第3話一旦休憩

 え?! 何言ってんの? ってな顔でメグミたちを見つめるゴロウ達だが、メグミはもう面倒くさくてどこがダメだとか、どうして弱いのだとか説明する気も起きない。

 ノリコ達を見れば、こちらも同意見らしくすぐに地面に目を戻し、鉄玉拾いに戻っていた。


 メグミ達に群がる男性冒険者が居ない理由、又女性冒険者から敬遠される理由の一端もこの辺にある。

 そうメグミ達はオブラートに包んだ物言い、遠回しな、相手を傷つけない物言いが苦手だ……思ったことをそのまま正直に相手に告げる。


 ノリコはアメリカ育ちの帰国子女、思ったことを相手に告げる文化の中で育っている。日本独特の遠回しな言い回しがそもそも出来ない。


 サアヤはエルフ。見た目程精神が大人じゃないサアヤに、配慮した物言いを求めても無駄なのだ。考えれば分かると思うが幼稚園児が相手を気遣う物の言い方をするだろうか? サアヤの精神年齢はその位なのだ。

 

 そしてメグミは問題外だ、口の悪さでは定評があるメグミだ。相手が誰であろうが言いたいことは言う、忖度など犬に食わせろ、配慮? 何それ? である。


 この遠慮を知らない三人が揃っているのだ、本人たちに全く悪気はなくてもヅケヅケと意見を言われたら大半の女子が泣く。

 さらにこの容姿だ、嫌味なタカビー女三人組にしか見えないだろう。


「ちょっと顔が良いからって、お高く留まった三人組、付き合いたくないわ」


 これが三人に対しての回りの女子の評価だ。


 そして男子に対しても同じく、全く遠慮せずに意見を言う為、最近の草食系男子の繊細なハートを粉々に砕くのだ。


「顔は良くても性格最悪だろ! 付き合いきれねえよ!」


 これが三人に対しての回りの男子の評価だ。


 一人一人でも可成りの回りから浮いた存在、それが三人も揃っている。パーティー募集広場で皆が逃げる、避けるのも良く分かる。


 ゴロウ達はまだ何か言いたそうにまごまごとしているが、


(はぁ、めんどくさいわね、男なら何クソと言い返してくるぐらいしなさいよ! ……まあそれが出来たらここまで弱くは無いわね! いいわ、気にしても仕方がない)


 メグミは倒したコボルト達の死骸を見る、コボルトの死骸は黒い霧の様な物を上げながら分解していっていた。

 徐々に崩れるコボルトの死体と、同様に黒い霧を上げながら分解していく周囲に飛び散った血肉。

 ふと自分の手を見ればメグミが浴びていた返り血も黒い霧に分解していく。


(洗わなくて良いのは便利なんだけど……これって本当に綺麗になってるのかな?)


 メグミには返り血を浴びた感触が残っているだけに少々疑問だ。生暖かい返り血の感触や、肉を裂き骨を断つショートソード越しの手に残る感触。コボルト達の断末魔の吐息。それらの感覚は鮮明にメグミの中に残っているのに、目の前では何事も無かったかのように分解され消えていくコボルト達の死骸。


(ウン、深く考えるのはよそう……気が滅入ってくる)


 綺麗に血肉が分解し汚れの落ちたショートソードを、腰の鞘に戻しながら、初心者講習で受けた説明をメグミは思い出す……



「迷宮では魔物は核となる魔結晶の周りに魔素が集まり周囲の物質を取り込みつつ生成されるんだ。

 魔結晶自体も魔素の吹き溜まりや濃い部分に自然発生する。

 現在、大魔王以下魔素を垂れ流す魔族が地下にいるから、ダンジョン以外でも鉱山、洞窟、洞穴など、人工物、自然物問わずに魔素の溜まる地下空間に自然に発生するね」


「魔物ね……生まれてくる以上何か役割、目的見たいなものがあるんでしょ?」


「うん良い質問だ、そう魔物は、自らの魔結晶を成長させ、より強力な魔物になるために、他種族を襲う。

 そうより強く成り、より強い子孫を残すためにね」


「?? 自然に発生するんでしょ? 子孫?」

 

「そう、子孫だ。まあもうちょっと聞いてくれるかな、今説明しよう。

 魔物ってのは特殊でね、確かに自然発生した純粋な魔物に幼体はいない、成体の姿で生成される。

 その際に戦い方なんかの知識も持って生み出される。全く便利なものだね。

 そして倒した生き物の血肉を喰らい、物質を取り込み自らの身体を強化、倒した生き物の魂や、他の魔物の魔結晶を喰らい、自らの魔結晶を強化し大きくしていく。そう成長していくんんだ。

 更に時を経た魔物がこうやって魔素以外の血肉を得ると魔物同士で繁殖を始める、そう生まれは特殊なのに、その後は普通の生物のように振舞うんだ、子孫を残そうとするんだよ」


「……子孫ねえ、けど魔物同士で繁殖して子孫って、それも成体で生み出されるの?」


「面白い事にね、魔物同士で繁殖して生まれた魔物は幼体、赤ちゃんだね、この状態で生まれて来るんだ。普通の生物のようにね。

 この幼体は最初から血肉とそして魔結晶を持った状態で生まれてくる……君はペットを飼っているよね?」


「ええ、ああ、そうかそれがウチのソックス見たいな魔物なのね? 繁殖をして産まれた、幼体の魔物! そうなのね?」


「そう、ペットの魔物はこの繁殖型なんだ。発生型の魔物は先ほども言ったけど知識を持って生まれてくる。

 けど繁殖型の幼体は真っ新だ。普通の動物と変わらない、本能は有るけど、何の知識も持たずに生まれて来る。

 だからこそ、その段階の、生まれたばかりの幼体であればペットとすることが可能なんだよ」


「そうなのね、なら魔物は生まれつき邪悪ってわけじゃあ無いのね? 人間を滅ぼすために生まれてきた邪悪な生物見たいな印象だったけど……少なくてもウチのソックスは違うわね」


「少なくとも繁殖によって産み出された直後の魔物はそうだね、けどね普通の魔物は魔物に教育される、そう育てられるんだ。

 ペットのような特殊な魔物以外は人間を襲う敵、そう思って間違いない。

 それがどんなに愛らしい外見だろうと魔物は危険だよ油断しないようにね」


「そうなの? そんなものなの?」


「そんなものだね、ゴブリン・オーク・オーガ等、今も地上にいる魔物たちのほとんどが、この血肉と魔結晶を得て生まれる繁殖型の魔物だけど……人を襲う、人類の敵だ。人里近くに現れれば即座に討伐クエストが発行される。

 融和を目指してコミュニケーションを取ろうと試した人達も居たみたいだけどね……悉く失敗している」


「難しいのね……」


「そうなんだよ、中々ね、魔物と人は相いれないものなんだよ。本当にペットの魔物が特殊な例外でね。

 後これらの地上にも居る種類の魔物も迷宮に於いては、発生型の魔物として生成している場合がほとんどだ。

 魔素の少ない地上の同種の魔物に比べ遥かに強力である場合が多いから気を付けるんだよ。特に男子はね! いいかよく聞け!

 迷宮は地上に比べ魔素が濃い分、そこにいる魔物は持っている魔結晶が大きい、それだけ強力なんだ。

 地上で倒せた魔物だからと油断していると死ぬぞ」


「魔結晶……魔結晶ねえ」


「そう魔結晶の有無、これこそ魔物と他の生物との違いだよ、魔結晶を持たない地上の猛獣等は魔物とは呼ばない、危険度は大して変わらなくてもね。


 魔結晶を体内に持つものだけが『魔物』なんだよ」



 分解していくコボルトを見ながらメグミはもう一つ思い出す。魔素により作られた体の重要機関を損傷し、死んだ発生型の魔物は、魔結晶と一部の例外を残して目の前で見ている通り、分解され魔素に戻る。


(死んだ魔物の魂はどこに行くんだろう?)


 そうメグミはふと疑問に思う。魔物の発生の瞬間を見たことがある、魔素溜まりに魔結晶が発生したそう思った瞬間、急速に魔結晶を中心に魔物の体が構成されていき、それはまるで早送りの映像を見ているようだった。

 生成が終了し、魔物が発生したと思った次の瞬間、魔物は大地に立ち上がり、メグミ達に襲い掛かってくるのだ。


(どの段階で意思が芽生えて、魂が発生しているのかしらね?)


 メグミの疑問は尽きない。地上にいる、よく畑で倒した虫型魔物や植物型魔物、大型の鶏の様な魔物にはあまり意思・知能は感じられなかった。

 しかし、この鉱山にいるコボルトには余り高くはないが知性があり、意思も感じる。

 地下4階以降のコボルトは武器まで使い、地下7階以降のコボルトに至っては魔法まで使ってくる個体も居ると言う。

 メグミ達は地下3階まで行ったことがあるが、地下3階のコボルトは仲間同士連携しコミュニケーションをとっていた、数が多いのでこの連携攻撃に結構苦労させられているのである。


(連携に関しては確実にゴロウ達より上よね、なんであいつ等魔物以下なのよ? はぁぁ)


 ため息と共に周囲を見回す。


 ここ『黒鉄鉱山』は人の手によって開発された鉱山である。だが大魔王のダンジョンにほど近いこの鉱山には、相当量の魔素が地脈等を通して流れ込みコボルト等魔物が発生しダンジョンと化している。


 一般の鉱夫等は危険すぎて近寄らず、メグミたち見習い・初級冒険者の格好の小遣い稼ぎの場になっている。

 特に地下2階や地下3階は武器・防具にする魔鉄が採掘出来、地下4階以降の武器を持つコボルトに対抗するため、ここで魔鉄を採掘し、それを材料に武器・防具を制作し装備を整えるのが、この街の見習い・初級冒険者の王道となっている。


 鉱山で有るから当然地下4階以降も魔鉄は採掘できる、寧ろ魔素が濃い分質が良かったりするが、一撃で命を奪う可能性がある武器を持った敵に背中を見せる愚は冒せない。


 その為比較的安全な地下2・3階は採掘が進み、この鉱山1・2を争う広大な階層となっている。地下2階など幾たびかの落盤のため今は侵入できないエリアが多数存在して尚広大である。


 この広い地下2・3階には見習い・初級冒険者が多く採掘しており、その分一日に倒されるコボルトの数も膨大である。

 この鉱山全体で一日で倒されるコボルトの数は数百では済まない、おそらく数千の単位であろう。

 中に入って採掘しているパーティの数が百近いのだ、単純計算で一つのパーティが10匹倒しただけで千匹を超える。


(考えたら凄い数よね、私達ですら、もう既に20数匹倒してる……この膨大な数のコボルトの魂はどこからきてどこへ行っているの?

 その魂が繰り返し再利用され再びコボルトになるのだとしたら、ここはコボルト達の魂にとって、無限に殺される苦痛を味わう地獄ね……そりゃ人類を殺したくもなるってものだわ)


 メグミはそろそろノリコ達の撤収準備が終わりそうだなと考察を終了し、気持ちを切りかえてゴロウ達に声を掛ける。


「ほら早く魔結晶を拾って、早く片付けないとお昼が遅くなるよ?」


 自分でも拾おうかと地面を見ると、今自分が倒してほぼ分解されたコボルト達が倒れていた場所に、魔結晶以外の分解されずに残った物が目に入る。


「あ……っ、爪だっ! 爪が残ってる!ラッキー♪ レアドロップだよ地下1階で珍しい」


 これだけで今日の収支は恐らくプラスだろうと、メグミはコボルトの両手の爪一体分8個を拾う、コボルトの指は人よりも一本少ないのだ。

 流石に地下1階のコボルトなので可成り小さめの爪であるが、武器等制作する際に一般の魔鉄に混ぜると、鋭さ、切れ味を向上させる追加効果を得ることができる貴重なアイテムである。どうやら鉄鉱石等を食べそれで爪を強化したコボルトが混ざっていたらしい。


 ゴロウ達も何か不満そうにしながらも魔結晶を拾い終わる。

 ノリコ達の方を見ると、こちらも準備が終わり何時でも出発できそうだ。メグミは自分の座っていた個所に残っていた、ツルハシと足元に寝かせて置いていた槍(メグミ謹製)を手に取り、ツルハシを『収納魔法』で手早く収納し槍を穂先を上にし杖の様に右手に持つ。それを確認してノリコが皆に声を掛ける。


「これから地上に上がりお昼ご飯にします。私とサアヤちゃんが前衛、サアヤちゃんは右側をお願いね。メグミちゃんは中衛、ゴロウ君達は後衛お願い、私やサアヤちゃんが倒した魔物から出る魔結晶の回収も併せてお願いします」


 声を掛け終わるとノリコはサクサク前に進んで行き、ポールハンマーを両手で持ち背中構えながら支路からメイン通路に出ていく。

 既にゴロウ達の意思を確かめる気も無いらしい。


(こいつらに前衛を任せて居たら、何時地上に上がれるか分からないものね)


 サアヤの方もスタッフは背中に吊るして、腰のショートソードをスチャッっと右手で鞘から引き抜き、右前に進んで行く。サアヤのショートソードは、メグミの物と同じく片刃であるが、反りは無く、少し細身の直刀。腕力に劣るサアヤの事をメグミが考え、突きメインの使用を想定して制作した。


 一行はノリコの指示通りに隊列を組み、進んでいく。メイン通路は広い、幅も天井の高さも、ノリコがポールハンマーを振り回しても十分過ぎる余裕がある。高さで5メートル横幅はさらに広くて8メートルくらいであろうか? 左右には不規則に支路が入り口を開けており、周囲の壁に含まれてる魔光石が魔素に反応してボンヤリと光るほの暗い通路は中々に見通しが悪い。メイン通路自体はほぼ直線ではあるが、光量が足りないのに広いのと支路が多く物陰が多いのだ。

 メグミはふとソックスたちの事が不安になり後ろを伺う。するとゴロウ達の後ろをプリンとヤックーが並んで進み、殿にソックスとラルクが背後を警戒しつつ進んでいた。


(ペットに殿しんがりをさせるのは如何なんだろう? ……まっでもゴロウ達よりは安心かな?)


 自問自答しつつ前に向き直ると、丁度、右前方の支路から突如飛び出してきたコボルトがサアヤに襲い掛かるところだった。


「シュッ!!」


 サアヤの口から洩れる鋭い音と共に、右薙ぎの一閃。


キンッ!! 


 固い物を断ち切る音がする、その一太刀でコボルトの首が飛んだのだ。


 ドサッ!!  ゴロン……


 首のなくなったコボルトの体が噴水の様に血が吹きだしながら倒れ、一泊置いてコボルトの首が転がる。断末魔すら上げることなく転がるコボルトの頭は、何が起こったか理解していないようだった。

 開いたままだった瞼が力なく半分閉じたと思ったら分解が始まる。

 サアヤはシュッと一振りして血汚れを払うと、一瞥すらコボルトの死体に向けることなく、何事も無かったかのようにショートソードを構え直し進んでいく。


(『切り裂け』かな? ……腕力を考慮して直刀で突きをメインに想定してたけど……『腕力向上』が効いてれば横薙ぎの方が対応は早いのかな……反りを少しは入れるべきだったかしら?)


 メグミはサアヤの後ろ姿を見ながら思案していた、突き攻撃を考えると反りは無い方がブレ難いし、刺した刃が抜きやすい。

 どちらも一長一短あって悩ましい……そんなことを思っていると、今度は左の支路からコボルトが低い姿勢で飛び出し、ノリコに襲い掛かった。


ダッッ!! 


駆け寄りノリコの足元を狙うコボルトだが、その刹那!


「フッ!」


 ノリコの口から息が漏れると、ポールハンマーが背中から大きく勢いをつけて上から下へ振り下ろさる。

 普通に考えたら、大振りでは間に合うタイミングではないよう見えるのだが……ポールハンマーは加速する……不自然に……猛烈に!!


 ドンッ!!! 

 グチャッッ!!


 生物的な恐怖を突き動かす不快な音と共に、一瞬でコボルトの頭がザクロの様に弾け飛ぶ!

 そのまま頭の消えたコボルトを地面に叩きつけ、胸の半分くらいまで叩き潰して止まったポールハンマーをこちらも平然と引き抜き、再び背で構え直しながらノリコも何事も無かったの様に前進していく。


(何時見てもノリネエのポールハンマーはマジ半端ないわね!! 

 相変わらずエグイわ……『叩き潰れろ』も使ってるんだろうけど威力がヤバイでしょ!

 頭って生物で一番固い部分の筈よね? 豆腐より柔らかそうに叩き潰れたわよ!? 後あの加速、あれは何? もしかしてノリネエも『腕力向上』使ってる? 何時の間に覚えたのよ! 

 それとも神聖魔法の別の強化系の加護かしら? 後で聞いてみよっ)


 メグミが若干引きつつ倒されたコボルトを眺める。ノリコの倒した魔物の死骸は、その倒し方の所為でグロい。


(神官は刃物使っちゃダメって、その所為で返って酷い事になってるよね……何なんだろその制約は、意味あるのかしら?)


 後ろではゴロウ達が、サアヤの時には、


「えっ?!!」


 唖然とした声をあげ。ノリコの時には、


「ひぃっ!!」


面白い声を上げていた。


(恐かったんだろうか? 怖かったんだろうね。私も最初見たときはビビったもの)


 メグミはそんな程度に事を軽く考えているが、これがメグミ達がパーティ広場で忌避される最大の要因だ。

 

 メグミ達三人はここの所連日、そう連日、地下3階まで三人で採掘に来ていたのだ、6人から8人のパーティが推奨されているこの黒鉄鉱山に女だけ三人のパーティで採掘に来る。

 メグミ達は採掘の効率の悪さに辟易していたが、周りからはそうは見えなかった。


 自分達が必死で男性の前衛や仲間に守られながら戦っている場所に、女3人だけで訪れ、魔物をザクザク倒しながら、尚且つ採掘まで熟していく。


 綺麗で嫌味で高飛車な3人組に更に実力で圧倒される。


 最強に同性に嫌われる3人組が誕生していた。


「ふざけんじゃないわよ、仲間に? パーティ一緒に如何ですかって? 見下したいの? 私達を見下して楽しいの? 冗談じゃないわ!! 勝手に3人だけでやってれば良いじゃない、余裕でしょあんた達は!」


 そして同時に、男子からは、自分達が漸く倒している魔物を平然とサクサク狩っていく三人組の女子。ノリコのそのハンマーは魔物だけでなく男子の小さなプライドまで粉々に砕いていた。


「はぁ? 仲間になれだぁ? パーティご一緒にいかがですかって、俺達を荷物持ちにでもする心算か? あれか私達が守ってやるから採掘してろってか!! ふざけんな!! 男を馬鹿にする心算か! 自分達だけで余裕だろ!」


 かくして女性からも男性からも嫌われる三人組が誕生したのだ。


 メグミ達は見習い冒険者には荷が重い存在になっていた、その実力差から手に余るのだ。

 しかし、かといって一般の冒険者と組むには経験が足りていない、装備も貧弱、そんなとても中途半端な立ち位置で、完全に周囲から浮いていた。

 いつの時代、どんな世界でも出る杭は嫌われるのだ。本人たちにその自覚が無い事が状況を一層悪化させていた。


 その後もバラバラと8匹程コボルト達が襲い掛かってきたが、ノリコとサアヤは危なげなく瞬殺し、叩き潰し、血の雨を降らせながら平然と地上への出入り口に到達した。メグミは鉱山の出入り口から出たとたん、晴天の太陽光に目を焼かれ、


「ウワッ! 眩しい! ……けど空気美味しいぃ」


手で目の上に傘を作りつつ、深呼吸する。


(ふうぅぅ娑婆しゃばの空気はうまいわねっ!!)


 そんな事を思いつつ、隣を見るとノリコ達も同じように眩しそうに眼を細めながら深呼吸していた。


「んんッ!! ……っ気持ち良いわね」


 手を広げて背伸びをするノリコ。腰に手を当て腰を伸ばしつつ、


「生き返りますぅ!! ……っとふぅ」


なんかジジムサイこと言ってるサアヤ。


(何だろう? 心なしかスッキリッ!! ツヤツヤしてないか

? ノリネエ達?)


 余りにも不甲斐ないゴロウ達に相当ストレスを溜めてたみたいだが、その憤懣ふんまんをどうやらコボルトに全てぶつけたらしい。ニコニコとして機嫌がよさそうだ。


(美少女二人の笑顔は良いわねえぇ、心が洗われるようだわぁ)


 直前のコボルト達に降りかかった惨劇と、二人の行為はあまり考えないようにしながら2人を眺める。

 メグミは眼福に微笑みつつ、辺りを見渡す。


 ここ鉱山入り口前は、丁度谷合の広場になっている。背後の垂直に切り立った崖に、鉱山の出入り口の洞窟が大きな口を開けており。その出入り口の右隣りに、平屋の大きな建物の鉱山管理事務所があり。

 その奥には倉庫、さらに奥を見れば大きな厩舎があり、10メートル近い体長の大きなトリケラトプスの様な『地竜』がのんびり寝そべって日向ぼっこをしている。

 街に続く石畳の街道以外の場所は背の低い草が茂って草原となっていて、丁度春ということもあり様々な小さな花がまばらに咲いて風に揺れている、実に和む光景だ。


(うわぁ、良い天気、良い草原だわ! ご飯食べたらちょっと寝転がってお昼寝したいな)


 そのまま出入り口左隣に目を移すと、そこは精錬やら鍛冶の設備がある大きな小屋があり、今も幾人か作業中のようだ。金槌が鉄を打つ音や、フイゴで炉に風を送る音がする。

 これは鉱山から掘り出した鉄鉱石を直ぐに加工できるようにと併設されている高炉のある有る鍛冶施設だ。

 此方も外から眺める分には、長閑な光景に見えるがメグミは知っている……炉の煙突からは白煙が棚引いており、暖かくなった最近であるなら、小屋の中は既に灼熱地獄であろう。


(冬でも長時間は居たくないもの、夏場とか想像もしたくないわね)


 なにか嫌な予感を覚えつつその小屋を眺めていると、ゴロウ達もポロポロと鉱山の入り口から出てきた。

 とても大人しい……顔から表情が抜けていた。ここまでの道中、ノリコ達が最初の2.3匹コボルトを倒すまではゴロウ達の声もしていたが、それ以降は無言になった。

 まあ自分達が散々手古摺てこずったコボルトを、目の前でそれまで守っている心算だった女の子達が瞬殺するのだ、小さなプライドも砕け散ろうと言うものだろう。


(落ち込むよりは何クソと発奮して頑張りなさいよね、なにあんた達のあの体たらくは、今まで何をやって来てたのよ?)


 メグミは途中、不安になって大人しくなったゴロウ達を振り返ってみたが、虚ろな瞳ながらゴロウ達はちゃんと付いて来ており、きちんと魔結晶の回収も行っていた。

 ちなみに魔結晶の回収は冒険者の義務である。

 下手に放置し、それを魔物に食べられると、強化された魔物が誕生してしまい。自分や他人に危害が及ぶため、命の危険のない限りは回収しなければならない。


 ノリコがポンと手を打って周囲の注目を集める。


「はい! 午前の探索はこれにて終了です、お疲れ様」


それに合わせてゴロウ達やメグミ、サアヤも口々に、


「お疲れ様」

「おつかれーー」

「お疲れさまでした」

「お腹減ったぁ」

「すぐお昼だからもうちょっと我慢しましょうねメグミちゃん」


 其々に返答を返す。ノリコは続けて、


「鉄玉をそこの事務所で換金後、洗面所で手を洗わせてもらってから昼食にしましょうか? 昼食後は一度打ち合わせをしましょうね。ゴロウ君達もそれでいいかしら?」


「了解した」「OK、OK-- りょーかいーー」「承知」

 

 地上に上がって少し気分が持ち直したのか、割と軽くゴロウ達が返答する。

 気配に気が付いて鉱山出入り口を見るとちょっと遅れていたプリンやヤックーも出てきており、一目散に其々の主の元に駆け寄る。

 ヤックーはトテトテとゴロウに駆け寄っている。背の左右に背負った鞄には、結構な重量の鉄玉が入ってるはずだが、あまり重そうに見えない。


(さすがは運搬用魔物ね……あまり大きくないのに、たいしたものね)


 プリンは跳ねるように、ぴょんぴょん飛んでサアヤに近寄り、最後に大きくぴょーんっと飛んでサアヤにキャッチされ、そのまま抱っこされる。魔道スライムの表情はメグミにはわからないし、感情も感じられないのだが、サアヤにはわかるらしい。


「プリンちゃんご苦労さまっ♪ ……ん? なにかご機嫌ね。お昼が楽しみなの?」


とか言いつつ手に抱いたプリンをフニフニしてる。


(あのフニフニ気持ちよさそう、後で触らせてもらおう)


 最後にラルクとソックスも出てきたが、両方返り血で血まみれだ。血が分解されて出来た黒い魔素の霧を纏いつつ、メグミを見つけた途端に嬉しそうにソックスが駆け寄ってきくる。テケテケ駆け寄ってきて、フイッと顔を下に向け足元に何か置き、メグミを見上げて、


「ワンッ!!」


 嬉しそうに吠える。メグミは足元を見てソックスの置いたものが3個の魔結晶であること確認し、拾いながらソックスの頭を撫でてやる。


「偉いぞーっソックス、ちゃんと拾ってきたね、良い子だ良い子だ♪」


 ソックスは尻尾を全開で振りつつ「ムッフゥ!」っと自慢げだ。

 ラルクの方を見れば、こちらもトトトッっと、ノリコに駆け寄り足元に2個の魔結晶を置いている。ノリコは、


殿しんがりお疲れ様、よく頑張りました、ラルクは良い子ね」


 そう言って頭を撫でる、ラルクは嬉しそうに目を細めている。全員の無事を確認し、メグミは抜けるような青空をもう一度見上げて、


(そっかー、もう春なんだねぇ、こっちに来たのが冬だからもう4ヶ月近く経つのかぁー)


 もう一度深く深呼吸をする。

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