第4話最初から
そう……あれは4か月前だった。この世界に初めて来たのは……
メグミは4カ月まえのことを思い出す。
◇
〔暗かった…頭がぼーーっとしてしばらく何も考えられなかった〕
あれ? 私何してるんだろ?
あれ? 私どこにいるんだろ?
ん?? なんだろ思い出せない……
寝てるのかな? 夢かな? これ?
頬がなにか固い冷たい物に当たってる。
冷たいな……それになんだか寒い……
床に寝てる?
それにしては固い……私の部屋の床はこんなに硬かったっけ?
ラグ敷いてるからフカフカだよね?
その下のフローリング?
でもなんだか石の様な感触なんだけど……なんだろ暗いな?
〔そこで初めてメグミは自分が目を瞑っていることを自覚する〕
あれ? 私バカだな目を瞑ってるんだからそりゃ暗いわけだよね。
〔目を開けるメグミ、目に飛び込んできたのは、何やら光る模様の浮かんだ黒い……石? どうやら自分はそこに俯せて寝ているようだった。石の床に付いてる頬が冷たい〕
体は動く?
〔メグミは顔を持ち上げる、問題なく動くようだ。更に首を巡らせて周りを確認すると、周りに何人か人の気配がする。そして正面に2人立っている人の足が見える。そちらから話し声が聞こえる〕
◇
「んっ! ふぅ、今回も終了! えーとうーーん11人かな? 女の子が6人に男が5人、まあまあだね」
「そうですねえ今回は可愛い子が多い見たいだし、男の子も逞しそうなのが多い。良いんじゃないですか」
「容姿は重要じゃないだろう? まあ醜いよりは良いのか? ふむ、まあいい、では私は下に戻るよ、後は任せます。
ではまた半月後に」
「はいまた半月後にお願いしますね、ではまたよろしく」
声からして2人とも男性らしい、一人が立ち去る気配がする。足が一人分見えなくなる。
(なにを言ってるんだろう?)
周りの気配からは、「うーーん」とくぐもった呻き声や、「へ?! あれ? ここ何処?」など戸惑っている人の声が聞こえる。メグミも上半身を起こし現状の把握に努める。
(服は……着てる、でもちょっと寒い。野外ってわけじゃあなさそうね、だけど冬に石の床の上に寝かされてたら、そりゃ体も冷えようってもんですよ。
冷たい……滑らかな黒い石ね。なんだろう大理石?? でも真っ黒、見たことないなこんな石、あれ? そもそも今冬だっけ?)
メグミは自分の服を見る、冬服だ、でもコートの様な外着は来ていない。冬の部屋着を着ている。自分の服だ、お気に入りのショップで選んで買った記憶がある。モコモコのニットのセーター、その下にシャツを着て、下半身には厚手のスカートを履いていた。
最近部屋でダラダラ過ごす際に着ている服だ。
スカートは余り好みじゃ無いけどこのスカートは気に入っている。
楽な上に暖かく、そのまま寝てもシワになり難い。そしてうまい具合にプリーツが入っていて動き易いのがいい。
(そう……記憶はあるのだけど直近の事が思い出せないわね。
何故ここにいるのだろう?
ここは何処だろう?
今は何時だろう?
自分は如何したのだろう?
昔のことは良く分かるし自分が誰かも良く分かるのに……なんで?)
◇
私はメグミ、『田中 恵』
今高校一年生で花の女子高生だ。クッサイ防具に耐えつつ、剣道にいそしむ剣道女子だ。そこそこ強く、中学生の頃には、全国大会で優勝したこともある。高校はその剣道の推薦でスポーツ校に行っても良かったが、制服が可愛くなかった。ゴリラの様なスポーツ馬鹿の女の子の、可愛くない制服姿等眺めたくは無い!!
だから、制服の可愛い進学校に進学した、可愛い制服の、可愛い女子高生を、思う存分眺めて暮らせる今の生活は最高だと思う。共学だから男子も居るが、男子など如何でもいい、重要なのはそこじゃない。女の子のレベルが高い、平均値が可なり上、ここが最重要!! この高校に進学したことに全く後悔はない。
頭も悪く無かったしね。成績は上の下位、流石は進学校よね、頭が良い人が多いわ、中学のころとは違うよね、最近少し学業成績が伸び悩んでるのよね。
高校の部活は再び剣道部に入ったが、この高校の剣道部は弱い! まあその分、練習も緩いので放課後を楽しみたい私としては、願ったり叶ったりである。まあ剣道は中学までで、高校に入ったら大学受験目指して勉強中心にするつもりだったので丁度いい。今は仲のいい仲間と、エンジョイ勢として剣道を楽しんでる。
……うん思い出せる問題ない。
両親と3学年下に生意気な弟と可愛い妹の双子がいる。ごく一般的な中流家庭で育ってきた。自分のスタイルはまあ……悪くないと思ってる。剣道やって適度に鍛えているので特に太ってはない。ただ何もスポーツしていない華奢な女の子に比べたら、筋肉の分少しむっちりしている。
脂肪は敵だと思っているので太っているわけでは断じてない。胸はもうちょっと欲しいのだが……運動すると胸から痩せていく……何故!! 納得いかないわ!! 同じ部活の親友、芳子はあんなに大きいのに!!
背は高くないが低すぎもしないと思っている。だから少し骨太かもしれないが、スタイルは良い方だと自分では思っている、胸以外は。
顔は……まあ自分では気に入っている。美人ではないがそこそこ可愛いのだろう、偶に街で声を掛けられるくらいには良い筈だ。ただ男に声かけられても全く嬉しくない、女子高生とキャッキャウフフしたいのだ。
自分の性癖は一応秘密にしている。何故って? バレて引かれて、女子高生が周りに居なくなったら、多分私生きていけないと思う。近しい親友等は、薄々感づいているっぽいのだが、カミングアウトしているわけじゃない、手も出していないしセーフでしょ? 眺めるだけ、手を出さないそれが淑女の嗜みよ!
うん自分の事は思い出せる……色々余計なことまで思い出したがセーフよセーフ!!
◇
少し落ち着いてメグミは更に現状を確認する。
特に拘束されたりはしていない。周囲の人たちも拘束されたり、着衣が乱れている様子は無い。メグミの着衣にも乱れはない。特にどこか痛いだとか怪我をしている様子も無い。周囲の女の子も、
誘拐されたり、監禁されたりしているわけではなさそうだ……
(お尻がいい加減冷えてきた……私もソロソロ立ち上がろうか?)
そうメグミが思っていると、先ほど誰かと会話していた目の前の男が、ポンっと柏手を打ち耳目を集める。
「えーー、色々突然のことで皆さん混乱していると思うけど、特に気分が悪いとか体の調子が悪い人はいませんね?」
ちょっと間をあけて、返答を待っているようだったが、誰も何も答えない。
「特に問題ないようなので続けます。そうですね先ずは最初の決まり文句から……
[剣と魔法の世界]へようこそ! 皆さん、我々は皆さんを歓迎します。
どうぞこれからよろしくお願いします、同胞諸君!!
とそれでは決まり文句も済んだので、簡単に自己紹介を、私は『渡邉 敦人』皆さんと同じ日本人です。ここ『ヘルイチ地上街』の『冒険者ギルド』の副組合長をやっています。気軽に『アツヒト』とお呼びください。どうぞよろしく」
目の前のハンサムなお兄さんが、そんなトンデモないことを口にしている。
(……狂ってるようには見えないけど……)
背の高い爽やかな笑顔のイケメンさんだ、だがメグミが気に成るのは顔じゃない、男の顔とか如何でも良い。
(この人、強い!! 素手じゃあどうやっても勝てないわね)
本当に良く鍛えられている、見ればわかる、重心が全くぶれない。グレーの薄手のニットのタートルネックの上着に、茶色いズボン、ズボンの裾は編み上げブーツの中に入れている。そしてチャコールグレーのロングコートを前を開けて羽織っている。筋肉達磨ではないがしっかりとした筋肉が着いているのが服の上からでもわかる、一流のスポーツ選手の様な使える筋肉の付け方だ。
(ここまで鍛えられた大人……軍人? 格好はチャラいけど……)
足が長い、顔もいい、背も高い、黒いロン毛を首の後ろで無造作にまとめている。
(これは……この人女の子に、さぞモテるんだろうな、羨ましい……)
メグミはそんなこと思いながら、立ち上がり改めて自分のいる場所を見回す。立ち上がったことにより周囲が一層よく見える。石造りの壁に囲まれた部屋の中にいるようだ、壁には石の継ぎ目がしっかり有るのだか、床の黒い石には一切継ぎ目がなかった。
(この広い部屋の床一面……一枚岩なのかな?)
それに床にはテレビアニメで見たような魔法陣? っぽい物が描かれており、どういった仕組か白く発光している。壁面には明かりがところどころランプの様に取り付けられている、光っているのだが蝋燭? ではないし、ランプの光とも違う、電球の光とも違うし、蛍光灯の光とも異なっていた。あえて例えるなら、LEDの様な光であったが見れば全く違う、ガラスのランプの様な物の中に、本来『火』が揺らめいている場所に『石』が取り付けられ、それが煌々と輝いている。
(なんだろう? 見たことないなこんな照明機器……)
「ま、こんな寒いところで立ち話もなんだし、ちょっと場所を変えようか?」
アツヒトなる人物が提案すると、メグミの斜め右後方より声が掛かる。
「ちょっと良いか? えーーとアツヒトさんだっけ? アンタの言うその剣と魔法の世界? だっけ? なんだそりゃ? 何かの冗談か? ここは『日本』じゃないのか? アンタも周りに居る連中も『日本人』に見えるんだが違うのか?」
気の強そうな鋭い声質、混乱はしているが意思の強さをメグミは声から感じた。
「ん?! 君は?」
「あぁ? ……ああ、俺は『近藤 達夫』だ。『タツオ』でいい、なあアンタ何なんだ? そもそも俺は、なんでこんな所につれてこられてるんだ?」
メグミはタツオに顔を向ける、声の印象の通り鋭い意志の強そうな目をした、アツヒトよりも更に背の高い、日に焼けた色黒の青年が立っていた。こちらも良く鍛えられた様子で、スポーツか格闘技をやってそうな雰囲気だ。体に沿うようなニットに、レザーのパンツを履いているので良く分かる。短めの髪の毛をツンツン立てた髪型をしており、今は状況に不満があるのか、若干凄んでおりヤンキーの様に目付きが悪い
(……本当にヤンキーかもしれない……)
こんな鍛え抜かれたガタイのヤンキーに、因縁でもつけられよう物なら、メグミならお巡りさんを呼びつつ逃げるしかなさそうだ……
「ん? うん……タツオ君ね、えータツオ君、君の最初の質問に答えよう。そう此処は『日本』じゃない、それどころか今君たちのいる惑星は『地球』ですらない。
僕もね、結構こっちで世界中を旅してまわって調べたさ、ここはね地球じゃない、地球の未来でも過去でもない全く違う惑星さ。
……僕もね君たちと一緒、君たちと同じ様にこの場所に連れてこられた。2番目の質問にも答えるけど自信を持って言える、僕は『日本人』だ、間違いない。
まあこっちに来てもう10年以上になるけどね。そしてここにいる人達は、先ず間違いなく『日本人』だ」
「地球じゃないだとっ? 何だそれは? 別の惑星ぃ……ふざけるなっ!! なんで俺がこんな所に居なきゃ成んねえだぁ、なんかの悪戯なら直ぐにやめろ!! おれは気が短えぇんだ、ブッコロがすぞてめぇ」
タツオは、ちょっと短気すぎるだろう……と思いつつもメグミも同じ気持ちだった。
(ほんと何だそれ? だよね)
アツヒトはちょっと困ったように笑い、手で制しながら、
「まあまあ落ち着いて、君の気持は良く分かるよタツオ君、昔の僕も同じ気持ちだったからね。
でもね、これ以上ここで君が納得するまで説明するのは、流石に不味いと思うんだ。なにせ寒いからね、君は大丈夫でも周りの女の子が
タツオは周りを見回し、寒そうに自分の体を、自分の腕で抱いている女の子を見て、
「わあったよ……わりぃな寒い思いさせて、アツヒトさんよぉ、とっとと案内してくれや」
(気は短いし、口は悪いけど案外、良い奴なのか? タツオ)
「ん、オーケーっタツオ君、それじゃあ皆も案内するから、付いて来てくれるかな?」
すると背中を向けて歩き出し、部屋を出ていくアツヒト。襲い掛かり倒すなら今だろうが、そんなスキは一切ない、こんな無防備な背中だが、襲い掛かっても倒せる気がしない、それはタツオも同じなのか、その背中を見つめて舌打ちをしている。
アツヒトが出ていく先を見ると部屋には扉はなく、長方形の入り口が開いているだけだった。
その後を、ポケットに手を突っ込みながら続いて歩いていくタツオ。歩き方をみるに、やはり格闘技経験者か? 重心のブレが少ない、不良ぽく歩いてはいるが足の運びは確かだった。
ふとタツオの足元をみると靴を履いていなかった、ソックスを履いただけの足で歩いている。メグミは自分の足元も見てみる、同様にソックスだけだった。
(どおりで足が冷たいわけだ、石床から冷気が染みてくるわ……)
今まで黙って会話を聞いていた数人の男子も、タツオに続き歩いていき、女子もその後を追っている。メグミも遅れずについていこうと、トテトテ歩き部屋を出る。
そこは野外にある石橋の様な通路で、左右に欄干があり大きな建物に繋がっている。そして空は満点の星空で、本当に落ちてきそうに輝いていた、
(なっ! 何これ! 星が手で掴めそうな星空!! 初めて見たわっ!!)
部屋から出た幾人かが、同じように立ち止まり唖然と星空を眺めていた。
(うん、確かにこんな星空見たら日本じゃないっってのも納得かも)
タツオも立ち止まりある方向を見て目を見開いていた。気になったメグミも同じ方向を見てみると、大きな……本当に大きな満月が青白く光っていた。
(え?! なにこれ? 大きい……数倍? いや10数倍はあるかな? なんて大きな満月……)
寒さも忘れて眺めていると、大きな建物の入り口の扉を右手で開いて支えながらアツヒトが声を掛けてきた。
「本当に大きい月だよねぇ、地球じゃないって意味も分かるだろ? ちなみに小さい青い月がもう一個あるんだけど、生憎今日は見えないねぇ」
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