第5話冒険者ギルド『美人』受付嬢コンビ

 唖然と月を眺めていたメグミ達であるが、野外の寒さは容赦なく体温を奪っていった。


(うっ……寒っ!! これはもう無理!)


 招かれるままアツヒトの開けてくれている扉に滑り込む、っと目の前には明るい室内と、ふわぁっと暖かい空気が広がっており、強張った体を解きほぐしてくれる。


(はあぁーー生き返るわぁ)


 人心地ついていると。


「はーい! ちゅうもーーく!」


 明るい声がするので其方そちらを見ると、長机の向こう側に2名の女性がいた。2人共お揃いの、銀行の受付嬢のような白の長袖ブラウスに、グレーのタイトなベスト、同色のタイトスカートに黒のストッキング、足元は黒のパンプスを履いている。


 向かって右側の女性はショートカットの元気な印象で、笑顔が太陽の様。

 左側の女性はセミロングで色っぽい印象に見える、左目の下の泣き黒子が悩ましい。

 2人ともナチュラルなメイクをした顔は、大変な美人である。ショートカットの女性が手を挙げて、その手を振っているので、先ほどの声はこの女性が発したものであろう。


「では先ず女の子は、私の前にならんでねぇー」


 ショートカットの女性の明るい声、


「男の子は、私の前に並んでくださいね」


 セミロングの女性、声に艶が有り色っぽい。全員招き入れたアツヒトが扉を閉めて前に歩きつつ説明してくれる。


「えーー彼女たちは、今回お手伝いをお願いしている、冒険者ギルドの受付嬢です。向かって右側がナツコちゃんで、その隣がアミちゃんだ」


 すると待ってましたとばかりにナツコが声を上げる。


「はーーいナツコでーす」

「はいアミです」


「「二人そろって冒険者ギルド『美人』受付嬢コンビですっ!!」」


 二人で手を重ねて変なポーズをとりながら見事にハモる。何事かと皆引き気味で黙ってみてると、


「アっちゃんなんかみんな引いてるよっ」

「ナっちゃんこれで掴みはOKの筈でしょ?」


 お互いに両手を重ねつつ言い合いを始める。


「アっちゃんやっぱり自分で自分の事を『美人』って言ったのが不味かったのかな?」


「けどナっちゃん、変身魔法少女物では『美少女』戦士とか自分で名乗ってるんだから、私たちが『美人』って名乗っても良いんじゃないかしら?」


「「副組合長!! どう思いますか?」」


 ハモりながら問いかけられたアツヒトは、ハハハッっ乾いたと笑い声を上げながら、張り付いた笑顔で言う。


「えーー時間もないことですし、漫才はこの位にして仕事を進めませんか?」


「アっちゃん質問をはぐらかしたよ、あのオヤジがっ!!」

「ナっちゃん質問をはぐらかされましたわ、あの若作りにっ!!」


 メグミがアツヒトの方を見ると、顔に笑顔を張り付けたまま、額に若干青筋が浮かんでいるように見えた。アツヒトがなにか言いかけた瞬間、二人は瞬時に前に向き直り。


「はい、女の子は私の前に並んでね」

「男の子は私の前に並んでくださいね」


 何事もなかったかのように、居住まいを正す。アツヒトは、顔に笑顔を張り付けたまま、拳を握りプルプルと震えているように見える……


(これはあまり気にしない様にしよう……アツヒトさん弄られ属性なのかな?)


 メグミはサクサクとナツコの前に並ぶ一番乗りだ。するとアツヒトは何とか持ち直したのか、


「えーー先ほども言った通り、ここで今から君たちに説明を始めたいのは山々なんですが……これも言い辛い事ではあるけど、現在君たちの来ている服、その服は召喚時に君たちの記憶をもとに仮に構成して着せているだけなので、もうしばらくしたら『分解を始めて』しまいます。


 元々は召喚時には裸で召喚されて居たようなのですが、女の子も居るのにそれは無いだろうと、色々不満が噴出しまして、今ではこうして服を着た状態で召喚されているのです。ですが、しかしあくまで仮に服を構成しているだけ、なので分解の始まる前に、こちらで用意したちゃんとした服に着替えてください。


 服を受け取る際に番号の書かれたカードもお渡ししますので、それをもってこちらの階段を上がった先にある部屋に入って各自お着換えください。カードの番号と部屋の番号が対応してますので、番号の書かれた部屋の取っ手にカード翳して下さい、鍵が開きます。


 冷えたでしょうから、部屋に入ったら暖かいシャワーを浴びて下さっても構いません。また部屋にトイレもございますのでお使いください。アメニティグッズ等も、自由にお使いになって構いません。準備が済みましたら、各自またこちらに降りてきてください。軽食等を用意して待っています。


 早く来た順番で好きな席に座って、他の人を待つ間に好きに食べていてください。お菓子等も準備しておりますので、飲み物の希望をこちらの受付嬢の2人に申し付け注文ください。全員そろいましたらまた僕の方から説明を再開させていただきます」


 そう説明があった。

 色々疑問があるがカードキー? シャワー? 石造りの壁に木目が綺麗なフローリング、どう見ても天然木だ。

 そんな中世ヨーロッパ風のこの建物にずいぶん似合わないワードの様な気がするが……それよりなにより服が分解する? メグミにはそれが一番衝撃の事実であった。女の子は特に、「えーー」とか「なにそれ信じらんない!!」っとか文句言ってる人もいたが、アツヒトが、


「ごめんねぇ、けどこれ如何しようもないんだ、我慢してね?」


申し訳なさそうに謝罪すると女の子達は黙った……ちょっと頬が赤い。



(イケメンさんはこういった時お得よね)


 メグミはちっとも好みじゃないのでどうでも良いのだが、こういった時イケメンに下手にお願いされると女の子は悪い気がしないのだろう……


 そんな事を思っていると一番先頭に並んでいたメグミにナツコが、


「うーーんMサイズかな? Sじゃあ小さいよね? 靴は何センチ?」


そう問いかけるので、


「Mサイズで行けると思います。靴は22センチですね」


「ん、了解、サイズが合わなかったら降りてきてね、直ぐ交換するから、えーーと上着は2セット下着は5セット渡しますね。それでね、下着の上はスポーツブラなのよ、明日以降に近くの店で、サイズ合わせしてちゃんとしたの購入予定なので、取り敢えずはこれで我慢してね。

 あと、はいこれがカードキーね、紐がついてるから首から下げて無くさないようにね。っと準備するからちょっと待ってね」


「分かりました、ありがとうございます」


 メグミがお礼を言っていると、ナツコは籐の様な植物の蔦で出来たような籠をもって、後ろに山積みに置いてある箱に向かって行った。

 待ってる間、暇なので隣を見ればアミがタツオに、


「君随分大きいわね、身長幾つ?」


 そう聞きながら、サイズを確認しているのかタツオの胸の辺りをぺたぺた触っている。


「192センチ位だったと思います」


 タツオが随分大人しい……


「3L……いや4Lかしらね? 君、筋肉質で胸囲も相当あるしまだ小さいかも……5Lなんて有ったかしら?」


 まだ胸の辺りを撫でたりしている。タツオは頬を赤く染めながら、


「4Lで大丈夫だったと思います」


上ずった声で答えていた、タツオも美人の年上お姉さんには弱いらしい。


「靴のサイズは幾つ?」


「28.5センチです」


「はい分かりました。カードキーを渡しますので無くさない様に首からかけてね? 約束よ? では準備するのでちょっと待ってね」


(なんだかタツオが借りてきた猫みたいになってる)


するとナツコが明るい声で、


「はーい準備できたよー、これ持って上の部屋に上がって着替えてねーー」


 そう言いながら戻ってきた。メグミはアミの方をちらりと見ながら着替えと靴を受け取り、冒険者ギルドの人員配置の妙に感じ入っていた。

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