第39話役得

 それから何度かポーションを口移しでノリコに飲ませていると、青白かった顔に血の気が戻り、そして若干上気したように頬が赤く染まってきた。潤んだ瞳でメグミを見つめている、


(もう大丈夫そうね……って、あれ? 私、今ノリネエとキスしてないか?)


安心して落ち着いてきたメグミは漸くようやくそのことに気が付いた。


(何だかノリネエ、ポワーンとしてすっげー可愛いんですけど、ううっ、ダメだ、なんだか興奮してきた! ……舌とか入れたらどうなるんだろ、ドサクサ紛れで今なら案外イケるんじゃない? ノリネエもなんだかポヤーンとしてるし、イケる? いやでも弱ってる人に付けこむみたいで何だか……)


 口内で躊躇いがちに如何しようか舌を動かしていると、ポーションを零さないように深めに口を合わせていた所為か、ノリコの舌に先端が当たる。


(あれ? 逃げない、嫌がってないな……寧ろ絡んでくる?)


 ポーションを求めて無意識にと言うこともあるかもしれない、しかしこれはメグミにとって大チャンスであった。


(ええいっ! なるようになってしまえ!)


本格的にメグミの方からも舌を絡ませていった。しばしノリコの舌と口内を堪能していると、


「ゴホンッ」


 アカリがワザとらしい咳ばらいをする。そう周りには……メグミはハッとなってノリコから慌てて口を離す。ノリコはポヤーンとしたまま目を閉じていた。


「先輩ぃ、今本気でキスしてませんでしたかぁ?」


「メグミィ、状況を少しは考えようぜ、なぁ」


「メグミちゃん、今の状態のノリコちゃんにそれは流石に少し如何かしら?」


 自分たちのことはすっかり棚に上げてカグヤ達が攻めてくる。なんだか遣る瀬無さそうなタツオはこの際無視しておこう。


(カグヤの口直しとは言わないわ、カグヤも顔は好みだし、可愛い後輩モードの時は好きだし……けどやっぱり目の前にこんな御馳走用意されて我慢なんかできるか!!)


 ふと、ノリコを見れば何だか気持ちよさそうにメグミに抱かれて寝ている。


(精神力が回復しても、疲れが極限だったんだろうか? これって疲れて思考力が低下して、ママに甘えるようにしていたノリネエに無理やりキスしちゃったってことかな?)


 メグミの良心が痛んだが、まあやってしまったものはしょうがない。魔が差したのだ、それにとても美味しく、気持ち良かったので後悔はない。そのまま膝枕しつつ幸せそうに眠るノリコの頭を撫でると、より一層幸せそうに微笑んでいる。


「まあ、あれよ……こっちはいいわ、カグヤ、そちらはどうなったの?」


白々しく聞くメグミに、


「先輩の浮気者ぉ! わっ、怒らないでください、軽い嫉妬です! こちらは患者さんの治療はすべて終了、今は少し眠ってもらってます。今、起きて騒がれても困りますからね、体は治っても心は私達では無理です。出来れば眠ったまま病院に運びたいですね、あそこなら精神治療できる人もいますから。」


「そうね、少し記憶なんかを暈さないと、このまま覚醒した場合、トラウマ等心の傷が惨いことになりそうですもの。もう少し私達に腕が有ればその辺の魔法も使えるのでしょうけど、今の私達では無理よ」


「そうね……その辺は上級の人達じゃないとどうにもならないかもね。にしても許せないわね、女の子に何てことするんだ! あの動きといい、どこの連中だろう、確実にその辺のゴロツキじゃあない。何某かなにがしかの訓練を受けてるような印象がした、下手したら何処かの兵隊じゃないかしら?」


「『司教』って言われてたわ、敵の指揮官。それに自分で異端審問官とか言ってたから……多分、『光と太陽の神』の過激派、対異教徒殲滅部隊『聖光騎士団』でしょうね。結構な規模の部隊の筈よ、表で倒した連中はその一部隊でしょうね。」


「あんな連中がまだまだ居るってこと?」


「そう、たしかトップは『大司教』とか名乗ってる人物よ、中々尻尾が掴めない連中で、過激な事ばかりしてるので各国の冒険者ギルドに指名手配されてるわ」


「私も聞いたことがありますぅ、サキュバスとか魔族なんて連中からしてみれば仇敵ですからね、注意するようにって、まあ他の地域にサキュバスが行けない原因みたいな連中ですぅ」


 そんな事を話していると、


「ノリコお姉さま、メグミちゃん、冒険者ギルドの救援部隊が来ましたわ! って、ノリコお姉さま、またやっちゃいましたか?」


「またやっちゃったわ、でも今は疲労で寝てるだけよ、心配ないわ」


 休憩小屋入り口からサアヤが入ってくるなり、メグミの膝枕で眠るノリコを見て、サアヤが心配して声を掛ける。

 すると、少し遅れてアツヒトと、意外なことに神官長『アイ』様と高司祭『ヤヨイ』様も連れだって入ってこられた。


「アイ様? それにヤヨイ様も、何故このようなところに?」


アカリが聞くと、それにアイ様とヤヨイ様が答えた。


「万が一に備えて待機してたのよ。結界が発動されたと聞いて、『セーブポイント』に連絡したのだけど、誰も転送されてこないと聞いて、『遠見』と『千里眼』で緊急要請のあった付近を調査して、状況を把握したので、冒険者ギルドの手勢も加えて救援に来ました」


「この子たちの治療良くやってくれたわ、『人間狩り』も殲滅済みだし、私達って本当に無能で嫌になるわね。『自爆魔法式』と『復活の首飾り』が有るから安全と油断してたわ、そうよね対策して来る可能性なんて、ちょっと考えれば分かりそうなものなのに……あなた達にもこの子達にも本当に酷いことしたわ、本当にごめんさない」


「そうね、謝ってももうどうにもならないのだけど、もう遅いのだけれども、私達の自己欺瞞かもしれないけど、謝罪させてほしいの、本当にごめんなさい。油断してたわ、相手を過小評価してた、私達の落ち度よ。今更信頼できないかもだけど、後のことは任せて、あなた達は一端街に戻りなさい。今度こそ失敗はしないわ、御願いもう一度機会を頂戴」


 アイ様とヤヨイ様は深々と腰を折る。すると慌ててアツヒトが、


「いや今回の件は、自分がアイ様やヤヨイ様に協力を依頼したんだ、自分が安全を保障した。自爆魔法式』と『復活の首飾り』が有るから大丈夫だと言ったんだ。申し訳ない、私の完全なミスだ、この子達を惨い目に合わせて、しかも君達の手を汚させてしまった。この件が終了次第、責任は取る、どの様な処分も受けるので、許してほしい。それとこの件は自分の責任だ、アイ様とヤヨイ様は悪くない。虫が良い話なのも分かっているが、そのことだけは如何かどうか分かってほしい、御願いだ、お願いします」


 アツヒトは見事な土下座をしていた、それは見事なジャンピング土下座であった。メグミ達はその姿に唖然としていた、そして理解した。


(ああ、この街はこういう大人が守ってくれているから過ごしやすいんだ、異世界から来たばかりの私達が普通に過ごせるのはこの人達みたいな大人が守ってくれているからなんだ)


「アツヒトさんよぉ、それに神官のおば……お姉さん達も頭を上げてくれ、俺達はあんた達に謝られることはなにもねえ、この怪我をした奴らに謝ってやってくれ、後、心のケア? か、それを頼まぁ」


 タツオがおばさんと言いそうになった瞬間、隣のアカリが鋭い肘鉄を入れていたが……それは置いておいて、タツオの言ったことそれはメグミ達の総意であった。


「そうです、皆さん頭を上げてください。私達は大丈夫です。この手の無法者と戦うことは、何れ有ることです。どうせ時間の問題だったと思いますよ、私も、ノリネエも我慢できませんからね。それよりも原因の究明と、対策をお願いします。なにか手が必要なら言ってください。今日は他のメンバーは大分無理したので一旦帰りますが、私はまだまだ元気なので付き合いますよ」


「先輩だけ抜け駆けですかぁ?」


「俺も平気だぜ?」


「駄目よ二人とも、我儘はダメ、メグミちゃんは分かってるのよ。カグヤちゃんは無理な魔法使用で疲労が限界に近いわ、タツオ君もさっきの戦いで大分無理してスキル使ったでしょ? 力は回復しても疲労は堪るのよ、それに無理な力の使用は体の負担も大きいわ、私が幾らか吸っちゃたしね。

 私の見立てでも二人は限界よ、私もちょっと無理しちゃったから今日はお言葉に甘えて一旦帰るわ。あとメグミちゃん、あなた自身は余裕がありそうだけどノリコちゃんどうするつもり? サアヤちゃんじゃあノリコちゃんを運ぶのは無理よ、体格差が有り過ぎるわ」


「そうですわね、残るのでしたら私が残ります。メグミちゃんはお姉さまを連れて先に戻ってください、私も無理せずに早めに戻りますから、お願いします」


 メグミは渋々頷いた。サアヤも無理をしているのは分かっていたが、それでもこれが最良の選択だろうと理解したから、一応サアヤにポーションを渡そうとしたが持っているからと断られた。

 眠っているノリコの下へアイ様とヤヨイ様が来てその頭を撫でながら、


「この子には何時も無理ばかりさせて……本当にありがとう、今回もあなたがフォローしてくれたのねメグミ」


「本当に幸せそうな寝顔ね、何をしたの? メグミ……まあいいわ、これからもお願いね、この子は止まれないから、あなたに負担を掛けて悪いのだけど、サアヤちゃんもお願いね」


「いえ、私も今回は役得を頂いたので、ほんとお気になさらずに」


「「「えっ!?」」」


「メグミちゃん、何しましたの? ねえカグヤちゃん、メグミちゃん何しましたの?」


 騒ぐサアヤに、他の三人が一斉に目を逸らす。少し周りが騒がしいが、メグミは幸せそうに自分の膝枕で眠るノリコを見て役得を思い出しニヤけるのであった。

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