第20話 人間と奴隷とオークション
トレダール第6支部。表向きには弟6地区を管轄し、人々の手助けを優先して行う施設。
しかし、投じられたコインのように表があれば裏もあるのが世の中の常。
此処にも隠された顔があった。矛盾が蔓延るこの異世界で、最も醜く痛ましい問題は――女性差別。
女性を物として扱い、奴隷にしてしまう非道がこの世界ではまかり通ってしまっている。
貿易の国『トレダール』も例外ではない。奴隷に対しての法はないにしろ、他の大国に比べて奴隷廃止を訴えている国であるはずのこの国にも、当然の如くそれはあった。
世界中から集めてきた、人間たちを物と同等の価値であると奴隷として扱い、売りさばく場――――奴隷オークション。
俺たちはそんな模擬戦闘を終えた夜。その場所へと足を運んでいた。竜二の作戦は至って簡素なのも。富裕層の人間に成りきることであった。
しかし、その大胆さが功を奏したのか、俺たちはすんなりとオークション会場へ潜入することに成功する。
トレダール弟6支部の受付カウンターの扉を抜けると、直線の廊下が1本伸びている。
その途中には4つの扉があり、おそらくそこからスタッフたちは出入りをしているのだと推測がたった。
案内人の男は、その部屋には目もくれずに、突き当りの何もない白塗りの壁の前へと俺たちを案内した。
そして何をするかと思えば、徐に彼が壁に手を当てた。すると、まるで沼底から這い出てきたかのように壁の中から扉が浮き出てきたのである。
それを見て竜二が言うには、特定の魔力を込めると隠された扉が出現する仕組みになっているらしい。
どうやら案内はここまでらしく、男はその扉を開けると、くるりと俺たちに背を向けて歩いて行ってしまった。
俺たちは恐る恐る開け放たれた扉の先に進むと、そこには螺旋状に真下に続く無機質の階段が現れる。
冷たさのある石煉瓦の階段には、不釣合いな赤のカーペットと金の装飾が施された燭台が均等に設置され、俺たちは淡い炎の光を頼りに、長い螺旋階段を下りていく。
最下層まで下りると、壁に取り付けられた燭台の炎よりも輝かしい光を放つ扉が視界に映った。
それは金が潤沢に使用された黄金の扉。今まで見てきたそれとは明らかに異なる価値を見出す扉が忽然と現れたのである。
隅々に贅沢に金と銀が施され、取っ手の先端には宝石のような物も取り付けられていた。
このような陰気な場所に設置しておいて心配になる程の高価値の扉であることは間違いないだろう。
おそらくその先に俺たちの目的地はある――――そう直感が告げていた。
思わず俺は無意識に手汗を服で抜き取り、ゆっくりとかつ女性の手を握る時のように慎重にそれを回した。
するとその先には――――――――――――――別世界が存在していた。
暗闇に包まれており詳細にはわからないが、明らかに違う空間。地下とはおもえぬくらいの広々とした空間がそこにはあった。
中心はカップのように下に窪み、それを囲うように何層もの通路が円を描いている。
その通路には沢山の豪華な机と椅子が設置され、裕福そうな男たちが紅色の液体の入ったグラスを傾けている。
俺たちはその最上部におり、カップで例えるならば取っ手の部分にいる。そこからは全体が見渡せ、男たちのざわめきとその空間の大きさが見て取れた。
区分けされた席が点在し、そこは様々な人々でごった返し、気色の悪い熱気に包まれていた。
周囲は真っ暗な闇に呑まれ、中心の窪んだ場所だけが眩しく光っている。どう言う仕掛けはわからないが、明かりをと灯すような物もないのに、地面から光が溢れていた。
さらにそこには見るだけで憎悪が湧き出てくるような光景があった。
そう――――――――奴隷たちが数人並ばされて売られているのだ。
それを見て純が声を闇に落とす。
「――――カス共がっ……」
中心には奴隷たちの他に、異様な格好を着込んだ者が1人佇んでいる。そいつはまるで奇術師のように何処かからかステッキを取り出し、地面を突く。
するとこの熱気とざわめきをまるで無視し、その音は俺の耳に――――いや、会場の全員に響いた。
一瞬の静寂が場を流れ、俺たち以外は興奮した様子で息を呑む。
その奇術師は目に付くようなにひるの笑みを浮かべる。
『紳士、淑女のみなんさんっ。今宵もようこそお越し頂きましたっ! この度も、このオークションのオーナーである私も素晴らしき方々にお会いでき、感無量でございます。今宵もどうぞ、お楽しみ頂けると幸いです。それでは始めましょう――――神の遊びをっ!』
奇術師が話し終えると同時に、爆発のような歓声が場を埋めた。そこにあるのは――――狂気。まさに地獄である。
そしてその後は、一般的なオークションが始まった。今回は物ではなく人間であるが――――――
余りの光景に俺たちも飲み込まれてしまっていたが、次第に抑えきれない怒りが湧く。その憎悪を抑え消えないと思ったのか純は乱暴に外へと出て行く。
俺たちも同様に、逃げるようにこの場を去るのであった。帰り際、闇夜の路上でこう言った。「――――――俺は強くなる。この世界の誰よりもずっと強くなる……。それまでは――――――――1週間留守にする。お前らもせいぜい頑張れよ」
そう言って純は俺たちの前から姿を――――消した。周囲は月明かりばかりの闇に戻っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます