大好きな君へ -another-

大好きな君へ

何を伝えられるだろう?

わたしは君に、何をしてあげられただろう?


君と出会ってから、幾度目かの冬を越えたときにこの思いに気が付いた。

君のことがとても大好きで、とても大切で。

だからこそ、いつまで生きていられるかわからないわたしが君を縛ってしまうのはダメだと思った。

でも、君にはわたしを覚えていて欲しかった。


また入院することになった。

最近、体調がよくない日が続いていたから、そんな気はしていた。

予感がしたんだ。

だから、無茶を言った。


「木を、植えたいな」


君は少し困ったように


「…急だね」


と言った。

けれども、すぐに花の木を買って、わたしの家の庭に植えた。

その次の日、わたしは何度目かわからない入院をした。


こんなに長い入院は初めてだった。

それでも君は毎日会いに来てくれた。

嬉しかったけど、無理をさせていないか、心配だった。


「早く退院しようよ。木の世話、俺とおじさんとおばさんでやってるけど、君もしたいだろ?」


「うん、次の春までには家に帰りたいなぁ」


本当に次の春を迎えることができるのか、わからなかった。

でも、君と二人で、大きくなった木を見たかった。


今年最初の雪が降った。

あまりにも静かで、もう何も聞こえていないんだとわかった。

歩くこともできなくなっていたけど、わたしは君にわがままを言った。


「雪を見に、外に行きたい」


君はわたしに甘いから、聞いてくれるとわかっていた。

たくさん着こんで、車いすを押してもらって中庭へ出た。


「雪が降っている時って音がするらしいよ」


前に本で見つけたそんなことを言ってみた。


「ねぇ、君にはどんな音が聞こえる?」


その答えは聞くことはできないけれど。

泣きそうな君の顔は見たくないなぁ。


歌うことが好きで、昔、母に歌ってもらった歌をよく君にも歌った。

それは少しだけ切ない、恋の歌だ。

君にわたしの想いが伝わればいいのにと、そう思って歌った。

それができなくなっていく事がとても辛くて、悲しかった。


何も言えなかった。

苦しいとも、寂しいとも。

言ってしまうと、君を困らせる気がして。

弱りきって、歌はもちろん、話すことも、聞くこともできなくなって。

なのに、君の声がわたしの頭に響くようになった。


「歌ってよ。俺、君の歌が好きだからさ。知ってるだろ?」

知ってるよ。また歌えるようになりたいな。


「なぁ、ここは寂しいだろう?早く帰ろうよ」

寂しいよ。早く帰りたいよ。


「返事、してくれよ。お願いだから」

ごめんね。目も開けられないんだ。


「好きなんだ。君と、まだ一緒にいたいんだ」

わたしもだよ、もっと一緒にいたいよ。


「好きだ。君が好き」

わたしも君が一番好きだよ。


「目、開けてくれよ…」

そんなに悲しそうな声、しないで。頑張って元気になるから。


「…愛してる」

…わたしも。


「愛してる」

愛してる。


毎日、生きたいと願った。

それでも、願いは届かずに、わたしが春を迎えることはできなかった。


大好きな君へ

わたしは、君からたくさんの笑顔と思い出をもらいました。

わたしは、君に何をあげられただろう?

もう、何もしてあげられないけれど、せめて君がまた心から笑えますように。

願ってる。

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