100万回生きた俺 〜転生ものが流行っているけど自分がなるとは思いませんでした〜
あ、死んだ。
そう思った。で、目が覚めたら生まれてた。意味がわからん。これって最近流行ってる転生したら異世界でしたのやつ?
でもなあ…
「元気な男の子ですよ!」
生まれたてだから何もできねえ。泣くくらいはできるか。
さて、自己紹介。俺はどこにでもいるごくごく普通の会社員だった。趣味は読書。で、この世界は俺が好きだったラノベと同じ。どこのラノベだ。ラノベだけど。
わけわからんが俺の立ち位置は主人公の女の子が好きになる男の子の友人。微妙。特に破滅エンドとかがあったわけではないので前世の記憶はあるもののこのままのんびりと生きさせてもらうことにした。そんな感じで十年くらい何もなく過ごした。
しっかし、こういうのって女の子がなるからおもしろいんじゃねえのか。なんで俺。
家の庭をうろうろとしていると少年が走ってきた。
「アスター!」
俺の現世での名前を呼ぶのは、この国の王子様であり俺の友人でもあるグロウリオ・シャスターだ。これもう完全に「Gloria」からきてんだろってわかりやすい名前。“栄光あれ”とかかっこいいなぁ、おい。
そんなグロウリオは老若男女問わずモテモテである。才色兼備、文武両道。見た目も中身もいいやつである。
俺も前世と比べたら顔はよくなっちゃいるけど中身は変わっていない上に隣に常にこんなイケメンいたらモテるわけがない。ハーレムなんて夢のまた夢だ。そもそもハーレムを夢見たことがないんだけどな。
「よう、クロ様」
「クロ」はグロウリオの愛称だ。そう呼べるやつは限られている。俺は一応彼の友人という立場なので呼べる。
グロウリオは挨拶もそこそこに木刀を俺に投げた。危なげなくそれを受け取ると、ニヤリと笑ったグロウリオが自分の木刀を構えて向かってきた。
男子がよくやる、チャンバラである。
とはいえ、こちらでは俺は貴族、ラナギュラウス公爵家の長男であり、成人すれば国王に仕えるように日々勉強にいそしんでいる。なにがいいたいかというと、剣術なんぞも数年前からやっているし、馬にも乗れる。グロウリオは王になるための教育を受けているそうだからさらに大変だろう。
これも遊びと称した訓練だ。だってあっちの窓から剣の師匠が見てるからな。あとでなんか言われそう。
カンっと音を立てて木刀が転がった。俺の勝ちだ。前世では運動はそこそこといったところだったが、今はすごくできる方だ。
「また負けたー!」
「次は勝てるといいな」
「嫌味か」
「心からそう思ってるよ」
ぐぬぬと顔をしかめていても顔がいいとか本当に王子様はすごいな。
さて、いろいろとすっ飛ばして悪いが、ここからさらに数年。
俺は学園に入学した。
この学園は、貴族だけが通う学校だ。政治と社交の基礎を身に着けるために貴族の子息令嬢は全員通うことになっている。
ちなみに平民が通う学校もある。こちらは商売やなんかの仕事の基礎を学ぶ場だ。
7歳になれば行くことのできる文字や基礎計算を勉強するための学校ももちろんある。この学校は貴族も平民も関係なく同じ場所で学ぶのだが、貴族でこの学校に行くやつはまずいない。俺は行ったけど。あんまりかたっくるしいの嫌いなんだよな。だから普通の子供として、平民に混ざって勉強をした。
この歳になればそれも無理な話なんだが。
貴族の矜持だとかは正直どうでもいい。ただ俺は平凡に生きていきたいだけだ。
それにしても、どうやらグロウリオは「彼女」に会ったらしい。
グロウリオに恋する女の子、アンジェリカ・ロベリウムに。
それからはアンジェリカの好き好き攻撃が始まった。面白いことにグロウリオはこれが嫌ではないらしい。なら早くくっつけ。グロウリオが大体俺と一緒にいるからアンジェリカは俺をライバル視しているんだよ。俺はグロウリオとはいい友人でありたい。切実に。
こいつら途中から相思相愛だったにもかかわらず、卒業するまで恋人にはならなかった。俺の苦労を誰かわかってほしい。
城で仕事をし始めると、前世で会社員やっていたことが役に立つ。同期の中で一番の出世頭になってしまった。なんということだろう。俺としたことが…
そんなこんなでアンジェリカと結婚し、この国の国王になったグロウリオの側近になるほどに出世してしまった。
私生活では親の紹介でお見合いをした令嬢と結婚した。子供は三人。男の子二人と女の子一人。前世では叶わなかった平凡な家族だ。とても大事にしている。
子供に爵位を渡し、隠居してもう数年たった。俺もかなり老けた。
妻と二人で子供たちが孫を連れて遊びに来るのを楽しみに日々を過ごした。
それもここまでか。
平凡ないい人生だった。悔いはない。
ああ、死ぬな。
「おめでとうございます、元気な女の子です!」
死んだと思ったら生まれた。
ちょっとまて、これ前もやったぞ?
どうやら俺の物語は平凡とは程遠いらしい。
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