第61話刀折れ矢尽きる

 メグミが『カナ』を緊縛術の練習台にしようとしたらアキとエミに止められた。メグミはそれに食って掛かる、


「なんでダメなんですか? 折角練習台に召喚したんですよ?」


「ダメに決まってるでしょ? 何のために貴方の縄を解いたと思ってるの? 男共にご褒美でもあげたいの? これ以上風紀を乱す行為認められません!!」


 エミが指を突き付けて説得する。


「でも私はその風紀を乱す行為をされたんですよ? それをしたのはエミさん達じゃないですか! エミさん達はOKで私はダメなんですか? それに『カナ』は人間じゃありません! あくまでもゴーレム! だから良いじゃないですか!!」


 頭を抱えながらエミは、


「やり過ぎたと反省してるんです、少し頭に血が上っていました。誰であろうと認められる行為ではなかったわ、貴方にも謝罪します。ごめんなさい! だからもう止めましょう! この話は終わりよ、良いわね!」


 頭を下げ謝罪し、終了を宣言する。


「メグミちゃん、貴方、『カナ』には意思が有ると言ったじゃない? 自分で言ったのよ? そんな『カナ』を道具扱いするの? ダメよメグミちゃん、意志、心を蔑ろにしてはダメ! あなただって分かってるんでしょ? 先の行為は私も謝ります、ごめんなさい。 だからもう止めましょうね」


 アキもメグミに頭を下げ、懇願する、


「今回はメグミちゃんの負けよ、諦めなさい。それにメグミちゃんだって『カナ』の事をゴーレムだなんて思ってないでしょ? 自分の欲望を優先して、心にもないことを言うのはダメよ! 反省しなさい! これ以上『カナ』に酷いこと言うのは許しませんよ!」


 ノリコにまで怒られると、流石に不満そうな顔は出来てもメグミにはそれ以上抵抗できなかった。


「ううぅ、『カナ』ごめんね、あなたは私の娘よ! ちょっと欲望が暴走しちゃったわ……おうちに帰ったら続きしましょうね」


《イエス、マイマスター》


「あれ? メグミ先輩、『カナ』って娘扱い何ですか? てっきり恋人替わりなんだと思ってましたわ」


「何言ってんのカグヤ? 『カナ』は『カナ』よ? カナデじゃないわ。私だってそれ位の区別がつく位の正気は残ってるわよ?」


「そうなんですね、ごめんなさい、メグミ先輩、失礼な事言って……」


 するとサアヤが小声で、


「カグヤちゃん、謝るのはまだ早いですわ。

 ねえ、メグミちゃん、『カナ』は誰との間の娘ですの?」


そうメグミに尋ねる、


「やあねえサアヤ何言ってるの? 私とカナデとの間の娘に決まってるじゃない? 如何したどうしたの? 忘れちゃったの?」


「いえ、忘れてませんわ、ただの確認です。ふぅー、分かりましたか? カグヤちゃん」


 溜息をついて後半部分はカグヤにだけ聞こえるように小声で言う。


「ええ、良く分かりましたわ、そうなのね、本当にギリギリなのですわね」


「これ以上はね……でも少しは良くなったのよ? メグミちゃん『カナ』を造るのにどれだけ地下室に籠ってたと思って? 倒れるまで徹夜して造ってたのよ? 取り憑かれた様でしたからね……」


 ノリコも嬉しそうに『カナ』の手を取って撫でているメグミを見つめて呟く。


「にしても凄いねえ、『カナ』か……正に狂気の産物だね。この造形と、自然に動く表情、自然な綺麗な発音の言葉、そしてこの質感。夢のロボット、アンドロイド、人工生命体か……こんな夢の様なものに出会えるから、この異世界は面白い! 日本に居る時には、自分が生きてる間には実現不可能だろうと思ってたよ」


 ナツオが『カナ』を見ながら呟く、


「ハハハ、ほんとに自身が自分の中の常識が音を立てて崩れますよね。これを造ったのが16歳の少女ですよ? もうね、バカげてる、夢だったほうが何倍もマシです。この一部でも再現できる気がしない、自分の才能の無さに絶望しますよ。ブログラムを弄って、魔方陣を改良して、魔法回路を改造して! この世界の魔道具を発展させてきた気がしてたんですけどね。その小さなプライドを粉々に打ち砕く物が目の前で動いて喋ってる」


 コウイチは蹲ってうずくまって顔だけ上げて『カナ』を見ながら力なく呟く、


「コウイチ、凹みすぎだよ、アプローチが、方法がまるで違うじゃないか? 君が目指してた物とは違うだろ? 君は君の目指す方向に進めばいいじゃないか?」


 そんなコウイチの肩に手を置きながらタイチが明るく励ますが、


「違うんだよタイチ、コロンブスの卵なんだ、メグミちゃんのやったことはね。僕は日本人の発想、日本の技術の上にこの世界の技術を乗せて発展させようとしてた。けどそんな物は如何でも良かったんだよ。

 この世界独自の法則、方法……それすら無視して、只管に、求める形を目指して当てはめる。ありとあらゆる不都合を! 細かい事を! 一切合切を無視して強引に結果を求める! その発想力、その想像力が僕には圧倒的に足りない。まさか制御の細かいところを全て『精霊』に丸投げとはね。無機物に生命体を組み込んで制御させて更に自分で学習させて最適化していく。僕には思いも付かなかった……」


「コウイチ君は真面目だねえ? 最初の一人、天才は確かに偉大だよ。でも元々日本人はその分野は苦手だろ?その天才の生み出した技術を洗練し、発展させ、応用する。それが、その努力が凡人を秀才に変えるんじゃないかな? それが日本人の最も得意な分野だろ?

 僕だって今回は可成り凹んだよ、天才が目の前にいる、狂気の天才だ! 追いつこうなんて気も起きないね。

 でもその技術を洗練することは僕にだって可能だ。その技術を発展させることは僕にだって可能だ。その技術を応用することも僕には可能だ。ならそれをする、そうだろ? 僕たちは技術者だ。発明者に成れなくたって良いじゃないか? その検討の中で新たな発明が有るかもしれないじゃないか? それじゃあ不満なのかい?」


「強いですね、ナツオ先輩は! けどそうですね、少し落ち込ませてください。僕は天才に成りたかったんですよ、身の程知らずにもね。

 そしてここまで見せつけられてもまだ諦められない。自分で自分が嫌になります。」


「僕だってそうだよ、強くなんてない。だから諦めてはいないよ、でもね止まったら、本当に折れてしまって先に進めない。だから空元気でもね、自分は折れてないと思って先に進むんだよ。進んでいる限り可能性はゼロじゃないんだ。そう思うしかないだろ?」


 半眼でナツオを見ながらアキは、


「はぁ、この技術馬鹿どもは何を深刻に語ってるでしょうねぇ、全く。そんな事よりナツオ! いい加減動画を渡しなさいよ!」


「アキ、今男同士の良いところだろう? 少しは空気を読んで欲しいなあ。そんなんじゃあモテないよ? 男ってのはアキが思ってるより、もっと繊細で、見っとも無い生き物なんだから。そんなに一刀両断にしたら壊れちゃうよ」


「えっ、あの、ごめん、そのだって、私」


 オロオロしだしたアキにエミが、


「アキ。ナツオの口車に誤魔化されてるわよ、本当に貴方ってこういったところ弱いわよね、

 ナツオ! 私は誤魔化されないわよ! 装置の回収も終わったんだし、いい加減動画を渡しなさい! これは非常に女性の尊厳にかかわる問題よ! こんな動画が流出してごらんなさい、もう恥ずかしくて表を歩けなくなるわ! 受付嬢としては死活問題よ! 渡しなさい! 今すぐに!!」


「何だいエミ、それほどの物なのかい? ただ木の根に拘束されただけだろう? 知能を得た『ゴールデンアップルツリー』の木の根の攻略の為の貴重な資料だよ。

 映像を解析すれば攻略方法が見つかると思うんだよね。今後も他の同種の改造された魔物に対する対抗手段の確立の為にも絶対必要な動画資料だ。それを君はどうするつもりなんだい?

 確かに君たちの裸でも映っているなら僕だって破棄に同意もする。しかし君たちは服を着ていたし、脱がされたわけじゃない。何が問題なのか僕にはわからないなあ」


「くっ、ああ言えばこう言う、貴方って本当に口ばかり……」


「ねえエミさん? ここは私が強引に行きましょうか? あなた達は優しすぎるんですよ。回復魔法も有るのだし、足の先から徐々に砕きながら言って聞かせればすぐに差し出しますよ」


「ねえ、ミホ君、冗談だよねえ? ねえ? なんでハンマーを構えるのかなぁ?ちょ、ちょっと待とうか! こら、アキもエミ止めてよ、こんな事しても無駄だよ? これは拷問だろ? 明確に違反行為だよ!」


「ならナツオさん、私が一本一本指を切り落とそうか? ミホに砕かれるよりは直ぐ繋がるよ?」


「何言ってるんだい!? ユカリ君までどうしたんだい?」


「皆さん甘いです、『女体化』の魔法を掛けて、地下8階のオークの所に縛って連れて行きましょう? 大丈夫です、オークは優しいですからね、殺されはしませんよ。

 女体化の魔法では妊娠もしませんから、大丈夫です。2、3日放り込めば大体の人は素直になるんですよ」


「な!? アズサ、君はそんな方法何処から聞いたんだい? それは機密事項の筈だよ! 何処から情報が洩れてるんだ!」


 ナツオは青顔をして女性陣を見つめる。


「アイ様やヤヨイ様が『人間狩り』の人達をこの世の地獄にって言ってましたけど。

 こんな事をやってますの? えぐいですわ……」


 カグヤがその様子を見ながら呟く、


「男性には本当にこの世の地獄でしょうね、『女体化』の魔法にそんな利用方法が有るなんて……」


 アカリが想像したのか青い顔をしながら言う。


「『女体化』の魔法って銭湯や更衣室の入り口に判別、無効化装置が設置されてるあれですよね? その昔悪用されまくったって……」


 サアヤが補足情報を呟く、


「あれって、大幅に弱体化するんでしょ? すっごい、か弱くなるから、対人戦でも相手の魔法抵抗力次第では有効って聞いたわ」


 メグミは『カナ』の胸を揉みながら話す。


「コラッ、メグミちゃん、『カナ』の顔が赤くなってます、その自然にセクハラするのやめなさい。『カナ』もそう言ったことされたら私に報告しなさいね」


《イエス、サブマスターノリコ、今後報告します》


「ああ、ノリネエ、何のためにこの胸の感触に拘ったと思ってるのよ! 良いじゃない少し位触ったって、ねえ『カナ』嫌じゃないよね?」


《イエス、マイマスター不快ではありませんが、今後はサブマスターノリコに報告します》


「あああぅ、なんでぇ、報告は必要ありません!! サブマスターの命令は却下です、良いわね『カナ』」


《マイマスター、その命令は実行できません。この命令に関してはサブマスターノリコの命令が優先されます》


「ええええっ!! なんでよ! どうしたの『カナ』ぁ!!」


「無駄ですよ、メグミちゃん、『神の宝珠』の倫理制御が効いているのですから、そう言った命令はノリコお姉さまの命令が優先されますわ」


「くそうっ、倫理制御甘く見てたわ! あれ外せないのかしら?」


「基幹部分に食い込んでますからね、下手に弄ると『恩恵』付与に影響が出るわよ、メグミちゃん。諦めましょうね、大丈夫です、私が報告を聞くだけです。無茶なことをしてなければ見逃してあげます」


「いや、人に言えないような事をしたぃ……」


「ねえっ!! ちょっとみんな僕の貞操の危機なんだけど? ねえ誰か援護してくれないかな?」


 ナツオが青い顔をして助けを求める。


「あっ、ナツオ先輩の事忘れてた! 大丈夫ですナツオ先輩! 私は信じてます!」


 メグミがウィンクする、


「ああ、ナツオ先輩、大丈夫だ、俺達が見守っている、信じてるぜ先輩!」


 ヒトシが親指を立ててサムズアップ。


「僕は例えどんな姿だろうとナツオ先輩を尊敬してますよ」


 タイチが熱い涙を流し、


「流石は先輩だ! やるじゃねえか!」


 レンが顔を逸らしながら応援し、


「男の中の男だと、そう思ってるぜ! 皆だってそうさ!」


 ケンタは涙を堪える様に顔を覆ってサムズアップしている。


「…………」


 コウイチは俯いて涙をそっと流す。


「骨は拾ってやるぜ! 行ってこい!」


 シンイチは泣き笑いの笑顔で歯が光る!


「お前ら本当に鬼だな? なあそこまでする程のもんか?」


「タツオは黙ってなさいよ、一音違いで随分ヘタレよね! 良い? 受付嬢にそれにスカウトされるような粒揃いの美人なのよ? 普段はキリッッとした綺麗なお姉さんたちが喘いでるのよ? 至宝よ、他にどんなお宝があるっていうの? 男が命を懸けるに値するだけの財宝よ! それが分からないからタツオはタツオなのよ!!」


「ちょっと待てタツオが悪口の代名詞みたいになってるじゃねえか!! お前ふざけるなよ! 目上に対する口の利き方どうこうじゃねえ! 俺の名誉の問題だ! 謝罪しろ! 全国の、全世界のタツオに謝罪しろ!」


「ガルルルルゥゥゥゥーー」


「なっ!! 唸るとかおめえ人間捨ててんのか? 負けると思うなよ? もう慣れっこだ! グルルゥゥゥーーー」


 メグミとタツオが顔を見合って唸り声をあげる。


「ねえ? 僕の犠牲は確定なのかい? これは拷問なんだよ? こう……人権的に許されない行為だと思うんだよね? それについてこう援護が欲しいんだけどね? どうなのかなあ? そこら辺」


 泣きながらナツオが助けを求めるが、


「ナツオ先輩、無理っす! 周りを見るっす! メグミちゃん以外の女性陣のゴミを観る様な目を見るっす! どうにもならないっす! 後はナツオ先輩だけが頼りっす!」


 ヒトシが男性陣の声を代弁する。


「くぅ、刀折れ矢尽きる、しかし! 何か! 何か! 何か手がある筈だ! ここで諦めらるか!!」


「ナツオ、何カッコいいセリフ言ってるのか知らないけど。やってる事は私達の恥ずかしい動画を死守してるだけのアラサーだからね?」


 凍てつくような冷たい声でアキが告げる。


 その時、魔素が集中し『ゴールデンアップルツリー』の生えていた後に魔結晶が生成される。急速にその魔結晶の周辺に『ツリー』が形成されていく……


「奇跡だ………」


 誰かが呟いた。


「くっ、なんてタイミングの悪い! 追及は一端後回しよ、みんな戦闘配置、『ツリー』の観察と調査。『ラビット』が生えるわよ、囲んで仕留めます。一応木の根も警戒して!!」


 アキが指示を飛ばすと、今までの寸劇がウソのようにキビキビと全員が持ち場に着く。

 その時、突如として天井付近に巨大な魔方陣が発生し、それがゆっくり降下しながら大きく広がっていく。

 『ツリー』を警戒して配置についていた全員の目がその魔方陣に注目する………魔方陣が床に着くとその巨大な魔方陣の中心から巨大な影が現れる、声が響く……


「この糞共がああああああぁぁぁーーーーー!! 死ね!! 死んで後悔しろ!!! ぐちゃぐちゃのミンチに成るが良い!!」


 その声を発する巨影はその姿を完全に表すと、階層主の部屋の中心へと降り立つ。


ズウウウンンンーーーーン!! 


 降り立つと同時に50センチほど足がその床に沈む。


「見るが良い!! 愚か者ども!! この姿を!! これぞ我が『聖光騎士団』の誇る決戦兵器!! アイアンゴーレム『タイラント2000』 フハハハハハハーーーーーーーーーーーッ!!! 楽に死ねると思うなよっ!!」


 そこには6メートルを超える鋼鉄の巨人がその威容を誇り起立していた。

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