第5話 ニート卒業。自宅警備員卒業。働く変態に幸あり

 『職業屋』――魔物と戦う者を育てるために作られた組織で、7つの基本職業と9つのサブ職業が存在する。他にも特別な職業が存在するがここでは簡略。加入は無料だが、職業に就いた場合はその職業の装備など一式を購入しなければならない。


そして、加入後はそれぞれの部門ギルドに所属する――――――


「――――って本には書かれていたけど……何の職業に就く?」


 俺たちはあれから交易の街『バータル』にある職業屋に来ていた。そこは酒場を彷彿とさせる場所で、たくさんの人々が出入りを繰り返していた。


 キョロキョロと物珍しそうに辺りを見回す仲間を引き連れて入ったのはいいが、何の職業につくか決まらず立ち往生していると言う状況だ――――


 壁にはそれぞれの職業の名前と簡単な概略が記載された紙が張られている。それ睨みながら、唸るように純が口を開く。


「あぁーーー……どれも俺に見合なそうな職業だな……くそっ! いったい何にすればいいんだよっ!」


「――――そんなことでキレるなよ」


「なんだと? それならお前は何か良い案があるっていうのかよっ! おらっ! あるなら言ってみやがれっ」


 俺はため息を一つついた。


 基本職業は――『聖職者』、『盗賊』、『剣士』、『狩人』、『魔法使い』、『魔術師』、『武闘家』で、


 サブ職業が――『吟遊詩人』、『芸術家』、『薬使い』、『獣使い』、『商人』

、『奇術師』、『芸人』、『鍛冶屋』、『道具屋』がある。



「別に自分の好きな職業で良いとは思うけど――――もし、全員同じとかになったら嫌だしなぁ……そうだっ! こういう時こそゲーマーの竜二君に決めて貰おう。良いだろ純?」


「竜二か――――まぁ、お前にしては妥当な意見だな。――いいだろう。さっさと決めてくれ」


「ゲーマー竜二――――ぷぷっ」


「僕……? 智久後で覚えててね?」


 気持ちの悪い奇声を上げている智久を放置して竜二は頭を悩ませる。


「一応は決めたかな。今から言う職業に就いてね。並列できるみたいだから、何か入りたいサブ職業とかがあったら適当に入って。それじゃ――――――――」


――――――3時間後。


 不慣れな革の装備を身につけ、腰には重々しい武器を携えたチャラ男の純が職業屋から堂々と出て来た。


その立ち姿は、今にも獰猛な巨大生物に立ち向かわんとしている――――――ようではないな。ドンマイ純!☆


 勿論、俺たちも同様の装備を身につけている。ちなみに、装備には1人銀貨10枚を使った。


「よぉ、待たせたな。俺もやっと終わったぜ~」


「やっとこれで全員終わったね。それにしても……革の鎧って意外に重いんだな」


 確かに――思っていたより革の鎧は重い。これが鉄などなればどんだけ重くなるのやら――――――


「なぁ、サブ職業も含めてそれぞれ確認した方がいいんじゃないか?」


「ぇ~なんだよ岳~。サブは秘密のほうが楽しいだろ?」


「いや、岳の言うとおりだろ。秘密にする意味なんてないだろ純?」


「――っち。わかったよインテリ竜二君――それじゃ俺からだ! 俺のメイン職業は剣士っ! そして、サブ職業は~…………獣使いだっ!!」


 嫌がっていたわりには真っ先にいうのねか(笑)。てか獣使いって――中々わけのわからない職業を選んだな。まぁ、純らしいが――――


「うひょおおお! いいねぇ純! それなら次はわっちだねっ! わっちのメイン職業は聖職者! サブは入りたいのなかったから入らなかったよ~。これで女子を公認で看病できる――――おしっ!!」


 智久は皮の鎧ではなく、足元まで延びる純白の外套に木の杖を持っている。まさに聖職者らしい格好だ。


「流石ド変態智久――――俺の職業は武闘家。サブは吟遊詩人だ」


 岳は両拳を突き合わせる。岳の両手には茶色のナックルがはめられている。まさに天職だな。


後、サブも合っているだろう。高校時代もバンドでボーカルをやっていたからな。


「ふふふ~岳は武闘家か~。僕のメインは純と同じ剣士。サブは芸術家だよ~」


 浩太は剣士。剣士と言っても純とは違い大剣を扱うそうだ。――扱えるかは別としてだけど、浩太の体格ならきっとできるだろう。


「なら次は僕だね。僕のメインは魔法使い。サブは商人にしたよ」


 竜二のサブは商人か――――なるほど。合っているかもな。そしてメインは魔法使い。てか、俺たちに魔法なんか使えるのか? ――――おっと。次は俺か。


「俺のメインは機動力を生かしての盗賊。サブはなんとなく薬使いにしたぜ」


「――――これで全員の職業を把握したな。確か、皆それぞれ明日から1ヶ月はギルドに行く事になっているんだよね?」


 ――そう。職業に就くだけでは俺達のような素人がすぐに挫折してしまうと言う事で、ギルドで1ヶ月、基礎だけでも習う規則なっているのだ。


「うおおおおっ! 燃えてきたあぁぁ! 早くギルドの奴らに俺の才能を見せ付けたいぜっ!」


「ははっ。純は運動神経がいいから良い線いくだろうよ」


「流石岳っ! わかってるねぇ~」


「まぁ、それは良いとして――――気がついていないようだけど、まだ俺たちの宿が決まっていないだろ? 俺は野宿でもいいけど、どうせなら1日宿屋に泊まってみない? 金はあることだし、後演習期間はギルドの寮が使えるらしいからな――――――」


 俺がそう提案すると、普段は文句ばかり言う純が素直に頷いた。


「良いけどよぉ。まずは飯にしねぇか? 腹が減って死にそうなんだけど」


「僕もおなかすいたなぁ……この世界にどんな料理があるか気になるし。」



 それもそうだな。まだこっちに来てからまだ何も食べていない。それ以前に飲み物すら飲んでいないな――――考えたらめちゃくちゃ喉が渇いてきた。


「よしっ! それなら昼に見つけた酒場に行こう! そしてどうせなら一杯やろうぜ」


「おっ! いいねぇ~! それならさっさと行くぞ!!」


 夜の闇に染まったバータルは昼間と変わらず喧騒にまみれ、様々な店が賑わっていた。


職業屋は中心地にあり、その中心からは東西に大通りが伸びている。そして東に100メートル程進んだ所に、お目当ての酒場はあった。


 酒場とは汚らしいイメージだが、そこは外装も意外に洒落ており、俺たちでも入りやすい雰囲気を醸し出していた。


中に入ると、露出度の高いおねぇさんに案内され、1番隅の席へと腰を下ろす。


 勿論、当然の如くさも自然に純と智久が女性のおしりを触ろうとしたが、めんどう事は嫌なので全力で止めた。何か文句を垂れていたが無視だ。無視に限る。


 メニュー表は見たことのない名前で溢れかえっており、いちいち聞くはめになってしまったがなんとか頼み終える。


 そして、バグガ(現代で言うビール)が来ると俺たちは今日一日の疲労を流すように一気に炭酸の混じった液体を飲み干した。


「うはぁ……普通のビールよりアルコールの味がするなこれ」


「俺は意外に好きだな――――」


 そう言って岳は、もう既に二杯目に突入していた。


「流石見た目がおっさんのだけはあるね岳――――ふふふ」


「ぷぷぷぷっ。やり○んだもんなぁ~――――」


「――――智久、浩太……SHI☆KE☆I♪♪」


 どこぞの酔拳の如く鋭いパンチが、非道な判決を受けた2人に襲い掛かっているが、安定のスルーを決め込んで俺は竜二に言葉を投げかけた。純は今でも良い女がいないか探しているので放置だ。


 余談だが、岳は放置プレイが好きだそうだ。何? そんなこと知りたくないって? 俺もだよっ! ――――おぇっ。俺は既に少し酔っているのかもな――――――


「――竜二。1ヵ月後どうする? 其々職業についてのオリエンテーション的なことを終えたら、まずは何をしようか? 色々決めることもあるだろうし……」


 竜二は少し驚いた顔で口を開く。


「隆生もだけど、みんな凄いよな。もうこの世界に順応している。僕なんて……今でも酒を飲んでいないと泣きそうだよ――ははっ」


「――――別に順応なんかしてないさ。ただ、目の前の事を精一杯やっているだけだよ。まだ、危険な目にも合ってないし、なんかいける気になっちゃってるだけだぜ。――まぁ俺は少し――――――楽しんじゃっているけど。へへっ」


 今の言葉に嘘は――――ないと思う。正直、こんな異世界に来てみたいと、ガキの頃から何度考えたことか。


その夢が叶ったのだ。浮き足立つのも無理はないだろう。しかし――――些か楽観的過ぎるかもしれないけど。


「そっか……そうだよね。今、恐怖しても意味ないよな――――よしっ! 今日は飲むぞっ!! そして、この先の事を命一杯考えよう。それで、1ヶ月後どうするかだっけか?」


「あぁ。大きな目的は決まったけど、細かいところは決まってないでしょ?」


「そうだね。うーん……まずはトレダールに行ってみようか? そこの方がもっと貴重な情報があるかもしれないし」


「確かにそうだね。――――それならっ次の目的地はトレダールだっ! 異論は認めんっ!! さぁ、飲むぞぉ~!!」


 俺はバクガを一気に飲み干した。実はその後の事は泥酔してしまい、殆ど覚えていない。


 覚えているのは、真夜中に店を出て、近くの適当な宿屋に泊まったくらいだろうか。


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