第63話ノーザンライトへの誘い

「結局何だったの? あのゴーレムは?」


 アキがナツオに問いかける、


「ん? ああ、あれはね、重すぎたんだ」


「それは見れば分かるわ、なんでそんなことも分からなかったの?」


「まあ色々理由はあるさ。

 一つ、迷宮の床は普通の土だ、魔樹を生やさないとダメだからね。だからまあ柔らかいんだ。

 一つ、『ツリー』の触手、根っこだね、あれの所為で、あの部屋の床は他の場所にもまして緩かった。あれが暴れたおかげで床がグヅグヅだったんだ、耕されたみたいなものだろ? 結構根も深かったんだろうね、可成りの深さにわたって緩い地面が出来上がっていた。

 一つ、恐らくあのゴーレムを造った場所はあの重量に耐えれるように、頑丈に造られてた。石畳かコンクリート且つ、頑丈な岩盤が下にあったんじゃないかな?だから緩い地盤での運用に対する問題を見逃したんだね。

 一つ、あのゴーレムの形状だがね、上半身が極端に大きい、それに比べて下半身が貧弱だ。あの重量を支えるなら、圧力を分散させる足裏の面積が少なすぎる。あの攻撃方法、上半身を回転させて駒の様にってのは分かるんだけどね。確かに強力な攻撃だ、魔法の補助でバランスもとっているみたいだし、ある程度は重量軽減も行っているみたいだ、けどこの攻撃方法を行うなら足場がしっかりしてないとね、まああの重量を振り回すんだ、支えきれないから、駒の様に回転させる方法を選んだと思うけど。今回は足場が悪すぎたね。

 一つ、センサー類が少なすぎだ。防御優先で壊れやすいセンサーを守りやすいところだけに配置したんだろうけど、運用が悪すぎたね。恐らく本来はタツオ君が破壊した魔道具と一緒に運用する方法だったんだろうね。外部からゴーレムの状態をモニターして遠隔で命令を与える運用だったんだ思うよ。けどそれを破壊されて、あのゴーレムを単体で送り込んでしまった。だからゴーレムの状況が把握できなかった。せめて命令者が一緒に来て居ればね……

 一つ、制御系の問題なのか、自立制御がほとんどなされていない。姿勢制御はオートだったみたいだし、攻撃や動きに関するフィードバックは行われて、コマンドに対して調整も行われていたみたいだけど、それだけだね。まあほぼ金属の塊だ、細かい制御もダメージコントロールも必要ないんだろう。使用者が観察して、それに対応するコマンドを出す方式だったんだろうけど。さっきも言ったけど、その観察が出来ていない。あれじゃあどうしようもないね。

 一つ、そんな状態で『ラビット』に回転攻撃してしまった。あれには驚いたね。まるでドライバーで回されるネジだ、見る見る地面に食い込んでいったね。笑いを堪えるのに苦労したよ」


「あれには本当に笑いましたね。にしてもあれだけ地面に食い込んでいるのに気が付かなかったでしょうか? 普通視線の位置が変わったら気が付きそうなものですけど」


 タイチが問いかけると、


「まあモニター越しだし、こっちは色々な人が話しかけたからね、恐らく話しかけた人にズームしたりしてたんだと思うな。そうすると、話してる人間をズームアップ、そして他の人が話すとズームアウトして又その人にズームアップ。それを繰り返していたから、視線の位置の変化に気が付かなかったんだろうね。

 あれだけ埋まってもそれでもあの高さだ。見下ろしている人間ってのは見下ろしているってだけでその位置の変化には疎いんだろう、見下ろしていることに変わりはないからね」


 ナツオが見解を述べる。


「ちょっといいかいメグミちゃん、『カナ』の重量って幾つ位なんだい?」


 コウイチがメグミに尋ねる、


「ええぇ、コウイチ先輩、女性に体重を聞くんですか?」


「ちょ、ちょっと待ってくれるかな? ねえ『カナ』のだよ? メグミちゃんの体重を聞いてるわけじゃないよ? それにこれは学術的な、技術的な興味として聞いているんだよ?」


「冗談ですよ、そんなに必死で言い訳しなくてもわかってますよ。確か今で70キロは無かったはずです。骨格に金属も使用してますが、靭性を持たせるのに色々混ぜてますし、可成りの高級金属を師匠が分けてくれたみたいで、細くても十分な強度が保てています」


「かなり軽いね、それであの筋力を支えられるとは……ちなみに使った金属はなんだい?」


「ヒヒイロカネにアダマンタイトを使用箇所に合わせて使い分けてます、なんちゃらドラゴンの骨なんかも混ぜて使ってますから、人よりは重いですが、人の骨格の数十倍の強度が有りますよ。

 魔力や気力で強化すると燃費が悪くなるけど、ルーンと魔方陣、魔法回路もミッチリ組み込んで、自己修復、自己再生、自己進化、それに強度アップと重量軽減も組み込んでます。やっぱり骨格は後から改良が難しいですからね、その辺手は抜いてませんよ」


「………うん、まあ、ね、何となく凄いんだろうなあと思ってたけど、想像を絶するね」


「この街の師匠連中は正気だろうか? コウイチ君落ち込むことは無いよ。呆れて口が塞がらないね、なんて素材を渡してるんだ、それによくその素材を加工出来たね? 普通の鍛冶師には手が出せない素材だよ? 加工したのは師匠達かい?」


 真っ青な顔のコウイチをナツオが慰めながらメグミに質問する。


「師匠に教えてもらって自分で加工しました。難しかったけど、こう? コツ見たいなものが分かってからは割と思い通りにできましたね。

 魔鋼なんかより魔力が込めやすいんですよ、凄く細かく加工できるんで気に入ったんですけど、『カナ』で使い切っちゃって、あんまり多くは分けてくれなかったんで。もうちょっとあれば太刀とかも造れたのに……」


「ナツオ先輩、メグミちゃん『カナ』製作中に『神匠』を獲得してますから、加工できない金属は無いですわ」


 サアヤがフォローすると、


「あれはそんなに簡単に……まあ今更か、今度僕の魔道具の金属加工もお願いしようかな」


「恐ろしい執念だって言ってましたよ師匠達も、努力って言って欲しいですよね。なんか『カナ』に怨念がこもってそうじゃないですか、執念だと。

 私に出来ることなら加工もお受けしますよ、ただ師匠には『職能』は手に入れたけど、腕はまだまだだって言われてますよ?」


「いやそもそもその『職能』を手に入れるのが大変なんだよ、『神匠』持ちってだけで十分なんだよ。色々素材は僕も貯めこんでいるからね、今度依頼を出すよ」


「あの……僕も良いかな? 加工できない素材が結構あってね、修行はしてるんだけどね僕も。出来ることや設計は僕もするから協力お願いできるかな? メグミちゃん」


「良いですよ、コウイチ先輩、ただ迷宮にも潜るので、連絡ください、スケジュールを合わせましょう」


「ナツオ先輩もコウイチ先輩も余りメグミちゃんに変な研究の手伝いはさせないで下さいね? 一応メグミちゃん、師匠達にシッカリ監視するように言われてますから。師匠達も経験少ないのに変な『職能』一杯持ってるから、失敗して大事になりそうなので心配してるんですよ。

 だったら最初から余り変な事を教えなければ良いですけどね、師匠達も面白がって色々教えるからどんどんメグミちゃんが人外になって行きます」


「ノリネエそれ酷くない? それにノリネエも『カナ』の製作で変な制作系の職能獲得したじゃん」


「私のは制御系と、宝珠作成系だけよ、危なくはないと思う、思うんだけどどうなのかしら?」


「私も今回色々獲得しちゃったからあれですけど、ノリコお姉さまも、十分危ないですよ、私達のもね。師匠達の監視対象には私たち二人も入ってると思いますわ」


「ねえ、あなた達、あのゴーレムより『カナ』に興味が有るのは分かるけど、あのゴーレム如何するの? このまま冒険者ギルドに報告するだけで良いの?」


 アキが呆れたように聞いてくる、エミは、


「アレ、危険はないの? そもそもずっとあの場所にあるのかしら? あの人達回収とかしないのかな? 一応なにか対策して早めに破壊して置いた方が良くないかしら? あれ石畳の街中で暴れられると厄介よ」


「ああ、その点は心配ないと思うよ、あの状態では回収は無理だろうね、なにせあの重量だ、掘り起こすのも一仕事だよ、それに地面に埋まっていては転送魔法陣も使えない。多分あのままあそこに放置かな? 

 まあ人を送り込んでプログラムを修正して自力で抜け出させて回収って方法もあるだろうけど、果たして、警護を付けて技術者を送り込んでと大人数で乗り込んでくるかな? 監視の魔法装置は置いてきてるから、対策本部ではモニターしてるだろうし、そんなことをすれば袋のネズミで大助かりだけどねこっちは。」


「あの場に放置って、あのゴーレムいつまで動くのよ? 黄金林檎果肉は人気のドロップアイテムよ? あの部屋に入った他の冒険者が危険じゃない? まあ上半身しか動かないだろうけど、攻撃範囲内に入った物を自動攻撃とか命令してそうじゃない?」


「魔力切れか……それは多分期待できないね、自動で周囲の魔力を補充する機構はゴーレムの基本だからね。大暴れさせれば一時的に魔力切れで休止状態にはなるだろうけど、その状態で魔力を自動で補充して、又動き出すだろうね。

 まあ早めに何か対策を考えるよ、あの場に放置しておくと延々『ゴールデンアップルラビット』を倒してその場に魔結晶が放置される、魔物に食べられることはないだろうけど、あのゴーレムになにか影響が出るかもしれない。それに黄金林檎果肉が取れなくなるのも問題だしね。あのドロップアイテムがあそこで腐るのは避けたいね、後の処理が大変そうだ」


「お願いね、ってそうだ忘れるところだった、ナツオ、私忘れてないわよ、早く渡しなさい! オークの所に連れて行くわよ!」


「ねえメグミちゃん見てごらん、もう魔素樹が生えそろってるよ、凄いねえ、この生命力、自然の驚異だねえ」


「そうですねえ、あんなに傷ついてたのに、もうすっかり元通りですね」


「なあ早く帰ろうぜ、おれ少し腹が減ったよ、結局『ラビット』狩り出来なかったからちょっと早いけどこれから打ち上げとか如何だ?」


 ヒトシが言えば、


「お! リーダーが今日初めて良い事言った! いいね打ち上げ!」


 シンイチが賛同する。


「ああ、でもメグミちゃん達は未成年だっけ? まあツマミの美味しい店紹介するから、食べるだけでも付き合わないか?」


 レンがメグミ達を誘う。


「そうだよ折角知り合ったんだ、親交を深めるのも良いじゃないか? 僕ももうちょっと『カナ』の話を聞きたいな、コウイチだってそうだろ?」


「ああそうだなタイチ、是非聞きたいな、それにこっちの開発中の魔道具の話もしたいな、手伝って欲しいしね」


「そういやあ、メグミ達はどこにも所属しないのか? なあナツオさん、メグミ達をうちに誘ったらどうだ? 別に『ノーザンライト』には会合の時だけきたって良いんだ、その時は連絡するし」


「え? 『北極星』って私達最低でも5人いますよ? そんな大人数のパーティっていいんですか?」


「ああ、メグミちゃん勘違いしてるね、ヒトシ達『暁』は此処に居るメンバーだけのパーティ名だけどね。僕たち『北極星』はギルド名なんだよ、パーティ名もギルドマスターのアキがいるから『北極星』だけどね。

 僕たち『北極星』は今総勢21人、後進の育成もしてるからね、君たちが良ければおいでよ。ねえ、アキも良いだろ?」


「そうね、私も誘おうと思ってたから構わないわよ、とゆうかメグミちゃん達には誰か監視役じゃあないけど誰か先輩が付いているべきよ、このまま放置は不味いと思うのよね」


「アキさんそれなら『暁』で面倒見ても良いんだぜ? 俺達も別にギルドにしても2パーティでやって行っても良いんだ、抜け駆けはズルいぜ?」


「ヒトシ君、それは無理よ、あなた達『暁』は男ばかりじゃない、アカリちゃんやカグヤちゃんはサキュバスなのよ? それも少し2人とも特殊みたいだし、『北極星』なら女性メンバーも多いし、女性だけでパーティが組めるわ。

 あなた達は他の女の子の後進の面倒を見てあげなさい、育成初心者にメグミちゃん達は荷が重いわよ。後進の育成も中級冒険者の義務よ。早めに経験を積まないからこういった時に不利になるのよ」


「くっ、折角の女性メンバーが、けどよアキさん、一応俺達もオーク狩りとかで他の初心者パーティーの面倒を見てんだぜ? 全くの素人ってわけじゃあねえよ?」


「それは男の子でしょ? 女の子は色々違うのよ、アツヒトにも話をしてあげるから、女の子の冒険者の引率も経験しなさい。そうすればあなた達のパーティに入ってくれる女の子も見つかるわよ」


「そうなのか? うーーん、そうなのかもな、まあ女の子冒険者の引率の話は頼みます、そりゃもう最優先で是非」


「アキーーーッ!! 何誤魔化されて話に乗ってるのよ! もっと重要なことが有るでしょ?」


「けどエミこっちも重要よ? このままメグミちゃん達を放置するつもり? 私はあのゴーレムよりもよっぽど心配よ、今回私達がここに組み入れられたのも多分意味が有るわよ? アツヒトはああ見えて仕事は出来るもの、私達にメグミちゃん達を見せたかったんだと思うわ。その位は考えてるわよあの男は、もしかすると受付嬢候補としての選抜も考えられるけど、流石に経験が足らなさ過ぎるわ。エミ達と私達なら多分私達に面倒を見る様に促したと考えられるわ。

 ねえ、ナツオはどう思う? 私の考え過ぎかな?」


「多分アキの考えで間違いはないよ、アツヒトならその位はするだろね、うちはこの間何人か新人が独立して、育成の経験者の手が余ってるのも把握してるだろうし、多分間違いないね」


「まあそうね、『北極星』に入れば『ノーザンライト』にも来るだろうし、そうなったときの此方の冒険者ギルドとの顔合わせも兼ねているのかもね、けどうちで引き取っても良いわよ? うちの副組合長も後進の育成には熱心だし、直ぐに受付嬢は無理かもしれないけど、育てることは可能よ?」


「心配なのはわかるけど、いきなり組織に組み込むのはやり過ぎじゃないかなあ、メグミちゃん達も息苦しいと思うよそれだと、それにコノミさんはスパルタの上に堅物だろからね、ちょっと可哀そうだよ」


「あのーー、諸先輩方、私達の意志は? 私達こっちに家も有るし、のんびりこっちでもうちょっとやっていきたいんですけど……」


「そうね、先輩方の心配も良く分かります、けれどメグミちゃんの意見に私も賛成です、此処には師匠達も居ますし、アイ様やヤヨイ様も何かと気を掛けてくれています。

 申し出は大変ありがたいのですけど、出来れば自分達でやって行こうと思うのですけどダメでしょうか?」


「先輩たちに手を引いて頂くのも良いのかもしれませんが、自分達で色々手探りでやっていくのも……何でしょう、冒険してるって感じがして面白いのです、ワクワク感とでもいうのでしょうか? 私ももう少し自分達で色々試してみたいと思います。大変申し訳ありませんが……」


 メグミ、ノリコ、サアヤが自分たちの思いを訴える、


「そう? 残念ね、でも無理強いはしないわ、そうねあなた達はまだ初心者期間なのよね、つい忘れそうになるけどまだ『青銅』ですらないんですものね、分かりました、今回は諦めます。

 けど忘れないでね、『北極星』はあなた達を何時でも歓迎します。それに何かあったら私達でなくてもいいから直ぐに先輩達を頼りなさい、あなた達は下手に能力が高すぎるから、自分達だけで解決しようとして無理しそうで心配だわ」


 アキは笑顔で告げる。


「そうね、仕方ないわね、周りも気にしているみたいだし、何時までもこのままではないと思うけど、今は今を楽しみなさい。『ノーザンライト』に来たら必ず私達の所にも来るのよ? 良いわね!

 あと、無茶はしちゃだめよ? 私の方からも少しアツヒトに相談してみるけど、無茶したら強制的に私達の所に来てもらうからね」


 エミは微笑まがらも釘をさすのを忘れない、


「ほら、転移魔方陣に着いたよ、その話はこれまでだね、まあ今日は打ち上げで親交を温めようじゃないか? 楽しもう!」


「あっ、コラ!! ナツオ忘れてないわよ!! ああ、逃げた!!」 

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