第10話武器作製

「ではサアヤちゃん、ゴロウ君達に『身体強化』をお願いね、それでメグミちゃんは武器の製作をお願いね、さっき言った様な剣を3本頼むわね」


「わかりましたわ、では『身体強化』を掛けますから、私の前に並んでくださいね」


 メグミは素直に了解するのに躊躇ためらった、今は昼過ぎ……一番熱い時間帯であろう、なのにあの灼熱地獄へ入らねばならない……


(スッゴイ嫌!! ……汗だく確定じゃん……)


 というのがメグミの気持であるが、多分拒否した場合、ノリコはメグミが折れるまで説得する。否は最初からない。


 大地母神は大慈母神ともいわれている慈悲の神で、ノリコは大地母神の神官になるべくして生まれてきたような慈悲の人である。


 先ほどの説教とて『大きなお世話』なのはノリコも自分で百も承知であろう、しかし、手に届く範囲に助けれる人が居たら、困ってる人が居たら、そしてそれがノリコに出来る事、助けれる事であれば決して見過ごせない。


『超絶お人好し』


 それがノリコだ。

 今回もたとえ自分がその説教や武器製作を依頼することで、ゴロウ達やメグミに嫌われたとしても、ノリコはそれをするのに躊躇いはない。知り合ってしまった以上ノリコはゴロウ達を見捨てることが出来ない。


 しかし、メグミは違う、メグミはノリコ程お人好しではない、灼熱地獄は嫌なのである……メグミが答えに窮していると、真面目な顔をしたノリコが、


「シャワーを借ります、だから汗は大丈夫よ。着替えも持ってきてるでしょ? 後で購買でアイスクリームもご馳走するから、メグミちゃんお願い」


そう言ってメグミに迫って来るのだ。


(くぅ、可愛い、超絶綺麗! 辛抱堪らん! 近い、顔が近いよノリネエ! キスして良い? 良いよね? コレいけるよね?)


 そんな内心の欲望を、ノリコに嫌われたくない一心で押しとどめ。


「……ジュースも追加で要求します。あとコボルトの爪使っても良い?」


 メグミは早々に折れて条件を詰めることにした。


「有難う、メグミちゃん。ゴロウ君達、コボルトの爪使うけどいいかしら?」


「自分達の武器を造って貰うのですから一向に構いません、むしろ使った分の材料費は、製作していただいた武器の料金に上乗せしてください。

 今すぐに支払いは無理かもしれませんが、利子を含めて必ず払います。タクヤやシンゴにも必ず払わせます」


 ゴロウはこの三人組の兄貴分、リーダーなのだろう、冒険者としての基礎こそ出来ていないが三人を纏める自覚はあるようだ。


「流石に俺だってそこまで馬鹿じゃないさ、恩は必ず返すよ」


 先程までは割と敬語でしっかり答えを返していたタクヤであったが、やはりチャラい。


「ノリコ様にありがたい訓示をいただいて、更に武器まで下賜かしくださるとは、このシンゴ一生ノリコ様達についていきます!!」


(まあノリネエは絶世の美女だもの、心酔するのも分からないではないけど……今のやり取りの何がそこまでシンゴの琴線に触れたの?)


 また一人ノリコのストーカーが誕生したようだった。


(付き纏ったりしない様に後で釘を刺さないとダメかしらね? ノリネエは私のよ? 誰にもあげないわ!! ……まあいいや同意もとれたし、場所を借りに鉱山管理事務所に行こう)


 ゴロウ達が手を振りながら走り去り、それを見送ったメグミ達が鉱山管理事務所で鍛冶場を借りていると、鉱山の入り口付近が、なにやら騒がしい、大人数が一斉に鉱山入口から出てきていた。


「何事かしら? 私ちょっと様子を見てくるわ。メグミちゃん、サアヤちゃん先に行って作業してて、事情を聴いたら私も後から行くから」


 心配そうにノリコが呟く、年が一番上なことも有ってノリコがこの三人組のリーダーの様な役割もしている。情報収集もリーダーの役割だが、それだけでは無いだろう、


「ん、了解、だけど直ぐに来なくていいよ、なんか怪我人もいそうだし、治療してから来ればいいから。武器制作の方は私とサアヤで作業は進めとくよ」


 察したメグミが気楽にノリコを促す、どうせ止めたって無駄なのだ、ここは快く送り出すべきだろう。知り合ってから期間的には短い付き合いだが、その程度は分かる位に濃密にノリコとは付き合っている。


「行ってください、ノリコ姉さま」


 此方も全て察した表情でサアヤがノリコを送り出す。


「有難う、皆いい子ね、行ってくるわ」


 ノリコはイソイソと足早に鉱山入口に向かう。

 見ていると入口から出てくる人は多く、怪我人も居るのだろう体を支えてもらって足を引きずるように出てくる人も可成りいる。


(ノリネエ『治癒』の使い過ぎで倒れなきゃ良いけど……)


 メグミはノリコが無茶しないことを祈りつつ、道向かいの鍛冶小屋に入った。

 この小屋では常に中央の高炉で鉱山から産出した鉄の精錬が行われている、その周辺では、この高炉の熱を拝借して鍛冶が行われていた。メグミが借りたのもそんな鍛冶場の一角である。

 既にレザーアーマーは脱いでいたが一斉に汗が噴き出す。高炉の火で炙られた室内はサウナのようであった……


(熱い……汗臭い……ええと借りた区画は……っとあった3番)


 他にも幾人かが其々の区画で作業しているのが見える。ゆらゆらと熱気で揺らめく室内を歩き、自分の借りた区画に行き煌々と燃え盛る炉の前に座ると熱さで一気に汗が乾く、これはダメだと、さっさと『鍛冶魔法』で炉を覆う。

 炉の熱が『鍛冶魔法』で作成した『鍛錬空間』に吸収され、周囲の温度が一気に下がる。それでも熱いがサウナよりは大分マシになった。

 その頃になってサアヤがメグミの隣に来て座った、この区画の温度が下がるのを待ってから小屋に入ったようだ……この辺サアヤはちゃっかりしてた。


「サアヤ、ズッコイ!」


「犠牲は一人で十分ですよ、2人して汗にまみれても仕方がないでしょう? それに今でも十分に熱いです」


 サアヤも『錬金魔法』で『錬金空間』を作成し、メグミの『鍛錬空間』とくっ付けた。こうすることで熱や材料等色々やり取り出来る。

 メグミは『収納魔法』で取り出した、各部材ごとの材料を『鍛錬空間』に入れていく、前日までに採取した地下2階の魔鉄の鉄玉だが、炭素含有量と魔素含有量が違うため部材ごとに色が微妙に違っている。


(えーっとこれを芯金にして、これとコボルトの爪を刃金、これが側金、こっちが棟金かな、分量はこの位で十分かな? 部材ごとに折り返し鍛錬を自動セットしてっと)


 少しフイゴを押して炉に風を送り込み、炉の温度を上げて『鍛錬空間』の熱量を増やす。熱せられた部材の温度を色で確かめつつ、鍛錬を開始させる。メグミの師匠のドワーフ達は自分でハンマーを振って鍛錬したりしているが、メグミの腕力では無理なので素直に魔法で鍛錬する。

 カンッカンッっと良い音が鳴り響く。

 各部材が同時に折り返し鍛錬がされていく、『鍛冶魔法』独特の眺めである。


(良い色だわ、プリンちゃんに精錬して貰うと高炉で精錬するよりも純度や質が良いみたいなのよね、他の『魔道スライム』ではこうは行かないみたいだし、やっぱり赤いから?)


 そんな事をメグミは思っていた。まあプリンは赤と言うよりピンクなのだが、某彗星の人も稲妻の人に言わせればピンクなのだそうだから赤でも良いのだろう。


 横見ればサアヤが『錬金空間』に、アメジストの結晶を幾つか放り込んでいた、このアメジストも地下2階で取れたもので『魔紫水晶』という、普通の『紫水晶』よりも魔術が馴染み安く魔素も含んでいるため、武器に組み込むと、追加効果が強化しやすい。


(本当はもう少し高い材料も使いたいけど、手持ちがないし、お金もないし、仕方ないよね……まあゴロウ達もお金そんなに持ってないだろうし、丁度良いか!

 けど何時かはもっと高い材料で色々作って見たいなぁ)


 『錬金空間』に入れられたアメジストは液体の様に溶かされ、それが小さな魔法陣に成形されていく、異なる魔法陣を幾つも作成していき、それらが順に重ねられていく。サアヤはその作業を手をかざしながら行っていく、段の着いた球形に近い形状に重ねられたそれに、サアヤは『付与魔法』で魔力を込めていく、目がしかめられ、睨みつけるように重なった魔法陣に魔力を集中すると、重なった魔法陣が光始め、それぞれ異なった速度、向きで回り始める。


(うーーん、ほんとサアヤって美少女よね、もうっエルフって卑怯な位綺麗ね、森の妖精って表現もあってるけど、サアヤの場合、どこか品が合ってお姫様みたいなのよね……)


 暫く動きを確認したサアヤは力を抜いて嬉しそうに頷いている。満足できる出来の『立体積層魔法陣』が完成したようだ。サアヤがまた手を翳すと、今度はその魔法陣を包み込むようにアメジストの球が完成し『武器追加効果付与魔法球』通称『魔法球』が完成する。


(この小ささで、この数の魔法陣を組み込むとはね……ほんとサアヤって細かい作業得意よね。それに、よくこの数の魔法陣に魔力コントロールしながら魔力込めれるよね、私はこの半分でも無理かも……)


「ねえサアヤ、今回はどの位の効果を付与したの?」


「特殊触媒もありませんし、元の宝石もアメジストですからね、あまり無茶はできませんでした、『切れ味向上』『威力向上』『耐久性向上』『防錆』『重量軽減』『魔素吸収量向上』位です、それぞれの効果に対して『効果向上』を与えたので、材料がショボい割に、そこそこ良いものができました」


 メグミの想像以上の効果が付与されていた、例え今日知り合ったばかりのゴロウ達武器であろうと、請け負った以上は手は抜かない、サアヤの気真面目さが分かる様な付与効果の数であった。


(真面目ねえ、本当にサアヤって生真面目、適度に手を抜くことを覚えるべきだわ)


「あと二つも同じの作るの?」


「はい、魔力を回復させてから後2つも同じものを作ります。『付与魔法』は流石に魔力の消費が激しいです……ちょっと休憩」


 スッと立ち上がろうとしたサアヤの手を掴んで、メグミは優しく声を掛ける。


「おつかれさま、熱いけどゆっくり休んでね」


 汗だくの顔で微笑むメグミに、


「……外で休んだらダメですか?」


若干気まずそうにサアヤが尋ねるが、


「私がサアヤの『錬金空間』の維持の魔力まで供給したら、こっちの鍛錬に回す魔力が無くなっちゃうんだけど? 私はサアヤほど魔力量多くないんだから、我慢してここで休んでね」


微笑んだままそう伝える。

 事実なので仕方がない、決して一人で汗だくになりながら耐えるのが嫌なわけではない。

 確かにこの糞忌々しい汗くさい男くさい空間で、自分の傍らに美少女を置いておきたい、そう言った気持ちも無くなないが、それが理由ではない。


「うう……わかりました、ここで休みます」


 サアヤが少し項垂れるようにして休んでいる、首筋を流れる弾の汗がとてもきれいだ。


(うわぁ、勿体ない、舐めたい、嘗めまわしたい! きっと美味しいわ、絶対美味しいに決まってる! 美少女の汗よプレミアものね!)


 暑さの所為なのか通常運転なのか、メグミが不埒な考えに浸っていると、此方の部材の折り返し鍛錬も終わりそうだ、何時までも眼福に和んでいる場合じゃないと『鍛錬空間』に光で設計図を製作していく、


(うーーん、先ずはゴロウの奴かな……シールドで防御しつつ攻撃するなら手首の返しのいらない両刃がいいよね、それで突きメインじゃないし、切り払いがメインになるなら少し刃に反りが欲しいし)


 光で柳の葉のような形状が作成されていく、


(芯金は真ん中は二つに分けて中央を凹まして重量を下げるかな? 反りを入れたから普通の直刀のロングソードより幅広だしこれでいいよね……っとこれで、そうそうどうせ片手でしか使用しないし、柄は短めで邪魔にならないようにして、突きをしたときに折れないように切っ先は少し鈍角にしてと……もうちょい芯金付近は刃厚上げるかな?)


 目の前で光で描かれる剣の形が次々に変更されていく。平べったいゴロウのブロードソードとは似ても似つかない立体的な流麗な剣が形作られていく、


(サアヤの『魔法球』が入るように鍔の部分に穴開けてっと、銅で繋げばいいよね、金・銀は高いし、それこそミスリルとか持ってないし)


 メグミは銅の玉を幾つか取り出し此方はサアヤの『錬金空間』に入れていく。


 銅は、魔力の伝達率が鉄より良く、金・銀に比べて安いので初心者用武器では重宝される。ただ柔らかく、重い為、刀身として用いられる事は無く、主に付与魔法同士の魔術回路の連結、付与魔法の伝播用に飾りの様に薄く彫金され貼り付けられる。

 

 銀は、銅より更に魔力の伝達率がよく、神聖属性の付与魔法の効果が上がるが、変質しやすく手入れが大変でお値段が高い。合金にしてから使用される場合が多い。


 金は、細く少量で有っても多くの魔力を伝達でき、伝達効率もいい優れた素材ではあるが、大変に高価である。そして柔らかく、重い為、余り実用的な武器に使用されることはない。


(さて、いっちょ気合入れて成形しますかねっ)


 折り返し鍛錬の済んだ部材が幾つかに分割され、そのうちの幾つかが成形されながら光で製作した剣に重なるように配置されていく。全ての配置が済んだら、メグミはもう一度フイゴを押して炉の温度を上げ、配置された部材を加熱していく、色を確認して、


(さてやりますか……追加効果は刃金はコボルトの爪も混ぜてるし『切れ味向上』『威力向上』『耐久性向上』『防錆』『重量軽減』位かな?

 『魔素吸収量向上』は『魔法球』に頼ろう、魔鋼は元々魔素を吸収してるから、吸収量向上は魔鋼だけだと無理だし、よし決まった)


 熱せられ剣の形状をした部材に一気に鍛錬が始まる。


 カカカカカカカカカッ

 

 一気に10数個のハンマーが打ち下ろされるような音が響きわたる。見る間に剣が成形されていき設計図通りの形状に整えられる。

 メグミがそれを確かめながら『付与魔法』で魔力を込めていくと、刀身が熱とは別の輝きで光りだす。そのままメグミは『鍛錬空間』を操作し傍らの水の中に光る刀身を投入した。ジュッっと音がして一気に冷まされた刀身は大量の水蒸気を上げる。小屋の中の湿度が一気に上がり、汗が噴き出す。十分に冷えた刀身を『鍛錬空間』から取り出す。軽く振って調子を確かめる。


(重っも……私には重すぎ、けどまあゴロウの腕力なら平気かな? バランスは良いし、良い出来だと思う)


 手に持った刀身を再び『鍛錬空間』に入れて魔力回路の彫金を入れ込む部分の切削、刀身表面の研磨と刃の研ぎをセットして一息つく。

 隣ではサアヤが作業を再開していた、


(後2本か、先に設計済ませちゃおう。タクヤのは日本刀に似たファルシオンで柄を長めに両手使い用にだっけ? 日本刀に比べて、普通のファルシオンは薄いから良いけど、日本刀と同じ刃厚にしたら重くなりすぎちゃうな……刀身は長くとりたいし……『重量軽減』強めに利かせれば行けるか?)


太刀のような刀身が90センチ位の刀が光で浮かび上がる。


(これじゃあ太刀まんまだな……先に行くに従って細くなってるけどファルシオンは逆に太くするんだっけ?)


光が姿を変え先に行くにしたがって太くなる。


(重そうだな……棟の手前に溝を掘り込んで……剣先のこの辺無駄に肉が余りすぎだよね、いっそ抜いちゃうか? でも強度落ちるし薄めに肉残して削り込む方がいいかな?)


更に光が姿を変えていく、なかなか独特のフォルムのファルシオンが設計された


(おっ結構良いじゃん、先が太いから遠心力生かせば威力上がりそうだし、背が低めで、腕力無さそうなタクヤでも攻撃力上がりそうね、まあ刀身に振り回されなければだけど、じゃあこっちも鍔に穴開けてっと)


完成した光の剣の設計図が脇にずれる。


(最後はシンゴね……これ脇差でいいんじゃあなかろうか? 少し棟の手前に溝を刻んでっと片手使用が主だろうし柄は短めに……出来た)


 脇差は何度か製作したことが有るので設計が早い、以前造った物の形状をシンゴに合わせて微調整するだけだ。

 光が現れ、反りの美しい柄が短めの脇差に変化する、設計図のストックも可成りあるので、それらを利用して細かい箇所を手早く作り込む。


(ふむ……中々美しいんじゃないでしょうか? やっぱり日本刀は綺麗よね、形に無駄が無いわ。此方も鍔に穴開けてっと終了ね)


『鍛錬空間』では各部材が設計図の光の剣に合わせて配置されていく、


(2本同時は魔力が持たないから、先ずはタクヤの奴ね)


 十分に熱せられた刀身を魔法の見えないハンマーが一気に叩いて成形していく。


 カカカカカカカカッ


 再び『付与魔法』を発動し刀身に魔力を込める。


(『重量軽減』を強めに、他は少し弱くても……っと出来た!!)


 眩しい光を放つ刀身を水の中に投入する。再び水蒸気が立ち上り、周りの湿度が上がり汗が噴き出す……サアヤも2個目が丁度出来たところのようだ。

 メグミに向かって進捗を尋ねてくるサアヤも汗だくだ。


「此方は2個目出来ましたわ。そちらの進捗は?」


「こちらも2本目がもうちょい、後は調子見て、切削・研磨と研ぎだけーー」


「熱いです……死にます」


「ラスト一本頑張ろう!!」


 メグミが『鍛錬空間』から試し振りにと取り出していると、ノリコが小屋の入口から此方へ歩いてきていた。顔色が悪いし、少しよろけて居る。


「ノリネエなんだった? 何があったって?」


「地下3階でジャックポットだそうよ、しかも連続3回、特に最後の一回は酷かったみたいね、武器持ちのコボルトや大型鉄ムカデ、大型鉄クモが複数沸いて阿鼻叫喚だったそうよ。怪我人が多数発生して、酷い人は腕を切り落とされてたわ」


「それって大丈夫なんですか? ノリコ姉さま、死者とか出てませんの?」


「幸い死者は出てないみたい、今2階と3階の詰め所の、おじいさんたちが確認と討伐をしてくれているそうよ」


 鉱山には各階層の階段の前後に詰め所があり、そこを結界で囲んで安全地帯としている。また詰め所にはトイレなどがあり、特に女性冒険者には無くてはならない施設だ。詰め所には最前線を引退した冒険者が、小遣い稼ぎと暇つぶし、後進の助けとなるべく数人単位で詰めており、暇にあかせて将棋や囲碁とかしつつお茶を飲んでいる。


「あのおじいさんたちって、ただのスケベ爺じゃなかったんだね……本当に強いんだ」


 隙あらばお尻を撫でてこようとする、じいさんたちを思い出しながらメグミが呟いた。


「ノリコお姉さまも大分疲れているみたいですけど……」


「腕を切り落とされた方の治療に当たっていたの、お仲間が切り落された腕を拾ってきてたので、切り口を回復ポーションで洗って『治癒』で引っ付けはしたのですけど……血が流れすぎているのと、私の『治癒』では力が足りないから応急処置ですわね。今、早便で街に搬送さていったわ」


「まあ生きてさえいれば、なんとか成るみたいだし大丈夫でしょ、ご苦労様ノリネエ」


「ごめんなさい、お手伝いしたいのだけど魔力も精神力も少し足らないの、押し付けて申し訳ないけど少し外で休憩させてもらうわね、後よろしくねメグミちゃん、サアヤちゃん」


「ゆっくり休んで回復してらーー、こっちは後少しだから気にしなくていいよ」


「本当は神聖属性の付与がしたかったんだけど、また今度ね……」


「ノリネエ……神聖属性は初心者には暫く要らないんじゃないかな?

 あれ必要なのって大魔王迷宮の地下10階でしょ?」


 そのメグミの言葉が届いているのかどうか、ノリコはよろよろと小屋を出ていった。


「メグミちゃん、ちょっと不味いかもしれませんね。」


「ん??」


「地下3階は多分今日はもう誰も見習いや初級冒険者は行きません、っと言うことは地下2階に皆さん行かれるってことですよね。そうなれば何時も以上に、地下2階の魔素濃度が上がって、間違いなく地下2階でもジャックポットが起きますわ、それも一回とかじゃなく連続して」



『ジャックポット』

 それは魔物の一斉発生のことである。冒険者は迷宮内で魔物を倒し、魔結晶を奪うが、その他の肉体は魔素に戻る、しかし魔結晶を失った魔素には、魔結晶が抜けた分だけの『空き』が発生する。

 魔素はその『空き』を埋めるため周囲から流れ込んでくるのだ、この『流れ』は少数なら直ぐに収まるが、数が多くなると『流れ』自体が勢いを持ち周囲の魔素が一気に集まり、その場の魔素濃度が急激に高まり、そして魔結晶が複数同時に発生し魔物が多数出現する。これを『ジャックポット』と呼んでいる。

 しかし、問題はその後である。大量発生した魔物も、周辺に冒険者の数が多いと、一気に倒してしまう、すると今度は更に魔素が集まり、更に魔結晶が大きくなった魔物が発生してしまう。これを繰り返すと、本来その階層には居ない筈の魔物まで発生してしまう為、非常に危険とされている。



「最悪2回起きたら直ぐに逃げよう、地下2階だし、2回位のジャックポットなら何とかなるけど、4回超えたら多分対応できない」


 そうメグミ達は如何にかなってもゴロウ達には荷が勝ちすぎているだろう。


「そうですね、ゴロウ君達が戻ったらそちらにも知らせて、2回目で階段に撤退で徹底しましょう」


 メグミはブンッっと手に持った刀身を振って、


「まあこの子たちが完成して、ゴロウ達が『魔法』とか覚えてくれたら、地下2階のコボルト位は一撃でしょ、それで問題ないと思う」


メグミ達は急いで残りの武器の製作に取り掛かる。

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