第83話魔法開発
それから3度の魔物の襲撃を撃退したところで、魔物の使用している魔法の解析が完了した。サアヤがそれについて説明をする。
「魔物はどうやら体の周りにエーテルを満たした膜を張っているようですね、その満たしたエーテルを増減させて浮力の調整を行っているようですね」
「『カナ』の血液と一緒ね、『カナ』の血液には軽量化と魔力の伝達の為に、エーテルと魔法水銀を混ぜたものを使用してるけど、あいつらエーテルを体外に出してるのね?」
「そうですね、エーテルは言わば魔力の液体、魔力を固めて液体にしたようなものです、固めることにより浮力を得るのは知られてましたが、魔物がこの特性を利用しているのは意外でしたね」
「けどあのスピードは? 『空水気』の中で浮かんでいる原理は分かったけど、あの素早さは何?」
「エーテルの膜の表面で電磁推進の様な作用が働いてますね、それで膜表面の『空水気』を後方に押し出しているようです、その結果推力をえてあのような動きが可能になってますね」
「じゃあサアヤちゃん、私達も同じようなエーテルを纏う魔法を使えば魔物と同じように動けるのね?」
「ノリネエ、それじゃあダメよ、剣の基本は足よ、その方式だと私達もあの魚の魔物と一緒で『空水気』に浮いちゃうわ、それじゃあ
「武器を替えるのか? 俺は槍なんて持ってねえぜ?」
「ターニャは持ってるの?」
「ん……」
持ってないようだ、耳が畳まれ、尻尾が垂れ下がってる。『カナ』は持っていない、メグミが造ってないから間違いない。
「私は一応持ってるけど、中衛に回った時の支援用に作っただけで、あまり使ってないし得意でもないのよね」
「魔法自体は解析済みですから使おうと思えば私達でも直ぐに覚えれます。しかし、浮くのが厄介です、これでは戦力が大幅ダウンしますね、泳ぎながらの戦闘にも不慣れですし……」
「ねえサアヤ、こういった魔法は出来ないの? 体の周りに薄い水の膜で鎧みたいなのを作るのよ、強度は要らないわ、薄くていい、それで、その魔物の魔法と同じ電磁推進の様な作用を働かせるのよ、水の膜には動く方向に対して抵抗を少なくする、形状変化の機能を持たせるとベストね、鎧の演算処理魔法球にはまだ処理能力に余力がある筈よ、幾らか処理を割り振っても良いわ、この水の膜の中を周囲と同じ『空水気』で満たせば浮力は生じない、可成りスムーズに動けるようになるんじゃない?」
「なるほど、『水の鎧』の応用で行けそうですね、耐火炎用の魔法ですが、水の膜の様な鎧を張る筈です、これを膜を薄くして状態変化と電磁推進を組み込めば……電磁推進部分は魔物の魔法からとってきます、状態変化の部分もそこからとってきて発展させれば……少し時間をください魔法式を組み立ててみます」
その後、5度の魔物の襲撃の後、サアヤはその魔法『水機動鎧』を完成させた、直ぐ様全員が覚えて試運転をしてみる、
「良いわねこれ、少し慣性? かな、滑るような感覚が有るけど悪くないわ、大気中程じゃないけど自由に剣が振れる、踏み込みの速度も悪くない、それにこっちの方が推力が働いてるのか楽に速く移動できるわね」
「そうですね、これで『空水気』の中でも戦闘力に問題はないですね」
「ノリネエはどう? 行けそう?」
「問題ないわ、これ何だかちょっとスケートみたいで楽しいわ、あれね、昔子供の頃、滑る廊下で遊んだ様な感覚ね」
ノリコは楽しそうに止まるとちょっと滑る感覚を楽しんでいる。
「ターニャはどう? ってあんた慣れるの早いわね、ん? 壁まで滑れるの? 便利ねそれ、あっ!」
メグミ達が見守る中で壁面を滑っていたターニャは止まれずに角の水の壁に突っ込んだ、しかし何事もなかったかのように壁の向こうへ抜けて、ビックリしたのかその場でキョロキョロと左右を見回している。
「あれね、魔物と一緒でこの魔法掛けてると水の壁突き抜けれるのね、中に岩の壁も彼方此方に有るからよく見て突っ込まないとダメだけど、回り道しなくていい分、移動に便利ね」
「ターニャちゃん大丈夫かしら?」
ノリコが心配そうにターニャを見つめるが、ターニャは振り返るとこちらを見て再び水の壁に突っ込む、今度は通り抜けても平然としたものでメグミ達の元に帰ってくる。
「ん!!」
「そうね、通り抜けられたわね、濡れてないのねターニャちゃん」
「ん!」
「そう、魔法が水を弾くのね、気に入ったの?」
「ん♪」
ノリコは自分の前で嬉しそうに尻尾を振るターニャの頭を撫でる、『フローティングアーマー』のヘルメットは浮いてるため隙間から手が入る、ターニャの物は更に耳も有るためそこで分割され隙間が多い、髪も押さえつけず、非常に快適性が高い。これでも装甲を幾つに分割して重なるように浮かせている為、頭にまで届く攻撃は出来ないようになっている。隙間のおかげで視界も遮らず。バイザーを下ろせば顔面も防御できる優れモノだ。
「フム、これで結構戦えるようになったわね、けどソロソロ良い時間ね、今日は帰る?」
「そうねソロソロ夕飯の時間ね、帰って夕食にしましょう」
「ごはん!」
「そうよターニャ! お腹減ったわね」
「そこに転移魔方陣も有るし、一気に入り口に飛ぶか?」
「そうね、今から階段上って歩いて帰るのも時間が掛るわね、それに階層主もまた沸いてるでしょうし、飛んで帰るほうが良いわね、魔物討伐は今日はこの位で十分でしょう」
ノリコが方針を決めたので、メグミが号令を出す、
「じゃあ帰るわよ!」
「敵!」
「ええっ……無視して逃げれない?」
「無理!」
「距離は?」
「40メートル!」
「方向は?」
「正面!」
「種類は?」
「『カマスピア』!」
「何匹?」
「30位!」
「え? 30?」
「30位!!」
「他の冒険者に追いかけられたか? 数が少し多いな」
「他の転移魔方陣から何人か入ってるのかもね、面倒な! 自分達で始末しなさいよ」
「言っても仕方ねえ、行くぞ!」
「人魚!」
「ん? やっぱりいるのね、何処?」
「60メートル!」
「何人?」
「6人!」
「正面から6人が『カマスピア』を追いかけてくるのね?」
「結構な数を追い込んでいるわね、『カマスピア』が逃げるなんて、相当の腕なのね追い込んでいるマーメイドは」
「どちらにしても数が問題ね、『雷球陣』で動きを止めるしかないわね」
メグミはマーメイドに多少当たるかもしれないがその選択をした。
水棲魔物に雷系は弱点属性、その効果は抜群だ。しかし、此処で問題が生じる、『雷撃』は手のひらから電撃を対象に打ち込み、痺れ硬直の追加効果と敵を貫通するため使い勝手の良い魔法なのだが、この『空水気』の中では魔法を放った自分まで電撃で痺れた、空気中よりも電機の伝導率がはるかに高いのだ、その為、術者の間際から発生する雷系魔法は放てない、また範囲の広い魔法も効果範囲が広がり過ぎて見方を巻き込む恐れが多くて使えない。
この迷宮で使える雷系をなんとか探した結果見つかったのが、『雷球陣』、指定した箇所に雷球を生み出し周囲に電撃を振りまく、範囲魔法なのだが、範囲がそこまで広くなく、射程がソコソコ広いため術者への被害がない、メグミ達の持つ雷系では何とか使える魔法がこれであった。
ただし、現在のこの状態で放った場合、雷球の効果時間が長い為、後ろから迫ってくるマーメイドも巻き込む可能性が高い。しかし、相手もメグミ達の居る方向に敵を追い込んでいるのだ、ワザとでは無いのかもしれないがそこはお互い様だ、この数の『カマスピア』に突っ込んでこられれば普通の冒険者なら串刺しだろう。
「では放ちますよメグミちゃん!」
「やっちゃえサアヤ、ここは一気に痺れさせて動きを止めるわよ、前衛突撃用意!」
「マーメイドは止まるのか? このまま突っ込んでマーメイドと正面衝突は避けてえな」
「どんな人達か知らないけど、向こうの攻撃には耐えられるでしょ? こっちが当て無ければOKよ!」
「分かった!」
「放ちます! 『雷球陣』!」
10メートル先の水の壁の間際で雷球が発生する、『カマスピア』は既に止まれる距離ではない、次々と雷球の効果範囲に入って痺れていく、メグミ達前衛は、痺れて地面に落ちる『カマスピア』は無視し、雷球の範囲を逃れた『カマスピア』に狙いを定めて突撃していく。
その数右に5匹、左に6匹、右にメグミと『カナ』が突っ込み、左にタツオとターニャが突っ込む。メグミは迫る『カマスピア』に魔力をそのまま放つ、すると勢いよく進んでいた『カマスピア』の動きが突如乱れる、浮力が弱くなり、スピードがぐっと遅くなる。自由に動けなくなった『カマスピア』にメグミが先頭で切り掛かり、逃した敵は『カナ』が漏らさず仕留めていく、反対側ではタツオが魔力を放ち、ターニャがそのタツオを追い抜いて先頭で突っ込み、タツオが逃れた敵を漏らさず仕留める。
この魔力を放つ方法は魔物の魔法の解析により編み出した方法で、エーテルを包む皮膜は非常に薄く、またエーテルは魔力その物、そこに外部から別種の魔力を直接叩き込むことによって、エーテルを乱し、その魔法を乱す。サアヤが編み出したこの迷宮の魔物に特化、効果絶大の行動阻害魔法である。『害魔弾』と名付けた。
そのまま、地に落ちた痺れて動けない『カマスピア』に左右から斜めに『真空刃』を4人で放つ、ザクザクと切り刻まれる『カマスピア』、動く敵が居なくなった時、マーメイドの6人組が申し訳なさそうにメグミ達に声を掛けてくる。
「ごめんさなさい。追い込んでいたのに逸れちゃって」
「良いけど、もう少し周りに気を使ってもらいたいわね」
「本当にごめんなさい、『電撃網』が『ビックマウス』に反応して、既に発動してる箇所に追い込んじゃって後ろに抜けたのよ、もう一枚張ってあると思ってたんだけど……」
「『電撃網』?」
「設置型の魔法罠よ、そこに追い込んで一網打尽にするのよ? 貴方達ここは初めて?」
「そうよ、初心者も居るんだから纏め狩りは程々にね」
「他の冒険者が居ないから行けると思ってたんだけど、こんな奥に人が居たのね、もしかして貴方達一階から降りてきたの?」
「そうよ、今日はもう帰ろうと思ってたんだけどね、にしても良く『カマスピア』とか追い込めるわね?」
「それは、あたし達はこの階層の魔物にとっては天敵だからね、あたし達を見ただけでこの階層の魔物は逃げ出すわ」
「なるほど、数の多い少ないじゃなくて本能に従って逃げちゃうのね、貴方達にとってのターニャと同じね」
「へっ? ターニャって?」
「ん?」
「ひっっ!!!!」
ターニャに気が付いたマーメイド達は固まってしまう。顔は青ざめ、流石に『空水気』の中では汗は見えないが、大気中ならさぞ大量に汗をかいているであろう……気の毒になったメグミは、
「魔物のドロップアイテムの回収は任せるわ、私達はそこの転移魔方陣から帰るわね、じゃあね、ごめんね」
そう言ってターニャを引っ張って転移魔方陣に急ぐ、他のメンバーも転移魔方陣に乗ったらノリコが『転移魔法』を発動する。メグミは最後にマーメイドの方を見るが、まだ彼女たちは固まったままだった。
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