第38話治療
「カグヤちゃん! バカなことを言ってないで、私達神官の出番はここからです! ノリコちゃんも固まってないで! シッカリしなさい!」
アカリがこちらに駆けてくる。ノリコはハッとして、武器を収納魔法で仕舞うと、魔力・精神力回復ポーションを取り出しそれを一気に飲み干し、急いで大地母神の神官たちのもとに駆け付ける。
そこには辛うじて生きている……そう表現するしかない状態の神官たちが血の海に沈んでいた。サヤカやタツオもこちらに集合し、その惨状に顔をしかめる。
「なんで? どうして『自爆魔法式』も『復活の首飾り』も発動してないの?」
『自爆魔法式』は任意発動出来るし、『復活の首飾り』も死亡時に自動発動する機能だけでなく、任意発動も出来るのだ。血の海に沈む彼女たちが望めば直ぐに『セーブポイント』に転送されるはずである。迷宮に発動している『転送阻害結界』は『復活の首飾り』は除外している。彼女たちが発動を
「メグミちゃん、分析は後、休憩小屋に移動させます。『治療空間』を発動します。
カグヤちゃんとアカリさんと私で治療に当たります。他の三人は周囲の警戒を!」
「いえ! タツオ君はちょっと手伝って欲しいことがあるの、移動後こちらに来て! メグミちゃんもカグヤちゃんの傍に行って!」
「「??」」
訝し気にタツオと顔を見合わせるメグミであったが、『治療空間』に二人づつ取り込んで休憩小屋に移動する三人に付いていく。サアヤは小屋の入り口で警戒に当たり、ソックスがその背からプリンを下ろし、ラルクもそこに集合して、サアヤの前で警戒に当たる。
「『雫』全力よ、『生命賛歌』をお願い!」
ノリコが精神回復ポーションを並べながら『雫』を呼ぶ。今までノリコの服の中にいたのか胸元から顔を覗かせる『雫』は、
「ノリコ……直ぐにソレを飲んでね? この人数は可成りきついですよ?」
ノリコに少し悲し気な顔を向ける『雫』は『治療空間』を三つ繋げた円陣の真ん中に移動すると、静かに歌い出す。
ラーラーララーララーーーーー
優しい音が空間に響く、
それを苦しそうに、しかし微笑みを浮かべてみながら、ノリコは端からポーションを飲んでいく。
「タツオ君、此処に来て膝立ちに、そう、それで目閉じて」
「こうか? 俺は治療系の『加護』は自分を『治癒』できる程度であまり得意じゃないんだが? 『魔法』にしても『手当』位しか使えねえぜ?」
「いいから、そのままね」
アカリは自分の傍らに目を閉じて膝立ちとなるタツオの頬を両手で挟むと……キスをした! 最初は軽く、そのまま深く、深くキスをする。
(完全に舌入ってるよね? あれ? これ私もヤバくね?)
それを見てメグミも自分の置かれた状況を察し内心で焦りだす。当のタツオはビックリして目を開いている、状況が把握できていないようだ。アカリに良い様に口内を舌で愛撫されている。プハッとアカリはタツオの口から自分の口を離す、舌がタツオの口内から引き抜かれ唾液が糸を引く。スッと指でタツオの口を押えて、
「んふっ、ありがとう、タツオ君、助かったわ、本当はこのまま後ろから胸を揉んでほしいのだけど。流石にそれは贅沢かしら? まあ、気が向いたら御願いね」
タツオは顔を真っ赤にして唖然として固まっている。
「メグミ先輩ぃ、分かってますよね? 良いですよね? 人命救助の為ですよぉ」
逃げようとしたメグミはカグヤに腕を掴まれていた。
「ううううううぅ! どうしても? タツオじゃダメなの?」
トロンとした目をしたカグヤの顔が迫ってくる。既に頭の後ろに手を回されたメグミに逃げ場はなかった……
「分かってるくせにぃ! 無理に決まってるでしょぉ」
「胸を揉んだんじゃダメ?」
「ダメですぅ」
ブチュー! そんな音が聞こえた気がメグミにはした。
(あああぁ……私のファーストキスがぁぁぁぁ)
メグミはちょっと死にたい気分になった、
(流石にこのシチュエイションはあんまりじゃあないかな?)
目の前には瀕死の血だらけの怪我人、ちょっと離れたところには死体の山、更には人生で初の殺人の直後である。頭に血が昇っていた時は、まだ良かったが、少し冷静になって、魔物の様に魔素に分解しない死体と、その血と臓腑の交じり合った匂いを嗅いだら、メグミだって何とも言えない気持ちが込み上げてきているのだ。後悔はない、目の前の被害者を見て、加害者の死に同情などできない。しかし、それでも罪の意識は消えないのだ……しかも今だって微かにその匂いは届いている。
(なんて殺伐とした状況でファーストキスしてるんだろ? ロマンティックどこに行った? 人を殺した罰か? まあ蘇生するって言っても無罪ってわけには行かないのか……)
メグミが出来るだけ意識を肉体から引き離していても、カグヤは容赦がなかった、舌がメグミの口内を蹂躙してくる。カグヤのキスは流石というべきか、確かにサキュバスと言うべきか、上手いのだ、出来るだけ意識を遠く思想に沈めたいのに、現実に引き戻すほどに上手い。
(私はもうダメなのだろうか? ダメなんだろうな……こんな状況でキスで気持ちよくなってる、泣きたい)
プハッっと散々メグミの口内を蹂躙したカグヤの舌が糸を引いて離れていく。
「ご馳走様でした、先輩ぃ、このまま愛撫してくださると更に魔力が上がって助かるんですけどぉ?」
「お願い、カグヤ、ちょっとそっとして置いて」
メグミだって分かってる、目の前で苦しんでいる人がいる、ノリコはまた可成り無茶して『生命賛歌』まで使っている。たかがキス如きで助けることが出来るならそうすべきだろう。人口呼吸だと思えば良い、そう分かってる。
(そんなに簡単に割り切れないよ、だって人間だもの)
サキュバスはその種族の特性で、性的に興奮すればするほど魔力が高まる。際限なくその行為によって魔力を高めることが出来るのである。
アカリは既に膨大な魔力を込めて治療を始めている、人族に込めれる魔力ではない。カグヤも同じく恐ろしいほどの魔力を込めて治療を始めた。
被害者の砕けて飛び出した骨や爆ぜた肉が見る見る治療されていく。腫れて元の顔が分からなかった状態から元の美しい顔に戻っていく。砕けた顎が、潰れた鼻が、破裂した眼が元に戻っていく。折れて砕けて無くなった歯が生えて来る。
ノリコの『生命賛歌』とサキュバス達の『治療空間』内での『肉体再生』魔法で見る見るうちに怪我が治っていく。サキュバスの二人も先程までと打って変わって治療するその顔は真剣そのものだ。もう彼女たちは肉体的には大丈夫だろう、その『心』はともかく……
「ねえぇ、先輩ぃ、魔力が枯れそうなんですけどぉ、サービスしてくれませんかぁ?」
「タツオ君、 私も大歓迎ですよ、 お願いできませんか?」
二人が治療を続けながら体をくねらしお尻を振るが、メグミは魔力回復ポーションと精神力回復ポーションを二個づつ取り出し、ワンセットをタツオに渡す。
「ほら、カグヤ、あーん」
「うぅ、先輩のいけずぅ」
カグヤは大人しくメグミの差し出すポーションを飲む。
「アカリさんも、どうぞ」
「タツオ君、あーんは?」
「うっ……アカリさん、あーん」
「ありがと、あーーん」
タツオは耳まで真っ赤だ。メグミはそのままノリコの横に行き、
「ノリネエも大丈夫? ってノリネエ? コラ!! 目を開けなさい! ノリネエ! 『雫』ストップよ! ストップ!!」
慌てて置いてある精神回復ポーションを口に含んで気を失っているノリコに口移しで飲ませる。そして何度か口移しで飲ませているとノリコの少し意識が戻ったのかコクコクの口のポーションを飲む。そのまま更に四度口移しで飲ませたあたりで意識が覚醒してきた。
「ごめんね……メグミちゃん、もう大丈夫、自分で飲めるわ、ありがとう」
「まだ駄目よ! 無茶した罰よ、少し大人しくしてなさい!」
まだ体に力も入らないノリコを抱いたままメグミは口移しを続ける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます