第13話シャワー

 ノリコはそれから暫く『ママ』の胸で泣いていたが、


そのうち泣き止み………


………暫く硬直し………


段々顔が赤くなっていき……


耳まで真っ赤になり……


突然顔を覆って立ち上がったと思ったら、一気に走り出し、そのまま、2階の一室に立て籠もってしまった。

 

 部屋の中からは、「うううぅーーーーーっ」とか「ああああぁーーーーーぅ」とか時折悶えるような声が聞こえる。

 殆ど無意識にその胸の内にため込んでいた激情を吐き出したノリコは、冷静になって自分の言動や行動を振り返り、その恥ずかしさで今、のた打ち回っているのだ、何せノリコはその外見通り、確か19歳の筈、『ママ』『ママ』と甘えるには少々年を食い過ぎている。

 身内だけならまだしも、精霊使いの師匠もその場に居たのだ、普段お姉さんぶっている分、顔から火が出る程恥ずかしいのだろう。


 ノリコが立て籠もった扉の前に、メグミ、サアヤ、『ママ』がどうしたものかと立ち尽くしていた。

 手持無沙汰だったことも有り、メグミは改めて『ママ』に、


「これからよろしくね『ママ』、私はメグミ」


そう自己紹介をする。

 するとサアヤもその事に気が付いたのか、


「これからよろしくお願いします。私はサアヤです」


挨拶をしてぺこりとお辞儀をする。

 この辺は流石だ……クロウさんにシッカリ躾けられている。


「こちらこそ、これからよろしくねメグミ、サアヤ」


 彼女は優しい笑みを浮かべ、此方も完璧な所作で、優雅に腰を折り二人に挨拶を返してくれる。


「あの、良かったんですか?」


 メグミは尋ねる、『何が』とは言わない。色々含めて良かったのかと聞いたのだ。


 この家の……そう今では『前の』がつく主人を十数年待ち続け、維持してきたのだ、それをメグミ達に明け渡す、本当にそれで良いのか?

 確かに書類上は借家だ、何時か前の主人が帰ってきたらメグミ達は出て行かなければならない、しかし、その可能性は限りなく低い。零と言っても過言ではない、そうでなければ冒険者組合も貸し出したりはしない。

 しかし、恐らくこの優しい賢い精霊は、それでも、分かっていても待ち続けたのだ。


「これで解放される、ご主人様の所に行ける」


 そう自分で言っている。

 それでも、そうであってもとメグミは、


(それでも家を、この家で主人を待ち続けた彼女は、肝心の基礎や骨格を無傷で維持してきたこの人は、簡単に家を私達に明け渡して、本当にそれで良いのだろうか?)


そう思うのだ。


 しかも彼女は『名前』を変えることに同意した、精霊が『名前』を変える事は生まれ変わるのと同義、『名前』を変えたことで彼女は、弱まっていたとはいえ持っていた精霊としての力の大半を失った、今の彼女は生まれたての精霊とほとんど変わらない、違うのは知識や経験が有ることくらいだ。


 あのまま消滅、解放されて精霊として実体を失っても、彼女は別に死ぬわけではない。長い長い『浄化の眠り』の後、記憶を知識に替え、その力を持ったまま、又別の家、別のどこかで『家と家事の精霊』として実体化するのだ。


力を持った、より強い精霊として。


 彼女が家を維持することで弱まった力は、精霊として精霊界と呼ばれる、実体を持たない精霊たちの世界に戻れば簡単に取り戻せる。家の主人が居なくなって精霊界との結びつきが弱まり、力を引き出せなかっただけなのだ。

 

 しかし、『名前』を変えて生まれ変わった彼女は、もう精霊界に戻っても力を取り戻せない。供給が足らなくて弱まったのではない、失ったのだ。

 精霊に寿命は無い、精霊は度々実体化し、その力を高め、より高次の精霊に至ることをその存在目的する存在だ。

 故に対価を人が支払う事によって、その手助けをしてくれる、


それが『精霊魔法』


 一方的に精霊が力を貸すわけでなく、精霊もその存在を、力を高められるからこそ人の求めに応じてその力を振るうのだ。


 にも拘らず、彼女は、その力を手放すことに同意した、今までどの位の期間高めた力かは分からない、メグミ達には想像もつかない、しかし供給が途絶えても、これほどの長期間、家を維持できる、それほどの力だ。


 その力をノリコの求めに応じて彼女は手放したのだ、本当にそれで良かったのか……


「ん? ああ、けどノリコは2回目は耐えられないと思うの」


 メグミの問いに彼女はアッサリと答える、『ノリコが耐えられない』ただその為だけに彼女は全てを投げ出した、そうアッサリと答えるのだ。知り合ったばかりのノリコの為に、今までの膨大な時間の中で手に入れたその全てを……


「そうかもしれませんね」


そう答えながらメグミは彼女、『ママ』とノリコの類似性に驚く、


(知り合ったばかりの人に、幾らなんでもなんで? え? マジで? この人……ノリネエの同類だ、うん間違いない。

 ノリネエと初対面で、なんであんなに波長が合うのか不思議だったけど、間違いなくノリネエと同類の……超お人好し、普通に生きるのが困難なくらいのそれだわ)


「私とノリコはどこか似ているのね、だから分かってしまって、それで彼女の一番弱いところを突いてしまった、本当にごめんなさい。あなた達が来てくれて嬉しくてはしゃいじゃったのね。だから……分かるのよ彼女はあの状態で2回目は、そう多分、耐えられなかったと思うわ」


 ノリコは普段厳しく自分を律して生きている、別に鈍感なわけでも、マゾでもないのだ。自分に向けられる周囲の目も、その身に感じる苦痛も、普通に彼女は感じている。

 自分がそれが正しいと思ったら、たとえどんなに辛くとも、苦しくても、自分の身を犠牲にしても、周りの理解が得られなくても、その正しいと思った事を行う。その意志は鋼……意志の力でその苦難に耐えている、それだけなのだ。


「お母様なら、絶対正しいと思った事する。なら私もそうする、私はお母様の娘だもの」


そう言っていた。


 そう彼女は、ノリコは決して元々強い人間ではない、頑張って、頑張って、努力して、努力して、挫けそうになる自分を、母を思うことで奮い立たせて、強くあろうとしているだけなのだ。

 だから彼女は、親しい、心許せる人の前では途端に幼くなる、その幼さが素なのだ、元のノリコはそんな弱い幼い女の子なのだ。


 メグミは思う、張りつめたノリコの心は、張りつめられすぎているが故に、許容範囲を超えれば簡単に切れていまう、そしておそらく、元には戻らない。その切れてしまった自分をノリコは決して許さない。

 ノリコは優秀だ、頭脳明晰、運動も人一倍出来る。出来ることが、許容範囲が人より大きいが故に、今まで何とかなっているだけ。

 自分達の前での素に近いノリコをみて、その張りつめた心の糸が少しでも緩まる場所、そうありたいと望んでいるメグミであるが、だがそんなメグミでも止められない位、普段のノリコは危うい……

 そうノリコは素が、その根元が、超絶お人好し、優しすぎるのだ……その彼女にこの確固たる鋼の意志が加われば、後は結果は火を見るより明らか、そう感じてしまう。


 そしてそんなノリコが一目で彼女、『ママ』に同調してしまった、同じ種類の人種、自分を彼女に重ねたノリコは、そのままそれを自分の母と重ねてしまっていた、本人に自覚は無いだろう、しかし、そんなノリコを心配して見守っていたメグミには分かる。

 彼女は母に、母のようにありたいと望むあまり、彼女自身が母の様な存在になり、その自分を重ねた『ママ』を母だと、そう感じてしまったのだ。

 

 そんな『ママ』の消滅に、ノリコの張りつめた心の糸は容易く切れたことは想像に難くない。

 そしてそんなノリコの事をこの優しい精霊は一目で見抜いたのだろう、ノリコの『母』が既にいないことを『ママ』は感じ取っていた。


「そうでしょうね、でも私もあなたが残って……いや居てくれてうれしいです。どうせこのままだとノリネエは何時か壊れるか死んでた、けどあなたのお陰でもう大丈夫。こちらこそ利用させてもらって悪いと思ってます」


 メグミは素直に、自分の心の内を吐露した、


(この人に、彼女に、『ママ』に隠しても無駄よね、彼女は恐らく全て理解している)


そうメグミは思ったのだ。


「私はね、多分意地になってたの、認めたくなかったの、でもね、あなた達が来てくれて、私は無駄じゃなかったと思ったのよ。

 だからね、あなた達が愛おしくて……私の勝手な思いよね、こちらこそ悪かったと思っています。勝手にノリコに共感して彼女の中に入ってしまった」


 賢い彼女『ママ』には前のこの家の主人が、恐らくは死んでいることは分かっていた、しかし、それを認めたくなかったのだ。


(きっと優しい、良い人達だったのね、『ママ』を見てれば分かるわ、この人がここまで思う人達……

 前の主人が居なくなったのなら、そのまま精霊界に戻った方が余程楽だったろうに、それでも少しでも可能性があるならと、待ち続けるほどに……)


「そんなことはないですよ、私も何となくは分かっていたのに何もできなかった。さっきのノリネエみてようやくわかりました、ああ、そうだったんだって。今更ですけど、私でも、もっと早く分かってさえいたら、あなたの立場に成れたのにっと、ちょっと悔しいです」


 そう彼女の胸の中で泣くノリコを見てメグミは漸く理解した、ノリコは、母に誇れる自分で在ろうと努力する彼女は、その母に成り代わるかのように見えた彼女は、ずっと褒めて欲しかったのだ、認めて欲しかったのだ、『母』に、母の様な人にずっと……

 

「よく頑張ったね、良い子ね、偉いね」


そう褒めて欲しかった、ずっと……もう居ない母、その母を求め続けていたのだ。


 メグミはノリコの仲間、親友になることで彼女の張りつめた糸を解そうとしていた。しかし、違ったのだ、それではダメなのだ、ノリコが仲間、身内にのみ見せる幼さは、それは親しみではない、甘えだったのだ、甘えたかったのだ。


 メグミは常に自分を厳しく律しているノリコを知っているからこそ、それが甘えだと気が付かなかった、そんな筈はない、そう思い込んでいた。


 そうノリコはずっと母に甘えたかったのだ、褒めて、認めて欲しかった。ずっとそんな母親の様な人を求めていた。

 

 メグミはやっとそのことに気が付いたが、遅すぎた……その立場にはもう成れない。まあそれで良かったとメグミは思う、相応しい人がその場に上手く納まったのだから、ただ甘えるノリコはきっと可愛い、凄く可愛い、


(うーん、ちょっと勿体なかったよね、まあ今更だし、別に良いけどね)


「あのーーーメグミちゃん、『ママ』、私にはあなた達が何を言ってるのかサッパリわからないんですけど」


 サアヤが自分には意味不明な会話を続ける二人に少し苛立ちながら疑問を投げかけて来る。

 

 メグミは思う、サアヤでは無理だろう、サアヤでは母親代わりには成れない。サアヤはノリコの事が好きだ、本当の姉のように慕っている。ノリコの心が張りつめていることは、この聡いメグミの親友も気が付いている。

 しかし、決してノリコが寄りかかれるような存在ではない。共に立つ存在にはなれても寄りかかれはしないのだ。


 エルフの寿命は長い、サアヤは、そのエルフで更にまだ14歳、元々賢く、祖父母にしっかりと躾けられた彼女は、人間の年齢としても年若いその年で、他者と比べてしっかりしている様に見える。

 しかしエルフにとって14歳は生まれたてに近い、人間で言えばやっとハイハイを始めた乳飲み子、この年のエルフにしては異常なほどサアヤがシッカリしているだけで、100歳近くまで両親と共に暮らすエルフも珍しくないと聞く。


 エルフはその外見や知能の発達に比べて、その精神の成長が非常に遅いのだ。


 サアヤは非常に知能が高い、同年代のエルフと比べても突出して著しく高い、その為しっかりしている様に、大人びて見えているだけで、その実、その精神は幼い、ノリコとどっこいどっこい、いや、もう少し幼いか……外見よりも遥かに幼いのだ。


(そうよね、サアヤの精神年齢って確か賢い幼稚園生位だったわよね、うん、話に付いてこれるわけがないよね)



 これは別にメグミの意見ではない、彼女の祖母から聞いた話なのだ、彼女曰く、


「エルフが高慢ちきで鼻持ちならない、その感想はある意味正しいのよ。

 だって他の種族と接する、他の種族がいる街に出ていくエルフはね、皆幼いのよ。人間の子供が冒険だって言って野山を駆けまわるみたいなものね。


 それなのに、子供の癖に頭だけは、知識だけは大人みたいに有るから、それでそうなってしまうの。能力も他種族の子供に比べたら高いしね。


 小さな子供が大人ぶって一丁前に他種族の大人に混じっているのよ? しかも外見は他種族から見れば大人でしょ? ふふっ、彼らも大人になって過去の自分を思い出した時、恥ずかしくて赤面してのた打ち回ることでしょうね。


 そんな生意気な子供ばかりが他種族と接しているの、エルフが高慢ちきで鼻持ちならなく見えても仕方ないわね」


「じゃあサアヤも?」


「あの子はね、その中でも特にその傾向が強いのよ、必死で大人ぶっては居るけどね。

 まあ祖母バカになるけど、あの子はエルフの同年代の他の子に比べても賢くて、その分精神的な成長も早いわ、けど……それでもそうね、外見に対してその精神は幼いわね、人で言えば、そうね精々幼稚園生位じゃないかしら?


 そんなわけだから色々我儘を言うし、その外見に比して大人げない所があるけど、諦めずに友達で居てくれると嬉しいわ。


 あの同年代のエルフの子達にも馴染めなかった子が、貴方達の事をお友達だって言うのよ♪ 二人も親友が出来たって嬉しそうに笑うの♪

 貴方達どんな魔法を使ったの? あんなに気難しい子があんなに嬉しそうに笑って居るのは家族以外では初めてよ」


「おばあ様、可愛いは正義です! その可愛さはプライスレス! どんなにサアヤがうざがっても私はサアヤを決して離したりしないわ!」


「えっ? そうなの? ん? んん? あれ? ねえメグミちゃん、孫はまだ幼いんですからね? 変な事を教えないでね?」


「イエス! ロリータ! ノータッチ! ですから大丈夫ですよ! まあ女同士ですしスキンシップはノープロブレム!」


「……ねえ本当に大丈夫? まあ貴方は孫に決して酷い事はしないでしょうけど、その言動が非常に不安になるわね、幼い子は悪影響を受けやすいの、くれぐれもお願いするわね」


「ティタおばあ様、メグミちゃんと付き合う以上それは無理だと思います。メグミちゃんの面倒は私が見ますから、サアヤちゃんにはもう一度付き合いを、友達を選ぶことを薦めては?」


「なっ! 酷いわねノリネエ、別に変な事は教えてないわよ! ってかサアヤはその辺は私よりも知識だけは有ると思うわ、相当な耳年魔よ、私が教えなくても知ってるわよ」


「それでも教えたらダメよメグミちゃん!」


「ほうぅ、何よノリネエ、具体的にどんなことを教えたらダメなのかしら、ちょっとそこの所を詳しく聞こうじゃない、ねえどんなことなのよ」


「ううううぅ、えーーと、うん、後はティタおばあ様が説明してくださるわ」


「サアヤもアレだけど、ノリコちゃんも相当アレね、苦労するわねメグミちゃん、けどダメよ? 二人を変な道に引っ張っちゃダメ、良いわね」


「ええっ! 私もっ! 私もなんですかティタおばあ様、それにメグミちゃんが苦労してるの? 私達じゃなくて?」


「行動は破天荒でも精神的にはメグミちゃんが一番年上ね、うん、その精神的な年長者として自重してくれると何も問題ないんだけど……サアヤの話を聞く限りは、実際一番の問題児がメグミちゃんなのよね……貴方達本当に大丈夫なの?」


 そう言って本気で心配するティタおばあ様の顔を思い出す。



「サアヤにはまだ早すぎるだけよ、心配しなくてもサアヤならそのうち分かるわよ」


 賢く聡い彼女の事だ、他のエフルと比べても精神的な成長速度も速い、直ぐに理解できるようになるだろう。

 

「今子供扱いされたのだけはハッキリわかりました」


ぷうっと頬を膨らませるサアヤは確かに彼女の祖母が言う通り幼いのだろう。


(ああ、柔らかそうな頬っぺた、こうブイブイと突きたくなるわね、もう可愛い、本当に可愛い、食べちゃいたい!)


「ごめんごめんサアヤ許して」


 メグミが謝るとサアヤのその膨れた頬が萎む、この辺の聞き分けは非常に良いのがサアヤの長所だ。別にメグミに悪気が無いのも分かっているのだろう。

 そんなメグミ達を見て微笑んでいた『ママ』は居住まいを正し、改めて二人に向き直ると、


「あなた達は本当に優しい良い子ね、だから重荷になるかもしれないけれど、言わせてほしいの。言っておきたいの。

 メグミ、サアヤ、私も……そう私も、2回目は耐えられないの、2回目は狂ってしまう、それだけはハッキリわかるの。

 だから、お願い! 約束してほしいの、必ず帰ってきて、私の望みは他にはないわ」


 そう彼女は『ママ』はノリコにそっくりだ。そんなところまで似てなくていいのによく似ている。彼女はもう一度、この家の住人が帰ってこない、そんな事には耐えられない……


「約束します『ママ』必ず三人で帰ってきます。だって私たちの家、私たちの帰る場所は今日からここだけだもの」


 メグミは、ノリコを救ってくれた『ママ』にハッキリと宣言する。彼女がノリコを救ってくれたように、今度はメグミが彼女を、『ママ』を救うのだ。

 何年かかろうと、メグミ達がこの家に帰って来る限り、徐々に彼女の心は癒されるだろうことを信じて。


「メグミちゃんだけずるい! 私だって約束します。必ず帰ってきます」


 サアヤも慌ててメグミに続いて宣言する。彼女は賢い、流石に今『ママ』の言った事は、メグミの宣言の意味は理解できたのだ。


「……そうノリコだけじゃなくて……私はあなた達のことも、そう愛してしまっていたのね。だからあの時消えたくなかったんだともうわ……」


 そっと目に浮かぶ涙を拭う『ママ』、その背後の扉の奥では、未だにノリコが恥ずかしさに悶えていた。ほんとうに恥ずか死ぬのだけは止めて欲しいが……



 所長さんはメグミが居るから大丈夫っと言っていたが、メグミは違うと知っている。

 

(『ママ』が居るから大丈夫)

 


 そう卑怯かもしれないが、嫌われるかもしれないが、ノリコを止める魔法の言葉を手に入れたから、多分もうノリコは大丈夫なのだ。無茶はするし、お人好しは治らないのだろうけど。

 そんなことを思いながらシャワールームにつくと、仕切られた区画の一区画だけ湯気が立ち上っていた。


(よっし!!)


 メグミは心の奥でガッツポーズを取っていた。サアヤなら必ずそうすると思っていたし、そう、家では偶に一緒にお風呂に入ったりはしているが、これはこれで別腹なのである、


《覗きは極刑》


 違う!! メグミは決して覗いたりはしない、堂々と、正面から!!


 パッっとメグミがシャワーカーテンを開けると、ノリコとサアヤが一緒にシャワーを浴びて洗いっこをしていた。


 弾ける水滴、踊る巨乳! 舞い散る泡が可憐にその身を彩る。


「私脱いでも凄いんです!」


 昔、そんなCMが有ったが、ノリコのそれはそんなモノの比ではない、美しい白い肌、大きいのにちっとも垂れていない、奇跡の様な美乳、可愛らしい、ピンクの乳首が目に眩しい、形の良い足が長くスッと伸び、その上には小さめのお尻がきゅっとしまって輝いている、全身余すところなく美しい、裸の女神がそこに居た。


 傍らには編み込み、結い上げていた髪を解いて、その背に下ろした、妖精が居る。


 その解かれた髪は、サアヤの腰の下まで覆うほど長い、その細い繊細な白金色の髪の毛が、その身を覆い白い体を彩り輝かせる。

 又その小さな胸は、しかし、その華奢な体とマッチして幻想的な美しさを醸し出す。

 大人と子供の中間、その刹那の刻、その不安定な儚げな一瞬の期間しか存在しない少女と言う時期、その少女が持つ、生命力が迸る、瑞々しい肉体、無駄な肉の無い細い体。


(イエス!! イエス、イエス!!! ロリータ万歳!! ビバロリータ!!)


此方も綺麗な、薄いピンクの乳首がツンと立っていて、本当に今直ぐ吸い付きたい、そうメグミに思わせる。

 華奢だが長い手足、しかしそれは骨格が細いだけで肉が付いていないのではない、しなやかに伸びた手足は、本当に人形の様。

 ノリコとじゃれ合って、洗い合うサアヤの小さな綺麗なお尻がメグミの目の前で踊る、


(はぁーーーぅ、このために生きてるわーー、もうね美少女2人の裸来たーーー! 巨乳と貧乳でご飯何杯でも行けるわコレ、ぐへへ、ぐへへへへへっ)


 そんな事を内心思いながらメグミは、目の前の光景に暫し言葉も忘れて陶然と酔いしれる。

 気にした風もない二人に、暫く黙って見つめていたメグミであるが、ハッと気が付き、慌てて、


「遅くなってごめん」


声を掛ける、このまま眺めていたら理性が吹き飛び、ダイブして二人に襲い掛かりそうだった。


「用事は済みましたか、メグミちゃん」


 メグミが入ってきても、夢中でサアヤとじゃれ合っていたノリコは、気にした風もなくそう声を掛ける。


「うん、大丈夫済んだよ」


 メグミは自分の内に渦巻く欲望をおくびにも出さすに答える。そんなメグミの内心など知らないサアヤは一糸纏わぬ裸体のまま、メグミに近寄り、


「早くシャワー浴びましょう、メグミちゃん、ちょっと汗臭いですわ」


 そんな事を言う、確かに汗くさいのは百も承知だが、花も恥じらう乙女に向かって流石にそれは無いだろう、自分達は既に汗を流して汗くさくないのだろうが……


(あれ? サアヤって汗くさかったっけ? ん? どうだったっけ?? ハッ! そうよ美少女の汗は甘露、その匂いは至高!! そうよ、そうだったわ、いっそ、その匂いに包まれても良い位だったわね、うん、汗くさいのは私だけね!!)


 そう一人心の中で自己解決をした。だがそう思いつつも口では、


「ひっどーいサアヤ、もう髪編んであげないぞ」


そう言ってサアヤに返す。乙女に無遠慮に事実を指摘するサアヤに少し意地悪をしたく成ったのだ。

 まあサアヤも本気で汗くさいメグミが嫌では無いのだろう、一緒に汗を流した仲間なのだ、離れて行かないのがその証拠、


「ううう……メグミちゃんが意地悪します、ノリコお姉さま」


 サアヤの髪の毛は繊細で細い、その長い髪の毛を戦闘の邪魔にならないように、キッチリ編み込んで結いあげるのには可成りの技量が必要だ、メグミだから出来ると言っても過言ではない。


 そんなメグミの意地悪な言葉に、サアヤは甘えたように裸のノリコの胸に飛び込んでその大きな胸に顔を埋めるのだ。

 身長差が良い具合にそれを可能にしていた。フニフニとその胸に顔を埋めて気持ち良さそうなサアヤを見て、


(ああああああああっ!!! サアヤ! ズルい! それはズルい! 何その役得! ダメよサアヤ、それは私の! 私の物なんだから!)


 メグミは心の中で絶叫を上げる。


「今のはサアヤちゃんも……メグミちゃん早く脱ぎましょうね、手伝います」


 胸に抱いたサアヤの頭を優しく撫でていたノリコは、メグミの匂いを嗅いだのかそんなことを言って上着を脱ぐのを手伝い始める、見るとサアヤもメグミのズボンを脱がせに掛かっている。

 

(確かに、確かに一杯汗をかいたけど、え? そんなに? そんなに汗くさい?)


「えっ……あれ? まあ汗一杯かいたしね分かってるけどね……そういえばノリネエ、無茶しないって約束してたよね? 今日のあれはどういった事かな?」


 ちょっと意趣返しにそんな意地悪を言ってみた。

 上着を脱いだらブラまでノリコが脱がせてくれる、下ではサアヤがメグミのショーツをを脱がせてくれる、


(流石に下は恥ずかしいんだけど? え? あれ? 脱いだ服何処に行ったの?)


 ノリコを見ると脱がせたブラをサアヤに渡している、サアヤはショーツと合わせてブラを『収納魔法』で仕舞う。どうやら上着やズボンもサアヤが『収納魔法』で仕舞ってくれたらしい。


「あれはダンジョンの外でしたからノーカンよ」


 普段三人の時は割と素直なノリコが無駄な抵抗をするので、


「へーーえ、『ママ』にノリネエのこと報告するように言われてるんだけど、今日のは報告しても良いんだ?」


 少し卑怯な気はしたが最終手段に出た、『ママに言いつけるぞ!』これは効く、ノリコには効果覿面だ、メグミが手に入れた魔法の言葉。シャワーで汗を洗い流しながらメグミがその言葉をノリコに浴びせる。

 ノリコはシャンプーを泡立て、メグミの髪を洗いながら、


「……『ママ』には言わないで」


そう弱々しく、呟く。サアヤはボディーソープを泡立ててからメグミの体を洗い始めた。


(あれ? 今日はやたらとサービスが良いわ、なんで?)


 メグミは知らないが、メグミの自由にさせると、洗ってあげると言いながら胸やらお尻やら触りまくり二人ともメグミのセクハラの餌食になるので、先制してメグミのを洗うことでそれを防いでいるのだ、メグミがいない間に二人で相談して決めたメグミのセクハラ対策である。


 しかし、二人はメグミを少し甘く見ていた、この程度で諦めるメグミではない!


 クルリと振り返ったメグミは何時の間にか両手にボディソープを泡だてており、そのままノリコの胸を救い上げるように揉み始めた。


(なぁっ、いつの間に! 不味いですわ! お姉さま今お助けに!)


 驚くサアヤと、悶えるノリコ、主導権は完全に逆転していた、サアヤがその暴挙を許すまじと、背後からメグミの胸に手を回すが、近寄った瞬間、メグミは後ろ手に背後のサアヤの御尻を左手で揉む、微妙に割れ目の所まで入ってくる手にサアヤの動きは完全に止まる。

 その間も右手はノリコの左右の胸を行きかい、微妙なタッチで乳首を刺激する。

 ノリコは悶えながらも非難の目でメグミをキッっと睨むのだが、そこには、


(体を洗ってあげてるだけよ? 何? どうしたの?)


そんな平然としたメグミの顔が有るのだ。

 そう何時もの事である、メグミは体を洗っているだけなのだ、


「私に体を洗われると気持ちいいの? なに? それって私の体の洗い方が上手いって事? ふふっそんなに褒められると照れるわね」


声に出して指摘してもメグミは何時もこう返す。


「いやそうじゃなくて、ねえメグミちゃん! これはダメよ、ダメなのよ! ええきっとダメよ!」


「何がダメなのよ? 気持ちいいんでしょ? 痛いとか不快な洗い方より遥かに良いじゃない、他人に髪とか洗ってもらうと気持ちいいでしょ? それと一緒よ」


 ノリコ達の言葉はメグミの前には無力だった。

 仮に性的に気持ちいいからダメとでも言おうものなら、


「感じ方の問題ね、ダメよノリネエ、欲求不満が溜まってるんじゃないの? なに? 仕方ないわね私が解消の手伝いをしてあげましょうか?」


平然とそう返すのが目に見えていた。


 そしてノリコ達が我慢できずに泣きそうに怒り出しそうになる前に、スッと普通に背中や腕を洗い出すのだ、その加減が絶秒過ぎて、ノリコ達は非難の声すらあげられない。


 最悪なのが、その手付きなのである、見ている分には確かに胸やらお尻を洗っているが、イヤらしくないのだ、下心丸出しの手付きならば非難のしようも有るが、ごく自然に洗うのだ。


 しかし、洗われている方は、全く違う、その自然な手つきに超絶技巧が含まれて、とても、大変、非常に気持ちいいのだ、サッと撫でられるだけで背筋が痺れるほどの快感を与えて来る、自然な手つきで二人の急所を的確に突いてくるのだ。


 この状態にならないように策を弄した二人であるがメグミの前には無力、無駄であった。

 なら最初からメグミと一緒にシャワーなど浴びなければ良いのだが、別段二人はメグミが嫌いなわけではない、メグミと友人で有る限り、仕方がない、と諦めの境地に達していた。メグミの言う通り、メグミに色々触られても不快ではないのだ。

 

 この絶妙な距離感により、二人はこの欲望に忠実過ぎる友人がどうしても嫌いになれない。

 メグミはこの性欲魔神な所と、戦闘狂な所を除けば、友達思いで優しい、可愛い女の子なのだ。まあその欠点が酷すぎるのだが、それを補って余りある程、この友人は優しい、決して二人に酷い事はしない、そう、短い付き合いだが二人は確信していた。


 そしてメグミは絶妙の力加減で二人の太ももの内側を洗いながら、


「そういえばアイスクリームとジュースの約束」


そう問いかけて来るのだ、ごく自然に……

 快感に声を上げそうになるのを必死で我慢していたノリコは、それを誤魔化す様に半ばヤケクソ気味に叫ぶ、


「忘れてませんよ、シャワーを出たら購買で買ってあげます!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る