第3話 此処は何処? 私は誰? それでも世界は回ってる
「――――ぅっ…………ん? 俺はいったい――――うっ……頭いてぇ――――てか、此処何処だよっ!?」
爆睡した後の朝のように身体はぐたったりとし、脳は酸素を供給しようとズキズキと痛む。
ぼやけた目が覚醒すると目の前に広がっていたのは緑の葉をつけた木々だった。
先程まで確かに母校の教室に居たはずなのに、今は何故か木々が目の前にある。
頭がパニックなり叫びそうになっていると、聞き慣れた、そして安心する声が鼓膜を刺激した。
「うるせぇよ。大人しくしやがれ……こっちだってわけがわかんねぇんだから――――」
その声の主は――――砂井 純。まさか、よりによって彼の声に安心してしまうとはっ。不覚っ――――いや、そんなことを言っている場合じゃない。この状況はいったい――――
俺と智久以外は既に起きていたらしく、その後、智久が起床して直ぐに叫び声を上げたが勿論純に落とされた。
そして、状況を整理するために俺たちは小さな輪を作って草の上に腰を下ろした。
「………………」
「――――――――」
「………………」
「――――――――」
「………………ぐふふふ」
「いやっ、笑うところじゃないだろっ! ――――って思わずつっこんじまった……」
沈黙が横たわる中、不思議ちゃんこと菊川 浩太が気色の悪い笑い声を上げ、岳が思わず突っ込む。
それによって、何故だが俺たちの心にも安堵感が生まれ、最もうるさい奴が口を開いた。
「んで、どういうことか説明できる奴いる? 隆生。お前はわかんだろ。早く言えっ」
「わかるかーっ! 俺にふるんじゃないよっ!」
「っち。つかえねぇねぁ~」
純はそう言って空を見上げ、インテリの竜二が腕を組みながら言葉を落とす。
「さっきまで教室にいたのは事実だよ。だってポケットにあの紙切れが入っていた」
「ん? ――――――ぁ。本当だ。後こんな物も入ってたけど……?」
確かにポケットの中には教室の自身の机で見つけた奇妙な紙切れが入っていた。
さらには、黄金に光る500円玉くらいのコインも何時のまにかあったのである。
「まじでっ!? ――――――おおおぉぉぉ! これって金か?」
「ひゃああああっ! すごいねぇぇぇ!! 本物かなぁ?」
どうやら他の皆にも3枚づつ入っていたらしく、純と智久は嬉々とした表情でそのコインを見詰める。
コインの片方の表面には花のような模様が描かれ、もう片方には誰かはわからないがおじさんの顔のようなものが描かれていた。
おそらく、花の方が裏面で、顔の方が表面であろう。
浩太がコインを弄りながら暗い表情で言葉を漏らした。
「これが夢じゃないってことは――此処はいったい何処なんだろう?」
「わからない――動いてみればわかるかもしれないけど?」
俺の提案に誰も答えようとはしない。それもそのはずだ。
誰だって訳のわからない場所で無断に動きたくはないだろう。どんな危険があるのかもわからないし――
その後、誰も喋ろうとはせずに数分か、数十分かが経過していった。こういうとき、1番に行動するのが俺だ。役目だと言ってもいい。高校時代バンドを組もうと言い出したのも俺だ。
こういう時こそ動かないといけないんだ。最初に行動するの俺の役目。まぁ、俺が勝手に思っているだけだが――
俺は徐に立ち上がり、無理に明るい声を出した。
「みんな行こうぜっ! このままじっとしていてもかわらんでしょ?」
俺が声を上げると1番に賛同してくるのは――純だ。
「そうだなっ! まぁ、俺は最初から動くつもりだったけどな。おら、早く立てよ粗チン下野」
「ははっ。そうだね~……って! 粗チンじゃないわっ! わっちだって立つと凄いんだぞ? まぁ、岳には負けるけど……」
「岳は巨根だからなぁ~ぐふふふ」
「あん? もぎ取るぞ?? ――まぁ、そろそろ動かないとは思っていたからな」
そう言って立ち上がる岳と智久と浩太。そして、最後まで心配そうに座りこんでいる心配性の竜二に純は声をかける。
「おらありさっ! 早く行くぞ!」
「――はぁ。わかったよ。行けばいいんだろっ! 行けばっ!」
少し半キレで立ち上がる竜二を引き連れて、俺たちは適当に木々の中を進んでいく。
「明らかにここは知らないとところだよなぁ――」
「ったく。なんで俺たちがこんなところにいるんだよっ!? 瞬間移動か!? いつの間にか俺の力が覚醒したのか?」
「んなわけないでしょ……」
「うるせっ! わかってるわそんなこと!」
そんな会話をしながら俺たちは進んでいく。時折、ガサゴソと揺れる茂みにビクビクしながらも真っ直ぐ進んでいくと、次第に木々は開け始め、そして、何処かしら人間の声らしいものが聞こえてきた。
いち早く気がついた竜二が声を漏らす。
「何か聞こえないか?」
「んぁ? ――――本当だ。誰かいるのかっ! 助けてもらえるかもしれねぇ! 行くぞっ!!」
「ぁっ、待てよ純!! まだわかんないだろっ!?」
「何細かいこといってんだよっ!」
純がそう言うと、それにつられて他の仲間も走り出した。
俺も慌てて後を追い、ひしめき合っていた木々を抜けるとそこには――――――
「おぉ…………すげぇ」
誰かが感嘆の声を漏らす。それもそのはず、目の前には自分たちが住んでいた場所では殆ど見ることのできない巨大な石の壁が聳え立っていたのだった。
少し左に離れた場所には舗装された道が城門らしき場所に通じてあり、そこにはたくさんの人々が行き来きしていた。しかし、奇妙な事がある。
「なんかみんな服装が昔っぽいっていうか……なんていうか――――」
そうだ。明らかに俺たちの服装とは違う、重々しい鉄の鎧のようなものを身に着けている者や、古来のヨーロッパの服装を彷彿とさせるような服を着込んでいた。
「ねぇ。あの人たち武器とか持っていない?」
浩太が指差しながらそう言った。
「本当だ――――俺、初めて見たわ……」
岳は体を縮めて後ずさる。岳が恐怖するのも無理はない。
あんな物、普通見ることなんてないのだから。俺だって先ほどまで消えていた恐怖、不安が頭の中で再来していたのだった。
そして、無意識の内に俺たちは理解してしまっていた。
此処は――――――俺たちの住んでいた世界ではないと。まさに此処はゲームのような世界だと――――――
「――――まずはあそこに行って見る?」
俺は城門を指差しながらそう言う。すると誰も反対する者はおらず、臆病になりながらも足を進めた。
近づくことで再認識される巨大な城壁。そして、突き刺さる視線。視線。視線――――――
城門の前に行き着くと、俺たちの服装が奇妙だということ以外に理由は考えられないが、多くの人が目をパチクリさせながら此方を見ていた。
そんな視線に耐えながらも進んでいくと、城門の両脇に立っていた警備兵士らしき人物が慌てて此方に駆け寄って来る。
一瞬、俺のゲーム脳が無意識の内に「言語はどうなのだろう?」と言う疑問を出現させたが、それは直ぐに解決した。兵士は、手に持っていた槍を此方に向けて言葉を放った。
「貴様ら! 何者だっ!? そのような奇抜な格好。怪しい者だなっ!?」
見るからにリアルに先の尖った槍。そんな物を突きつけられたら頭がどうかしてしまうものだが、色々なことがありすぎて頭が可笑しくなってしまったのか恐怖はそこまで感じなかった。
岳はビクビクとしていたが――――その反応が普通であろう。
それ以上にこの状況をどうやって回避するかという以外にも冷静な判断をして頭では勝手にしていたのだ。
「おいっ!? 何を黙っている!?」
兵士がさらに強い口調で言ったので、驚いたのか咄嗟に純が慌てて言葉を漏らした。
「おっ……俺たちはただの通りすがりのバンドマンだっ――――ですよっ!」
「ば、ばんどまん? なんだそれは――――?」
ジューン。それは駄目だろう。此処がもし、仮に、まだ確信できないが、小説やアニメのように異世界だとしたらバンドマンってのはいないだろう。
いやはや、ゲームやアニメ、小説を普段から見ていて良かった――――って、今はそんなことを言っている場合じゃない。直ぐに言い直さねば。
「いや~すみません。バンドマンとは私たち音楽団の名前でして。こう見えても少し有名なのですよ? 知りませんか??」
俺が愛想を振りまくって警備兵士にそう言うと、幾らか警戒を解いたのか槍を下ろして口を開く。
「音楽団か……なるほど。それで貴様らはそのような奇抜な格好を――――」
「はい。そうです。もしかして、此処では楽士が入れないという規則などがあったりするのですか……?」
「いや、そのような規則はないが――――――」
「それなら、私たちも精一杯仕事ができますね! いや~ご心配をかけて申し訳ありません!」
満面の笑みでそう言うと、警備兵士もどうやら我々が音楽団だと認めてくれたのか、表情を和らげ一言「次から気をつけなさい」と言うと、元の位置へと戻っていったのだった。
「あははは~ありがとうございますーーー…………ふぅ。なんとかやり過ごせたな」
「このっ! 俺がなんとかしようと思ったのによぉ!!」
「今のは隆生のおかげでしょ。純に任せたらどうなっていたか……」
「うるせぇメガネ! もういいっ! さっさと行くぞ粗チン下野!」
「なんでわっちに飛び火っ!?」
純は智久を引きずり、俺たちも城門の中へと足を踏む入れるとそこには圧巻の光景が広がっていた。
中には真っ直ぐに巨大な一本の道が通っており、その両脇には様々な店が軒を連ねていた。そして、祭りの時のように飛び交う物売りの声。
俺たちは後ろから入ってくる人の波に押され、先に進んでいく。見た限りでもたくさんの店がある。
魚屋、八百屋、武器屋、防具屋、雑貨屋、そして奇妙な占いの館のような店も見受けられた。
少し進むと横道に逸れる場所があり、俺たちはなんとか人ごみを掻き分けてそこに入った。
浩太と壮大は地面にしゃがみ込み、そう言葉を漏らす。
「ふぅ……めっちゃ疲れた――――」
「だなぁ。なんか今でも何がなんだかわからないよ俺は……」
確かになんとかこの名も知れぬ街? 国? に入る事はできたが、これから俺たちは何をすればいいのか。それさえわからないのも事実。
そんな心配をしている俺たちをとは裏腹に、行き交う人々を見詰めながら何やら気色の悪い声を上げている男が2人。爽やかド変態イケメンの智久とちゃら男の純だ。
「何やってんだよお前ら。しっかりこの先のことをかんがえろよっ!」
「――――んぁ? うるせぇな。そんな事言ったって何かが変わるわけじゃねぇだろ? それならこの訳のわからねぇ世界を楽しむしかないだろ。なぁ? とも」
「そうだねぇ。心配なことは一杯あるけど、深く考えたって疲れるだけだからねぇ。そんなことより今は……うふふふふ」
くそっ。この馬鹿共2人にまともなことを言われてしまった。
「お前も見てみろよっ! ナイスバディのおねぇさん達が一杯居るぞ??」
その声に反応して、さっきまで座り込んでいた2人も一緒になって顔を覗かせ始めた。そんな2人に呆れていると竜二が声を漏らした。
「なぁ。それにしても女性の数が少なくないか? それに殆どの人が紐みたいので結ばれているし――――」
「確かに…………なんかペットみたいだな」
俺が半分冗談でそう言うと。女の子を愛してやまない純が怒りを露にする。
「ペットだと!? うらやまし……いや、なんてクソやろうな奴らだっ!! 俺なんてオナペ○トしか持ってねぇのに――――!」
純の下らない発言に呆れながらも、俺たちはその後暫くの間、人々を見詰めるのであった。
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