第85話〈ちょっと息抜き番外〉とある会議の様子

 暗い部屋のなかだ、全体の大きさは暗く闇に沈んで分からない、中央に置かれた黒く大きな長方形のテーブルには左右に何時か椅子が並んでいて、その椅子の上には何かの装置だろうか? 水晶の結晶の様な物が配線の連結された金属の台座の上に立っている。上座の短辺の椅子の上には唯一人影が有り、その大きな椅子の背に沈み込む様にして座っている。その人物が重苦しい声で、


「報告を」


そう呟くと、左右に並んだ椅子の上の、上座に一番近い装置の水晶が輝き、


「ハッ、では報告を始めさせていただきます。先ずは中央の地図をご覧ください」


 装置からハキハキとした中年男性の声が発せられ、机の上に設置されていた魔法球の水晶から3D映像が大きく机の上に投影される、その投影された映像は惑星の3D投影地図で、その表面の大陸の幾つかの箇所が赤く光っている。


「ご覧いただいている、地図の赤い箇所で現在、彼の地の先兵により、貴族共に囲われている、性奴隷の略奪作戦が遂行されております。そしてこの黄色の箇所では……」


投影される地図に黄色の光が追加される。その数は赤い光を圧倒する数だ、


「既に性奴隷の略奪が終了した箇所になります。既に作戦の9割が完遂された物と思われます。大ディオーレ王国の性奴隷市場は壊滅、その最大顧客の聖シャネオル帝国国内の性奴隷も根こそぎ奪取されております、またその他のガーバイン王国、アマリール帝国、ルイバトン聖公国等その他の主要国家も完全に奪いつくされたとの報告を受けております、今は更に周辺の小国家に手が広がっております」


周囲の水晶からは、


「何と言うことだ、これではもう……」

「最大の資金提供者が……」

「彼奴等は世界を敵に回すつもりか?」


「静まれ、続きを」


椅子の人影が騒ぐ水晶の声を静止する。


「ハッ、続きを報告いたします、大ディオーレ王国では宰相以下、大貴族が多数行方不明となっており、その他の国々でも性奴隷に関わっていた大貴族が大量に行方不明になっております。

 また大ディオーレ王国内の、繁殖、養殖、育成、施設が全て彼奴等に摂取されており、その技術者も拘束、拉致され行方が分かりません、現状、市場どころか商品の供給、その復活も絶望的な状況です、他の者を代りに据えてもそのノウハウが失われております」


「宰相以下貴族共の行方は分からんのだな?」


「ハッ、しかし恐らくは5街地域に連れ去られたと見て間違いないかと」


「彼の地域では脳から直接情報を吸い出す、既に貴族が把握していた我らの情報は全て知られたものと思われますな、我らの技術も幾つか奴らの手に渡ったか……」


「フンッ、そんなことは如何でも良い、貴族共に渡していたのは所詮玩具だ」


「しかし猊下、最大の資金源を断たれましたのは痛手、更にコネを多く失っております」


「構わんよ、利用できる物を利用しただけである、薄汚れた金で有ろうが我らが偉大な悲願の礎となれば清められよう、しかし、失ったとて構わん、既に研究は進んでおる、どうせ暫くは大規模には動けん、今は地道に根を張る時ぞ、研究も規模でなくその進化に注力しようではないか」


「ではどう成されるつもりか?」


「前回の作戦では人員の被害は、彼の宰相の息の掛かっていた司教の部隊のみ、大した痛手ではない、大神殿に愚かにも急襲を仕掛けた様だが、無駄な労力を割かせたのだ、これも成果と言ってよかろう、ゴーレムはまあ惜しい気もするが、結果だけ見れば欠陥品だ、今後の改良に期待すべきだな、実戦で試験できたと思えばデータは取れた」


「しかし、設計データや貴重な機材が奪われましたな、あれは痛い」


「あのような物、惜しむほどの事でもないわ、バックアップは手元に有るのだ、くれてやっても惜しくはないな、元々敵の中の施設、奪われるのも考慮済みよ、奪われても構わん物だけで構成しておったのだ、今少し、彼奴等に被害を与えたかったが、まあよい、終わったことだ」


「しかし、彼奴等今回は大胆な反撃に出ましたな、何の意図であろうか?」


「奴らが欲しいのは時間で有ろうよ、貴族共にせっつかれて今回の作戦も行ったが、10年前も3年前の作戦も奴らの勇み足で失敗して居る、今回も今少し時間を掛けて周到に準備する筈が、彼の司教の勇み足で、準備不足で決行せざるおえん状況になった、此方としても貴族共と縁が切れたのは行幸かもしれんな」


「時間ですかな? それは我らとしても願ったりですが、彼奴等も馬鹿ではありますまい、時間稼ぎなどしても此方を利するだけなのは承知でしょうに……」


「若い勇者が居った、あれら若い世代の成長を待っておるのかもしれんな」


「くっ、報告書にあった者たちですな、全くまたあの出鱈目な連中が増えるのですか」


水晶の一つが声を発すると、別の水晶が、


「仕方が有るまいよ、召還を続けて居る限り増えるのだ、だが、それはこちらも同じこと」


「此方も育成を急がねばなりませんな、辺境のあの迷宮中々良い物件でしたな」


「あそこを中心に騎士団の者の育成も急がせよ、前回の司教共は情報によると見習い如きに遅れを取って居る、だらけ過ぎだな」


口々に意見を述べる、


「まあ此方の人員の育成の話はその辺でよかろう、命じていた、10年前奴らに滅ぼされたバーハリー王国、3年前にエルフ共に滅ぼされたタバマンサ公国の調査、どのような結果だ?」


「ハッ、バーハリー王国は彼奴等に攻め入られ、国王と王国軍は壊滅、その後、彼奴等の元から代理統治者が置かれ、有力な商人、市民などと議会を設置し、統治しておりましたが、彼奴等、この地域を隣のガーバイン王国にて召喚されておりました、アメリカ人召喚者中で彼奴等の考えに賛同していた一派に譲り渡しております、以降この元バーハリー王国一体は、『LL』リトルロサンゼルスと称し、各地のアメリカ人召喚者を受け入れ、彼の地の迷宮や地上の魔物を退けて、民主国家として急激に発展しておりました」


「なっ、いつの間に?」


「彼の地は流通が途絶していたから滅んだものと思っていたが、彼奴等維持して、更にアメリカ人が今運営しているのか?」


「はい、実に巧みに運営しているようです、元々の王国市民にも受け入れられ既に独自の文化圏を確立しつつあるそうです、無論『5街地域』からの支援も有りましょうが、各地に召喚されたアメリカ人の支援も相当な量になりますな、日本人の様に、この異世界の地で、確固たる足場を欲していた勢力は相当数に上っていたようでして……」


「良く元王国の市民から反発の声が無いな?」


「元々の王族が酷かった所為も有りましょうな、特に政に興味がなく、美しい奴隷を集めることのみに執心しておりましたから、悪いこともあまりしないが良いこともしない、奴隷を買う資金の為に税は重く、評判は良くないです、まあ美しい王族でしたからそれなりに慕われてはいたようですが、それだけです」


「一般市民には誰が統治者だろうと関係ないか」


「それどころか民主主義、選挙権を全市民に与えております、議会を立ち上げ、地域の代表は大統領と名乗っております、西海岸に似た温暖な気候で海にも近く、気候風土がアメリカ人に良くあったようでして、大きな川も有り、開拓にも熱心で、冒険者も積極的に開拓を行っているとの情報も有ります、何でもゴーレムやらスケルトン等を使った大規模農場が既にいくつか立ち上がっておるようです」


「ゴーレムは兎も角、スケルトンだと? なんと悍ましいおぞましい


「人の骨から造られたスケルトンではなく、迷宮に沸いたスケルトンを支配して使用して居るようです、当然その憑依させている魂も人の物ではない為、特にゴーレムと変わらぬ感覚で受け入れられたようです」


「アメリカ人は髑髏とか好きだったからな、ただの人形であれば平気なのかもしれんな、悪趣味だと思うが」


「それでもスケルトンだろう? どうなのだそれは?」


「ゴーレムと大して原理は変わらぬからな、素材が土塊か骨の様な物かの差だけだろう? それも迷宮産となると魔素だろう?」


「魔物自体が敵で有ろうが、全て滅ぼすべし!」


「敵を利用して居るんだろう? いい気味ではないか? こちらの利益になるのだ何の問題がある?」


「卿はアメリカ人で有ったな、このこと知って居ったな?」


「ぬ、アメリカ人であるだけで侮辱されるつもりか? 大司教猊下に対する侮辱と取るが如何する!」


「静まれ、熱くなるでない、報告の続きを頼む」


「ハッ、タバマンサ公国はエルフ共が容赦なく、一部市民にまで手を掛けており、公王含め王族もほぼ殺し尽くされております、生き残った公国市民は5街地域の者たちが支援・保護していたようですが、此方も近くのルイバトン聖公国で召喚されていたドイツ人の彼奴等の親派に譲られて、『ライヒ・ベルリン』と名を変えて急激に復興中であります。

 此方も民主制により統治されております、各地のドイツ人召喚者も集まってきております。シュヴァルツヴァルトの様な大きな森も有りドイツ人には馴染みやすい風土のようです。

 更にエルフの森の都にも近い、エルフとも協定を結んだらしく、無計画な伐採を行わない、エコロジーな再生可能な社会を築くと現在色々と活発に活動中です、どうやらドイツ人とエルフの相性が良かったらしく、相互協力で色々と物流が盛んになっているようでして、生き残りの市民たちも協力して、既にかなりの規模になっておるようです」


「そちらもか、確かにエルフの考えにドイツ人は近いだろうが……お互いにプライドが高かろう? 衝突するのではないか?」


「ハッ、それが『5街地域』の者も調整しているようですが、お互いにいい具合に尊敬しあう関係を築いたようです。現在極めて良好な関係を築いているようです」


「なるほどな、それで後顧の憂いなく、彼奴等は各地で活動しているわけか……」


「それが、どうもこの『LL』からも『ライヒ・ベルリン』からも部隊が出ている模様です、各地の作戦を『5街地域』の者たちと共同で行っております」


「むぅ、規模が大きいと思ったらそういう事か、彼の国には人権派の連中が多い、確かに協力を申し込まれれば喜んで手を貸すだろうな」


「ハッ、そして、今回の彼奴等の作戦で被害を受けた国々で有りますが、王族を中心に統制を取り戻しつつあります」


「王族だと? どういうことだ?」


「各国の大貴族により、実権を奪われていた王族が、実権を取り戻し、若手の実力ある官僚、軍属と手を結んで、急激に国内の混乱を治めております」


「そのような才覚のある王族など居たか? 大ディオーレ王国など12歳ではなかったか? お飾りであろう?」


「大ディオーレ王国のルスラ14世ですが、どうやら可成りの傑物らしく配下に優れた人物が集まっております、特に味方に付いた参謀が切れ者でして、有能なものを身分を問わず、重要な役職に就け実権を把握。貴族共の不正の証拠も集めていたらしく、次々に反抗勢力の貴族が没落していっております。

 軍部も若き英雄将軍を中心に実力者がまとまり、お飾りの将軍や無能な貴族の子弟を追い出し、国内の治安回復にあたっております。何時れも彼奴等の息が掛かっておるのでしょうが、非常に有能です」


「随分念入りに準備を整えての作戦だったのか……なるほど我らは切っ掛けに過ぎなかったわけだな」


「各国の実権を奪われていた王族の元に教育係として様々な人員を送り込んでいたようでして、また各国で雌伏していた有能な才能の人物にも接触していたようで、他の主要な国々で同じようなことが起こっています、さらに王が無能であれば新たに有能な王が立っている国も有り、現在世界中が敵に回るどころか、親派の国が次々と誕生していっております」


「不味いですな、これでは活動が非常にやりにくくなる」


「ふん、何を言っている? この世界で国など、極一部の地域だけよ、98%以上が未開の地、幾らでも穴が有る、幾らでも活動できる土地が有る、今回は良い、奴らの好きにさせて置け、此方の全貌が気取られねば良いだけだ、今は奴らに勝利の美酒でも飲ませてやればいい、最後に勝つのは我らだ。

 それにな、あの地の勇者の小娘が言っておった、実績を作って見せろとな……フフフ、良いではないか、実績とやらを作ろうではないか、そうだろう? 諸君」


「「「「ハッ、我らの正義に揺るぎなし! 必ずやこの地に平和を!」」」」


闇に包まれた部屋にその声が響き渡る。

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