第37話〈ちょっと息抜き番外〉『勇者』
ヘルイチ地上街の一軒のとある酒場。夜でも煌々と明かりの灯るこの酒場は今日もお客が大入りで大変繁盛している、客の店員を呼ぶ声、注文を取る店員の声、料理を運ぶ店員が行きかい、大変活気がある。そんな酒場の奥まった場所に座敷席が設けられている。座敷席の手前には『勇者様御一行』と木の立て札に和紙で張り紙がしてある。その立札の奥の座敷では……
座敷には六人の老人たちが思い思いに寛いで酒を食事を楽しんでいる。その老人たちは顔に皴があり、年相応に白髪が混じったり、禿げたりしてるが、体つきやその動きに衰えは全く見えない。その飲みっぷりも、その食いっぷりも若者もかくやとばかりである。
その老人たちの間を長い銀髪を動きの邪魔にならないように編み込んでまとめた、赤い瞳の絶世の美女がお酌をして回ってる。白い長そでカッターシャツに白いスラックスを履いた美女は、男の様な格好にもかかわらず、抜群のプロポーションが服の上からでもわかる位グラマーだ。
「キャア! また胸触った! もう嫌ぁ!」
「何を言っとる、ただ当たっただけじゃ、ホレしっかり酌をせんか」
「なんで御尻叩くのよ! このエロじじい!」
「何を遊んどるんじゃ、こっちの杯も空いとるじゃろうが、ほれサッサと継がんか」
「キャア! いま堂々と胸つかみましたよこのジジイ」
「目の前に重そうにぶら下っとるから、下から持ち上げてやっただけではないか? なにを騒ぐ?」
「ヒッ!! 何おしり揉んでいるですか? これ当たったとか触ったとかじゃもうないでしょう」
「うん良い尻じゃ! 褒めて遣わすぞ! ほれパッキーゲームでもせんか?」
白髪の老人が口にくわえた棒状のお菓子をピコピコ揺らす。
「そうじゃそうじゃ、サービスが足らんの、大体なんじゃその恰好は、露出が足らん、折角の胸も隠しおって、せめてスカートをはいてこんか」
「わしは長い髪の毛が好みじゃ、その髪解いてこい、そしてこの水着をだな着てこい」
布の面積の極端に小さい水着を、簡素な板のマネキンに着せた状態で差し出す頭の禿げた老人。
「おお! それは良い考えじゃ、良く用意したなその水着、サイズは分かっとったのか?」
「何をいうかこれはビキニじゃぞ? 小さくても何の問題も無かろう、わっはははは」
「分かっとるではないか! 流石は我がパーティの知恵袋、抜かりはないのう」
銀髪の美女は涙目になりながら、老人たちの卓の隣卓で静かに飲んでいる二人の女性の方をみる。
「ナッちゃん、アッちゃん、助けて! ジジイ共に犯される! 妊娠するっ! セクハラ反対!」
「こっちに来ないでください、私達までエロじじい共にセクハラされるじゃないですか、そっちはそっちで楽しんでください、ねえ、アッちゃん」
「そうね、ナッちゃん、これは罰ですものね、精々おじいさんたちの玩具になって反省して頂かないと」
銀髪の美女は老人たちに彼方此方触られて、既に御神輿状態で空中でもみくちゃにされている。
「うわーん! 人で無しー! あっ! どこ触ってんのよ、ちょそれ以上はダメー!!」
「おじいちゃん達、分かってると思うけど無理やり脱がしたり服の中に手を入れたりは犯罪ですよ、ねえ、アッちゃん」
「そこ、無理やりキスはダメですよ、レイプになります。そうよね、ナッちゃん」
「んーー? キスは挨拶じゃろうが? ディープではないぞ? フレンチはOKじゃろ?」
「何勝手なこと言ってんのよ!! このエロじじい! アウトよ! アウトよね? アウトだと言ってよ! ナッちゃん、アッちゃん」
「うーーん、フレンチか、どっちだろ、アッちゃん」
「ここは5街地域よ、ナッちゃん、挨拶にキスなどしません。普通にアウトです」
銀髪の美女は心底安心した様な顔でホッと胸を撫でおろしている。
「なんじゃ、つまらんのう……しょうがない、服の上からだったらOKなんじゃろ?」
キスをしようとしていた白髪の老人は両手で銀髪美女の胸を服の上から揉みしだく。
「あ! こら! 何やってるのよ! わあ! 乳首探るな! あぅ! 乳首摘まむな! コリコリしちゃダメぇ!!」
「良いことやってんな、わしにも片方分けんか! 独り占めはズルいぞ!」
長い白髪を首の後ろで束ねた老人が加わり左の胸を分けてもらって揉みしだき始める。
「あのーー水着はダメなのかの?」
「まだ諦めとらんかったのか? 水着はもういい、ほれお前さんも揉まんか太ももにお尻が空いておるぞ」
「あうっ! くっ! やめなさいよこのエロジジイ! あっ! んっ! そこはダメ! そこは絶対ダメよ!」
老人たちの手が銀髪美女の股間に伸びてくる。
「はーい、エロジジイ共そこまでよ、流石にそれ以上は犯罪よ! アッちゃん、録画はOK?」
「はい、ナッちゃん、ばっちり取れてますよ、おじいさんたちその辺で勘弁してあげましょうね」
銀髪美女は解放されハアハアと肩で息をしている。なんだかグッタリしてまるで事後のようだ……小声で「汚されちゃった、私汚されちゃったよ」っと呟く……
「待て! わしはまだ胸を揉んどらん! 一寸もませろ」
「諦めろ、どうせこの後サキュバスちゃん達の所に行くんじゃ、そこで思う存分揉めばよかろう」
「糞う!! 出遅れたか、次はわしから揉むからな!」
「全く『大魔王』ともあろうものが、サキュバス以下とは情けないのう、もうちょっとテクニックを磨かんか!」
◇
今から70年ほど昔、『勇者』と呼ばれる若者たちの集団が居た。その『勇者』達は異世界からの召喚者で構成され、当時の『大魔王』をして「理不尽なほど強い化け物共」と言わしめた。
当時の世界・人々は『大魔王迷宮』から溢れた魔物を押し返し、異世界からの召喚者により、迷宮を攻略している最中だった。
「魔族を滅ぼせば魔素が無くなり、魔物が弱体化して、世界を、人類を救えるのではないか?」
誰かがそう主張した。
「世界を救う」「人類の救済を」
この言葉に当時の人々は熱狂した、魔物に怯える暮らしに心底ウンザリしていたのだ。その人々の主張に対して魔族は言った。
「ちょっと待て、話せばわかる、君たちは勘違いしている、先ずは落ち着いて話をしよう」
その言葉に耳を貸すべきだとの主張は、魔族滅ぼすべしの大合唱に掻き消された。そして『勇者』の若者たちも、その魔族滅ぼすべしの主張に従った。
「俺達は『勇者』なのだから、当然人々を救うべきだ、魔族を滅ぼせば世界を救うことが出来るのならば滅ぼすべきだろう」
『勇者』達はその圧倒的な力で、各地の迷宮に籠る『魔王』達を滅ぼし、ついには「話せばわかる」と主張する『大魔王』すら問答無用で滅ぼした。世界には平和が落とずれる。
筈だった…………
『大魔王』が滅んだ時、世界の平和を望んでいた人々の前に現れたのは『狂った魔物』の集団であった。『負の感情』を食べる魔族が居なくなった時、その『負の感情』がどうなるのか? 人々は想像していなかった。
『負の感情』は『瘴気』と化し、魔物は魔素の代わりに『瘴気』を直接取り込んだ。そして『瘴気』を取り込んだ魔物は狂っていった、その邪悪な感情に、その邪悪な心に、汚染された魔物は狂い、怒り、仲間の魔物でさえその手に掛け、次々と『狂った魔物』と化し、人々を襲った。全てを憎み、全てを壊し、全てを奪う、その兇悪で強力な魔物達。
それらの魔物達に当時の『勇者』を含めた冒険者たちは必死で戦い、押しとどめ、そして自分達の間違いを認めた。自分たちの滅ぼした魔族は今のこの状況を知っていた、その長大な寿命と優れた知能で経験、予見、どちらかは分からないが、知っていたのだと。
途中次々に次世代の『魔王』も転生し次第に状況は良くなっていったが、その『狂った魔物』との戦いは、次世代の『大魔王』が転生するまで40年続いた。
「魔族を滅ぼしても何も解決しない」
それを知る為に人々の流した血は膨大なものになっていた。以来再び人々は魔族と手を取り合い、現在も共存の道を模索している。
余談ではあるが、転生した『魔王』『大魔王』は何れも女性になっていたのは、その『勇者』達が何れも男で、酷く女好きで、おっぱい大好きなエロ野郎共で有った為と言われている。
◇
「大体折角、髭面のジジイからグラマー美人に転生したんじゃろう? もっとわしらを楽しませんか? その為のグラマー美人じゃろうが!」
「大体お主、いまだに処女であろうが? 大魔王が処女とか、しかももう三十路であろう? 情けないのう」
「どうじゃ? わしがその処女もろうてやろうか?」
それまでぐったりしていた銀髪美女な『大魔王』はキッと睨みつけるように老人達を見つめ、
「私を問答無用で殺した相手に、処女を捧げるとかあり得ないから! 大体私が処女だろうが何だろうがエロジジイ共には関係ないでしょ! 三十路? 魔族の寿命からしたら私こう見えても子供ですから! このロリコン共め!!」
「なんじゃ、まだまだ元気ではないか、どれもう一揉みするか?」
「次はわしからじゃ、いいな? わしからじゃぞ」
「いやあぁ!! 来るな鬼畜『勇者』!!」
酒場に『大魔王』の悲鳴が響く。
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