第11話武器の完成と眠れる草原の美姫
メグミはシンゴの武器の仕上げにかかる。フイゴを操作し炉の温度を上げて、十分に刀身に熱を持たせ、また一斉成形で形状を作り、『付与魔法』でゴロウと同じ構成で追加効果を付与していく。
水につけて本日3度目の蒸し風呂を周囲に発生させいると、最初にセットしていたゴロウの刀身の研ぎが終わっていた。そのまま『鍛錬空間』を操作しそのまま隣の『錬金空間』に送る。ちらっと眼を向ければサアヤ『魔法球』の3個目が完成直前である。
「ゴロウの出来たんで『魔法球』埋め込みと刀身への魔法回路接続お願いね」
メグミは気楽に声を掛けるが、
「ううう……熱いです、人使い荒いです、死にます」
本当に死にそうな声をサアヤが上げる。
「もうっサアヤは打たれ弱すぎよ、もうちょっと体力付けないと」
ヘタっているサアヤにメグミは励ましの声を掛けるが、
「3/4はエルフなんですから、人族の様にはいきませんよ、メグミちゃんの意地悪」
そう言ってサアヤは拗ねて頬を膨らます。
(うん拗ねたサアヤもめっちゃ可愛い!! 食べちゃいたい!)
◇
サアヤのおじいさんは日本人だ、だからサアヤは日本人のクウォーター、「小野寺 咲綾」が彼女の本名だ。
「小野寺 九朗」が彼女のおじいさんの名前、サアヤは自分の名前はおじいさんが付けてくれたと自慢していた。
このクロウ、異世界でエルフの嫁さんをゲットした剛の者でリア充である。サアヤのおばあ様は純粋なエルフで、サアヤ、お母様、おばあ様の3人で写った写真を見せてもらった事があるが、3姉妹にしか見えなかった。
エルフ、特にサアヤのおばあ様はその中でも特殊なハイエルフと呼ばれる種族で寿命が無い、今までに寿命で死んだ人が居ないのだそうだ。
おばあ様は今でも大変見目麗しく、クロウ爆発しろっと本気で殺意が沸いた。話が脇に逸れた、つい嫉妬が……あんな爺さんにあんな美人がなんで……世の中狂ってる!!
◇
その後、シンゴの刀身も試し振りをして問題ないことを確認してから、『鍛錬空間』に戻し、切削・研磨・研ぎをセットする。出来上がってたタクヤの刀身も『錬金空間』に放り込み、鍔をそれぞれにサクサク作成する。余裕が有れば彫金等に凝るのだろうが、今回は実用第一、無駄な彫金はしない。
出来上がった鍔も研ぎ終わったシンゴのの刀身も『錬金空間』に放り込んだら『鍛錬空間』を閉じ、『木工魔法』で『木工空間』を作成し、『錬金空間』にくっ付ける。
家のリフォームの際購入した、ジャイアントチークの余りの部材を放り込み、
元々ジャイアントチーク自体が茶色であるが更に焦げ茶のオイルで表面を仕上げたら、良い感じの焦げ茶に仕上がった。
(塗料も漆もニスもないから家具用のオイルで仕上げたけど、良い雰囲気ね、木目が綺麗、今度からこっちで作ろうかしら?)
仕上がりを確認してから加工済みの鞘と柄の握りも『錬金空間』に放り込んで『木工空間』を閉じる。
サアヤはゴロウの剣の魔術回路の作成と『ルーン文字』の作成が終わったらしく、『魔法球』に魔力を流し込んで刀身への魔法回路の『慣らし』をしていた。一度多めに魔力を流すと魔力回路の余分な抵抗が吹き飛んで、スムーズに魔力が流れる、そのための作業だ。これは魔力を大量に消費するのでやらない職人も多いのだそうだが、やるのとやらないのとでは、その後の手に馴染む感覚、魔力伝達のスムーズさが段違いだ。
「まあこの仕上げは、そのままやらないでも、使い込んで行くうちに同じような状態になるんだけどね」
剣への『付与魔法』の師匠の談だが、それでも師匠は決してこの仕上げをサボらない。
そしてサアヤも決してこの仕上げをサボらない。例え必須でなかろうと、使い手が誰であろうとも、決して手を抜かない。
それを横目に見ながらメグミはサアヤの『錬金空間』の空きスペースで作業を開始する。鞘のベルトに付けるための金具や鞘の口金を造るため、亜鉛玉を取り出し錬成空間に放り込み、銅と亜鉛を錬成して真鍮を作ってそれをサクサク加工して鞘に取り付けていく。
メグミは真鍮が好きだ、武器として使うには強度が足りない、しかし、肌に触れる部分には、強度の必要ない部分にはちょうどいい、そう思ってる。
メグミの中で真鍮は優しい金属、鋼のように人を、他者を傷つけることなく、優しく触れてくれる、肌に馴染んでくれる、そんな優しい金属なのだ。
無論、メグミの単なる思い込みだ、自分でも単なる思い込みだと理解している、しかしこの異世界に来て、ドアノブや取っ手、レバー、スイッチ、手に触れるところに多用されている、長年使われて良い風合いの出ている真鍮を見て思うのだ。
「何て優しい金属なんだろう……人に寄り添ってくれる」
使い込まれたドアノブを見ているとそう思えてならない、だから装身具の強度の必要ない部分、肌に触れる部分には真鍮を積極的に使う、きっとこの装身具も使用者を優しく守ってくれる、決して傷つけることはない、そう思って使用するのだ。
そしてサアヤの調整の済んだゴロウの刀身に鍔と、柄の握りを付けてピンでカシメ、その上からジャイアントスパイダーの糸製の黒い太紐を編み込みながら巻いていく。巻き終わったら紐の端を他の紐と溶着して………『完成』
刀身が魔鉄のため普通の鋼の白ではなくダークグレーで、それでもわかる刃紋と、全体のシルエットが反りで美しかった。彫金された銅は出来立てで、まだキラキラ輝いて派手でメグミの好みではないが、これは暫くたてば茶色に落ち着く筈である。柄も木目が美しい茶色でその上に黒い太紐がシッカリと巻かれている。
全体としてシックに落ち着いた、雰囲気の良い幅広ロングソードに仕上がった。アメジストの『武器追加効果付与魔法球』が仄かに光っているのが綺麗だ。他の2本も仕上げ鞘に納めるとサアヤと二人、小屋の外に出る。
外は天国だった!! 火照った体に草原を渡って吹く風が気持ちいい。『収納魔法』で取り出した魔法瓶に入れた冷えたスポーツ飲料をサアヤと二人で一気に飲み干す。乾いた体に染みわたる……至福の一杯であった。
「ぷはぁ! 生き返りますぅ」
可愛い小さな口で一気に飲み干したサアヤが感嘆の声を上げる。
「クッソ暑かったわねえ、マジ死ぬかっと思ったわよ、これはたっぷり代金吹っ掛けないと割に合わないわ」
額の汗を乱暴に服の袖で拭うと、メグミはニヤリと笑みを見せるのだった。
◇
一息ついたメグミ達はノリコはどこかなと探す、すると小屋の近くの草原に、プリンを枕にし、ラルクをレッグピローにして、横にソックスが伏せて控える状態で、仰向けで熟睡していた。
ちょっと予想外のその姿にメグミ達が戸惑っていると、ソックスはメグミが出てきたことに気が付いて嬉しそうに尻尾を振ろうとした、しかしその尻尾がノリコに当たる寸前で、尻尾を振るのを止めて位置を伏せたままずらし、尻尾が当たらない位置まで移動すると、そこで改めて嬉しそうに尻尾を全開で振っている。
(うん、偉いぞソックス! ちゃんと分かってる! 後でご褒美を上げるね!)
何故か少し誇らしげにドヤ顔をしているラルクと、何を考えているのかさっぱりわからないプリンを改めて観ながら、
(ノリネエが無理やりプリンを枕にすることは絶対に無いだろうし……
うーーん、状況から推測するに、草原で倒れ込むように寝てしまったノリネエを、草原で遊んでいたペットたちが心配して駆け寄よる、うん、これは十分あり得るわね。
で、プリンが気を利かして自ら枕に成ったのかな? サアヤに言わせればプリンはとても優しいって事だから、これもあり得るわね。
でもってそれに嫉妬したラルクが、対抗手段としてレッグピローとなることでノリネエのペットとしての面目を保ったってところ? うん訳が分からないわね、相変わらすラルクの行動は意味不明だわ。
最後のソックスは分かりやすいわね、眠れる美姫を守るナイトして横に控えているってところね、流石私のペット! 番犬役位、余裕でこなせるわよね)
こんな感じであろうとメグミは当たりを付ける。褒めて貰いたそうにしているソックスと自慢げなラルクがその証拠だ。プリンの感情はその姿からはメグミには伺い知れなかった。
「相当無理されたのですね、ノリコお姉さま、プリンちゃん偉いですね、起きるまでそうして居てくれますか? ……そう有難う」
(サアヤはなんでプリンと会話できるの? テレパシーって奴なのかしら?)
「ん、ソックスも偉いぞ、ちゃんとノリネエを守ってたんだな」
そう言って頭をなでると吠えることなく尻尾を振っていた。本当にソックスは賢い、ノリコが吠えて起きないようにちゃんと気が使えるのだ。そんじょそこらの男子よりよっぽど気配りが出来る犬(狼)なのだ。
そうして改めてノリコの姿を見るメグミは、
(ノリネエってば寝顔まで美人! 本当に綺麗! アレね草原に丁度いい具合に花が咲いてるから、花に囲まれた眠り姫みたいね、ノリネエ寝てると若干幼く見えるのがまた良いよね、なんでだろ? 無防備にあどけない感じで寝るからかな?)
心の中で今のノリコの姿を『眠る白雪姫』と題して、永久保存フォルダに入れておくメグミであった。
そしてメグミは親バカ全開で暫くソックスをモフッた後、ノリコが暫く起きる気配が全くないので、どうせならと少し離れたところで作った剣の試し振りをしようとサアヤと相談して決めた。
メグミは先ずはゴロウ用の剣を鞘から引き抜いた。
ブンッ!!
(『重量軽減』が効いてるから何とか振り回せるけど、私には重すぎだな、けどバランスは悪くない、刃筋は通ってるし、振った時のブレもない)
先ずは満足な出来栄えだ、サアヤにも勧めたのだが、その剣を手に持ったサアヤに、
「この重さは私には無理ですね、片手では振り回せません」
そう断られた。そのままゴロウの剣を鞘に納めて、次はタクヤ用の剣も振ってみる、
シュッ!!
(ん?! 思った以上に良いじゃない? ってか良すぎるわ、タクヤには勿体ないわね? これ)
此方は何とかサアヤにも振れた、両手持ちだからだろう。
「!! これ良いですね……思った以上に良い……私には少し重いですが、一回り小振りなのが欲しくなります」
「ね! 思った以上に良いよね、私も欲しくなったよこの剣、タクヤには勿体ないような……」
「俺にはなんだって?」
「よしサアヤ、シンゴ用も振ってみよう」
「無視すんなよ流石に俺も凹むだろ……」
「いたの? タクヤお帰り、割と早かったね、ゴロウ君達もお帰り」
後ろを振り向くとゴロウ達が帰ってきていた。急いで走って帰ってきたためか、三人とも汗だくだ、まあメグミ達も人の事を言えた恰好ではないが、
「皆さんお帰りなさい、バッチリですか?」
サアヤが声を掛けると、
「問題ない」
「バッチ、グーよ、もうね生まれ変わったよ俺!! 期待してて」
「自分は問題ないですが、ノリコ様は如何された? あそこに倒れられているが」
其々に答える、シンゴがそう聞いてきたので地下3階のジャックポットの件と、その治療でノリコが魔力と精神力切れで寝ていること、地下2階でもジャックポットが起こりそうであり、2回のジャックポットで撤退する件を伝えた。そんな話をしていると、
「う……ん?! あれ? なんで私プリンちゃん枕にしているの? ん? ラルクは足元でなにしてるの? 甘えん坊なの? あら? ソックスちゃんもいるのね、おはよう」
ペットに囲まれたノリコが上半身を起こし優しくソックスの頭をなでていた。ラルクは自分が誉めて貰えず少し不満そうだ。
(ラルク!! レッグピローは分かりにくい、分かりにく過ぎるよ、ノリネエは悪くない)
そしてメグミ達を見つけるとノリコは、
「ごめんなさい、私寝てたみたいね」
「しょうがないよノリネエ無理しないで」
「ノリコお姉さま、一度みんなでシャワーを浴びませんか? ゴロウ君達も汗だくですし、私も汗だくで、我がままで申し訳ありませんけど、お願いできませんか?」
「そうね……そうしましょうか、ゴロウ君達もそれでいいかしら?」
ゴロウ達は互いに顔を見合わせ、
「「「サー、イエッサー」」」
ノリコはメグミを睨み、メグミは明後日の方向を向いておいた。
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