美白
さとけん
美白
「今日の君は一段と綺麗だ」
商社に勤めるイケメンの彼が私を見つめながら言った。
「いつもと変わらないわよ」
「前とは明らかに雰囲気が違うよ」
あの機械、やっぱり買ってよかった。
帰り際に彼から誘われた。
「今夜は、君の家に行っていいかな?」
楽しかったデートの夢が覚め、また忙しい日々が始まる。
今日はアメリカから得意先の担当が来る。
その予定をスマホに入力し、頭からすっぽりとヘルメットのような機械を被る。
5分もすると濃いめのアイラインと口紅で、いかにも外国人受けしそうな顔立ちになった。
「うん、いい感じ」
一週間前に、「Amazones」という通販サイトで買った『自動メイク機』。
ヘルメットのような形状の機械を頭からすっぽりと被り、スマホアプリに予定やその日会う人を入力すると、AIがそれに最適化したメイクを自動で塗ってくれる。
メイク音痴過ぎて笑われる事が多いから、すっぴんに近い地味子で生きてきた。
だけど、この機械が来て人生が一変した。状況に合わせて完璧なメイクをしてくれる。
イケてる男の子と会う時は、可愛いけど派手すぎない感じに。
友達と遊ぶ時は、相手を引き立たせる様に抑え気味で。
仕事では、フォーマルな感じだけど相手によってさり気なく個性を出す。
結局、その日会ったアメリカ人も、私の事が気に入ったようで商談も上手くいった。
上司は機嫌が良くなりこう言った。
「セクハラになっちゃうけど、最近お前綺麗だよ」
休日。
高校の頃の友人とランチを食べに行く約束がある。
いつものように予定を入力して、自動メイク機を被る。
時間がないので鏡は見ないで出かけた。
電車に乗っていても、通りすがりの人も、ジロジロと私の顔を見てくる。
そんなに今日の私って綺麗なのかしら?フフフ。
確かこの橋の下で待ち合わせだったわよね。
高校時代の懐かしい思い出に浸りながら友達を待つ。
時計を見ると約束の時間まで5分。
その時、急に上から何かが降ってきて真っ暗になった。
「一名発見しました!」
「生きてるか?」
「いや死んでます」
「そうか。しかし、これだけの事故だというのに犠牲者が一人で済んだのは幸いだった」
「全くですね。橋の一部とはいえ、完全に崩落したのに」
「この橋は以前から経年劣化が酷く、亀裂が認められるというデータがあったらしいね」
「予算不足で必要な改修工事を後回しにする。よくある事ですね」
「それにしてもこの人、随分が顔が白いな」
「ほんとだ。この白さはまるで、死化粧の様ですね」
美白 さとけん @satok
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