第84話夕食後の来訪者

 夕食後メグミ達が寛いでいると、またしてもハルミが訪れた、


「今日は迷宮ですまなかったね、マーメイド達が迷惑をかけたようで、本当に申し訳ない」


「なんで私達だって分かったんですか? 名乗ってないと思うけど?」


「今この街に居る冒険者で、マーメイド達を硬直させることが出来るのは、そこのターニャちゃんだけだよ、そのパーティが君達だってのは直ぐに判明したさ」


「ああ、なるほど、まあ何やらミスみたいだし、こちらもケガは有りませんからね、気にしないでください」


「そう言って貰えると助かるな、ところでそのマーメイドから聞いたんだが君達地下2階まで行ってったんだって?」


「そうですね、あの『空水気』ですか、厄介でしたねあれ、確かに余り一般の冒険者に人気が無いのも納得です」


「まあ、此処の迷宮はあれが有るからね、殆どの冒険者に敬遠されてしまう。住人や冒険者が水棲魔物ばかりになるのも納得だろ? 

 困った物なのだが、一応『魔水膜』、迷宮の魔物達も使ってる魔法の事だが、これがあれば同じように『空水気』の中で泳げるんだ、設置魔法罠『電撃網』と合わせて使えば可成りの効率で魔物が狩れる、そのおかげで魔物が溢れ出すようなことになっていないが、やはりもう少し一般の冒険者にも来て欲しいところだ」


「泳げても水棲の魔物には追いつけませんし、やっぱり不便ですね、冒険者は剣にしても斧だろうと基本振り回す武器が主流ですからね、泳いでいたのではそれが十分に生かせない、槍系でしかも突きオンリー、中々難しいでしょうね」


「他と戦闘スタイルが変わり過ぎですものね、一般の冒険者にしてみれば、何も苦労して、ここのスタイルで、この迷宮で戦わないくても、他にもこの地域だけでも4つも大きな迷宮が有りますもの、難しいわね」


「まあ、その通りなんだ。でだ、物は相談なんだが、その君達に会ったマーメイド達がね、面白いことを言うんだ、君達が地下2階で剣を振っていたと、しかも動きも非常にスムーズで、床を走っていたと、そう言ってるんだが……」


「ああ、何となく話はわかりました、そうですね私達は普通に『空水気』の中で大気中と変わらず動けるようになってましたね」


「やはりか! では何か魔法が、『空水気』の中で動くための魔法を知っているのだな? いや、もしかして開発したのか? 君たちが新しい仕組みの鎧を開発したことは聞いている、君達は魔法の開発が出来るんだね?」


「そうですね、私達にはサアヤちゃんが居るので新たな魔法の開発が出来ます、新たに魔法式を組み立てることが出来ます」


ノリコが正直に答える、別段隠し立てすることでもない。


「別に私じゃなくても、仕組みと方法さえわかれば後は効率的に組み立てていくだけです、プログラムと大差は有りませんよ、メグミちゃんやノリコお姉さまも少しは出来るじゃありませんか」


「私にあのスピードで魔法式を組み立てるのは無理ね、エルフって頭が良いとは聞いてたけど、頭の中どうなってるの? 演算処理魔法球と精霊の補助が有っても普通は無理よ? 魔方陣とそれに繋げる魔法回路の設計をやってるのよ? あの規模の物を現場で設計できるのはサアヤだけよ」


「サアヤちゃんは現場で魔法を開発したのか? 事前に用意したのではなく? やはり君たちは規格外だな、っと、話が逸れたな、先ほども言ったが、相談だ、その魔法を売ってくれないか? 正式にこの街の魔術組合で売りに出したい、無論売った利益の幾らかは君達に還元する、売り上げの半分……イヤ、この際8割でも良い、この『水の魔王の迷宮』の攻略の根幹が変わるかもしれない魔法だ、その価値はある。別途新魔法開発報奨金も出す、是非検討願いたい」


これがハルミが訪れた主な理由である様だ、確かに『水機動鎧』は非常に有用だ、


「どうするサアヤ? このまま私達で独占しても何れ解析されて真似されるでしょ? 高く売っておく方が良いと思うけど、『水機動鎧』と『害魔弾』をセットで買って貰ってガッポリ報酬を貰わない?」


「私は構いませんよ、何れ誰かが同じことをするでしょうし、なんで今まで無かったのか不思議なくらいです」


「それはあれね、あの時のメグミちゃんみたいに、強引に自分のやりたい様に結果を求めて魔法開発させた人が居なかったのね……」


「まあな、普通は魔物と一緒の土俵に立てた時点で満足して、後は自分から歩み寄るわな、強引に自分の土俵に引きずり込んで戦うことを望む様な、強欲な人間はそうは居なかったって事だろ?」


「なんか酷い言われようね、けど出来る人が傍に居るのよ? 活用しなくてどうするの? それに強欲って言わないでよ、聞こえが悪いわ、夢が有るって言ってくれない? 常により上を夢見てるのよ! どうよ少し乙女チックで夢見がちな言葉の響きになるでしょ?」


「本質は全く変わってねえぞ!」


「ああ、君達、それでソロソロ話を戻してくれると嬉しんだが、売ってくれるのかな?」


「サアヤは良いみたいだし、後はノリネエが決めるべきね、『黎明』のリーダーはノリネエ何だし」


「私は売って多くの人の役に立つのならそうすべきだと思うわ、良いかしら?」


「ノリネエがそう決めたのならそれで問題ないわ」


「ありがとう、本当に助かるよ、今までは一部の泳ぎの得意な冒険者以外は、この街に居ついてくれなかった、本当に困っていたんだ。ではこの件は良いとして、それとあと明日の朝の話もしておきたいんだがいいかな?」


「明日の朝? なんでしょう? 私は詳しい話は聞いてないのだけど、今朝なにかお手伝いしたんでしょ? 明日もその手伝いが有るみたいなこと言ってたわよね?」


「その件だ、今朝こちら側の砂浜の魔物退治を大規模にやって貰った、大変助かったよ、ヘルイチ地上街からの報酬も届いている、解体費用と回収の手伝い費用を除いた金額1232万円が君たちの取り分だ。

 『ジャイアントグリーンバイパー』が良いお金になったね、首だけ刎ねて、皮が無傷だったからね。最高品質で査定されている、その他も、『サーベルマンティス』のカマも良い値が付いている、『ソードフィッシュ』も良かったね、アレは美味しいからね、向こうでも好評らしい、体の周囲の硬いヒレも武器の素材に高値で売れている、『カモンシークラブ』も余り高くはないがなにせ数が膨大だ」


 ハルミが嬉しそうに話しているが、ノリコの顔が剣呑になっていく、メグミとサアヤは慌てて顔を逸らすが、その頬に突き刺さるノリコの睨んでくる視線が痛い、


(バレた、あっさりバラしちゃったよハルミさん、ノリネエの視線が痛い、これはこの後、説教コース確定だよ……)


そんなメグミの内心などお構いなしにハルミの話は続く、


「そうそう、『トロピカルタランチュラ』も受けてるね、あの魔物はお腹の中に蜜を貯めるのだけど、此方も無傷で取れている、肉も中々に美味しいんだよ、あちらではあまり出回ってないから珍しがって良い値で売れたみたいだね。『ココナッツキャノン』もその実が珍しがられて好評だ」


「いや好評そうで何よりですね、でも今までだって定期便で送ってたんじゃないんですか?」


「幾らかはね、しかし加工済みの物が多かった。今回は新鮮な物、しかも丸々送っているからね、此方ではあまり価値がないと思っていたものが、意外な需要が有ったみたいだ」


「そういったことも有るんですね、けど、だったらこれから地上の魔物を狩る冒険者が増えるんじゃないですか?」


「それはないな、君達は実に簡単に狩るけどね、『ジャイアントグリーンバイパー』なんて普通、あんなふうに狩れる魔物じゃあない、『カモンシークラブ』は弱いが数が多い、あの数でリンクされると普通に脅威だよ? しかも狩っていると匂いに釣られて『ジャイアントグリーンバイパー』が出てくる、『サーベルマンティス』だって来る。危険のわりに美味しい魔物じゃないんだよ、普通はね」


「そんな物なんですか? まあ乱獲されて絶滅とかにはなりそうもなくてよかったですけど」


「まあそれはないだろうね、でだね、明日も魔物の討伐をすると向こうに言ったら、是非送ってくれないかと、そう要望が来ている。うん、解体現場は中々修羅場だったみたいだね、けどね、なにせ報酬が良かった、緊急だったしね、結構解体報酬に上乗せしたらしい、現金なものでね、どこからか漏れた明日の討伐の話が解体現場に伝わったらしいんだ、そうしたら明日も自分達に解体させろと解体現場の方から要望されたらしい。

 今日一日ですっかり此方の魔物の解体にも慣れたみたいで、明日はそこまで上乗せしない、この位だと金額を提示したが、良い小遣い稼ぎだと、現場が乗り気だ」


(ニュースで文句を言っていたおじさんも同意したのだろうか? 同意したんだろうな、一匹一匹は大した額じゃなくても、数を熟したら意外と報酬が多かったパターンかな?)


「此方も今は人手はそんなに多くない、明日の解体も任せられるなら向こうに任せたいんだが」


「しかし、簡単に転送するといってますが魔力が……今日だって仕方なくポーションを飲みながら送ったんですよ? メグミちゃん何か言って」


「うーん、前回の報酬を鎧の作成で散財してたから今回の報酬は、普通に助かるのよね、ポーションの代金とか今回の報酬に比べればゴミみたいなものだし」


「なぁっ! 裏切りましたね! 疲れるんですよ? すっごい疲れるんですよ!! ノリコお姉さま助けてください!」


「昼のニュースの犯人はサアヤちゃん達だったのね、ご迷惑をお掛けして、ニュースにまでなっているんですよ! 反省しなさい! お詫びも兼ねて、あちらが望んでらっしゃるなら、送って差し上げるべきね」


「なっ! お姉さま迄! 私……私の味方がいませんわ、それにお姉さまサアヤちゃん達って、メグミちゃん達じゃなくて、サアヤちゃん達って私が主犯になってますわ、何故?! おかしいです」


 助けを求める様に視線を彷徨わせるが、ターニャはメグミの膝の上で寝ているし、『カナ』はソファに腰かける『ママ』の肩を揉んで我関せずだ。更に誰かを求めるが、アカリとカグヤはまた戻っていない。ふと、少し離れたところで一人スルメイカを齧りながら雑誌を読んでいたタツオと目が合う。


「お兄ちゃん! なにか良い手は有りませんか?」


「ん? 俺に頭脳労働を求めるのか? ちょ……そんな泣きそうな顔するなよ! んんーむ、そうだな、他にも人手を募って転送の手伝いをして貰えば良いじゃねえか? なんで一人で転送することになってるんだ? 今日のは自己責任かも知れねえが明日のは違うだろ?」


「ああ、言い忘れていたが、この街の住人は、殆ど人がこの街の冒険者組合事務所以外に転送場所の設定がない、それにこれも今朝は忘れてたんだが、現在この街は城壁外から街中への転送は結界で防いでいる、だから一旦城壁内に入れないと冒険者組合事務所にさえ転送できないんだ、内から外へは阻んでないから何とかなるんだが、逆は無理だな」


「そんな……」


 サアヤは青い顔してその場に崩れ落ちる。しかし、そんなサアヤにハルミは自分の顎に手を当てながら、


「いや、確かにタツオ君の案は良いかもしれんな、明日応援の淫魔部隊が来てくれることになっている、その応援部隊に転送を一部任せても良いかもしれん。今日アカリちゃん達にお願いしてちょっとしたことを試してもらった、それがとても上手く行ったんだ、それでこれはいけると応援を頼んでおいたのだが、これは本当に丁度いいな、まだ夜の便も出ていないし、淫魔なら魔法のエキスパートが多い、ドロップアイテムの転送位出来る者が大半だろう、直ぐに連絡を取ってみるよ」


サアヤの顔がパァっと明るくなる、今日の転送は流石のサアヤでも相当堪えた様だ、喜びもひとしおだろう、メグミはハルミの言葉に、


「淫魔ですか? サキュバスだけじゃなく、インキュバスも来るんですね……ん? やろうとしてることは何となく分かりましたが原因が分かりませんね」


「すまないなメグミちゃん、そこは機密事項なんだ、私の一存では詳しく話すことが出来ない、アカリちゃん達を借りているのに本当に申し訳ないんだが……明日、もしかしたらプリムラ様も来るかもしれないと聞いている、あの方に聞いてみてくれ」


「プリムラ様が来られるんですか?」


「最近は少し忙しいらしいんだが、時間が有れば来ると言っていた、少し君達も気になるみたいだし、この街で保護している方達の状況も知りたいんだろう、本来なら部下であるアツヒトがこっちに来れれば良いんだけど、あいつはあの街から出ることを禁じられているからな、上の方たちが直接方々動いてるようだ」


「いま何をこの地域の人達がしているのかも聞いてはダメなんでしょうね?」


「それもプリムラ様に聞いてみてくれ、あの方ならその辺の権限がある、私の権限では許されていない、すまないな」


「まあ仕方ありませんね、では魔法の件は明日にでもこの街の魔術組合に行きます、話を通しておいてください、あと明日朝の件も了解しました、まあ日課ですからね」


「明日は俺も最初から行くからな!」


「あんた起きれるの?」


「うっ! なんとか起き……なあ? 起こしてくれるって選択肢はねえのか?」


「ないわね! 早朝の男子の部屋とか入りたくないわ! それにあんたも困るでしょ?」


「アカリに頼んではダメよ? あの子は油断が出来ないから……良いわタツオ君、私が起こしてあげます。その代わり、しっかりメグミ達の見張りをお願いね?」


「すまねえな『ママ』さん、それじゃあ頼んます」


「ん、まあ私が話したいことは以上だ、色々そっちも話が有るのだろうし、寛いでいるところ、夜分にお邪魔したね、では明日朝また会おう」


 話が逸れだしたところで、ハルミが話を切り上げて立ち去る、副組合長の立場で時間を捻出してきてくれたのだろう、急いで帰っていく。何やら大勢の人を保護していて忙しいだろうに直接出向いてくれるハルミに、メグミは好感を持った。単に部下がターニャを怖がって来たがらないだけかもしれないが……戦兎人の受付嬢カオリともう一人、来れる部下も居るのだ、誠意だと思おう。


「明日朝の搾乳は今日と同じで『ママ』やノリネエ達に任せて良い? これからお風呂に入るし、晩の搾乳は私達もするから、お願い」


「搾乳?」


「タツオは黙ってて、アンタは知らないで良い事よ! ってか一寸席を外しなさい、お風呂にでも行くのね!」


「何だよそりゃ、ってなんでみんなで睨むんだよ! 分かったよ風呂に行けばいいんだろ! 何だってんだ全く!」


 タツオは何やら不満げに席を立つとお風呂の方に歩いていく、この施設大浴場は男子風呂も豪華らしい、しかも今はタツオの貸し切りだ、のんびり満喫出来て良いのではないかとも思うが、誰も居ないのも少し寂しいのかもしれない、ヘルイチでもメグミ達の家に引っ越してきてからも、偶にアキヒロ達の所に遊びに行ってるみたいだった。


 タツオの姿が見えなくなったところで再び、


「アリアさん達はどう? 明日で一応朝の魔物討伐は終わりの筈だからお願いできる?」


「私は構わないよ」


「私も『ママ』さんなら、構わないです、晩はメグミちゃんこれからしてくれるんでしょ?」


「私も構わないかな、晩はどうなの? 私もメグミちゃん? 朝みたいにノリコちゃん?」


「私もOKよ、朝のカグヤちゃんも結構上手かったし、貴方達って搾乳の才能あるわよね」


「あれ、じゃあアリアさんはアカリさんが担当したのか、アカリさん完全にノーマルだけど……アリアさんどうだった?」


「あの子も上手かったよ? サキュバスはこっちの才能も有るんじゃない、晩はサアヤちゃんやってくれるのよね?」


「是非! 今日は疲れたのでたっぷり飲みたい気分です」


「アカリさん達まだ帰ってないのよね……多分もう今日は何も飲みたくない位で帰ってきそうだし、リズは私が、アリアさんはサアヤが、ジェシカとサンディは、どっち行く? 朝と替えてジェシカに『ママ』が行って、サンディにノリネエが行くかな?」


「そうね色々試したいわね、じゃあ私はジェシカちゃんの担当ね、ノリコはサンディちゃんで問題ない?」


「今朝はカグヤちゃんに譲ったけど、サンディさんなら何時でも歓迎よ!」


「んでは、お風呂にみんなで行きましょうか! アカリさん達待ちたかったけど、いつになるか分からないわ、先に済ませましょう」


 そう言ってお風呂に向かって歩き出すメグミ達をじっと見つめる目が有ることにメグミ達は気が付かない。

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