大好きな君へ
大好きな君へ
何を伝えたらいいだろう?
俺は君に何をしてあげられるだろう?
寒い冬の日だった。
綺麗な目で君は窓の外を見ていた。
灰色の雲が空を覆っていて、お世辞にもいい天気とはいえなかった。
「ねえ、何見てんの?」
気になって声をかけた。
君がベッドの上にいることなんて気にしなかった。
ただ、話がしたかっただけだった。
君は急に声をかけられて驚いていた。
だけど、君は答えてくれた。
「空を見ていたの」
「空?どうして?今日は曇っているのに」
「雪が降らないかなって思って・・・」
そう言ってはにかむ君をかわいいと思った。
たぶん一目惚れだったんだと思う。
真っ白な部屋で、真っ白なベッドにいる君は、天使みたいに綺麗だった。
ここが病院だと、忘れるくらいに。
その日以来、俺は君のところへ毎日行った。
君は最初は驚いていたけど、冬が終わるころには、「友だち」と言ってくれるようになった。
君は俺に歌を歌ってくれた。
優しい歌だった。
一緒に病院の中庭を歩いた。
木陰のベンチで本を読んだ。
雨の日は君の病室でてるてる坊主をつくって笑った。
君が退院したときは一緒に出かけた。
そして、君が入院すると、君に会いに病院へ通った。
君と出会って、幾度目かの冬を越えた。
君への気持ちは募るばかりで、たまにもてあましていた。
日差しが柔らかいある日、君は唐突に言った。
「木を植えたいな」
「・・・急だね」
どうしてもと言うので、その日のうちに苗木を買った。
どこに植えるのか悩んだのだけれど、結局は君の家の庭に植えた。
花を咲かせるらしいこの木が大きくなるのが楽しみだ。
次の日、君はまた入院した。
春が過ぎても、夏が過ぎても、退院できなかった。
こんなに長い入院は初めてだった。
「早く退院しようよ。木の世話、俺とおじさんおばさんでやってるけど、君もしたいだろ?」
「うん。次の春までには家に帰りたいなぁ」
今年最初の雪が降った。
君の体調は悪くなるばかりだ。
それなのに、
「雪を見に、外に行きたい」
なんてわがままを言うから。
俺は君に甘いから、聞かないわけにはいかないじゃないか。
外は寒いからたくさん着込んで、君の乗った車椅子を押して中庭へ出た。
「雪が降っている時って音がするらしいよ」
振り向いて言う君は笑顔で、かわいくて、だけど俺は知っていたんだ。
「ねぇ、君にはどんな音が聞こえる?」
君はもう、何も聞こえていないことに。
君は俺に何も言わなかった。
苦しいとも、寂しいとも。
弱りきって、君の大好きな歌すら歌えなくなって、話すこともできなくなって、誰の声も聞こえなくなって。
「歌ってよ。俺、君の歌が好きだからさ。知ってるだろ?」
「なぁ、ここは寂しいだろう?早く帰ろうよ」
「返事、してくれよ。お願いだから」
「好きなんだ。君と、まだ一緒にいたいんだよ」
「好きだ。君が好き」
「目、開けてくれよ・・・」
「・・・愛してる」
「愛してる」
みっともなく、泣きながら、君に想いを告げた。
毎日、君の横で奇跡を願った。
それでも、奇跡は起こらずに、君が春を迎えることはできなかった。
大好きな君へ
俺は、君からたくさんの笑顔と思い出をもらいました。
俺は、君に何をあげられただろう?
あの日、君と植えた木は大きくなって、毎年白い花を咲かせます。
花が咲くたびに、君の変わらない笑顔を思い出すよ。
きっと、ずっと忘れない。
初めて愛した君を。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます