嫌い

「あれ?お前タバコ吸ってたっけ?」


久しぶりに会った友人はタバコを吸うようになっていた。


「いや、吸うようになったのは割と最近」


そう言ってタバコに火をつけた。ゆっくりと煙を吐き出す。


「でもさ、あんだけ嫌ってたのにどういう心境の変化があったんだ?」


「今でもタバコは嫌いだよ」


薄く笑うその顔はとても妖艶で、不覚にもドキッとした。


「た、タバコ嫌いなのに吸うかよ」


動揺した。同性に見惚れたのは初めてだ。


「嫌いだから吸ってんだよ」


「いや、意味わかんねえ」


「だろうな」


バカにされたような気がしたが、そういう訳ではなさそうだ。


会わない間に何かあったんだろう。


「…最近どうだ?」


あからさまだったか。


「まあ、ぼちぼち。可もなく不可もなくってとこかな」


最後の煙を吐いてタバコの火を消した。


「そうか」


何かあったんだろうが、言うつもりはないらしい。


「ふふふ。お前はどうなんだ?」


笑われた。俺の考えていることはお見通しらしい。


恥ずかしくなってそっぽをむく。


「もうすぐ結婚する」


「へえ!めでたいな」


「まあな」


「おめでとう」


「おう、ありがとう」


「……」


「……」


会話が途切れる。


でも昔からこの沈黙は嫌いじゃなかった。


「…んじゃ、帰るわ」


「そうか、またな」


手を上げて別れた。


この時のことを今でも覚えている。


この友人はもういない。

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