第14話 最強、最怖、さいきょう?
視界に過ぎる腹立たしいカップルの姿。大衆の面前でいちゃつく彼らに、今すぐにでも正義の鉄拳(ただの暴力)を振るわせたいが、生憎俺には絶対的な使命がある。
あんな愚民に関わっている時間なんて――――――最強にかっこよくていかしている俺様にはない。そうだろお前ら?
「――――ははははっ! この純様がどんな依頼でも解決してやろうじゃねぇかっ!」
俺は仕方なくギルドに来てやっている。本当に仕方なく。俺の登場で周りの奴らが恐怖に慄きあっているのを感じるぜ。
「さて、俺に見合った依頼はあるのか?」
①
依頼名:魔物討伐依頼
依頼内容:トレダール弟14地区に出現したウルフの討伐依頼。数は未定。
条件:ギルドに所属する者のみ。
依頼者:貿易商
ランク:D
報酬:半金貨5枚
補足情報:早急の退治を求む。
「はっ? 1つしかねぇじゃねぇかよっ! せっかく昼過ぎまで寝て体力を温存してやったのに……カスめっ! チ○カスめっ!」
周辺に視線を移しても他に俺に見合った依頼はない。どれもDランク以上の依頼書ばかり。
「――――っち。しょうがねぇ……これにするか。早く俺もランクをあげねぇとな――おっさんっ! これをくれっ!」
依頼書と引き換えに責任書と簡素な地図を預かる。それを乱雑に革袋に押し込むと、しけた面が集まるギルドを出た。
依頼地まで行くには地区(島)を移動しなければいけないというので、ダラダラと歩を進める。
途中で焼き鳥のような食べ物を口に咥えながら、俺は船着場に行く。
「あぁ――――めんどくせぇ」
愚痴を零しながらも停泊している中規模のガレオン船に乗り込む。その後、数時間船に揺られつつ最果ての島――トレダール弟14地区へと辿り着いた。
既に辺りは夕暮れと夜の狭間の時間に染まりつつあり、討伐依頼どころではない。
「――今日はゆっくり休むか。ははっ! 良かったなくそ魔物共? 時がお前らの命を長くした……かっはっはっは」
トレダール弟14地区は大きな街が1つあるだけで、他はまだ未開拓の地域と船長は言っていた。
唯一の街には武装をしたギルドの者や現場の男たちが住み着き、開拓を進めているらしい。
依頼主の元へと行き、簡単な説明を受けた。今回の討伐するのは狼のような姿をした魔物――ウルフ。どうやら最近になってそいつが街中に忽然と姿を現しているようだ。
そのため、出現する場所・時間帯はわからず、俺に探せといいやがった。くそがっ――――――
説明を聞いた後は適当に夕食を食べた。そして、程よく酔いの回った身体を動かしながら夜中にも関わらず、明るい街路を歩く。
宵の入りでも爛々と魔術の明かりが灯る道。四方八方から飛んでくる喧騒が街路を通して、俺の身体に入ってくるようだった。
「うるせぇ……俺がいないところで騒いでるんじゃねぇよ――」
ふと前方に目を向けると、通路の左端に見える黒い何か。ぼやける両眼を擦り、再度視線を戻すとそこにはいかにも怪しい2人組みの姿が映った。
辺りを警戒しながら、物陰に身を潜める漆黒の外套に身を包んだ2人組。その途端、俺の頭にピキーンと光が差した。まさに、ピキーンと。
「あいつら…………怪しいな」
まさに天才。2人の姿を見ただけで、怪しさを見分けてしまう俺はなんて天才なのだろうか。称えてもいいんだぜ? いや、称えろ。
2人は俺の姿に気がついたのか、足早に裏路地へと伸びる細道に姿を消した。俺は咄嗟に頬を叩いて脳を覚醒させて駆ける。影が背中から伸び、光に灯された道に映す。
細道をに入ると、さらに他の道へと消える外套の姿が映った。
「逃がすかっ!」
呼吸を整える暇も無く、全力で足を動かす。タッタッタッと石床を叩く音に合わせて息を吐く。
此方が曲がってはやつらも新たな道へと消えていく。その度に全力で駆ける。
何度曲がったかわからないが、劇的な追撃の末ついに――――――――――
「――――追い詰めたぜ。お前らっ!」
奴らの背後は大きな石壁が聳え、出入り口は俺の後ろに一つあるのみ。やっとのことで2人組みを追い詰めた。
「――――――――――――――」
外套の者たちは喋らない。目深に被っているため顔を確認する事も出来ないゆえ、俺は込み上げてくる達成感を露にする。
「がははははっ! 俺から逃げ切れるとでも思ったのか? あぁ?」
「――――――――――」
「おいおい? 怖くて何も喋れないのでちゅか? 大丈夫でちゅか~? お母さんに助けてもらいまちゅか? かっはっはっは!」
酔いがまだ冷めていないのか、頭がグラングランと揺れる。しかし、妙に心地が良いは俺が最強だからか――――全く、流石としかいいようがねぇぜ。
俺が再度言葉を口にしようとした瞬間。右側に佇んでいた外套が小さくだが言葉を漏らす。すると、奴らの目前の石床に、忽然と現れる3つの光の輪。大きさは直径1メートル程。
それは初めは淡い光を放つだけであったが、外套が小さくさらに言葉を漏らすと、光の輪からは次第に強い光が放たれた。そして――――――まるでマジックのように何もなかったその場所に、3匹の魔物が出現したのだった。
「なにっ――――!」
思わず漏れる驚きの声。それもそのはず――――その魔物は俺が依頼で討伐するはずであったウルフだったのだから。
咄嗟に頭の中で乱雑していたピースが組み合わさる。
「まさかお前らがウルフをけし掛けてたのかよっ……」
「――――――――」
外套の2人は答えない。その代わりに3匹のウルフが雄叫びを上げながら迫った。咄嗟に戦闘と逃亡の2文字が頭に浮かぶ。しかし、答えは決まっている。
俺は武器を抜くことも諦め、悔しさを滲ませながら逃走する。物凄い速さで追いかけてくるウルフ。まさに先ほどとは立場が正反対。
「くそがぁぁぁぁぁ! おぼえてやがれっ!!」
雄叫びを上げる度に、それに呼応するように雄叫びを上げるウルフ共。
ウオオオオオオオ ウオオオオオオオ ウオオオオオオオオオ
必死に走り、先ほど歩いていた通りまで来た。既に身体は疲労に塗れ、絶体絶命かと思った矢先――――右頬を物凄い速さで掠める何か。そして同時に俺の背後で3つの叫び声が響いた。
――――キャン。――――キャン。キャン
ゆっくりとスピードを緩めて、後ろを振り返ると――――
「遠吠えを聞いて来てみれば……お前みたいなガキが襲われていたとはな」
地面に血を流しながら倒れる3体のウルフ。そして、何時の間にか現れた武装をした数人の男たち。一番体
躯の大きい男がそう言った。さらに背後から聞こえる穏和な声色。
「大丈夫でしたか?」
そいつは俺の身体よりも大きい弓を携えた金髪の青年。俺の肩になれなれしく手を置く。
「――あぁ。あたりまえだっ」
威張ってみるものの、未だに頭がついていっていない。そいつらが助けてくれたことは確かだが――。男たちは俺の反応に笑いを零す。
「がはははっ。良い度胸だ小僧――――嫌いじゃねぇ」
「うるせぇ。俺はお前が嫌いだ。てか、お前誰だ? あん?」
「俺か? 俺はギルド――夕闇の侵略者のダイナスってもんだ。――お前は?」
「ダイナス? 変な名前だな……? なにっ? 俺の名を知りたいのかねダイナモ君? しょうがない。教えてやろう。俺の名は――――純……砂井純だっ!」
愚民共が住む街に高らかに響き渡る天賦の声。何も変わらずのその街。唯一異なるのは、空に赤黒いが光が差していただけ――
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