第6話 淫乱? いや、女神です
酒場で飲みまくってから数時間後の朝方。俺は疲労の残る身体を起こしていた。
「――――あぁーーーー。頭いてぇ……?みすぎたな――ちょっと外の空気でも吸うか」
泊まっている宿屋は中々のボロ宿であり、そこの1部屋にむさくるしい男6人が詰まられるように横たわって爆睡していた。
智久が全裸なのは見なかったことにしよう――――それより、こんなボロ宿なら安心だ。
節約するのにこしたことはないからねぇ。まだ、この世界のお金の稼ぎ方もわからないことだし――――
――――てか、まじで頭いてぇ。こんな時、美少女でもいればなぁ。慰めてくれないかなぁ――誰か悪者に追われているナイスバディの女いねぇものか。
「きゃああああ。助けてーーーー」
「――――――――――いたわ。まじでいたわ…………どうしよ?」
俺の願いは直ぐに出てしまう早○の智久のように即座に叶ってしまった。前方には黒服のいかにも怪しげな連中に追われている美少女。
腰までかかる金髪の長髪を靡かせて、似つかぬ必死の形相で足を動かしている。
俺と目が合うと、当然の如く此方に走ってくる金髪美女。そして彼女は目の前までくると、瞳をうるうるさせながらこう言ったのだった。
「そこに座っているかっこいいお兄さん。私は今追われていますっ! 助けてくれないでしょうかっ!?」
「――――――――」
「あのお兄さん……?」
「おっと、余りにも美人だったからついがんみしてしまった――――」
「きゃっ……美人だなんて――――――」
整った顔立ちに、藍色の宝石のように透き通った瞳を輝かせ、純白の頬を赤くする最高の美女。
俺が紳士でなければ襲っていたところだ――――それで助けてか……まぁ、答えは決まっているだろう。
「勿論だ――――と言ってもお前と一緒に逃げればいいのか?」
相手にこんなこと問うなんてかっこ悪いとか思うなよ? 俺もそう思うけど、なにせ今は頭が回らないんだ――――ちくしょう。
「そんなことを聞かれたのは初めてです。面白い方ですね……ふふふ。そうです――――私と1日だけ逃げて頂けませんか?」
想像以上にべたな提案と状況だが――――――――
「だが、断る」
「ありがと――――ぇ? ええええ?? 何故断るのですかっ!? 先ほど勿論だと言ってくれたじゃありませんかっ!!」
美少女はそう言ってあわあわと顔を震わせた。何故、彼女の申し出を断ったか。簡単なことだ。
俺は彼女の後ろを指差した。
「ほれ、見てみろよ。どうやら、何処ぞやの誰かが助けてくれたみたいだぞ?」
「ぇ? ――――本当ですね……あれは―――」
彼女の背後では、地面に倒れている悪者の様相をした黒服の2人組みと、重厚な鎧を身に着けた青年が手を払いながら此方を窺っていた。
「きみの仲間なのかい?」
「は――はい。そうです」
彼女は少し戸惑いながらそう答える。
どうやら彼は彼女の仲間らしい――っち。せっかく美少女と関わる機会だったっていうのによ。あの野郎――――それにしても、護衛される程の女性なのかこの子は?
まぁ、どうでもいいけど。どうせ最初のかっこいいだって助かりたいがために言った嘘だ。
俺なんかをかっこいいと思う奴なんていないさ。俺童貞だし~女性にもてないし~――――はぁ、帰ろう。
「それじゃ、きみも大丈夫みたいだし、俺はそろそろ宿に戻るとしますか――――」
そうやって、彼女に背を向けて戻ろうとした瞬間、背中に軽い衝撃と共になんとも柔らかい感触が広がる。思わず背後を確認すると俺の背中に何故か抱きいている金髪の美少女。
――えっ? どういう状況? ――――てか、貧乳だと思っていたが意外に――――ってそんなことを言っている場合じゃない!
「い、いったい何を……?」
「お礼です。貴方も私を助けてくれようとしたので――――」
「いや、でもお礼で抱きつくって……?」
「――――嫌でした…………?」
彼女は上目遣いでそう言った。
うわあああああああーだめだよーー童貞の俺にはやばすぎる。でも忘れるな俺っ! こういうこと言う奴はみんなビッチなんだ。こいつはクソビッチだ。そうだっ。ビッチっビッチッっファックっ。
でも――――――最高ジャンっ♪ うひゃあああああああ。やばい――囚われるところだったぜ――――
「そ、そうか。嫌じゃないが、まぁ、そろそろ離してくれるか?」
「――わかりました。残念です……」
心の中ではパニックになりながらも、冷静なふりをして再度言葉を漏らす。
「それじゃ、俺は戻るっ! もうお礼はいらないからなっ! それじゃっ!!」
「――――――待ってください!」
またかよーーー次は何……?
彼女は頬を赤らめながら言葉を口にする。
「もしよろしければ、お名前を教えていただけませんか……?」
「な、なんだ――――名前か。別にいいぞ。俺の名前は……佐藤 隆生」
「さとう……リュウセイさんですか? 変わったお名前ですね――。私の名前はマリアです。今回は助けて頂き、本当にありがとうございますチュウセイさんっ!」
女神ことマリアちゃんは夜なのに、太陽が昇ったような眩しい笑顔を向けてそう言った。
俺はその笑顔に若干恐れながらも「気にしていない」とだけ言い残し、足早に宿屋へと入って行くのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます