不満げな午後


「このあとどうする?」

「……うーん」


質問に答えるのが面倒くさくなって。

あたしは黙り込む。

彼もちょっとダルそうに、テーブルに肘を乗せる。



彼と待ち合わせをする。

朝の弱い2人は、いつもこの微妙な時間に会って、そして今日のデートコースを決める。


選択肢は多くない。


それでも、2人にはなかなか決められない。



「映画は?」

「今観たいのやってないし…」


ふうっとため息をついて、グラスにささったストローをいじる。


「じゃカラオケでも行く?」

「こないだ行ったし…」

「でも、他に行きたいとこもないんでしょ?」


あたしの顔を見て苦笑する彼に拗ねたフリを返して、テーブルに突っ伏す。



「どうしよっかね……」


ポンポンと頭を叩かれて顔を上げると、つまらなそうに彼が欠伸をした。



「とりあえず出ようか。ここにいてもしょうがないし…」


とりあえず会計を済ませて、とりあえず歩き出す。


あたしたちのデートには、とりあえずがやたらと多い気がする。

スクランブル交差点を渡りながら、ふっと思う。



とりあえず……



「帰ろうか」


あたしの言葉に彼はキョトンとしつつ、いいよと苦笑した。

会ってからまだ一時間半しか経ってないのに、とは言わない。


黙ってあたしの家に向かって歩き出す。



「今日は機嫌がよくないね」


口数の減ったあたしに、彼は困ったように言う。


「そんなことないよ」


言いながら少し、言葉にトゲがあるかもなと思う。


また黙り込んで、手をつないだままただ歩いていく。

あたしの隣りで彼はダルそうに、また欠伸をした。


「今日さぁ、駅に向かう途中で、前のバイトの店長に会ったの」

「ふーん」

「戻っておいでって誘われたの」

「ふーん」


あたしのどうでもいい話に、どうでもよさそうに彼が相づちを打つ。


その瞬間に、訳の分からない衝動がやってきて、あたしは彼に抱きついた。


「おーい、どうした?」


困った表情で固まる彼に、何でもないと答えると、彼はため息をついた。



右脇のガードレールにひょいと腰かけて、彼はあたしを呼ぶ。


「おいで」


目の前のあたしをギュッと抱きしめた後でもう一度、どうした?と聞かれると。

ちゃんと答えなきゃいけない気分になって、胸がキュッとする。


「あのね。いつもとりあえず一緒にいるけど。好きになったのはとりあえずじゃないから…」


それを聞いて、彼は優しく笑ったまま頷いた。


「当たり前じゃん。じゃなかったら、今頃とっくに帰ってるよ」



つまらない時間も、ムダな時間も、とりあえずの時間も。

2人で過ごすからいい。

そういうことかな…?


勝手に解釈して、また手をつなぐ。


「さっきね、向かいに座ってた女の子がすっごい可愛かったの」

「ふーん」

「家に持って帰りたいぐらい可愛くて、お人形みたいだった」

「あ、そ」



あたしのどうでもいい話に、どうでもよさそうに相づちを打ってくれる彼がいる。

そんな幸せを噛みしめた、火曜日の午後…

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