイティは?」
「うん、昨日の夜から熱出して寝込んじゃったんだって」
ルークが心を痛めながらも嘘の説明をする。ステラは王女として神事に参加しなければならないので、ルーク達と一緒にいられないのだ。
「そう……せっかくの精霊祭の日にかわいそうにね。後でお土産でも買ってお見舞いに行きましょうか?」
ミレアが言うが、見舞いになど行ける訳が無い。そもそもステラが住んでいるのは王城。見舞いどころか遊びにすら行けない。
「いや、夏風邪だったら移したら悪いからって」
「そう、早く良くなったらいいのにね」
「まったくだ。せめて精霊祭のクライマックスはみんなで見たいよな」
デイブが言った時、大きなどよめきが起こった。
「あっ、始まるみたいだよ」
祠が祭ってある祭壇に近付くルーク達。しかし、人が多くてなかなか前に進めない。人を掻き分け掻き分け前に出ようとするデイブ。
「ちょっと待ってよ!」
うまく人の波を抜ける事が出来ず、少し離れてしまったミレアが声を上げる。
「仕方ねぇなぁ。ほれ、こっちだ」
手を差し出すデイブ。頬を赤らめながらその手を握るミレア。二人は肩を並べる事が出来た後も、繋いだ手を離す事は無かった。
祭壇の近くまでなんとかたどり着いた四人。祭壇を見上げると、ステラが王女として神官と共に四つの祠の中心に立っている。
「ステラ様、きれい……」
ミレアがうっとりした顔で言う。
「やっぱり似てるよね」
エディの言葉にルークの動きが止まる。
「メイティだよ。ステラ様とまさに瓜二つだぜ」
デイブのダメ押しに、ルークは無難な答えを返すしか無かった。
「そうだね。よく似てる」
ルークは普段ステラが身分を隠してメイティと名乗ってアルテナ魔法学園に通っている事は考えない様にしている。そうすれば友達を騙しているのでは無く、言わなくて良い事を言わないだけだと少し罪悪感が小さくなるから。だが、こうしてはっきりとメイティがステラ王女に似ていると言う嘘をつくのは心が痛む。しょぼくれてしまったルーク。
「どうした、メイティの事が気になるか?」
「うん、まあ……」
心配するデイブに曖昧に応えるルーク。確かにメイティの事は気になる。だがそれはデイブが思う『熱を出して寝込んでいるメイティ』が気になるのでは無く、『神事を行っているステラがメイティ』だという事が気になっているのだ。
「ダメよ。後でちゃんと精霊祭の事を話してあげないといけないんだから」
ミレアが諭す様に言う。まだ手は繋がれたままである。
「すっかり仲良くなったみたいだね」
それに気付いたルークがにこやかに言う。
「腐れ縁だ!」
「腐れ縁よ!」
例によって同時に叫ぶミレアとエディ。
「手を繋いだまま言っても説得力無いよ」
ルークに言われ、慌てて手を離す二人。
「ディブにミレア、二人っきりの時もそんな感じなの?」
唐突にエディが二人に質問した。
「いや、別に二人きりになんてなかなかなんねーし」
「そうね。いつもみんな一緒だもんね」
デイブとミレアが身もふたもない答えを返すとエディは呆れた様に言う。
「ダメだよ、そんなんじゃ。あれから何日経つと思ってるの?」
『あれ』というのはもちろんバーベキューでのキスの事である。
「ところでデイブ、ミレアにちゃんと告白はしたんだろうね?」
「なんだよそりゃ」
「女の子がキスしてきたんだよ。ここは男としてバシっと決めてあげなきゃ」
「どうしてそうなる?」
エディの持論に不満気なデイブ。エディは声を大にして一つ提案した。
「どうしてもだよ!そうだ、ボク達が邪魔なのなら、明日は二人で精霊祭に行けば良いよ」
「ちょっ、いきなり何言い出すのよ」
突然の提案にミレアも慌てて声を上げてしまう。しかし、顔を真っ赤にしているところを見ると、やはりミレアも女の子である。
「メイティは寝込んでて、その為ルークは元気が無い。なら、明日は二人で楽しんどいでよ。
ボクとルークは二人で行くからさ」
「そりゃ無ぇだろ、みんなで行こうぜ」
デイブはミレアと二人きりになるのが嫌なのだろうか?頑なにみんなで行こうと言うが、エディは譲らない。普段の彼からは想像も出来ない押しの強さである。
「みんなったって、メイティが居ないからね。なら、この際デイブとミレア、二人きりで行ってきなよ」
顔を見合わせるデイブとミレアにエディが迫る。
「おっけー?」
「お、おっけー」
その迫力に負けて思わず返事をしてしまったデイブ。
「じゃあ決まりということで」
意外と強引なエディであった。
などとやっているうちに神事は終了。四つの祠に無事精霊が収まったらしい。波が引く様に見物客が帰っていく
「私達も行きましょうか」
ミレアが祭壇に背を向けた。
「うん、行こうか」
ルークもミレアに続いて歩き出し、ちらっと祭壇の方を振り返った。だが、祭壇にはもうステラの姿は無かった。
翌日、精霊祭二日目は祭壇の回りを大勢の魔法使い達がダンスを踊る。もちろん魔法使いでない者が飛び入りで踊っても大丈夫。いや、踊る人数が多ければ多いほど良いとされているので、踊っている魔法使いが見物客を引っ張って、踊りに巻き込む事が多々ある。エディの決定通り二人きりで精霊祭に来たデイブとミレア。手は繋いでいない様子だ。
「うはぁ、やってるやってる」
「この音楽聴くと精霊祭って感じするわよねー」
最初のうちは二人だけで来ているという事を意識してしまいギクシャクしていたが、精霊祭のダンスの音楽を聴いているうちにテンションが上がり、いつもの様に振る舞える様になってきていた。
「もっと前行って観ようぜ」
またしてもぐいぐい人波を掻き分けて祭壇の近くに行こうとするデイブ。
「あっ、ちょっと待ってよ」
「しゃあないな。ほれ、こっちだ」
ミレアに手を伸ばすデイブ。しっかりとその手を取るミレア。昨日と同じ展開である。うまい具合に最前列、踊りの輪のすぐ際まで到達した二人。もちろん手は繋いだままである。
見物客を巻き込んで楽しそうに踊る魔法使い達。どんどん踊りの輪は大きくなっていく。音楽に合わせて手を叩く者、足踏みをする者、その場で踊り出す者、自ら踊りの輪に入り踊りだす者と楽しみ方は人それぞれだ。デイブとミレアは手を繋いだままで観ていたのだが、一人の仮面を被った男がひょっこり出て来て二人の手を引っ張った。二人は強制的に踊りの輪の中へ組み込まれる。デイブもミレアも小さな頃から見てきたダンスなので、踊り方は知ってはいるものの、実際に祭壇の回りで踊るのは初めて。おぼつかない足取りで踊っているところを
「アレ、デイブとミレアじゃない?」
「本当だ。巻き込まれちゃったんだね」
時間をずらして精霊祭にやってきたルークとエディが二人を発見した。
「あーあ、デイブったら緊張しちゃって」
「でも、ミレアは楽しそうだね」
ルークとエディが話しているのがデイブの目に止まる。
「ルーク! エディ!」
デイブが踊りの輪から抜け出し、エディの腕を掴む。続いてミレアもルークの腕を掴み、輪の中に引きずりこむ。
「うわっ ボク、踊り方わからないよ!」
焦るルーク。
「簡単だよ。みんなのマネをすれば良いだけだから。そんなに早いリズムじゃ無いし、ちょっとぐらいズレたって大丈夫」
意外と落ち着いているエディにデイブが突っ込む。
「エディはガキの頃は自分から輪の中に入って踊ってたもんな」
ミレアがルークに発破をかける。
「しっかり踊りましょ。来れなかったメイティの分までね!」
その姿が目に入ったのだろうか、声が届いたのだろうか。祭壇の上で踊っているステラの表情が一瞬にこやかになったのだが、それに気付いた者は警護にまわっていたソルドぐらいなものだった。
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