第12話 祭りの前の楽しさ ~精霊祭1~

 夏と言えば夏祭り。日本では団扇を持った浴衣の女の子にいつもの雰囲気とのギャップ萌えを楽しませてくれるが、アルテナには残念ながら浴衣などという物は無い。だが夏祭りはしっかり有ったりする。精霊に感謝の意を捧げる精霊祭である。ちなみに冬には神々に感謝するアルテナ祭が行われる。アルテナ魔法学園でも夏休みが近付くとその話題で持ち切りになる。ちなみに精霊祭が終われば夏休みが始まる。


 朝のホームルームでウォレフ先生が言った。

「明日から精霊祭だ。という事は、もうすぐ精霊との契約だ。みんなわかってるな?」

 精霊との契約、精霊魔法を使う為の最初の儀式である。アルテナ魔法学園の一年生は夏休み明けに精霊と契約を行い、魔法使いとしてデビューするのだ。

「今まで精霊と触れ合ってきたが、仲良くなるだけでは魔法使いとは言えない。なぜだかわかるね?」

 ウォレフの質問に、ミレアが手を挙げて答える。

「精霊は気まぐれで、お願いを聞いてくれる時もあれば聞いてくれない時もあるからです」

「うむ、その通り。魔法使いと言うからにはいつでも精霊に言う事を聞いてもらわなければならない。肝心な時に精霊の気まぐれで言う事を聞いてもらえなかったら大変だからな」

 優等生的な回答に満足そうなウォレフ。

「だから、精霊と契約を結び、何時如何なる時でも言う事を聞いてもらえる様にする訳だが、現時点の君達ではひとつの精霊と契約するのが精一杯だろう。だから、どの精霊と契約するかよく考えなければならない」

 精霊祭で浮かれている学園生達に喝を入れる為だろうか、珍しく厳しい表情のウォレフ。

「精霊祭で浮かれるのも結構だが、その事もよく考えておく様にな」


 ホームルームが終わり、ウォレフが教室を出ていくと、あちこちでザワザワした声がする。

もちろんルーク達も他のクラスメイトと同様だった。

「ひとつだけなのよね。迷っちゃうわね」

「え、お前まだ迷ってんのかよ。やっぱ俺はウンディーネだな」

 ミレアの言葉にデイブが迷わずに言う。ルークはサラマンダー、エディはシルフと決めている様だ。それを聞いたミレアは思わず口に出してしまった。

「じゃあ私はノームしか残ってないじゃない」

 すると机の下から声が聞こえてきた。

「儂しか残ってなくて悪かったな」

「ノーム!」

 ルーク達の会話を聞いていたのだろう、いつの間にか現れたノームが拗ねた顔で言う。

「別に他のヤツと同じ精霊と契約しても構わんじゃないか。残り物と渋々契約するぐらいならな」

「そんな……残り物だなんて……」

 なんとか取り繕おうとするミレアだが、上手い言葉が見つからない。

「嬢ちゃん、別に気を遣わんでも構わんよ。まあ、確かに儂はウンディーネみたいな別嬪さんでもサラマンダーみたいなかっこよさもシルフみたいなショタっぽさも無い、ただの爺いだからの」

 確かに見た目は地味なノーム。

「何言ってんのよ」

 ウンディーネが現れた。

「ウンディーネ!遂に姿を見せてくれたか!」

 デイブが歓喜の声を上げる。

「この前は本当にありがとう。感謝してるぜ」

「ふふっ、言ったでしょ。私はあなたが気に入ったって。それで、どうかしら?私の姿を見た感想は?」

 悪戯っぽく笑うウンディーネの問いかけにデイブが答える。

「ああ、期待通りの美人だぜ」

 ウンディーネとデイブが話していると、シルフとサラマンダーまでもが現れ、またしても教室に四大精霊が集結した。

「見た目は地味でも凄い能力を持ってるのにね」

「まったくこの爺いは毎年毎年……」

 ウンディーネとサラマンダーの言葉にルークが反応する。

「凄い能力?それに毎年毎年って?」

「ああ。この爺いは見てくれが地味だろ。だから毎年契約の時期になるとこんな感じで不貞腐れるんだよ。いい年齢してまったくよぉ」

 サラマンダーの説明に、拗ねていたノームが怒り出した。

「地味地味言うな!」


「それで凄い能力って?」

 ミレアの疑問。しかし、サラマンダーはそれに答えてはくれなかった。

「それは自分達で考えな。ただひとつだけ言っといてやる。お前達人間達にとって一番の脅威となるのはこの爺いかもしれないぜ」

「えっ ノームが脅威に?」

 ルークは不思議に思った。水や火、風が人間にとって脅威となるのは解る。だが、大地が人間の脅威になるというのは……?

「ええ。まあよく考える事ね。ほらノーム、いつまでもそんな顔してないで。もう行くわよ」

「じゃあね。エディ、契約の日を楽しみにしてるよ」

 シルフの笑顔を最後に精霊達の姿は見えなくなった。

「ノームが一番の脅威って……大地の恵を与えてくれる精霊じゃ無いの?」

「恵みもあれば脅威もあるって事か……あっ!」

 デイブが何かに気付いた様だ。

「そう言う事か。確かに脅威だな」

 

 授業が終わった帰り道、精霊祭一色の町を歩くルーク達。精霊祭はアルテナの観光資源にもなっているのだから当然といえば当然なのだが、フィギュアやビニール風船、お菓子にラミカードまで精霊の商品が並べられている。ちなみに一番人気は見目麗しいウンディーネ。最近はSDバージョンも加わって、素晴らしい売上を誇る。不人気はと言うと……言うまでもないだろう。

「あっコレかわいい」

 ミレアが手に取ったのはSDキャラと化したサラマンダーのビニール風船。

「ガキの頃はこんなん無かったよな。おっ、ウンディーネのもあるぜ。シルフのも」

「本当、かわいいわね」

 ステラもニコニコしてビニール風船を指で突っつく。すると、シルフのビニール風船の後ろからノームのビニール風船がぴょこんと飛び出した。

「………………」

 言葉を飲み込んでその場を立ち去るステラ。SD化されてもやっぱりノームは地味だった。

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