第72話2分間の攻防
メグミ達が声のする上空を見上げると、可成り高い位置に2枚の盾が並んで浮いている、カイトシールドと言われる種類の盾であるが、凧(カイト)では無く普通の盾だ。しかも浮いている2枚並びの盾は一組でなく、5組み浮いている。それを見てナツオが、
「糞、こんな街中であのゴーレムを召喚する気か?! 一般市民が大勢居るんだぞ! 神への言い訳はどうするつもりだ狂信者め!!」
「見てナツオ、公園の石畳の上に魔方陣が!」
アキが叫ぶ、公園の石畳の上には巨大な魔方陣が浮かび上がり、巨大な黒い物体がその魔方陣から浮かび上がってくる。
「アキ、エミ、周辺の市民の避難誘導だ! 急げ! 巻き込むぞ!」
「わかったわ、エミ私は公園の方を、ノリコ、サアヤ一緒に来て!」
背後の2人を率いて大声で警告しながら公園内に散っていく、
「私達は、周囲に警告、今の声で逃げだしているでしょうけど、大声で警告して、『索敵』で周囲の建物内も調べて、急いで!」
走りながら支持を出しているのか声が遠ざかる、
「あの上の盾はどうしますか?」
ミホが聞くが、ナツオが、
「アレはタツオに落とされた事への対策だろう、あの盾の重量だ、稼働時間を犠牲にしてでも防御力を上げたんだ、直ぐに撃ち落とすのは無理だ、それより一般人の非難が優先だ急げ!」
「なら、あのデカブツの足止めは私がするわ? 別に倒しても良いんでしょう?」
「メグミちゃんそれは死亡フラグだ! それに昨日のプリムラ様の言葉を聞いていただろう?」
「このままアレが暴れると避難が間に合いませんよ? ここは地盤も固いし、石畳です、昨日のように埋まる可能性は低いですよ?
「くそっ!! 他に良い手が無い、良いかい、決して無理するんじゃない! 君は瞬間転移のスキルがあるだろ、危なくなったら絶対に逃げるんだよ! 良いね」
公園の魔方陣から浮かび上がる黒い物体は巨大な巨人、アイアンゴーレムだ。既に腰まで浮かびあがっている。昨日のアイアンゴーレムとシルエットは似ているが、鉄色のアイアンゴーレムに対して黒色のアイアンゴーレム、そして細部や鎧上の装甲の形状が違う、センサー類も追加されているのか彼方此方に赤く光るレンズが見える。
メグミは『収納魔法』でショートソードを取り出し両手に構えると『紅緒』と『紫焔』を呼び出し、刀にする。そして一通りの『魔法』『加護』『武技』を掛け終わる、その頃には黒いアイアンゴーレムはその全身を浮かび上がらせ、石畳の上に降り立つ。
ズウウーーン!
と大きな地響きを立てて降り立つが、昨日の様に地面に埋まることは無く、石畳に無数の亀裂が走るに止まる。それを横目で見ながらナツオはアキ達の支援に公園に駆けていく、一人20メートルほど離れた細道に残ったメグミはそのアイアンゴーレムを見つめながら体を解す、
「フアッハハハハ! 足掻け足掻け、ゴミムシ共が! 一般人などに用は無いわ! 用が有るのは貴様らだ! よくもやってくれたわ! ここなら昨日の様には如何ぞ!! そこの小娘を殺せ『タイラント』!!!!」
命じられた黒いアイアンゴーレムは回転攻撃をしようと腕を構える、その時雷鳴が響きメグミの姿が消える、
キンッ!
と澄んだ高い音が響く、
「どこに消えたっ、小娘!!」
索敵するように周囲を飛び回る5組のカイトシールド、メグミの姿は黒いアイアンゴーレムの左の足元にあった。
「そこか!! 殺れ!! 『タイラント』! 足元だ!」
黒いアイアンゴーレムがその腕を回転するように振るうと、ズリッとその左足を残したまま上半身が回転する、バランスを崩したまま、しかしその巨大な右腕はメグミに迫る、スイッっと半身を引いたメグミの数センチ先をその剛腕が掠めて、石畳の地面に巨大穴を穿つ、盛大に石畳と土砂を巻き上げ破片を飛散させる、その石礫の様な破片は腕を躱したメグミに迫るが、その瞬間メグミの姿が霞む、
キンッ!
再び澄んだ高い音が響く、既にメグミの姿は反対側の右足の横にある、黒いアイアンゴーレムはその地面めり込んだ右腕と右足で体を支えバランスを取っていたが、その右足に筋が走ったと思うと、そのままゴーレムの巨体は右足に走った筋から上が滑り落ちる、
ドゥゴゥウウウウウーーーン!
左手も使い、何とかバランスを保ち、尻もちを突きながら倒れるのは防いだアイアンゴーレム、丁度その真ん前にメグミの姿は有る、バランスを取り戻すのに振るわれる左手や、バランスが崩れ尻もちを突くアイアンゴーレムの巨体を、全て紙一重で躱し、その眼前に平然と佇む。
「なっ、なんだ、なんだその出鱈目な強さは! 馬鹿な! 嫌、そうか小娘! 貴様勇者だな! その出鱈目さは勇者だ! そうかまたか、また我の邪魔をするのか!」
「諦めたら? もう動けないわよ?」
「クハハ、そうか勇者! 諦め……るか馬鹿め! 死ね!」
突如、黒いアイアンゴーレムの全身の装甲がズレる、とそこには無数の魔法球が何かの生物の目のよう連なる、全身のその魔法球が黄色い光を湛え始める、
「アレは! 離してナツオ、メグミちゃんが!!」
「もう無理だアキ、
ナツオは叫びながら周りに『物理障壁』『魔法障壁』を張り更に目の前に『氷の壁』で巨大な障壁を築く。直後黒いアイアンゴーレムの全身から光が放たれる、
「アハハハハッ、焼け死ね! 足を奪われた際の対策も施さずにやってくると思ったか馬鹿めっ! 光収束魔法、『破滅破壊光線』の一斉発射だ骨も残らぬわ」
狙いもなく全身から無数に放たれるその光線は公園の周囲の建物に当たり、壁を破壊し、屋根を貫く、地面にも無数の穴を穿ち、穴の周辺の土がマグマのように溶ける。ナツオの造った氷の障壁にも当たり、一瞬でその氷の障壁に穴を空け、『物理障壁』の空気の膜で軌道を曲げ、逸れて背後の建物に穴を穿つ。
その地獄の様な光景の中、黒いアイアンゴーレムの正面に立つメグミは、その魔法の光線をその手の刀で切り裂いていた、
「んなっ! なんだと? 馬鹿な! 出鱈目にも程があるわ! 魔法を切っただと? 放たれた魔法を切って打ち消すだと! なんだそれは!」
驚愕する声が上空から響く中、その声が公園内から聞こえてくる、黒いアイアンゴーレムの索敵範囲内に向かって3・4歳の幼女が泣きながら歩いてくる、
「あかーさん、どこーー、ねえ、おかーーさん、うわぁーーん!!」
逃げ遅れていた幼女が居た、メグミがそう認識した時、同時に黒いアイアンゴーレムのセンサーがその幼女を捉えるのが分かった、不味い! そう思った時には体が勝手に動いていた、上空からは、
「『タイラント』やめ……」
と声が響くが既に黒いアイアンゴーレムから光線がその幼女に放たれた後であった、メグミが雷鳴を響かせ、その背に幼女を幼女を庇うのと、飛び込んで来たタツオが抱きしめるようにその胸に幼女を庇い、『燕』のその空間歪曲が光線を逸らせるのは、ほぼ同時であった。
「………遅いわよ、タツオ」
「すまねえな、メグミ、少し遅れた」
幼女はタツオの胸の影からメグミの方を一目見て、ヒッっと引きつるような声を上げると気を失ってしまった。タツオは急いで幼女の心音を確かめ、気を失っただけなのを確認すると安心した顔をする、そしてメグミの方を見て驚愕に顔を引きつらせる、
「タツオ、その子を連れて退避しなさい」
「メグミ、何を馬鹿な事を言ってるお前……」
「まだ一本あるわ、タツオ」
「だから何を言っている!!」
「アンタも勇者でしょ、行きなさいっ!! 私じゃあその子を抱えて走れない! その子を助けられるのはあんただけよ! そしてあの鉄屑を止められるのは私だけよ! 行きなさい!」
「バカなことを言うなよ! お前……」
「まだ一本あるわ、一本あれば十分よ、行きなさい! その子を殺す気?」
タツオの目の前には、右の脇腹を抉られ、異世界に来てから伸ばしていた髪を焦がし、右腕の肘から先を失ったメグミが左手に刀を持って立っていた。タツオの目の前の地面には、手首から下を少し残したメグミの右手が刀を握ったまま転がっている。
「行くわ」
一言メグミが呟くと雷鳴が響く、タツオは幼女を抱え絶叫しながら退避する。
「この大野郎がっ!!!!」
上空からは、虚ろな声で、
「フハハ……片手で何が出来る、殺れ『タイラント』狙うのはその勇者の娘だけだ、全力で殺せ、確実にだぞ……」
と響く、少し離れた建物の影では、泣き叫びながら、
「離して、離してよサアヤちゃん、此処からじゃ『治癒』が届かない! ここからじゃ届かないのよ」
「ダメです、お姉さま、今出ていったら巻き込まれます、『治癒』の届く距離までは近寄れません!!」
「イヤよ! 離して! 行くのよ! このままじゃあメグミちゃんが死んじゃう!!」
「ダメです!!」
パァーンっとノリコの頬をアカリが張り飛ばす、
「落ち着きなさい、ノリコ! 『復活の首飾り』も有ります。それに貴方にはあの動きが見えて? 足手まといよ!」
「生き返ったって失われるのよ? メグミちゃんの積み上げてきた物が、その努力が大きく失われるの! 『蘇生』は万能じゃないわ! 代償は大きのよ! だから……」
「ダメです、ノリコさん、メグミ先輩が必死で戦ってるんです。その戦いの足は引っ張らせません、絶対にです!」
泣きながらカグヤはノリコに抱き着きその歩みをとめる。
「カグヤちゃん、貴方だって、なんでなの、メグミぃ!!」
そんなノリコの腕を掴みサアヤも泣きながらメグミを見つめる。
そんなノリコ達の目の前では、黒いアイアンゴーレムの周囲を霞む様な速さで動く片手のメグミが、その刀を振るう、放たれる光線を紙一重で躱し、神速の動きで周囲を移動し、その刀を振るうたびに黒いアイアンゴーレムの装甲が、魔法球が切り裂かれ凍り付き霜がその他の魔法球の機能を奪う、段々と光線の発射の間隔が広がり、
ズオーーン!
支えを失い地響きを立てて仰向けに倒れる黒いアイアンゴーレム、その胸部装甲の左右が切り裂かれると、装甲が胴体からずり落ちる。剥き出しとなった黒いアイアンゴーレムの核に、その胴体の上に乗るメグミが左手の刀を構える。既に全身に襤褸切れを纏うような格好となったメグミは、凄絶に微笑みながら、
「ジャスト、2分よ……」
刀をその核に突き刺さす。
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