第62話『タイラント2000』
「おおスゲーな、ロボットか?」
「何聞いてるのよ、タツオ、アイアンゴーレムだって言ってるじゃない?」
「いやそう言う意味じゃねえよ、見た目がロボットみてえだって言ってるんだよ」
メグミとタツオが言い合っていると、
「クハハハハハッ!!! どうだ凄かろう!!! これなら簡単には壊せまい!! 観よっ!! この逞しい鋼鉄のボディ!! 圧倒的ではないか!! ハハハ! アハハハハハハハハ!!」
「確かにこれは凄い、まさにゴーレム、ザ・ゴーレムって感じだねえ」
そう言って声のする頭部らしき所を見てからその足元をみるナツオ。
「確かにこの重量感、凄まじいですね、コレ腕とか飛ぶんですか? どんなギミックが隠されてるんですか?」
同じく上を見てから足元を見るコウイチ。
「馬鹿めっ!! この巨体、この防御力、攻撃力に下手な小細工など必要ないわ!! この圧倒的な剛腕で全てを粉砕するのだ!!」
「確かに圧倒的な上半身のボリュームですねえ、これオートバランサーとかどうなってるんだろ? 腕も太くてデカい、あれ? 指が付いてる、この手で物まで掴めるんですか?」
その手の長いゴリラの様なスタイル、頭に当たる部分はその巨体に比して極端に小さい。タイチも同じく上を見てから足元を見る。
「フンっ! 我らの圧倒的な技術力はその精細な制御すら可能としてるのだ!! 現場にある岩などを投げ飛ばし、遠距離攻撃力も手に入れた我が『タイラント2000』に死角はないわ!! 恐ろしかろう! 怯えろ! 竦め! そしてそのまま死んで行け!!」
すると、その『タイラント2000』の横に『ゴールデンアップル』が見る見るうちに生えて来る。生えると同時に、その巨体と比べても小さくない大きな林檎が六つに分割され、『ゴールデンアップルラビット』が『タイラント2000』に襲い掛かる。
「クハハハハッ、この役立たずの魔物が、この我に牙迄剥くか!! やれ『タイラント2000』粉砕しろ!!」
グガガガガガンッ!!
『タイラント2000』の上半身が回転し、そのドラム缶よりも太い腕が振り回されると『ゴールデンアップルラビット』が冗談のように、粘土細工のように砕け散り、粉砕されていく。
「クウウハハハハハッ!! 貧弱!! 脆弱!! 弱すぎるわ!! アーーーハハハハ!!」
「これ中身、金属の塊? 中空じゃないのね? 何トンあるのよこれ」
メグミも同じく上を見てから足元を見る。
「愚か者め、愚鈍な貴様らに教えてやるわ!! 我が『タイラント2000』は50トンだ!! この重量を止められるか? ドラゴンだろうが不可能だ!! クハハハハッ!!」
「あの重量じゃないなら2000はどこに掛かってるですか? タイラントは確か『暴君』って意味ですよね?」
「サアヤ博識ね、そんな意味なの?」
「ほう、貴様分かっとるではないか!! そうこの『タイラント』は『暴君』、そして2000の意味は型番だ!!」
「え?? 2000体も造ったのですか?」
驚くサアヤに、
「愚か者!! このような高度なゴーレムを2000体も製作できるわけが無かろうが!! シリアルナンバーではない!! 型番だといっておるだろうが!! 試作型の『タイラント100』から始まり、完成型10体目の『タイラント1000』、その2番機として製作されたのがこの『タイラント2000』だ!!」
「なんで『タイラント12』じゃないの?」
メグミが不思議そうに聞くと、
「馬鹿め!! 型番と言うものは試作やら改良やらで末尾を色々変えるものなのだ! 『タイラント1000』にしたところで1013とか101Bとかバリエーションが有るのだ!! これだから素人はダメなんだ、特に女はいかんな、このロマンが分からん!!」
「貴方は誰です? このような巨大兵器で何をする
アキが問うと、ゴーレムの頭で赤い宝玉が光る、
「フン、どうせ死ぬ貴様らが知る必要は無いわ!」
「なあ冥途の土産に教えてくれねえか? 良いじゃねえかどうせ死ぬんだろ? その位サービスしてくれても罰は当たらねえだろ」
タツオが聞きながら上を見てから足元を見る。
「ほう、我が壮大な計画が気になるか!! 良かろう、死に行くものへの手向けだ、教えてやろうではないか! そもそも貴様らは冒険者が何人年間に死亡しているのか把握しているのか?!!」
「知らないわね? 何人くらいかしら? 5街地域限定でも確認が取れた死亡者で8人位かしら? 行方不明者はもう少し多くて10人位だったと思うわ」
エミが思い出しながら答える。
「愚か者、これだから最近の若い冒険者はダメなんだ! こんなことも知らずに冒険者などとは。全く嘆かわしい、去年一年で冒険者の死亡者はこの全世界で3526人だ! この忌々しいセーブポイントを備えるこの地域限定でも19人だ!! この位『神』に聞いて把握しておけ!!
この数字は迷宮で死んだ冒険者の数だけだ! その他の場所で死んだ冒険者の数を足せばもっと増える。わかるか? それだけの犠牲の上に我々の社会は成り立っているのだ! この地域では『復活の首飾り』か? フンッ、そんなものはまやかしだ! 転移魔法の利かない場所、部屋が幾つ迷宮に存在していると思っている?」
「確かに『復活の首飾り』は転移阻害のある場所では無力だわ。それに転移阻害する魔物も居るのは把握しています。しかし劇的に死亡率が減ったことも事実よ」
「愚かな! だからこの地域の人間はダメなのだ! 死亡者がいるのだ! 現前としてそこに犠牲者が要るのだ! それを無視するのか? この地域が良ければその他の地域の3507人はそのままでいいのか? なんという傲慢、なんという怠惰!!」
「私達はこのシステムを独占しているわけじゃなわ。他の国にも公開しているし、システムの普及にも協力しているわよ。それで犠牲者が減った国もあるわ」
「ほう! このシステムには蘇生が出来る高位の神官を多く備えねばならん。ではそれの出来ない国は! 地域はどうする? 高位の神官を揃えれる大国だけが得をするシステムか?」
「だから? 貴方にはほかに方法が有るとでもいうの? それにあなた達のやっていることは何? この地域で人を殺したり、魔物改造することが何に成るの?」
アキが問えば、
「ふふふふふっ、はははははははっ、だから貴様らは愚かなのだ! 貴様らがのほほんと
だから我らはその勘違いを正すのだ! このままでいいわけが有るまい、このままではこの世界には救いが無いではないか!! この世界には神が居るのだ! そこに実際に存在し、会話すらできるのだ! 知っているか? この異世界から元の世界に戻ることは出来るのだ! 神々はその可能性を! それを否定しない! 知っているのだ神々は! その方法を!」
「何? あなた達は元の世界に戻る、その為に何かしてると?」
「馬鹿め!! 神が望んだからこの世界に我等は居るのだ!! 神はこの世界を救う事を我らに望んでいるのだ! それを成さずに元の世界に帰るだと? 愚かにもほどが有ろう!!」
「なら、何がしたいのよあなた達は!」
「ここまで聞いてもわからんのか? 救えば良いのだ! この異世界を救えば! 何の憂いもなく試練を果たして元の世界に帰れるのだ! それだけの事なのだ! 何故それを成そうとしない!」
「救う? どうやって? 何をもって救えたことに成るのよ?」
「魔物も魔族も迷宮も滅ぼし尽くせばよい! 悪なのだ、あのような物が存在して良い筈が有るまい! その為の『恩恵』なのだ! 良いか神々は救わないのではない、救えないのだ! その力が不足しているのだ我が唯一神もそう言っている。ならばその力に我らが成ればよいのだ、その力の一助となり世界を救うのだ!」
「貴方だって知っているでしょう? 『勇者』が『大魔王』を滅ぼした結果を! そんなことをしても世界は救えないわ、悪化するだけよ!」
「フハハハハ、だから愚かなのだ!
わからんか? 古代帝国に於いては魔族の力が必要が無かったのだ! 負の感情も瘴気も、処理できるのだ! 魔物が狂化する? ならば狂化した魔物を支配して魔物を滅ぼせばよい。魔族など勇者で駆逐すればよい。良いか? 不可能ではないのだ! 可能なのだ! ならばそれを成すのに何を躊躇う、世界が救えるのだ! 我らが救うのだ!!」
「ふん、言いたいことはそれだけ? それが目的? そしてその手段が今までの行いだったと?」
メグミが低い声で確認する。
「そうだ! 貴様らは邪魔なのだ! 世界を救う邪魔にしかなっておらん。いい加減目を覚ますのだな! いつまで我らの手を煩わせるのだ、『復活の首飾り』? 幻想だ! そんなものは我らでさえ阻害できる程度の物だ!
貴様らのそのふざけた文化が、その力が世界に幻想を抱かせる。魔物とは! 魔族とは! 迷宮とは! 共存できんのだ! あれは悪だ! 存在してはいけない物だ!」
「ハッ、偉そうに言ってその程度なの? 負の感情が、瘴気がコントロールできる?
幻想ね! それこそ幻想よ! そんな下らないことの為にあの子たちを襲ったの? 私達に襲い掛かったの? 私の大好きなこの子達を殺そうとしたの? 私達が邪魔? 良いわね、私もあなたが邪魔よ! あなたの存在が邪魔だわ! 良い? 私は私の好きな子を守る! 世界なんて滅ばなければその程度で良いのよ。私は私の好きな人、大事な人が守れればそれでいいわ。
魔物が居なくなろうが、魔族が居なくなろうが、迷宮が無くなろうが、世界なんて救えるわけないでしょ? あなたあっちの世界から来たんでしょ? ならわかるでしょ? あの世界は救われてたの?
毎年何万人、何十万人が飢餓と戦争で死んで行くあの世界は救われてたの? なら随分と酷い楽園ね、生まれたばかりの子供たちを何千人も殺す。その犠牲の上に成り立った楽園? 冗談じゃないわね。
そうねこの世界にもお前の様な人間が居る、人の数だけ正義がある。どんな世界でも戦いは起こる、どこまでも愚かなのが人間よね。けどね私は案外この世界が気に入ってるのよ。
カナデが居ない、その一点を除けば割と好きよ? 私の手でも救える人が居る、私の手で届く範囲が広いの。だからあなたを殺すわ! 私は私の正しいと思ったことをする。その私の正しさではあなたは悪よ」
「小娘が! 愚かな異端者め! 貴様の言動のどこに正義が有る! 自分の我儘を、欲望を果たしているだけではないか! 貴様は狂っている! 貴様は既に狂っているぞ」
「黙れ!! 貴様などの意見など聞いてはいない! わたしが狂っている? ああ、その通りだ! わたしは狂っている! ならばどうする? 貴様に何が出来る、自分の身一つ私の前に晒さない貴様に何が出来る! 良いか? 自分たちの周りで先ず為さず、意見の違うものを認めない。随分と小物だなあ! 正しいと思うのであれば先ず救って見せろ!
貴様は何をしている? その方法で貴様の言う小国を救って見せたのか? お前のやってるのはこの地域への嫌がらせだけだろうが! それで世界を救う? 笑わせるな! 犠牲が許せない? それでこの地域の人間を襲って殺す? それは犠牲ではないのか? それとも偉そうに平等を説いて、
「こ、こ、こ、この小娘が!! 黙って聞いていればよく動く口ではないか!! ふ、ふ、ふははははははははは! そうであったわ貴様たちとは相容れない、フン、そんなことは分かっていたわ。ここで望み通り殺してくれるわ」
アキがノリコに、
「ねえ、メグミちゃん完全に口調が変わってるわよ? それに雰囲気まで変よ? どうなってるの?」
「メグミちゃんは元々あんなですよ? 普段が猫かぶってるだけです。それにしてもメグミちゃんはどこまで狂っても正しさ、心の正しさはだけは変わりませんね。あんなに狂っているのに………」
エミが訝し気に、
「ちょっと待って、メグミちゃんって大丈夫なの? あの一見正しそうなことを言ってる狂信者のおっさんよりヤバそうな匂いがするわ」
サアヤは、
「エミさんはメグミちゃんの意見にはついていけませんか? 私はそれでも、自分一人でもメグミちゃんに付きますわ。たとえ世界を敵に回してもメグミちゃんは私達を守ってくれますよ。
たとえどんなに狂っても、その守る基準には変わりが無いんです。だから私も世界が敵に回ってもメグミちゃんを守ります。私はどうしても嫌いになれないんです、普段があんなでもね」
タツオはそんなメグミを見ながら、
「そうか、あれがメグミか、ふん、そうだなあれがメグミだよな」
「嫌いになりましたか? サアヤちゃんも一人でもメグミちゃんについていくなんて、
「あんたも覚悟してるのか、そうだよな、ああアイツはおかしい、狂ってる、けど正しい。世界があいつを殺すなら、先に俺が世界を滅ぼしてやるよ」
「あなた達は本当に物騒です、けどそうね、アイツらは確実に敵に成るのですものね。私も混ぜてくださいね。私はメグミちゃんじゃなくて、メグミちゃんの隣で戦うタツオ君を守るわ」
「ワタクシは、カグヤは最初からメグミ先輩だけですわよ。ふふん、私はどこまでメグミ先輩が
ノリコの横に来た『カナ』がじっとメグミを見つめる。
「そうしたの『カナ』? あなたの倫理規範ではあのメグミちゃんはダメなの?」
《サブマスターノリコ、私はマスターメグミの為だけに存在します。他に存在理由は有りません、完全に破壊され活動停止するまでマイマスターに仕えます。マイマスター以外にマスターは存在しません》
「そうね、あなたも好きなのよね。私達が死んでもあなただけはメグミちゃんの傍に居てあげてね。お願いよ……」
「本当に物騒だな、ノリコさん、あんただってそうは死なねえだろ。なに縁起でもねえこと言ってんだ」
「そうねタツオ君なら最後まで生きて傍に居れそうよね、けど私は……無理でしょうね。あなたはメグミちゃんの領域に手が届く、けど私達は無理なのよ。メグミちゃんは命がけで守るでしょう、けどメグミちゃんに比べて私達は脆すぎる。どんなに頑張っても流れ弾一つで死ぬわ、だから『カナ』が必要なのよ」
「なあ? あんた何を知ってるんだ?」
「何も知らないわよ? 警告されているだけ、それだって確実じゃないわ。でも備えるのは当然でしょ? 私は私の心に従うの、そして私の心はメグミちゃんの心の正しさがとても好きなの。それだけよ?」
ナツオがそんなことを話しているノリコとタツオに、
「ねえ君達、何を深刻そうに話しているんだい? それより敵の目的も方法も分かったんだ。そろそろ帰ろうじゃないか? メグミちゃんの言ってることは極端だけどね、でも嫌いじゃないよ僕もね。あの狂信者共よりは余程説得力がある。
なにせあの馬鹿共は口だけだ。絵空事に付き合う気はないよみんなね、これでも全員中級だからね。だれもあんな狂信者に騙されはしないよ」
「フアハハハハハハハハッ! 意見は纏まったか、では全員この場で死を選ぶんだな! 良かろう、そこの狂った小娘共々殺してやるわ!!」
「ああ、そう言うの間に合ってます、アキ、エミ、そろそろ戻ろう、ヒトシも良いよね?」
「おう、こっちは何も問題ねえ! なるほど今度の馬鹿はこんな奴らか! 全く、自分の足元をよく見ろってんだ、先ず隗より始めよだっけ? 妄想垂れ流してねえで先ずどこかで実績つくれよ、おっさん」
「そうね、一度戻って報告ね、けどナツオ私忘れてませんからね?」
「絶対に逃がさないわよ、アキ良いわね、サオリ、良く見張っておいてね」
全員が移動を始める、階層主の部屋の外周に沿って部屋から出て行こうとする。
「馬鹿め!! 逃がすと思うのか!! 殺してやるぞ!! この愚か者が!! フハハハハハハハハハハーーー!!」
「アハハハ! どうやって? おじさん面白過ぎだよ? さっきから皆言ってるじゃないか? 先ず自分の足元を見なよ? ねえそのゴーレム随分立派な施設で開発したんだねえ。全く実戦テストもしてない様な物を持ち込んじゃあだめだよ」
タイチが軽い口調でいう。
「何を言っている! 何のことだ? まあ良い、行け『タイラント2000』!! 皆殺しにしろ!!
…………………………………………
どうした? 何故動かん! 貴様ら何をした!! 己卑怯な! 我との会話の最中に何かしたな!!」
地面にめり込んだ『タイラント2000』の攻撃範囲外を悠々と歩いて部屋の入り口に辿り着いたメグミは、
「だからあんたはピエロなのよ! その程度の技術力で負の感情・瘴気のコントロール? 馬鹿も休み休み言うのね」
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