第71話懲りない面々

  翌朝、メグミは何時もどおり朝の日課と牛乳屋のバイトを済ませると朝食を食べてから一人で出かけた、格好は昨日服屋で着替えた為に活躍できなかった普段着だ。歩くメグミはご機嫌だった、昨日の打ち上げは大変良い思いをした、ナツオ達男性陣にしみじみとしたお酒を飲ませながら、お姉さん達に囲まれたメグミは内心で、ぐへへっと下品な笑い声を上げていた、何せ触り放題である、向こうからすり寄ってくるのだ。右を見ても左を見ても後ろにまで美人のお姉さん、そして適度に手を動かすだけでさり気無く胸でもお尻でも触り放題、天国である。メグミの事を憂いていた男性陣の気持ちはメグミには届いていなかった……

 そのままご機嫌で帰宅して、更に『ママ』までメグミのその姿を褒めて、抱きしめてくれたのだ。もう有頂天である、その所為で中々寝付けなかったせいも有り、演算通信魔法球を操作して、また楽しんだ、実に楽しめた、思わず徹夜しそうになったほどである、メグミは年頃の女の子がしてはいけない笑い声を上げながら楽しんだのだ。おかげで今日は目の下に少しクマが出来ている、牛乳屋でも朝食時にも皆に心配されたが、終始メグミはご機嫌で、


「大丈夫! 大丈夫! 全く問題ないわ、一寸夜更かししただけよ、今日は休みでしょ? 用事を済ませたら昼寝するわ、だから平気!」


そう誤魔化しておいた。

 しかし、そのままご機嫌で歩くメグミは、細い路地や、人通りの少ない抜け道等を通りながら進んで行く、時折背後の気配を探るが、誰かが尾行する気配はない、それを確認しながら慎重に目的地に向かう、念には念を入れて、慎重すぎる位に周囲に気を配る、表情は笑顔のままであるが、周囲に放つ気は既に臨戦。まるで迷宮に居る時のように張りつめていた。

 そうして目的の建物、住宅街のある区画の外壁近くにある公園、その南にある細い通路に慎重に入るとT字路の曲がった先の影に、目的の人物が居た、


「首尾は如何だい、メグミちゃん」


「バッチリよ、そっちも尾行されてないでしょうね?」


「これでも、もう直ぐミスリルだよ僕は、余り舐めないで欲しいな」


「でもよく抜けてこれたわね、今日の探索、私達は休みになったけど、そっちはそのまま探索があるんじゃないの?」


「ああ、その件はね、プリムラ様が今日も幹部会議を開いてるから、今日は僕たちも休みになったのさ」


「ねえ、プリムラ様って何者なの? 可成り偉い人みたいだけど……」


「知らないのかい? あの人は冒険者組合統括、5街会議の副議長だよ?」


「何だか偉そうな役職ね、可成り偉いの? それに前に聞いたけど組合長統括てのが居るんでしょ? それと組合統括ってややこしいわね」


「うーーん、この地域の上から3番目位だね、上には同じく副議長のサキュバスの長のアイリス様、そして議長の女勇者のナナミ様だけだからね、後、組合長統括は勇者のじいさん達の名誉職で組合統括は実際に権力のある役職だよ」


「見た目通りの幼女じゃないとは思ってたけど、ねえ、そんな人がアイドル活動してAV出てて良いの?」


「良いんじゃないかな? 会議の仕事は一年に一回だし、統括の仕事は今回のように何か問題があった時に幹部連中を集めて会議をすることだからね、それ以外の時は基本暇なんだと思うよ?」


「女勇者のナナミ様だっけ? その人全く知らないんだけど……」


「まあナナミ様は基本、地下街に居るからね、大魔王迷宮の攻略の最前線で戦ってるね」


「大魔王を倒した勇者なの?」


「あの人はその戦いに参加しなかった勇者なんだよ、反対してたらしい、下らないことするより魔物を狩れって、一人で勇者のじいさん達6人を相手取る化け物だよ、あの人が怖いから他の6人がこの地域外で活動してるって話もある位さ」


「ナナミ様は組合長じゃないの?」


「ナナミ様は違うね、地下街には組合長も副組合長も居ないんだ、地上街の組合長と副組合長が兼任している。まあナナミ様よりも若い女勇者ユウナ様が副組合長統括として常駐してるから何も問題ないね、実質この人が地下街の冒険者組合の責任者だね」


「ナナミ様は議長だけしてるの?」


「冒険者ギルド美人受付嬢部隊、第0班『絶望のサービス』って部隊が居てね、そこの隊長兼指揮官をやってる、普通の受付嬢部隊は中級以上なのは知ってるよね? この部隊は上級以上、この街の最強戦力だよ」


「男共は何してるのよ? 女ばっかりじゃないトップが」


「耳が痛いね、だけどまあ色々やってるよ、地域外に出ている部隊に男が多いんだよ、地域内はその分女性が多いんだ。外は色々過酷だからね、女性には厳しい、だからそこに男性が重点的に配置されているんだよ。だから引退したおじいさん達は地域内に結構いるよね。地域外の迷宮にだって人手が足りないところもある、そんな所に応援に行ってる人が大勢いるんだ」


「そうなのね、だから働き盛りの中年男性冒険者をあまり見かけないのね、ありがとう参考になったわ、で、これが例の物よ? 2個で本当に良かったの?」


「ありがとう、確かに受け取ったよ、何、数が多いと万が一流出した時に回収が困難になるからね、僕達とあっちで2個あれば十分さ、あっちは人数が多いから回すのが大変かもしれないけど、そこは我慢してもらうよ、コレ、例のプログラムは入れてるね?」


「コピーしようとしたり、パスワード無しで閲覧しようとしたら自動で壊れるやつね、入れたわ。パスワードも指定通りよ」


「これで万が一紛失しても安全だ、メグミちゃんの手元のデータも処理は済んでる?」


「そっちもバッチリよ、流出ウイルスとかこっちの世界にもあるのかわからないけど、あったら怖いからね」


「今度アンチウィルスのソフトを送るよ、もう既に何個かウィルスが見つかってるからね、この人数でそんな事しても直ぐにバレるのに懲りない人が居てね、対策してるんだ」


「そうなの? 怖いわね、直ぐに送って」


「了解だ、じゃあ僕はもういいくね」


「どこに行くのナツオ、その手の物は何?」


 サッと青ざめて周りを見回す、メグミとナツオの周囲に突如気配が生まれる。


(なんで? なんでバレたの? 尾行された? けど今の今まで気配は無かったわ)


 メグミの入ってきた細い通路を塞ぐようにアキが歩いてくる。


「なんだ? 尾行された? いやそんな筈はない……何故君が此処に居る?」


 昨日の打ち上げでトイレに立った、そのたった一度のすれ違いでケンタから渡されたメモ、それに従ってこの場所にメグミは来た、そのメモも確実に焼却し、灰すらトイレに流して隠滅済みだ、この場所が分かるわけがない。尾行も巻くように念には念を入れた、そもそも何故『物』の存在がバレた……メグミの頭の中を疑問とが渦巻く、幾ら否定しても、現に今、メグミ達は囲まれている。


「何故バレたか分からない? そんな顔ね」


 エミの声がする。ナツオが声がした方に顔を向けている、メグミからは死角になっているT字の上の線の左側通路にエミが居るみたいだ、当然反対側の右側にも誰か居るのだろう。エミが続ける、


「ねえメグミちゃん、昨日何処かのタイミングでナツオから記録魔法球を受け取ったわね? そしてそれを『カナ』の胸を揉んで誤魔化しながら袴の帯に挟んで隠した。たとえ何かあって身体検査されても大丈夫なように、そうでしょ?」


「『収納魔法』を使うとその魔力で何か隠したのがバレバレですものね、ナツオは多分敵の装置を回収する際に映像撮影装置から記録魔法球を抜き出して別の記録魔法球を映像撮影装置にセットしたのね」


「違うよ、あの時には既に交換済みだった、映像撮影装置を仕舞う際には既に手元に持っていた、それをメグミちゃんが瞬間移動で此方に逃げてくるタイミング、あのすれ違った一瞬でメグミちゃんのポケットに入れたんだ、だからバレる筈が無いんだよ、誰も気が付いていなかった、あのタイミングは完璧だったはずだ」


「くっ、『カナ』に隠したのがバレてる、何故? 何処でバレたの?」


「めぐみちゃん、これはダメよ? 私の心がこれは正しくないと言ってるわ」


「ノリネエまで? じゃあやっぱり私なの? 何処でしくじったの?」


「メグミちゃん、忘れてますわね? 『カナ』にはメグミちゃんが変な事をしたら報告するように命じてますわ」


「サアヤもか、けど『カナ』から取り出す時にはセンサー類を止めてたわ、だから気が付かない筈よ」


「それでもよ、何か挟んでいたものが、メグミちゃんがキスした時には無くなっていた、その位は分かるわ、その、それだけの性能を与えたのはメグミちゃんでしょ」


「でも『カナ』はあれから起動してない、今朝までにノリネエ達が地下に行ったの?」


「昨晩ね、『ママ』がみんなが居なくなって寂しいのと、『カナ』も外を出歩いて汚れただろうと、お風呂に一緒に入ったそうよ、その際にサブマスターの『ママ』にそんな報告があったんですって」


(『ママ』なんて余計なことを!! いい年して寂しいとか……まあ『ママ』だし仕方ないか)


「そのことをメグミちゃんが朝の訓練している最中に、私達は『ママ』から聞きました、後は簡単です、様子のおかしかった今朝のメグミちゃんを見ればそれが何であるのかも予想が付きました、だから私とメグミちゃんが朝のバイトに行ってる間に、ノリコお姉さまに頼んでアキさんに連絡を取っていただきました」


「ノリコちゃんから連絡を受けた私は直ぐにエミにも連絡したわ、そしてナツオに発信機を仕込むのには大して苦労はしなかったわね、パッシブ型のセンサーだから魔力の発信で感づかれることもないわ」


「凄いでしょ? 冒険者組合で開発された最新型よ? 連絡を受けて直ぐにサオリにお願いしてアキに届けさせたわ」


「後は出かける貴方達に気配を察知されない距離を保って追尾すれば良いだけ、決して見失うことは無いしね、貴方がメグミちゃんと接触しなければただの勘違い、気の回しすぎで終わったんだけどね……」


「くっ、それだけの断片からそこまで想像できるの? ごめんナツオさん、しくじったわ」


「これは、仕方ないね、僕も尾行されてたみたいだし、メグミちゃんだけの所為じゃないよ」


「ああ、一つ言い忘れたけど既に連絡して、メグミちゃんの部屋にはサオリとアズサが踏み込んでるわ、『暗部部隊』の演算通信魔法球のエキスパートもついているからオリジナルも既に確保してるわよ」


 エミが最後の望みを断つ、


「ナツオさん、一応ダミーは用意してますが専門家となると絶望的かも、しかもあのプログラムををセット済みです、データの救出は……」


「くぅ、此処までか!! けどここまでするのか君たちは!」


「それはこちらのセリフよ、良くサオリにまで気が付かせずにメグミちゃんに記録魔法球を渡せたわね、それにメグミちゃんも、昨日はあんなに可愛かったのに、なんで貴方はそうなの?」


「でもアキさん、エミさん、あれは最高の映像データでしたよ? 流石はナツオ先輩の3D撮影装置です、どうやったらあんなに詳細に、しかも3Dで、もう思い出しただけで……」


「ああ、メグミちゃんの頭の中の映像が見て観たい、ねえメグミちゃん今度一緒に脳内映像を映し出す装置を開発しないか?」


「いいですねそれ!! それは是非お願いします」


「メグミちゃん!! 貴方は女の子なのよ? ナツオもいい加減諦めなさい、貴方もメグミちゃんを如何したいの?」


 アキが怒りに燃えて叫ぶ、そうやら右側の通路に居たらしいミホが、


「メグミちゃんも、ナツオもお仕置きね、覚悟すると良いの」


 そう低い声で告げてくる、メグミとナツオが進退窮まって絶望したその時、まるで昨日のデジャビュのようにその声が上空から響き渡る。


「みーーつーーけーーたーーぞ!! この糞虫共がーー! この狂人小娘が!! 今こそ『タイラント2000』の復讐を!! 今度こそミンチにしてくれるわ!! ふふっふははははははああぁ!!


出でよ『』!!!


そのゴミどもをぶち殺せ!!!!」

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